旧車のエンジンでは当たり前、決して旧車ではなくても、緊急事態でガスケットが欲しい時などは、ガスケットは自作すれば何とかなってしまうもの。その昔は、不要になったハガキを利用したり「菓子箱の底を使ってガスケットを自作したことがある」といったお話しを聞いたことがあるが、サンデーメカニックなら、いつ使うかわからないときでも、ガスケット自作用の「ベースガスケットシート」は所持していたいものだ。

もはやメーカー在庫をあてにできない時代

見た目からもご想像頂けると思いますが、水が入った一次圧縮室内のクランクシャフトは完全固着。それでも何とか走らせたい、復活させたいと思うのは、無謀でしょうか?これは1962年型ヤマハYA5のエンジン。分離給油のオートルーブ潤滑が開発される以前の、旧2スト時代のヤマハ125ccモデル。

部品を壊さないように完全分解した後に、全部品を完全洗浄。その後、アルミ部品のクランクケースやクランクケースカバーは、すべてサンドブラスト&ガラスビーズ仕上げ。不人気モデルだったのか、当時物の純正部品が思いの外、インターネットで入手することができた。

ガスケット作りの素材を購入



しかし結局は、一枚たりともヤマハ純正の新品ガスケットは入手できなかった。当時物の社外ガスケットならあるだろうと思ったが、意外にも無かった。ヘッドガスケット以外はすべて完全手作りで対応。かなり前に購入しておいた、デイトナ製ガスケットシートが手元にあって助かった。オートルーブ(オイルポンプ付き分離給油)仕様のYA6=ヤマハAシリーズ(125cc)以降の純正ガスケットは入手しやすいようだが、短命だったYA5用は市場流通ガスケットが極めて少ないようだ。ヘッドガスケットはYDS2用を流用できた。

キリ(ドリル)先端で締付け穴をセンターリング

木製作業テーブルの上にガスケット紙を置き、ケースカバーを自在シャコ万でテーブルごとクランプ。さらに鉛筆やマッキーで見切り線をトレースしていった。この方法で作業することで部品がズレることなく、作業性は良かった。さらにクランプ固定したまま、ボルトの締め付け穴サイズに合致したキリを準備。指先でグリグリ回して、締付け穴のセンターをマーキング。仮に木工用の一文字カッターなら、そのままガスケットを切り出せそうだった。

ホールポンチ(目打ち)で穴加工

キリや平ポンチ、ケガキ棒などを使いながらガスケットを自作。地味な作業だが、サンデーメカニックには意外と楽しいもの。今回は通常の120度カットのキリだったので、マーキング跡を目安に目打ちでボルト穴を叩き抜いて製作。このような作業手順の場合は、やはり木工用の一文字ドリルが使いやすそうだ。マーキングと同時に穴加工を行えれば一石二鳥。最後に、切れの良いデザインカッターをテーブルに押し付けるようにカバー輪郭をカッティング。

決して良い仕上がりではないが、何とかワンオフできたエンジンカバーガスケット。組み込みの際に、グリスを塗り伸ばして馴染ませつつ、指先で擦り込むことで、次の分解時に切れることなく繰り返し利用できるようにもなる。

シリンダーから飛び出したスリーブ外径を測定し、外径+0.5mmにサークルカッターをセットしてボア穴を抜き取る。切り抜いたガスケットをシリンダーにセットして、スタッドボルト穴を目打ちで抜き加工。その他の形状は、確認しながら一箇所ずつ丁寧にカットしていった。

ホンダ4ミニ用のエンジンガスケットが入っていた純正袋を利用して、自作した切り抜きガスケットを入れてみた。市販品とは違い、カットラインの見た目はガタガタだが、ガスケットとして機能すればそれで良い。慣れれば完全なハンドメイドでも、もっと美しく仕上げられる。

手に入らないOリングは自作対応

クランクケース内側からセット(低圧入)する、ロータリーディスクカバーの外周には、極端に大きなOリングを組み込むYA5エンジン。規格品で互換性があるものが無いか探してみたが、見つからなかった。そこでOリングも自作することにした。具体的な製作方法は、太さが同じで大きめのOリングをつなぎ合わせた「ニコイチ」。まずはOリングをカットして長さとカット断面径Φ2.0mmを確認し、Oリング溝にセット。短すぎず、長すぎず、を確認しながらマスキングテープで仮固定。

ニコイチの接続部分は瞬間接着剤!!

切り口断面に瞬間接着剤を僅かに塗り、断面同士を押し付けて接着。Oリングなどのゴム部品は瞬間接着剤で強固に接着できる。さらに瞬間接着剤凝固促進剤スプレーをフワッと吹き付けることで、一気に硬化できる。このやり方でOリングを自作した。購入したOリングは耐ガソリン性のNBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)素材品。

ロータリーディスクと一次圧縮室を隔てるロータリーディスクカバー。このYA5はヤマハ初のロータリーディスクバルブエンジンで、お手本になったドイツ製エンジンがこのようなエンジン構造を採用していたのだろう。大きなOリングを縦伸ばしになしてカバー外周にセットし気密を保っている。ベークライト(強化プラスチック)製ディスクバルブが破壊するなどの不具合が起こると、部品交換のためにクランクケースを完全分解しないと修理できないエンジン構造。これが欠点で、進化型のYA6ではロータリーディスクバルブがクランクケース外側に設けられている。

POINT

  • ポイント1・ 自作用のベースガスケット紙には厚さがあるので数種類持っていると便利で助かる
  • ポイント2・ ガスケットを型取りする際は、自在シャコ万力、サークルカッター、目打ち、ドリル(キリ)や一文字ドリル、平ポンチなどの工具があると便利
  • ポイント3・ Oリングを自作する際には、同じ太さ(断面)サイズのOリングを用意し、接着は瞬間接着剤を利用する

雨水がエンジンに流れ込んで「クランクシャフトがサビで完全固着!!」。そんなお話しを聞いただけでも、かなり面倒な復旧作業を想像できるヤマハYA5エンジン。構造を見ると後にも前にも、このYA5だけにしか無い独特なメカニズムや特徴が、作業者を悩ませる結果となった。コンプリート状態では、どのようなエンジン構造になっているのかわからなかったが(パーツリストやサービスマニュアルも無かった)、大切な部品を壊さないように完全分解することによって、そのメカニズムをおおかた理解することができた。同時に、組み立て時に注意すべきポイントやコツのようなものも、何となく想像することができた。

エンジン分解後、しばらくしてから旧ヤマハ2ストロークをよく知る大ベテランさんから、国内仕様のYA5初期モデル用のサービスマニュアルを借りることもできた。いずれにしても、このエンジン用補修部品、特にガスケット類は、メーカー純正部品でも社外部品でも、流通数が少なかったのが現実のようだ。それでも強化プラスチック製ロータリーディスクバルブなどは、当時の新品部品を入手することができた。

自作ガスケット作りは、旧車に限ったことではなく、高年式車であっても必要なときには作らなくてはいけないこともある。ロングツーリングへ出掛ける直前にオイル漏れやオイル滲みに気がつき、何とか修理してから出掛けたい。しかし、部品を入荷待ちしていては間に合わないこともある。そんな際に、ごく簡単な形状のガスケットなら、自作し、交換してしまうのが手っ取り早い。

また、オイル滲み程度なら、エンジン外側から患部に接着ケミカルを吹き付けることで、オイル漏れや滲みを止める「リークリペア」といったケミカルもあるので、状況によっては使い勝手が良いケースもある。オイル滲み患部を完全脱脂後に周辺を大きくマスキングし、患部に向けてケミカルを吹き付ける。15~20分毎に何度かこの作業を繰り返すことで、オイル滲みを止めることもできる。こんな便利ケミカルを所持していると便利だ。

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