大切なバイクだからこそ、愛情を注いで使い続けたいものだ。仮に、そんな精神が無ければ、バイクはコンディション維持のために「部品交換が繰り返され」、いつしか本来の姿からは、かけ離れたバイクに様変わりしてしまうことがある。カスタムによって自分仕様を追求するのも楽しいが、生まれながらの姿=ノーマル仕様を維持し続けるのは、ある意味、カスタムマシン作りよりも難しいものである。タンクに凹があるから、ギギーッと目立つキズがあるからなどなど、鈑金修理と一緒にオールペイントすれば……などと考えがちだが、ペイントのプロに相談すれば、また違った答えが導き出されることもある

プロペインターには「違った見方」もある

全塗装依頼で送られてきたパーツを見て「これを塗り直しては、もったいない!!」と思うことが時折あるそうだ。そんなときにはお客さんに連絡して「補修で仕上げてみませんか?」と提案するケースも少なくないと語るペイントのプロショップ、ドリーム商會代表の小島明夫さん。もちろん「全塗装仕上げでお願いします」とお客さんから依頼されれば、その方針で作業は進められる。

何とか生かしたいのは、ストライプ

タンク両側の下側面にはプレス凹成形のラインが入る初期型GS1000。白デカールはヒビ割れ、その下からはミミズサビが発生していた。現物を見ながら「このサビは気になりますよね。将来的に上面に出て来ても保証はできません」と小島さん。百も承知のお願いで、今回は補修仕上げにしていただいた。白グラフィクがヒビ割れ、デカール部分の亀裂から水分を含んだ様子で、ミミズサビが目立っていた。「この白帯は鉄板まですべて剥がして、地肌からサビを落とします。それからペイント補修で白帯を再現しましょう」。

過去に補修された痕があったペイント

フューエルキャップ周辺のブラックペイントにはシワ状縮みがあった。純正ペイントなら、このような縮みは出ないので、過去に上面のブラックだけは補修ペイントされている可能性もある。目立たないエクボも数カ所あったが「研ぎ入れしてからパテで拾ってサフを入れれば、この程度のエクボはまったく気がつかなくなりますから大丈夫です」と小島さん。ストライプを跨ぐキズなどはどのようにするのだろう……

ストライプを生かした鈑金処理

下処理工程で気を使うのはやっぱりサビである。「純正ペイントは、ミミズサビが出てしまうことが多いです。部分補修のときには、下地までしっかり磨いて、鈑金からサビを完全に除去しています。凹部分は出来る限り引っ張り出してからポリパテを入れて、サフェーサーで仕上げます。すごく程度が良いタンクなのに、ピンポールサビでガス漏れしているような修理依頼もありますが、そのようなときにもベルトサンダーで患部のペイントを剥がして鉄板を磨いてサビを除去し、ピンホールの周辺を突いてから鈑金ハンダで埋めてガス漏れを修理しています」。と下処理担当の竹田さん。ペイント依頼されるガソリンタンクは、内部がサビている例も多いため、ペイント依頼と同時に、サビ処理を依頼するお客さんも増えているそうだ。

ペイント後の仕上げテクニックも注目

純正ペイント風のユズ肌仕上げの場合は、クリア仕上げ後に、磨き過ぎないように注意するそうだが、ゴミが付着してしまったら除去するしかない。まずは細かいサンドペーパーでゴミを除去する作業から開始。クリア層の表面だけを擦っているため、下のブラック層まで届いていない。一見では、心配になってしまいそうな曇り部分だが、この後の磨き込みで、まったく曇り箇所がわからなくなった。コンパウンドには様々なタイプの商品がある。ここでは目消しの肌調整用コンパウンドを使い、場所によってポリッシャーは利用せず、敢えて指先で磨き仕上げにする箇所もあった。

純正「細ストライプ」を生かした補修完了

補修依頼に持ち込んだときとは、まったく別部品かのように美しく仕上がった初期型GS1000用ガソリンタンク。ゴールドの子持ちラインやオレンジのストライプは、9割5分以上が純正デカールのままだ。プレスラインの中にある白帯びは、左右ともにペイント仕上げ。シート本体の下にテールカウルへとつながるデザインパーツは、この時代のスズキ車の特徴でもある。引っ掻きキズで欠落していたストライプも、段差が出ないようにマスキング&ペイント補修で仕上げられた。

国道140号彩甲斐街道と国道254号川越街道の合流点近くに工房を構える、埼玉県大里郡寄居町のドリーム商會。国産絶版車のペイントおよび、欧米外車のペイントや補修を数多く手がけているバイクペイント専門のプロショップ。技術力は高い。

取材協力:ドリーム商會

POINT

  • ポイント1・現状コンディションによっては、オールペイント=塗り直しではなく、部分補修で仕上げることもできる
  • ポイント2・ メーカー純正カラーリングのデカールストライプを跨ぐようなキズを部分補修することもできる

新品部品の美しさや綺麗さとは違った「味わい深き美しさ」は、どんな工業製品にもあるもの。ガソリンタンクもそのひとつだろう。僅か一箇所だけキズが入っていたり、なんらかの不注意でキズを入れてしまったり(キーホルダーやジッパーの持ち手部分には要注意!!)、また、自分とは無縁な不可抗力でキズや凹が入ってしまったりなどなど、ひとつのキズや凹にも、実は様々な物語がある。

グラフィック部にキズが入ってしまったり、塗り分け部分を跨ぐように凹みがあると、簡単には補修できない。プロショップへ相談しても「全塗装仕上げになりますね」といった返答ケースが圧倒的に多い。
「できる限りの努力はしますが、ダメなものはダメです。コンディションに対する評価は個人個人で違いますが、その認識のズレがややっこしい部分ですよね」と語るのは、埼玉県寄居町に工房を構えるドリーム商會代表の小島さんだ。

「全体的に艶が無くなってきたし、キズも目立つようになってきたので、同じカラーリングで全塗装お願いします」とお客さんから連絡があり、後日、工房に届いたガソリンタンクやサイドカバーを開梱確認すると「電話でお話をお聞きした以上に程度が良いので、この部品を剥離して全塗装するのはもったいない」と思ったそうだ。

お客さんに連絡して「全塗装ではない方法でも、おそらくご納得頂ける仕上がりにできると思います」とお話ししたこともあるそうだ。例えば、キズ部分だけを補修し、全体をクリアペイントで整える方法もある。そんな仕上げ方を提案し、実際に納品したところ、お客さんからは「これって全塗装じゃないんですか?」と聞き返されたそうだ。あくまで個別例ではあるが。

「キャンディペイントに関しては、正直、難しくて補修再生できないケースも多いです。それでも『何とかなりませんか?』とご要望があれば、出来る限りの努力はしますと小島さん。「驚くほど上手く仕上がったこともあれば、イマイチ納得できないこともありますよ」と正直にお話して下さった。

今回依頼したのは、ソリッドカラーのブラックにストライプが入ったガソリンタンクや外装パーツだ。ソリッドカラーならどうだろう?「塗り重ねで色濃度を決めるキャンディと違って、ソリッドの再生はまだ楽です。キッチリ色合わせさえできれば、どうにかできると思います。キャンディのようにカラークリアが抜けてしまうこともありませんので、作業はしやすいと思います」。補修再生の場合は、下地のサビ止め処理ができないので、数年後にミミズサビが浮き出しても、一切保証できないとも小島さん。

「地肌まで剥がしてサビ止めするわけではないので、補修の場合は、後々ミミズサビが出てしまったことが過去にもあります。仕上がった直後に出てくることはありませんが、こればかりはどうにもなりません。それに補修だからといって安上がりにはなりません。それが現実であることも御理解頂ければと思います。コストダウンのための補修再生は、お引き受けできませんし、補修で仕上げても結果的には全塗装とコスト差が無いこともあります。補修は補修で違った段取りが必要なので、思いの外、時間が掛かってしまうことが多いです」。

今回は、サビ問題を承知の上で補修依頼。純正デカールのストライプを生かした補修が可能そうだとお話しを頂いた。「凹み部分は剥離して鈑金処理とパテ仕上げになりますが、スズキ純正デカールが生きているところは生かして、欠けているところはペイント再生で仕上げるようになります。上面のソリッドブラックには補修した痕跡がありますが、ソリッドブラックなら再生しやすいので、何とかなります」とのお返事を頂くことができた。ちなみに「このコンディションなら全塗装の方が絶対に楽です。純正ストライプのデータ取りは、剥離する前にしっかりやれば大丈夫ですから」とも付け加えて下さった。要するに、今回のオーダーは、補修仕上げベースとしては「最悪コンディション!?」のようだ。しかしながら、その仕上がりには仰天だった。

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