
金属部品同士が擦れ合う摺動部は、エンジン内部に限らずバイクには数多くある。しばらく走らせていなかったエンジン内部には、汚れやスラッジがクランクケース内やエンジンカバーの内側に堆積している例が多く、その汚れをしっかり除去しなくては、オイル交換を行ったところで、走行浅の早い時期からオイルが濁りやすく=せっかくの新品エンジンオイルが台無しになってしまう。ここでは、効果的かつエンジンにやさしい「フラッシング」実践をリポートしよう。
目次
20世紀以前のバイクならやる価値あり
エンジン性能の向上やエンジンのライフアップ=寿命アップ、また、車体各摺動部の作動性向上に関して、大きな鍵を握っているのが摩擦抵抗である。摩擦抵抗が低減すれば、バイクの性能は安定的に向上し、その違いを体感できるようになる。絶版車ブームの影響もあり、70~80年代のモデルが数多く里帰りを果たしているが、輸出先のかの地で乗り続けられていたバイクなら、メーター積算計は5万マイル(8万キロ)を軽く超えていても何ら不思議ではない。逆に低走行距離の車両なら、長年に渡って眠り続けてきたとも考えられる。いずれにしても、エンジン内部をクリーニングすることで、少なからず良い効果を得ることができる。
洗剤や溶剤ベースではない洗浄剤
高純度なナフテン&パラフィン系のベースオイルを組み合わせ、フラッシング性能を高め、開発されているのがフラッシングゾイル。フラッシング用ベースオイルにスーパーゾイル成分を添加することで、金属表面の潤滑性能を高めつつ、確かな洗浄能力を持つ。掻き落とされたエンジン内部の汚れをフラッシングゾイルが包み込むように排出するのが特徴のようだ。
エンジン暖機後に作業開始
普段走っていたバイクなので、エンジン暖機後に、ひとっ走りしてからエンジンオイルとオイルフィルターを抜き取り、さらに車体を左右に傾けて可能な限り古いエンジンオイルを抜き取ってから作業開始したい。この車両はスズキGS1000。ドレンボルトはクランクケースのオイルパン中央の奥まった部分にある。現代のバイクよりボルトのサイズは太く、何とM20を採用していた。
オイル使用量の下限注入でも効果有り
エンジン暖機後にしっかり走り、古いエンジンオイルを抜き取ったら、エンジンオイルの規定注入量に対して「下限」程度の注入でフラッシング開始。上限まで注入しなくても十分な効果を得ることができる。ディップスティックやレベル窓を見て「下限」までの注入で十分だ。エンジン始動後は暖機運転を行い、低回転で走行することでエンジン内部の汚れ落としを促進することができる。
フラッシングオイルは注入し過ぎない
エンジンオイル使用量は、クランクケースカバーに記してある3.4リットル。通常のオイル交換時も同様だが、決して上限レベル「いっぱいいっぱい」まで入れるのではなく、あくまで下限から上限のレベル間に入っていればよい。今回はフラッシングゾイルを3本準備したので、3本入れたらご覧のようなレベルになった。
低回転走行でしっかりエンジン暖機
エンジンオイルを抜き取り、オイルフィルターも交換。それからフラッシングゾイルを注入し、始動&暖機後にガレージ近所の国道をひとまわり試運転。いつもの試運転コースは、おおよそ30キロ程度の距離で、時間にして15~20分程度の走行だ。エンジンを高回転域までブン回すような走りではなく、3000~4000rpm程度で走行しよう。そんな低回転でも十二分に力強く走るのがリッターバイク。仮に、モンキーでも、のんびりじっくり走り、高回転域まで回さないこと。すべてが自己責任のメンテナンスである。
フラッシング後は即刻抜き取り
フラッシング作業はアイドリングや低めの空吹かしでも可能だが、メインスタンドがあるバイクなら、ニュートラルホールドだけではなく、各ギヤにシフトしながらエンジン暖機しよう。ギヤシフトの抵抗が増すことでフラッシング効果は明らかに増すようだ。それでも長時間走行や長い走行距離はおすすめできない。あくまで自己責任に於いて作業進行しよう。暖機走行後は、エンジンが冷える前にドレンボルトやオイルフィルターを取り外し、しっかりフラッシングゾイルを抜き取ろう。
オイル交換を行った際は、ドレンガスケットは必ず交換、もしくはしっかり確認対処してから再利用しよう。今回は、スパークプラグワッシャーのように潰れるクラッシュタイプのスチールガスケットだったので、プライヤーを使ってボルトのネジ山から取り外し、新品のアルミ製ドレンガスケットに交換した。ドレンワッシャーはメーカー純正部品にこだわる必要は決して無い。ネジサイズに合致した「パッキンワッシャー/ガスケットワッシャー」を利用すればよい。どんなときにも対処できるようにM8~M14あたりまでのパッキンワッシャーは手持ちしておきたい(自称サンメカならば……)。今回の大型ドレンワッシャーは、偶然にも手持ちにあった。
- ポイント1・現状エンジンオイルの抜き取り前は、エンジン始動し、しっかり暖機してから抜き取ろう
- ポイント2・ フラッシング時は、オイルフィルターケース内のエンジンオイルも抜き取ろう
- ポイント3・フラッシングオイルに限らずエンジンオイルを注入する際には、下限から上限の間にレベルを保とう
- ポイント4・フラッシング後の排出時はしっかり抜き取り、新オイルを注入する時にはドレンガスケットを新品に交換しよう
長年走り続けてきたエンジンを分解すると、エンジン内部の汚れに気が付く。クランクケースカバーを取り外した時などは、メンテナンス以前に、カバー内側の汚れに気を取られてしまうことが多い。何故「エンジン内部が汚れてしまうのだろう?」そこには様々な要因がある。ここでは、一般的なオイル汚れメカニズムを解説しよう。
オイル交換を無視し、バイクを走らせ続けると、オイル性能は低下し、エンジンパーツは理想的な潤滑状態を得られなくなってしまう。「エンジンオイル交換は3000km走行毎に……」といった約束ごとがあるが、これは重要なこと。エンジンオイルには賞味期限があり、オイル交換を無視して走り続けると、オイルの潤滑性能が著しく低下する。それにより摺動摩擦を繰り返している部品同士のコンディションが低下し、さらに走り続けることで、部品は摩耗し始めてしまう。その摩耗による汚れや鉄粉がエンジン内部の隅々に回ってしまうことにもなる。結果、他のエンジン部品にもダメージを与えてしまうのだ。このように負のスパイラルに陥ると、爆発燃焼ガス=ブローバイガスがクランクケース内部に充満してしまう。いわばエンジンオイルが排気ガスにさらされるため、エンジンオイルは汚れ、エンジン内部やエンジンパーツは真っ黒になってしまうのだ。
エンジン内の汚れは沈殿したり、エンジン内壁に付着する。その結果、部品が真っ黒になってしまうのだ。エンジン分解時に内壁や各パーツが汚れているときは、マシンオーナーの保守が悪く、オイル交換をサボってきたとも断定できる。また、走行距離が「過走行」ではないのに、エンジン内部が白濁するように汚れていることもある。これはズバリ「水分」の混入によって起る問題だ。「バイクはガレージ保管しているし、雨天走行もしていないし……!?」といったマシンオーナーでも、エンジンオイルは白濁乳化症状になってしまうことがある。こうなるとエンジンオイルの潤滑性能は著しく低下。そんなオーナーさんにお話を伺うと「寒い冬場は、なかなか乗れないので、エンジン始動して調子が良いことを確認してから、走らずにエンジン停止している」と言ったお話を聞くことがある。実は、この行為が最悪のケースを招くので、忘れずにいたい。
エンジン始動後、徐々に温まってくる段階でマフラーからは水蒸気が勢いよく吹き出す。このとき、排気口近くに手を寄せると、指先が水分でビッショり濡れることを確認できる。混合気の爆発燃焼によって排気ガスと周辺には大きな温度差が生じ、内部結露などの影響で発生した水分がマフラーから吹き出すのだ。しっかり暖機した後に走行すれば、マフラーから水分は吹き飛ばされ、乾燥状態になるが、そうしないままエンジン停止……。御理解頂けると思うが、マフラーやエンジン内部の水分はそのまま残留し、エンジンオイルには水分が混ざって白濁乳化。マフラー内部にも水が溜まり、それが原因で「マフラーにはサビ穴が……」といった負のスパイラルに陥るのだ。要するに、エンジン本体とマフラーをしっかり温めない限り、水分が残留してしまうのである。クルマのマフラーから大量の水が流れ出ている様子を見たことがある者は多いと思うが、それは暖機過程である証拠でもあることを忘れずにいたい。
汚れたエンジン内部をしっかり洗浄除去しない限り、オイル交換しても、比較的早い時期からオイル汚れが目立ってしまう。「まだ1000キロも走っていないのに、なんだかオイルが濁っているような気が……」なんてお話を聞くこともあるが、そんな悩みを解決するひとつの手段が「フラッシング」でもある。
一般的なフラッシング剤は「洗剤系」溶剤含有が多く、フラッシング時にエンジンを回し過ぎてしまい「エンジンにダメージを与えてしまった……」といったお話を聞くこともある。有機溶剤などの洗浄剤がベースとなっている一般的なフラッシング商品は、高い洗浄効果がある一方で、潤滑性能が低く、使い方を間違ってしまうとエンジンにダメージを与えてしまうこともあるようだ。しかし、フラッシングゾイルは異なっている。高い洗浄効果を持つナフテンやパラフィン系オイルをベースに、スーパーゾイル成分を添加。フラッシングによってエンジン内部の洗浄を行いながらも、スーパーゾイル成分によって金属表面をケアしている商品なのだ。エンジンオイルや他の液体に混ぜて使うのではなく、フラッシングゾイルのみの注入で良い。エンジン内部を効果的に洗浄できるので、オイル汚れが気になったときには、使ってみるのも良いだろう。
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