フューエルインジェクションが当たり前のとなった現代のバイクにとって「プラグかぶり」は無縁です。しかし燃焼のきっかけとなる電気火花を飛ばし続けることで電極は摩耗するため、定期的な交換は必須です。作業は簡単だと思われがちですが、扱い方を誤ればトラブルにつながるデリケートな部品でもあるので慎重さが必要です。
エンジンの高性能化とともにスパークプラグの重要度もますますアップ
空冷エンジンの場合はプラグの根元が露出しているので砂利やホコリが溜まりやすいので、プラグを緩める前にエアーブローや毛足の長いブラシで汚れを取り除いておく。プラグホールが深い水冷4ストエンジンの場合は、プラグキャップで塞がれているはずだが、キャップが浮いたり収縮して水分が浸入している可能性があるので、奥を覗き込んで確認してから緩めること。
プラグレンチは車載工具に含まれていることもあるが、汎用品を購入する際は愛車のプラグに合ったサイズを選択すること。NGKプラグの場合、CプラグやDCPプラグの六角対辺は16mm、Dプラグは18mm、Bプラグは20.8mmとなる。この3サイズのプラグレンチを所有しておけばどんなプラグでも着脱できるが、ソケット部の肉厚が厚く外径が太くなると穴径の小さいプラグホールに干渉することがあるので要注意。
自動車ではハイブリッドやEV化の流れが加速していますが、バイクの世界では今もガソリンエンジンが圧倒的な多数派です。したがって、混合気に爆発的燃焼のきっかけを与えるスパークプラグも不可欠です。
燃料供給がキャブからインジェクションに進化するのに合わせて、点火系もコンタクトポイントからトランジスタを経てデジタル化へと発展してきました。今では点火と燃料は一心同体で、さらに厳しい排ガス規制に適合できるよう緻密な制御によって作動しています。
嵐のように吸気と排気が入り乱れる燃焼室の中で、希薄な燃料に確実に着火させるために過酷な状況にさらされているスパークプラグは、白金やイリジウムなどの貴金属で耐久性を向上させている製品もありますが、基本的には走行距離に応じて交換が必要です。通常のスパークプラグの電極には特殊なニッケル合金が使われており、20000~30000Vの高電圧による電気火花は円筒形の中心電極の端部から発生しています。走行距離が増えると電極の端部が消耗して丸みを帯びたり、場合によっては電極の背が低くなったりします。
すると横から突き出している外側電極との隙間が広がり、火花が飛びづらい失火状態が起こりやすくなり、エンジン性能が低下することがあります。経年変化によって点火系の性能が低下してきた絶版車の4気筒エンジンだと、アイドリング時に気になる振動が出たり、加速時の吹け上がりが今ひとつという症状が出ることもあります。キャブなのか、イグニッションコイルなのか、プラグコードなのか……とあれこれ部品を取っ替え引っ替えしてみて、結局は摩耗したスパークプラグが原因だったというオチは結構あるものです。
プラグメーカーのホームページには、通常プラグの場合は交換距離の目安が3000~5000kmであると記載されています。オイル交換と同じようなスパンであることに驚かされますが、少なくともプラグメーカーの見解としては1万kmも2万kmも使用するべき部品ではないようです。一方でバイク専用プラグとなると8000~1万kmとなっているので(NGK製MotoDXプラグの場合)、愛車の適合サイズがあり、ライフも含めてバイクに特化したプラグを装着したい場合、選択してみても良いかもしれません。
いずれにしても、スパークプラグは走行距離に応じて交換しなくてはならない部品であることは間違いありません。
- ポイント1・フューエルインジェクションや点火系のデジタル制御が普及しても、スパークプラグはガソリンエンジンにとって最重要部品のひとつ
- ポイント2・スパークプラグは走行距離に応じて交換するが、プラグメーカーの交換推奨距離は意外に短い
プラグホールが狭くて深い水冷エンジンにはスリムなプラグレンチが必要
絶縁体下部の六角部分が錆びるのは屋外保管の空冷エンジン車にありがちな事例。錆びていても火花は飛ぶが、ここまで錆びるには走行距離もそれなりになっているだろうから、気がついたら新品に交換しておこう。
中心電極と外側電極の隙間=プラグギャップは点火火花を形成するために重要な要素となる。NGKプラグの場合は品番の中にギャップを示す部分があり、何も記載されていない場合は0.7~0.8mmが標準となる。ギャップが狭くなるとイグニッションコイルの発生電圧が低くても火花が飛びやすいが大きな火炎に成長しづらく、ギャップが広いと大きな火花が飛ぶがイグニッションコイルの能力が必要になる。箱入りの新品プラグを購入した場合も、バラツキがないか念のため確認してから装着すると良い。
キャブレター+キック始動オンリーの時代には、始動時にチョークを使いすぎてプラグがかぶって始動不能ということも珍しくなく、そのたびにプラグを外してウエスで拭いたりパーツクリーナーで洗浄したり、もっと雑にライターで炙ったりする荒技もありました。つまり昭和の時代はプラグを着脱する機会は今よりずっと多く、エンジンの調子がちょっとでも悪いとプラグ外して見てみなよというのがライダーにとっては当たり前でした。
しかし現在では、インジェクションとセルモーターでいつでも確実にエンジンが始動し、プラグがかぶるようなことはありません。またエンジンの水冷化やカウル装備車が多くなったことで、プラグが簡単に着脱できない機種も増えています。そうしたこともあり、最近のライダーの中にはスパークプラグのメンテをやったことのない方も少なくないようです。とはいえ先述したようにプラグは消耗品なので、バイクショップや用品店にお願いするか自分で作業するか、どちらにしても交換しなくてはなりません。
スパークプラグを着脱するにはプラグレンチが不可欠です。車載工具に含まれている場合もありますが、汎用工具としても購入できます。エンジンによって装着されているプラグはまちまちで、プラグによってネジ径とレンチが掛かる六角部の対辺の寸法が異なるので、愛車に適合したレンチを入手しなくてはなりません。プラグ周辺に空間の多い空冷エンジンならどんなレンチでも使えますが、コンパクトに設計されたプラグホールが深い水冷4ストロークエンジンでは、ソケット部の肉が厚いレンチだと干渉してプラグに届かないこともあるのでプラグホールの内径とソケットの外径の確認が必要です。
また、水冷4ストエンジンのプラグを外す際はプラグホールに水やオイルが溜まっていないことを確認し、もしあればエアーブローで吹き飛ばしたりウエスで拭き取ってからプラグを緩めます。プラグホールは本来、プラグキャップでシールされているべき部分ですが、経年変化などでキャップが収縮して雨水が浸入したり、ヘッドカバーガスケットが劣化してヘッド周りのオイルが漏れ出て溜まることもあります。
プラグの周辺に砂利や砂ぼこりが堆積している場合は、水冷、空冷を問わずエアーブローやブラシで擦って取り除かなくてはなりません。こうした作業を怠ってプラグを緩めてしまい、燃焼室に水が流れ込んだりプラグ穴に砂利が詰まったりすると、それらを取り除くのに余計な労力が発生します。作業前のひと手間を行うことで、結果的に時間短縮につながることを理解しておきたいものです。
- ポイント1・スパークプラグの着脱にはシリンダヘッドのプラグホールに合ったプラグレンチが必須
- ポイント2・水冷4ストロークエンジンのプラグを取り外す際は、プラグホール内の水やオイル、ゴミを取り除いておく
取り付け時に最初からプラグレンチを使うと事故の元
プラグメーカーの推奨通り3000~5000kmごとにプラグ交換を行っていればネジが固着することもないだろうが、カジリが心配で耐熱グリスを塗布したいというライダーは少なくないはず。ただプラグメーカー(NGK)はオーバートルクを懸念してこれを推奨していないので、塗布する際は慎重に締め付けよう。
かつてどこかで入手したプラグの着脱専用のゴムチューブの構造は単純なので、ホームセンターで購入できるゴムチューブでも代用できる。
ゴムチューブにはプラグレンチのような剛性はないが、プラグが斜めになればその途端に回らなくなるので、ネジ山がかじる前に気づくことができる。プラグレンチを使う際はエクステンションバーを使うまでにとどめておき、ハンドルで回さないようにするのがトラブルを避けるための重要なポイント。
新品プラグを取り付ける際に最大限の注意が必要なのは、プラグのネジとシリンダーヘッドのプラグ穴のネジが噛み合う数山分のところです。ここで砂利やゴミを挟み込んだり、プラグが斜めに入ったりすると、プラグとシリンダーヘッドの素材の硬さの差によってヘッド側の雌ネジがダメージを負ってしまいます。
そうしたトラブルを回避するために重要なのが、プラグ取り外し前のエアブローや清掃とともに、プラグを取り付ける最初の数山は工具を使わず、指でつまんで回して取り付けるのが大原則です。これならプラグ穴の入り口でプラグが斜めになっても、軽くかじった時点で指では回らなくなるので異状に気づきやすいのです。これに対して、最初からプラグレンチに長い柄が付いた状態で回し始めるのは最悪です。
ハンドルを使うことでプラグに加わるトルクは大きくなり、プラグ穴の入り口付近で多少渋くても何とか入ってしまうことがあり、いよいよこれはおかしいぞ!?と気づいた時点では時すでに遅し……という非常事態に陥る例は少なくありません。こうしたミスはメンテビギナーはもちろん、数多くの経験を積んだベテランでも冒しがちなので、気を抜かず基本に忠実な作業を行うことが重要です。
そうはいっても、プラグホールが深かったりシリンダーヘッドのすぐ上までガソリンタンクが迫っているなど、指でつまんで回せないエンジンも少なくありません。そんな時はプラグに適当なゴムホースを差し込んでプラグ穴まで運び、最初の数山がしっかり噛み合ってからホースを抜いてプラグレンチに交換して増し締めを行います。デイトナが販売しているフレキシブルスパークプラグフィッターは本体が自在に曲がるので狭い場所でもプラグを確実に取り付けることができます。
指やゴムホースやプラグフィッターを使わず、プラグレンチにプラグをセットした状態でプラグ穴まで運んで、エクステンションバーの軸を回してネジ山を掛けるというやり方で作業する場合もあります。ただしこの方法では、プラグに対してレンチが傾いた状態で回し始めると、絶縁体頭部が割れることがあるので注意が必要です。スパークプラグの絶縁体は陶器製なので、ご飯茶碗と同じで当たり所が悪いとちょっとしたショックで割れてしまうのです。
入り口の数山を無事に越えれば、あとはプラグソケットで適正なトルクで本締めします。締め付けトルクはプラグのネジ径によって異なり、細いプラグより太いプラグの方がより大きいトルクで締め付けることになります。ここで注意すべきなのはネジ部へのグリス塗布です。エンジンの熱による固着を防止するため、耐熱性のカッパーグリースをネジ部に塗布してから組み込むのは特別なことではありません。しかしプラグメーカーによれば、グリスを塗布することでネジ部のフリクションが減少し、標準締め付けトルクで締めてもオーバートルクになるおそれがあるため、潤滑剤や焼付防止剤の使用は推奨していないようです。
それでもプラグの固着を避けたいのなら、回転角で締め付けを管理する方法もあります。スパークプラグのガスケットはシリンダーヘッドと接して締め付けトルクを加えることで潰れながら気密性を発揮します。そのため再使用時は潰れた状態で締めることになります。プラグのネジ径によって締め付け角度は異なりますが、ここで紹介しているカワサキGPZ400に装着されているDPR8EA(ネジ径φ12mm)の場合、ガスケットが新品の場合はシリンダーヘッドに接してから約90°締め付け、再使用時には約45°締めることで適正トルクになるとの説明があります。
スパークプラグの交換は簡単なようでいて意外と気を遣うことも多い作業です。しかし電極が摩耗してくたびれたプラグを新品に交換すると、始動性や加速性能が確実に向上(というより回復)するので、未体験の方も一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
- ポイント1・新品プラグを装着する時はネジ山にしっかり掛かるまでは指で回す
- ポイント2・指で回せない時もゴムチューブや専用工具を活用して、プラグレンチを使う際もいきなりハンドルで回さない
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