
10数年間寝かせてきた原付レーシングマシンで久しぶりのサーキット走行!!ブレーキは完全にNG!?かと思ったら、ガレージ保管だったこともあり、完全固着ではなかった。それでも違和感あるレバータッチとローター引き摺り(ブレーキパッドの)を感じたので、積極的な分解洗浄メンテナンスを実践してみた。やっぱりガレージ内保管は、露天+車体カバー保管とは違い、良い環境は間違い無いようだが……。ここでは、フロントブレーキキャリパーのメンテナンスを実践しよう。
目次
ホンダ創立50周年記念の50ccレーサー
ホンダ創立50周年の1998年に発売されたのがストリートバイクのドリーム50。そのドリーム50にはレーシングキットと呼ばれる専用レーシングパーツが存在した。そのレーシングパーツを採用し(すべてではない)、生まれながらにしてレーシングマシンとして販売されたのが、ホンダレーシング=HRC製のドリーム50Rだった。10数年ぶりにサーキット走行会へ参加するため、フロントブレーキキャリパーのメンテナンスを実践した。
ブレーキユニットで外せる仕様へ改造
ドリーム50Rの純正フロントブレーキマスターは、街乗り仕様と同タイプで表面処理が異なるパーツだった。しかし、使い勝手がイマイチだったので、モトクロッサー用(CRF用)ブレーキマスターを流用。さらにフロントブレーキユニットで取り外し可能な仕様に変更した。転倒時は一部の部品交換ではなく、フロントブレーキユニット一式で交換していた。耐久レースのときは、この方法が便利だった。
温めることで作業性が一変!!
前後キャリパーからピストンを抜き取る際には、キャリパーピストンツールを使って無理矢理引っ張り出すのではなく、高温乾燥機を利用し、70℃前後に設定してボディを温めてから、ブレーキフルードのポートに圧縮エアーをゆっくり吹き込み、ピストンを抜こうと考えた。並列2ピストンのコンディションは決して悪くなかった。
並列2ピストンのブレーキキャリパーからピストンを抜き取る際は、徐々にエアー圧を掛けながら一気に抜くのではなく、ブレーキピストンツールを併用し、徐々に工具を狭く作動させてピストンを抜くのが一番楽で確実な作業方法だ。
保管状況が良いとコンディションも良い
キャリパーシリンダー内にあるピストンシールとダストシールの溝内にカルキのような汚れが堆積しているときには、ブレーキキャリパー溝の掃除ツールでクリーンナップするのがベスト。その際にはパーツにキズを付けないように作業進行しよう。各ピストンシールは、ウエスに新品フルードを湿らせて指先で擦るように洗浄した。決して引っ張らないこと!!ピストンシールが伸びて使用不能になってしまう。
ラバーグリスはいろいろ使えて便利
スーパーゾイルのラバーグリースを利用し作業進行。ラバーグリースはその名の通りゴムやラバー部品と金属の摺動性を高める専用グリス。DOT4のグリコール系ブレーキフルードとの相性も良く分離することはない。ブレーキピストンシールの組み付け時はもちろん、フロントフォークシールや各種オイルシールのリップ部分に塗布すると、リップにダメージを与えにくく組み付け作業性が良くなる。
キャブのインナーパーツも要点検
キャブ内フロート室には半分くらいガソリンが残っていて変質、ネバネバになっていた。走行終了後は燃料コックをOFFにしてから、フロートチャンバーボディのドレンボルトを抜き、ガソリンの排出を忘れてしまったようだ。仕方ないので、完全分解してキャブクリーナーで洗浄。真鍮部品はビニール袋に入れてキャブクリーナーを吹き付け、ビニール袋に漬け置き洗浄した。HRCキットのキャブレターはCRスペシャルの小型ボディなので、同キャブ用のガスケット類はキースター製で調達。今回はフロートチャンバーの関連のパーツだけ新品ガスケットに交換した。
フルカウルを装着してレーサー気分満載
2000年代当時は、カウルレスのゼッケンプレート仕様でレース参戦していたが、近年、サーキットイベントや走行会(ツインリンクもてぎの「グッドオールデイズ動体確認走行会」やスズカツインサーキットのアストライドなど)の走行会へ参加するとき用に、フルカウルを装備した。ホンダクラシックレーサーのイメージを追求するため、いつか取り付けてみようとストックしていた初期型ホンダCR72(2X)用フルカウルを装着した。
- ポイント1・分解前に部品を温めることで分解作業が容易になる。お湯に浸して温めても良い
- ポイント2・ 分解した部品のコンディションは徹底確認。復元時にはしっかり洗浄し、ゴム部品にはラバーグリスを薄く塗布しよう
- ポイント3・久しぶりにレーシングマシンを走らせるときには、特にタイヤとチューブ交換。ブレーキのメンテナンスを徹底しよう
- ポイント4・しばらく走らせる予定がないときにはガソリンタンク内もキャブ内も徹底的にガソリンを抜き取ろう
レーシングマシンに限らず、しばらく乗る予定がないバイク、走る予定がないバイク、車検取得する予定が無いバイクを保管するような場合は、ガソリンを可能な限り抜きとっておくことをお勧めしたい。「可能な限り」と言うよりも、より一層「積極的に抜き取りたい」ものである。昔のガソリンと比べて、現代のガソリンは、変質・劣化・腐食しやすい特徴がある。現代のガソリンには、環境問題の関係で、バイオエタノールが混ぜてあるようだが、この成分が、前述したような要因を招きやすいとも言われている。また、ゴム部品の膨潤を招きやすいのも、その成分のようだ。キャブを分解したら、フロートチャンバーガスケットが伸びて膨らみ(これが膨潤現象)、ガスケット溝に組み込めなくなってしまった!?といったお話しをよく聞くことがある。実際に、そのような経験をしたことがあるサンデーメカニックは数多いのではないだろうか?
新品ガスケットを用意して、キャブの溝にハマったので部品交換。ところが、しばらくしてキャブセッティングでフロートチャンバーを分解したところ、また同じ現象が……。といった経験、ありませんか?その原因こそが、ガソリンに含まれる成分によるもの、だと考えられている。以前に、そんな膨潤したガスケットを水道水+中性洗剤に浸してから洗い流し、古新聞の上で吸水しつつ乾燥させたところ、ガスケットが縮んで!?フロートチャンバーの溝に楽々復元できたこともあった。すべてがそうではないと思うが、そんな状況で困ったときには、試す価値があるので、知っておくのもよいだろう。
しばらく放置していたことで、フロントブレーキに違和感があった。レバータッチが何となくヘンで、ディスクローターにブレーキパッドが引き摺りっぱなしになってもいた。そこで、ブレーキキャリパーの分解清掃を実施。これまでの経験では、完全固着に至る以前なら、分解洗浄及びピストン摺動部の磨き込みだけで、性能回復することが多かった。事実、今回の場合も、キャリパーボディのピストンシール溝に不純物が堆積していたので、それらをクリーニングしたことで、ブレーキタッチの違和感や効き具合は良くなり、ディスクローターとブレーキパッドの引き摺りも無くなった。
こんな性能回復作業時に、効果的なのがラバーグリスの併用である。ラバーグリスとは、ゴム部品と金属部品の摺動抵抗を減らし、ゴム部品に悪影響を与えないのが大きな特徴である。タップリ塗る必要はないので、ラバーシールやゴム部品にうっすら塗布して復元すれば良い。
このドリーム50は、近々サーキットへ行く予定があるからと、タンク内のガソリンはそのままにしておいたのが敗因である。のちのち、ガソリンスタビライザー(ガソリン劣化防止剤)を投入したことで、タンク内部のガソリンに劣化や腐りは発生しなかったが、キャブ内に残っていた少量のガソリンが腐ってしまい、コンディション悪化の原因となった。フューエルスタビライザーをタンクへ投入したら、燃料コックをONにしてエンジン始動するのがベストである。エンジン始動できない環境の際には、コックをOFFの状態でフロートチャンバー内部の残留ガソリンを排出し、その状態を保ってコックをONにすることで、タンク内から腐食防止ケミカルを混ぜたガソリンが流れて溢れるため、その段階でドレンを閉じると腐食防止効果を得られる。しばらく走らせる予定が無いときには、是非、そのような策を講じてみよう。レーシングマシンも街乗り車もやり方は同じである。
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