リアショックの作動性やレスポンスが今ひとつ良くないと、気持ち良く走れないばかりか、時としてハッとさせられてしまうこともある。旧いモデル用リアショックは、窒素ガス抜けが多く、減衰ノッチを調整しても、思い通りリニアな違いを感じられないケースも多々ある。メーカー純正リアショックでも、モデルによっては「プロならオーバーホール可能」なケースも多々ある。まずは、オーバーホール可能なリアショックか否かを、尋ねてみるだけでも収穫はあるはずだ。

サスペンション・オーバーホールはプロに依頼

「90年代モデルに近くなると、市販車のノーマルリアショックでも、高性能化が進んできて、現在のリアショックと内部構造的には大きな違いがない例もあります」とは、オーバーホールを依頼したテクニクスのスタッフ。分解用特殊工具を利用し、リアショックダンパーユニットの分解に取り掛かる。

組み合わせを崩さずに分解→内部洗浄



スプリングコンプレッサーでダンパーボディ単体にしてから、ダンパーロッドを固定してアッパーマウントやボディ本体を分解。オイルシールやOリングなどは新品部品に交換するが、ダンパー関連パーツはすべて洗浄点検。ダンパーロッドがサビで再利用できないときには、再生ハードクロームメッキによって再生可能に。バンプラバーは粉々になって消失していたが、粉々になる直前がこんな感じだった。様々なロッド径に合わせたバンプラバーをテクニクスでは準備しているので安心だ。

再利用不可能な部品も新品に交換

今回のリアショックで交換した数々のインナーパーツ。オイルシール関係は当然ながらすべて新品部品に交換した。オーバーホール料金は機種によって異なるため、同社Webをご覧頂きたい。

バイクシーズン、レースシーズンには無関係で、数多くのサスペンション・オーバーホール依頼で全国から送られてくるテクニクス。リアショックの作業待ち以外に、驚くほどの多くのフロントフォークが分解待ちの状態だった。頼もしいサスペンション専門の職人工房である。

旧オイルは当然ながら真っ黒け……

すべてのインナーパーツを徹底的に点検洗浄してから組み立ての開始。ダンパー本体とリザーブタンクに適量のダンパー専用オイルを注入。定期的にオイル交換サービスを利用しているユーザーも多いそうだ。何故なら、サス性能の維持にはオイル交換が大切だからだ。

組み立て手順にも様々なノウハウがある

ダンパーロッドに組み付けたピストン&関連パーツをそのままボディ内に組み込むのではなく、組み立て後のダンパーロッド&ピストンユニットをオイルジョッキにしばらく沈め、その段階で、積極的に単体エアー抜きを行う。スムーズな組み立てからのエアー抜きを実現する重要な段取りである。プリエアー抜きを行ったダンパーユニットは、手早くボディ内に挿入。ダンパー本体の奥まで押し込まず、挿入直後の上部周辺でさらにエアー抜きを実施。徹底的な作業が施されていく。

リザーブタンクへガス封入

ダンパーロッドユニットをボディへ差し込み、エアー抜きを終えたらシールヘッドをボディへ押し込んでスナップリングで固定。サブタンクのピストンは高さを合わせてフタを固定したら窒素ガスを封入。このサブタンクキャップはバルブ式ではなく、ゴムエンドなので注射針状の特殊なツールで窒素ガスを封入。減衰ノッチを変更しながらダンパーの反発具合を確認した。

スプリングのペイント依頼も可能

パウダーコーティングでスプリングをペイント依頼。パウダーコーティングは、専用ガンでふりかけた粉=パウダーが高温乾燥で溶け、塗膜を構成するペイント方法。高性能なパウダーコーティングは、ハネ石などに対する強靱性もバツグンだ。

メーカー純正サスでもこの仕上がりに!!

完成したリアショックユニットは、決して純正部品には見えないスペシャル感が強い仕上がりになった。好みのカラーやオリジナルカラーにスプリングを仕上げることもでき、摺動性が高くなる表面処理をボディに施すことで、完全なるスペシャルメイドへ変貌できる。クタクタだったノーマルとは大違いだ。

埼玉県春日部市のテクニクス

メンテナンス途中の預かり車両をディスプレイするかのように美しく展示するショールーム。ずばり「見せるメンテナンス」が行われていた。前後足周りが取り外された大型車もメンテスタンドで待機中。テクニクスならではの光景でもある。

撮影協力:テクニクス

POINT

  • ポイント1・メーカー純正リアショックでも、分解可能ならオーバーホールも可能
  • ポイント2・ サスペンションメーカーから各種修理部品の供給も受けるテクニクス
  • ポイント3・定期的なガス封入やダンパーオイル交換は必須。スペシャルショックだけではないケアが純正ショックにも必要

前後サスペンションの動きが渋くかったり、逆にダンパーが抜けて「フワフワだったり」などなど、バイクを走らせたとき「サスペンションに違和感があった」といった経験を持つライダーは数多いはず。そんな印象や経験、ありませんか?

80年代以降、フロントフォークのトップキャップにはエアバルブが付くセミアエサス仕様が多い。あのバルブに触れてしまい(興味本位や間違えで……)、走りの印象が以前と比べて不快になって……といった経験を持つライダーも数多いはず。少しでもサスが沈んでいるときに、エアバルブの頭を爪先で押してシュッとエアーを抜いてしまうと、沈んだ状態で大気圧になってしまう。そうなるとサスペンションが伸び方向へ行くにしたがい「負圧」となり動きが抑制されてしまう。そうなると走行中のフロントフォークの動きが著しく低下してしまい、ハンドルグリップに過大な走行振動を感じてしまうことになる。圧力調整時には、オーナーズマニュアルに従い、規定のエアー圧に設定する、もしくはフロントタイヤを浮かせた状態でバルブを突き押し大気圧状態にすることで、サスペンション本来の動きを取り戻せるようになるはずだ。

ここでは、サスペンションのプロショップとして知られるテクニクスで、リアショックのオーバーホール風景を撮影させて頂いた。80年代後半以降に登場した高性能オフロード車なら、その多くに別体式窒素ガスタンクを持つ。ロードモデルに関しても、モノショックであれツインショックであれ、スポーツモデルには別体タンクを持つ仕様が多かった。また、高性能モデルのダンパーユニットには、メーカー純正サスペンションでも減衰力調整機能が装備されている例が多い。メーカー純正ながら、高性能モデルに採用される部品の場合は、ほぼ「分解オーバーホールできる」と考えても良いはずだ。今回撮影したオフロード車用純正リアショックは、過去に一度もオーバーホールどころか、ダンパーオイルを交換された形跡が無く、分解時に出てきたダンパーオイルは真っ黒だった。

フルボトム時に効くバンプラバーは、完全に消失していた。窒素ガスも規定圧力以下で、その動きは推して知るべし状況だった。ここでリポートしているような分解可能なリアショックなら、メーカー純正部品でもオーバーホールは可能である。テクニクスの担当スタッフさんによれば、「ダンパーロッドに深いキズやサビがあると再メッキ処理に時間が掛かりますが、表面だけのサビなら磨き込みで再利用可能になります。シールヘッドに組み込むオイルシールやダストシール、バンプラバーもタイプごとに在庫していますので、よっぽど珍しいモデル用でなければ、ほぼ対応可能です」とお話して下さった。今回は、スプリングをパウダーコーティング処理でオリジナリティを高められていたが、このようなペイント依頼も可能。さらに、アルミボディの摺動性を高めるカシマコートなども依頼できる。何よりも重要なのは、エンジンオイル交換と同様に、前後サスペンションオイルも定期的な交換が大切である。スポーティな走りを求めるライダーなら、オンロード、オフロードを問わず定期的なオイル交換は必ず実践したい。その違いは間違い無く体感することができる。

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