ブレーキフルード交換やキャリパー洗浄の際に触れるブリーダープラグは、キャリパー内部のフルードを排出するための小さな部品です。しかしほんの少しの気遣いの有無が、後々になって面倒なトラブルになるか否かの分岐点になります。ブリーダープラグを緩めたらパーツクリーナーをスプレーするか、水道水での洗浄を忘れず行いましょう。

通常のボルトとブリーダープラグは役割が異なる

長期放置によりブレーキホースやブリーダープラグに錆が発生した一例。ブレーキホースのコイルタイプのガードが腐食するのは屋外保管車両にありがちなパターンだ。ブリーダーキャップは辛うじて残っているが経年劣化でひび割れており、防水性能は著しく低下しているはず。


ブリーダーキャップは純正部品として購入できるだけでなく、用品メーカーから汎用品として販売されている場合もある。これはデイトナ製で4個1セットで、黒だけでなくレッドやブルーなどのカラーバージョンもある。


デイトナからは実用性とカスタム性を両立させる、錆びに強いステンレスを用いたブリーダープラグも発売されている。純正ブリーダープラグのネジサイズはM7×P1.0、M8×1.25、M10×1.25の3種類のうちのどれかなので、交換する際は自車のネジサイズを確認しておく。

エンジンやラジエターのドレンボルトやブレーキキャリパーのブリーダープラグは、パーツを固定するだけのボルトとは異なり、内容物の漏れを防ぎつつ定期的に着脱するという特長があります。さらにドレンボルトとブリーダープラグでも役割が異なります。ドレンボルトは純粋に栓ですが、ブリーダープラグは栓でありながら通路でもあるからです。

その上で、取り扱いには通常のボルトとは異なる注意が必要です。キャリパー内部のブレーキフルードを漏らさないという点ではしっかり締め付けなければなりませんが、ただ力いっぱい締めれば良いというわけではありません。ブレーキフルードの交換やキャリパーオーバーホールの際にブリーダープラグを取り外すと、先端がテーパーになっていることに気づくはずです。そしてプラグを締め込んでも六角部分がキャリパーに接していないことにも気づくでしょう。

ブリーダープラグの栓の機能は、プラグの先端とキャリパー側の雌ネジの奥がともにテーパーに加工されており、両者が接する事で成立しています。ボルトの根元のガスケットがオイルパンに接して、ネジ部に加わる張力で緩みを防止して漏れを防いでいるオイルドレンボルトとは仕組みが全く異なります。プラグの先端がでシールしているので、六角部がキャリパーに接する必要はなく、そのためプラグ自体にガスケットは入っていないのです。これに対してブレーキホースのバンジョーボルトは、ボルトを締めた時のネジ部分に働く張力と摩擦力を利用するため、バンジョーの両面にガスケットを組み付けています。

ブレーキフルードを漏らさないことを大前提として、通路となるのもブリーダープラグの重要な役割です。ご存じの通り、経路内に混入する空気はブレーキにとって大敵であり、フルードを注入したら必ずエア抜きを行う必要があります。栓でありながらエアを抜くための通路にもなるため、バンジョーボルトは中心に縦穴があり先端付近で横穴につながる複雑な形状をしています

ブリーダープラグを少し緩めてプラグとキャリパーのテーパー接触部分に少し隙間ができた状態でブレーキレバーを握ると、この隙間からキャリパー内のエアが押し出されて横穴を通り、縦穴を通過してプラグの上部から抜けるというのがエア抜きの原理です。握ったレバーを放すとマスターシリンダーのピストンが戻る際にプラグの先端から空気を吸ってしまう可能性があるので、レバーを握った状態でプラグを締めるのはこうした構造になっているためです。

エア抜きをする際にプラグを緩めすぎると、ネジ部分の隙間からブレーキフルードが染み出してくる可能性があるので、緩め量は最小限にするのがセオリーですが、レバーからくわえたフルード圧は逃げやすい場所から抜けるため、ネジ部分よりも先に抵抗の少ない横穴に流れます。プラグネジ部からの漏れを予防するのであれば、プラグとキャリパーの合わせ部分にグリスを塗布しておけば、より確実に横穴から抜けるはずです。

ところで、プラグの横穴がネジ部より先にあることで、プラグを締める際のトルクが重要になってきます。先端のプラグがキャリパーに接してもボルトの六角部はキャリパーに届かないので、過大なトルクで締め付ければ横穴が押しつぶされてしまう危険性があります。ブリーダープラグの規定締め付けトルクは5Nm程度で、柄の長いメガネレンチを使えば簡単にオーバートルク担ってしまいます。何度も繰り返していますが、六角部分がキャリパーに接することがなく、テーパー部分がキャリパーに触れていてもガッチリとした手応えが希薄なため力を込めがちですが、15Nmを超えると場合によっては横穴が潰れはじめるというテスト結果もあるので、締めすぎには注意が必要です。

POINT

  • ポイント1・ブレーキキャリパーに取り付けられたブリーダープラグは他のボルトやビスとは機能や構造が全く異なる
  • ポイント2・中空部分が多いので締め付け時にオーバートルクにならないよう注意する

ブリーダープラグはエアだけでなくブレーキフルードも通過する


プラグ先端部分の横穴が完全に閉塞している例。これではブレーキレバーを握っても、緩めたプラグの先からエアはもちろんフルードも出てこない。ネジ部に白い腐食痕が残った状態だが、六角部分がなめたり途中で折れることなく抜けたのは幸いだ。


キャブレターのジェットクリーニング用のニードルで穴をつつくと錆が崩れて貫通した。定期的にブレーキコンディションをチェックしていれば、ここまで悪化する前に気づいたはずだが、オーナーはよほど無頓着だったのだろう。


ロッキングプライヤーは2点または3点でボルトと接触するのに対して、ナットツイスターの刃は6点で接触するので力が加わりやすく、中空のブリーダープラグも潰れにくい。錆びたプラグが折れないよう、ヒーターでしっかり熱を加えてから潤滑剤をスプレーしてから作業しよう。

ブレーキメンテ時の取り扱いにも注意が必要です。先述の通りオーバートルクが厳禁であるのに加えて、プラグ内の汚れや腐食にも配慮しなくてはなりません。

フルード入れ替えやキャリパーオーバーホールに伴いエア抜きを行う際に、プラグの先端からはエアだけでなくブレーキフルードも出てきます。ブレーキフルードは塗装にダメージを与えるため付着しないよう養生するのが大前提で、もしホイールやフェンダーに付着した際は早急に水で洗い流さなくてはなりません。

そして同じ気遣いはブリーダープラグ自体にも必要です。市販車用の純正部品はスチール製で表面はめっき仕上げなので、塗装が傷むという心配は無用です。ただしブレーキフルードは吸湿性が高いので、雨天走行や保管中に呼び寄せられた湿気によるサビの原因となります。状況をさらに悪化させるのはブリーダーキャップの未装着です。プラグは中心に穴があり、先端近くで横穴につながっています。プラグが締まっている時は先端のテーパーが利いているので、サビや水分がキャリパー内に入り込むことはありません。しかし縦穴から横穴を通じてネジ部分の下部には到達します。エア抜き作業でプラグ内側に付着したブレーキフルードをそのままにして、湿気と結びつきサビに発展するとどのようなことが起こるのでしょうか。

まずはプラグ内の通路が閉塞します。マスターシリンダーにもキャリパーにもフルードが入っていてブレーキは利くのに、ドレンホースを繋いでブリーダープラグを緩めてレバーを握ってもキャリパー内のフルードが排出できなくなる可能性があります。キャブレター洗浄用の細いニードルツールでプラグの穴をつつきながら、パーツクリーナーをスプレーして縦穴部分をクリーニングして、その後で防錆潤滑剤を注入して横穴に浸透するのを待つことで通路が開通して、キャリパー内のエアとフルードが抜けるようになるかもしれません。もちろん、エア抜きができるようになったらそれで良しというわけではなく、錆びたブリーダープラグは早急に抜き取り新品に交換します

POINT

  • ポイント1・エア抜き時、ブリーダープラグに残ったブレーキフルードが錆の原因になる
  • ポイント2・錆びたブリーダープラグは新品に交換する

吸湿性の高いブレーキフルードを残さないことが重要


パーツクリーナーのロングノズルをプラグの穴に挿入してスプレーする。穴に溜まったブレーキフルードが逆流して飛散するので、プラグの先端をウエスで塞いでからスプレーすること。このワンプッシュでその後の腐食を防止できる。簡単な作業なので必ず実践しておきたい。


溜まったパーツクリーナーはエアーブローしても良いが、ティッシュペーパーや細くしたウエスで吸い上げても良い。この作業が終わったら、確実にブリーダーキャップを被せておく。

さらに錆が進行して腐食すると、六角部がナメてしまうこともあります。スパナや12ポイントのメガネレンチはなめやすいので、6ポイントのソケットがおすすめです。本格的になめてしまった場合、通常のボルトであればロッキングプライヤーを使いますが、中空のブリーダープラグをがっちりくわえると変形してしまう恐れがあるので、潤滑剤をスプレーした後にヒーターで充分に加熱して、コーケン製ナットツイスターなどダメージボルトに食い込む刃付きのソケットで緩めるようにします。

もっと状況が悪化して、ブリーダープラグがボルト部分でポッキリ折れてしまった場合は最悪です。折れ残ったプラグに逆ネジタップをねじ込んで食い込ませて緩めば不幸中の幸いです。TIG溶接機があれば折れたプラグの先に別のボルトを溶接して抜き取る方法もあります。プラグに溶接の熱が加わることでキャリパーとの固着が剥がれる事も期待できますが、ここまでくると一大事です。

そんな面倒な状況を引き起こさないためには、ブリーダープラグの内部にブレーキフルードを残さず、外部から水分を入れないことが重要です。フルード交換やエア抜きを行ったらパーツクリーナーでプラグを洗浄するのは基本ですが、その際にロングノズルでプラグの穴を狙ってクリーナーを確実に注入します。この穴は止まり穴なので、プラグ全体にまんべんなくスプレーした程度では、穴の中のフルードは押し出されない可能性があります。その上で、残ったパーツクリーナーはウエスやティッシュペーパーを細くよじって吸い上げるか、エアーブローガンで吹き飛ばします。

ゴム製のブリーダーキャップが経年劣化でカチカチに硬化したり、それ以前にどこかに飛んで無くなっている時は、必ず新品のキャップを取り付けます。せっかくプラグの中のブレーキフルードを洗浄しても、雨水が入り放題のままでは何の意味もありません。高価な部品ではないので、指でつまんで柔軟性がないようならヒビ割れがなくても交換してしまいましょう。

小さなわりに役割は重要で作りがデリケートなブリーダープラグは、思わぬトラブルの原因になりかねません。しかしそれを防ぐのは簡単です。常にブリーダーキャップを装着し、ブレーキメンテナンスの際にはプラグに残ったブレーキフルードをパーツクリーナーで洗浄すれば、ブリーダープラグは常に良好なコンディションに保たれるはずです。

POINT

  • ポイント1・エア抜きやブレーキフルードを交換したらブリーダープラグの中もパーツクリーナーで洗浄する

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