パイロットスクリュー調整や同調調整を繰り返し行っても、アイドリングからスロットルを開けた時の出だしで引っかかったり、開けたスロットルを閉じた時の回転落ちが悪くて何だかモヤモヤする。負圧キャブでそんな症状がある時は、スロットルバルブの摩耗が原因かもしれません。外したキャブを空に向けて、バルブがきっちり全閉になるかどうかを確認してみましょう。
エンジンが吸おうとする空気をせき止めているのがスロットルバルブ
スロットルドラムを回してバタフライバルブが開きはじめる時、ベンチュリーとバタフライが擦れて異音を発していないか、干渉や摩擦によって部分的に金属光沢が増している部分がないかなどを確認する。スロットルをほんの僅か開いた時に、4つのキャブから同じ量の空気が流れることでエンジンがスムーズに吹け上がる。裏返せば、スタート時に空気がバラバラだと4つのシリンダーの燃焼状態が揃わず滑らかさが損なわれる。
キャブレターのメンテナンスやセッティングにとって最も重要といって過言でないのがスロー系の調整です。フューエルインジェクション全盛のレース界がキャブ主流だった時代には、メイン系からセッティングを行う手法もあったようですが、少なくとも街乗りではスローが最重要です。
さらに言えば、たとえ世界GPクラスであってもコーナリング時にはスロットルを閉じるわけで(全閉まで閉じるかどうかは別として)、コーナーの立ち上がりではスロー系を使っています。そこでボコついてギクシャクしたり、スカスカでパワーがついてこないなどセッティングが外れていたら、最高出力が出ていてもサーキットのラップタイムには結びつかないというのが、世界GPでキャブセッティングを行っていたプロフェショナルの言葉です。
1980年代以降に製造された250ccクラス以上の4ストモデルの多くが装着していたのが負圧式キャブレターです。スロットルグリップに操作によって円盤状のバタフライバルブ(スロットルバルブ)が開閉して、空気の通路であるベンチュリーに発生する負圧によってバキュームピストンが上下してガソリンが供給されます。ミニバイクやFCRやTMRなどのレーシングキャブレター、CB750フォアやZ1/Z2世代の絶版車が採用している、ケーブルがピストンを直接上下させるピストンバルブ式キャブに比べてトータル性能で優れているとされています。
負圧式でもピストンバルブ式でも、スロットル全閉時の空気の流れはエンジンがアイドリングできる最小限まで絞られています。全閉というと空気を遮断しているように思えますが、本当に空気を遮断したらエンジンは停止します。ですからアイドリングに必要な空気の流れは確保されています。4気筒用キャブの場合、フロートチャンバー下などについていることが多いスロットルストップスクリューを回すことでアイドリング回転数を調整できますが、あの操作によってスロットル全閉時のバタフライバルブの開度を調整しています。スクリューを締めるとスロットルが開くので回転数が上昇し、緩めると閉じるので下降します。
ここで覚えておきたいのは、バタフライバルブはエンジンが吸い込もうとする空気の流れをせき止めているということです。バタフライバルブが開くとエンジン回転数が上がりますが、その空気はエアクリーナーボックス側で溜まって待っているわけではありません。ピストンのストロークによってシリンダーに発生する強力な負圧が、バルブが開いたとたんにできるだけ多くの空気を吸おうとしているのです。
それは掃除機のホースの先端を手のひらで塞ぎ、少しずつ隙間を開けていくのと似ています。完全に塞ぐとホースの蛇腹が縮みモーターが苦しそうにうなり、ほんの少し手をずらすと空いた隙間から空気が流れ込み、縮んだホースが伸びてモーターのうなりも小さくなります。さらにホースを塞ぐ手を放すと、空気の吸い込み量は最大になりホース部分の負圧は最小になります。アイドリング時のキャブとエンジンは、大まかに言えばこのような関係になっています。
- ポイント1・エンジンはどんな時でも最大限の空気を吸おうとしており、それをスロットルバルブで制御している
- ポイント2・負圧式キャブレターにはバタフライバルブとバキュームピストンがあり、吸入空気量はバタフライバルブで増減させている
スロットルシャフトとバタフライバルブは非分解で純正部品も存在せず
ベンチュリーとバタフライバルブの当たり具合を確認するにはキャブを太陽にかざしても良いが、クリップライトなどの小型照明も役に立つ。強めの光の方が僅かな隙間も発見しやすい。
画像で分かりやすいようにバタフライバルブを若干大きめに開けているが、全閉時にこのような光の筋が漏れてくるようならバタフライの密閉不良と判断できる。バルブ下部の小さな孔はアイドリング時用のポート。バタフライ全閉でもエンジンはこの孔を通して空気を吸い込んでいる。
スロットルシャフト根元部分はバタフライ上下に比べて空気の流速が遅くカーボンが付着しやすい。このカーボンが摩擦材になりバタフライ左右の摩耗が促進されることもあるので、キャブレターを洗浄する際は泡タイプのキャブクリーナーなどで汚れを除去しておく。
空気を吸おうとするエンジンにとっては、アイドリング時のバタフライバルブは空気を吸わせまいとする邪魔な存在となります。それだけにバタフライの役割は重要ですが、機械的な部品だけに経年劣化による摩耗は避けられません。
スロットルバタフライは円盤状のバタフライ本体と、バタフライを開閉させるスロットルシャフトから成り立っています。4連キャブの場合は隣り合うキャブのシャフトはリンクで繋がり開閉動作がシンクロしてケーブルで操作されます。負圧式キャブはバタフライが全閉になる際はベンチュリーの内壁に全周がピッタリと密着するように設計されています。
そしてベンチュリー内壁とバタフライが密着するということは、ここで摩擦や摩耗が発生します。スロットルを開けずに走行することは不可能なので、バタフライが摩耗するのは致し方ありません。しかし隙間が空くと吸い込まれる空気が管理できなくなり、エンジンが変調する可能性が出てきます。4気筒エンジンだと4つのシリンダーが吸い込む空気の量がまちまちになってしまうため、パイロットスクリューや同調調整だけではキャブが揃わない場合があります。
ベンチュリーとバタフライの隙間を確認するのは簡単です。エンジンから取り外したキャブからバキュームピストンを引き抜き、光にかざしながらベンチュリーを覗いてバタフライ外周から漏れる量を目視するのです。摩耗しがちなのはスロットルシャフトが貫通する両端部分で、軸方向に動かすとガタが確認できる場合もあります。
スロットル全閉で空気が吸われてしまうと、スロットルストップスクリューを限界まで緩めてもアイドリング回転が下がらなかったり、スロットルを戻した時のエンジン回転の落ちが悪くなることがあります。4連キャブの場合はパイロットスクリューの戻し回転数がバラバラになり、バキュームゲージで同調を合わせてもそこからスロットルを開いた時のエンジン回転の上昇にバラツキが出ることがあります。すべてはバタフライバルブの動きとは別に、隙間から空気が入り込むことが原因です。先に書いたとおり、エンジンは常にできるだけ多くの空気を吸いたくて仕方ないからです。
アイドリングやスロットル低回度領域のセッティングでは、パイロットスクリュー調整や同調調整などがキモになりますが、実はバタフライバルブとベンチュリーの隙間は負圧式キャブレターにとってそれ以上に重要なのが根源的な要素となります。しかし残念なことにバタフライバルブは非分解パーツなので、キャブレターのオーバーホール業者や一部の専門ショップを除き、一般のユーザーが交換用のバタフライバルブを手に入れることは困難です。
- ポイント1・バタフライバルブが摩耗してベンチュリーとの間に隙間が生じるとエンジン不調の原因になる
- ポイント2・バタフライとベンチュリーの隙間確認は簡単にできるが、隙間が多くても交換するための純正部品がない
ビスを緩めてバタフライバルブとベンチュリーの据わりを調整
ビスの裏側は緩み止めのポンチが打ってあるし、据わりを良くするだけなら抜き取る必要はない。緩めるのはバタフライが自由に動く1/4~1/2回転ぐらいで良い。ポンチの強度によってまったく緩まない場合は、開いたビスの先端をリューターなどで削ってから作業する。またドライバーを押して回す際にシャフトに余計な力を加えないよう、ベンチュリーの反対側から棒などを差し込んでシャフトを押さえておくと良い。
バタフライバルブが僅かに動く程度ビスを緩めたら、スロットルシャフトでバルブを開閉させてベンチュリーとの当たり位置を調整する。バルブの角度を変えすぎるとベンチュリーに食い込んでしまうので、調整は僅かずつ慎重に。何度か開閉するうちに、バルブが収まりの良い位置に落ち着き、するとベンチュリーに全周で当たる手応えがある。据わりが良い場所でバルブを閉じたら、最初のように光にかざして漏れを確認する。この方法が100%通用するわけではないが、当たり位置が改善して隙間が狭くなる場合が多い。
そこで次善の策として行われるのが、円筒形のベンチュリーと円盤状のバタフライバルブの位置関係の調整です。スロットルシャフトに対してビスで固定されているバタフライを僅かに動かして、ベンチュリーに対して均等に当たるようにするのです。交換のためのバタフライが入手できず、位置調整だけで必ずしもベストな結果が得られるとは限りませんが、両者の据わりが改善される場合があります。
バタフライバルブを固定しているビスはサイズが小さいものの、使用中に絶対に緩んではいけない部分なので、裏側に回り止めのポンチが打たれていることがあります。もしバルブを外すのならポンチ部分を削り落とす必要がありますが、バルブが動く程度に緩めるだけなら、削らず緩めることができるかもしれません。ただビスを緩める際にドライバーを強く押しつけすぎると、スロットルシャフトに余計な力が加わることになるので、ベンチュリーの反対側から丸棒などでシャフトを支えながらビスを緩めましょう。またビスの緩め量はバタフライが動く最小限にとどめておきます。フラフラに動いてしまうと、据わりの良いポジションを決める際に逆に位置が決めづらくなります。
ビスを緩めてバタフライがスロットルシャフト上で少し自由に動くようになったら、スロットルシャフトを軽く全閉方向に動かしてバタフライをベンチュリーに押し当てます。するとバタフライがベンチュリーと当たりの良い場所に勝手に動きます。閉じ方向に力を加えすぎるとバタフライが食い込むので注意が必要ですが、シャフトを左右にずらしながらバタフライを円周方向に動かすことで、隙間が小さくなれば好都合です。
キャブの状態によってはこの方法では状況が改善しない場合もありますが、スロットル全閉時のバタフライバルブの据わりが良くなることでアイドリングや低回度のフィーリングが良くなれば、愛車の乗りやすさはきっとアップするはずです。
キャブレター修理専門業者の中には、独自にバタフライバルブを製造してオーバーホール時に活用してるところもある。この場合はスロットルシャフトからバルブを外してしまっても良い。とはいえベンチュリー側が摩耗していたら万事休すだ。
バタフライバルブはキャブレターごとに仕様が異なるので、すべての負圧キャブに対応できるわけではない。純正部品には存在しないこうしたパーツを製造できるのは、修理依頼の多い機種がある程度限られているから。
- ポイント1・バタフライバルブを固定するビスを緩めてベンチュリーとの隙間を調整できる
- ポイント2・必ず隙間がなくなるわけではないが、全閉時のバルブ調整はアイドリングの安定につながることが期待できる
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