
エアクリーナーを交換すると吸気抵抗が減るので吸気効率が上がってパワーアップ!
社外エアクリーナーの紹介などで盛んに語られるこの話、皆さんも1度くらいは目にした事があるのでは?
だったら、エアクリーナーを全部取り去ってしまえば吸入抵抗ゼロなのでフルパワーになる!
レーサーだってエアクリーナーなんか無いだろ?
そう考えた事はありませんか?
しかーし!
ホントにそうなの??
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
いかにもパワーアップしそうな素朴な疑問を解説します。
目次
そもそもエアクリーナーが無いのは違法
公道を走行する車両は「道路運送車両法」によって守らねばならない保安基準が定められています。
その中には「ばい煙、悪臭のあるガス、有害なガス等の発散防止装置」という項目があり、『ブローバイ・ガス還元装置』や『エア・クリーナー・エレメントの状態』として基準が明記されています。
エアクリーナーの形態には触れられていません。
だから乾式フィルターでも湿式フィルターでもビスカス式(濾紙にオイルを染み込ませてオイルにゴミを吸着させる方式)でも構いませんが、何らかのエアクリーナーは必要です。
また、エアクリーナー周辺にはブローバイガス還元装置が同居しているのが普通なので、エアボックスを取り外してブローバイガスを大気開放するのも違法です。
排出されたブローバイガスがエンジンに再び吸入される仕組みになっていなければアウト。
つまり、エアクリーナーを取り去るのは基本的に違法です。
ですので、以下の話は「もしもエアクリーナーを取り外すとどうなるか?」という興味本位の読み物としてお読みください。
大昔に流行った事がある『ファンネル仕様』
冒頭に書いた「エアクリーナーを交換すると吸気抵抗が減るので吸気効率が上がってパワーアップ!」ですが、まだまだカスタム文化が大雑把だった頃にエアクリーナー撤去が流行った事があります。
エアクリーナーどころかエアボックスも取り外し、キャブレター(当時はインジェクションはまだ無い)のファンネルは剥き出し。
ブローバイガスはそのまま車体後部から大気開放するカスタムでした。
これは当時のレース車両、特に人気の高かった鈴鹿8時間耐久ロードレースに出場している車両がファンネル仕様だった影響もあります。
バイク乗りがその時々のレース車両に憧れて同じようなカスタムをしたがるのは同じですね。
もちろん当時でもこれは違法改造。
車検なんか絶対通りません。
しかし工夫すれば合法化も可能で、エアファンネルの先にパワーフィルターを装着し、ブローバイガスの出口をその中に持って来る合法カスタムも大流行しました。
現在でも旧車カスタムなどで見る事ができますが、アレは合法的に当時のレース車両を再現しているというワケです。
大昔は効果のある手法だった
そもそも大昔のレース車両が何故エアクリーナーを取り外していたかと言うと、そのままズバリ「吸気抵抗を減らして吸気効率を上げてパワーアップする」のが目的でした。
4輪車の場合も全く同じで、大昔のレース車両ではエアファンネル剥き出しなのが普通でした。
吸入抵抗を減らす事は確実に効果があったのです。
何馬力パワーアップするかは様々な要素があるので一概に言えませんが、僅かでもパワーアップするなら絶対やるのがレース。
当然ながら全員エアクリーナー無しのファンネル仕様でした。
現代ではほぼ無意味、むしろデメリットしか無い
ところが、現代のレース車両を見れば一目瞭然ですがファンネル剥き出しのレース車両なんか1台もありません。
現代でも旧車レースでは昔ながらのファンネル仕様が主流ですが、最新車両を使ったガチンコのレースでは本気度が上がるほどファンネル丸見えなんて事は無くなります。
これは技術が進んだことで『エアボックスが有る方がパワーを出せる』という段階に進化したからです。
(後ほど解説します)
レース車両の場合、エアボックスの中に市販車のような(あるいはアフターパーツのパワーフィルターような)エアクリーナーエレメントはありませんが、粗い金属メッシュのエアクリーナーを持つ車両は存在します。
公道用と違うのは法律で決められているから装着しているのではなく、転倒時にグラベル(コース外にある減速用の砂場)の石が入らないようにして再スタートの確率を高めるため。
レースですらエアクリーナーを装着する場合もあるのに、公道でエアクリーナーを外す意味など全くありません。
エアボックスには補器類が装着されていたり、エアボックス内で吸気温度や吸気圧をセンサーで感知して燃料コントロールを制御していたりもするので、エアボックスごと取り外すなど論外です。
燃焼室内にゴミが入る強烈なデメリットしかありません。
だが効果がある場合もある
では社外製品の「吸入抵抗が少ないエアフィルター」が無意味なのかというと、そんな事はありません。
レース車両が出来るだけ吸気抵抗を減らすために粗いフィルターを使っているように、公道用車両でも吸気抵抗を減らす事でパワーアップの可能性はあります。
「パワーアップします」ではなく「パワーアップする可能性があります」とお茶を濁しているのは、車種によって大きく効果の出方が異なるからです。
純正フィルター互換型の場合、大多数の車両でパワーアップ効果はほとんど無いと思います。
(メンテナンス性向上や、吸気音変化による気分高揚効果の効果はある)
しかし大排気量車、特に1気筒あたりの排気量が大きい単気筒や2気筒ではエアクリーナー交換による吸気抵抗低減がハッキリと性能向上として体感できる場合もあります。
最もわかりやすいと思われるのはハーレーです。
非常に大きな1気筒あたりの排気量と、その排気量のわりに容積の小さなエアクリーナーボックスなので、これを社外フィルター(特にパワーフィルターのような形状の物)に交換すると明確に変化が体感できます。
これは「エアボックスがある事によるパワーアップ効果」がそこまで重視されておらず、純粋に吸入抵抗減少の効果が得られるからでしょう。
同じ理由でキャブレターを使っているような古い車両でも効果が期待できます。
また、高度に吸気状態をモニタリングしている最新型では、吸入抵抗減少によって多く吸入した空気に対して燃料を増量するような制御が入る場合があり、この場合もパワーアップ効果が期待できます。
社外フィルターでパワーアップ効果のある車両の場合、エアクリーナーのフィルターを外してしまうのが最も吸気抵抗が少なくなるので最もパワーアップが期待できそうです。
しかし物事には限度があり、燃料増量できる範囲を超えてしまえばデメリットの方が大きくなります。
そして普通はそうなります。
(エラーと判断されて逆に回らなくなる可能性もあります)
また、キャブレター車では自動的に燃料を増量したりはしないので、吸気抵抗低減に合わせてキャブレターの再セッティングが必要になります。
しかし純正の負圧式キャブレターのセッティング変更は非常に困難で、エアクリーナー有りの純正セッティングを超えるのは至難の業です。
よく聞く「エアクリーナー交換したら低速トルクが無くなった」というのは、キャブレター車の場合はセッティング変更していないからでしょう。
インジェクション車なら頭の良いコンピューターが「何かがおかしい!」と判断してパワーを絞っている可能性もあります。
エアクリーナーボックスがある方がパワーが出る
上で「エアクリーナーボックスがある方がパワーが出る」と書きましたが、これは何故でしょう?
単純に考えると最も吸気抵抗の少ないのはエアフィルターもエアボックスも無い大気開放されたファンネル剥き出し仕様のように思えますが……。
これは『慣性過給』という技術のためです。
非常に難しいのでザックリ概要を説明すると……、
エンジンは連続して吸気し続けているわけではなく、脈動するように吸気しています。
吸気バルブが開いて吸気の流れが強くなった直後に吸気バルブは閉じて流れが弱くなりますが、吸入された空気には慣性があるので直ぐに流れを弱める事ができずエンジン内に流れ込もうとしてしまいます。
この時、別の気筒で吸気バルブを開くとその気筒にはまるで押し込まれるように吸気(つまり過給)する事が出来ます。
集合管で排気脈動を利用して排気を引き抜く原理の逆パターンです。
相互に吸気脈動が利用できない単気筒であっても、エアフィルターの入っているエアボックスの容量を適正化する事で『次に吸気バルブが開いたタイミングで波のように脈動している空気の流れの強い流れを当てる』事が可能になります。
非常に高度な設計が必要ですが、最新型であれば慣性過給は十分考慮されています。
もちろんレース用の車両でも。
motoGPを見ると全車が非常に巨大なエアボックスを装備していますが、アレはラム圧過給のためではなく慣性過給のためだと予想しています。
現代の車両にとってエアボックス(エアクリーナーボックス)は大事なパワーアップパーツなのです。
4輪車のチューニングではエアクリーナー剥き出しだが?
4輪車のチューニングではバイクのパワーフィルターに似たキノコ型のエアクリーナーが剥き出しになっている場合があります。
「ほらみろ!やっぱりエアボックスなんか無い方がパワーが出るんじゃないか!」と言いたいところですが違います。
4輪車でキノコ型エアクリーナーが生えているのはターボエンジンのはず。
ターボエンジンでは慣性加給もへったくれも無く、ターボチャージャー(=過給機)によって強制的にエンジン内にガンガン空気を送り込んでおり、エンジンが吸える吸気量以上の空気をムリヤリ燃焼室内に押し込んでいます。
だからエアクリーナーは純粋に空気中のゴミが入るのを防げれば良い「だけ」なのです。
自然吸気のバイクではターボエンジンの4輪車と同じ理論は当てはまりません。
まとめ
- 1:ファンネル仕様+ブローバイ大気開放は違法
- 2:昔の車両ではエアクリーナーを外す効果は有った
- 3:現代の車両ではエアクリーナーを外す効果は無い(あるいは逆効果)
- 4:エアクリーナーを外すだけではパワーアップしない
- 5:現代のエアボックスには慣性過給という重要な役割がある
- 6:極一部の車両ではパワーアップする場合もある
いかがでしたでしょうか。
エアクリーナーを外せばパワーアップするほど単純な話ではない事がおわかりいただけたでしょうか?
違法覚悟で無茶な事をしてもほぼ無意味ですので、社外製品のエアフィルターに交換して吸気音を楽しむのが正解のような気がします。
そこまでしない場合も、エアクリーナーを掃除した方が遥かにパワーアップに効果的だと思いますよ。
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