走行中はともかく、信号待ちやアイドリング時に灯火類が弱々しいのが絶版原付モデルの6V電装です。そんな旧式な電装系を現行車と同様の12V仕様に変更するのはすべての6V車オーナーの夢!?ではないでしょうか。前回は王道であるチャージコイルの巻き直しを解説しましたが、ここでは6Vの純正コイルが「奇跡仕様」だった例を紹介しましょう。

電気が苦手でも何はともあれ観察が大事


スクータータイプのパッソルが登場する以前、買い物や通学の足として人気があったのがファミリーバイク。ヤマハチャピイは運転が容易なオートマチックミッションで登場し、その後ハンドクラッチ仕様と遠心クラッチ仕様が追加された。エンジンは50ccと80ccの2本立てで、1973年から1980年まで販売されるロングセラーとなった。


高速で回転するフライホイールの内面に貼り付けられた磁石がチャージコイルとソースコイルの外側を回ることで、電磁誘導により交流が発電される。ソースコイルが発電した電気はコンタクトブレーカーで断続される際に自己誘導作用で昇圧されてイグニッションコイルに送られる。チャージコイルとライティングコイルはそれぞれバッテリー充電とヘッドライト&テールランプ点灯用の電源となる。

バイク好きのサンデーメカニックの中には「機械いじりは好きだけど電気は苦手」という人が結構いるようです。ボルトとナットで固定されている部品の着脱は作業を繰り返すことで慣れてくる面がありますが、電気部品は配線を見るだけで混乱してダメと諦めてしまうのかもしれません。

確かにすべての電気部品を原理から正しく理解しようとすれば、それなりに勉強しなくてはなりません。しかしポイント点火のコンタクトブレーカーの繋ぎ方や点火タイミングの合わせ方、ステーターコイルの発電電圧とレギュレートレクチファイアを通った後の制御電圧を測定して比較するなど、実際に目の前の愛車で起こっている電気の働きをいくつか知るだけで、それぞれの部品の働きや、何をどうすれば良いのかが分かってくるものです。

絶版原付のオーナーにとって、旧車の主流である6Vの12V化は共通した希望です。バッテリーの電圧が2倍になれば、半分の電流で同じ仕事ができるということは、以前の投稿で説明しました。

12Vと6Vを比較した時、6V車は電圧が半分でも電流を多く流す必要があり、電装系を安定させるにはバッテリーのコンディションが重要になります。もちろん12Vでもバッテリーの役目は大きいですが、充電系をトータルで見た時に6V車よりも安定性が高いのは事実です。

バッテリーが6Vでも12Vでも、チャージコイルの周囲を極性の異なる磁石が回転することで発電が行われます。現行車のコイルはフライホイールの内側に放射状に何本も広がっていますが、絶版原付のコイルは棒状のものが2本、あるいは3本並んでいます。このうち充電の仕事をするのはチャージコイルで、ここにはヘッドライトとテールランプを点灯させるライティングコイルが抱き合わせになっている場合が多いです。

電気が苦手でも、フライホイールを外して内部を観察すると、2組のコイルが並んでいることは分かるでしょう。このうち一方は点火用のソースコイルで、ポイント車ならコンタクトブレーカーに、CDI車ならピックアップコイルにつながっています。ですからもう一方が充電系に関係するコイルということになります。ここで紹介する1970年代のヤマハ製ファミリーバイク、チャピィもそのようになっています。

点火用のソースコイルとチャージコイル(ライティングコイルと一体式)を見分けるには、コイルに接続された配線を観察します。多くの場合、ソースコイルは銅線が細く密に巻かれておりコイルから取り出される配線は2本、チャージコイルは銅線が太めで複数の配線がつながっているのが判断のポイントです。複数の配線というのは、レクチファイアを通してバッテリーにつながる充電系と、ヘッドライトスイッチにつながる灯火系です。

チャージコイルが発電する電圧は銅線の巻き数に比例するので、現状のチャージコイルをほどきながら巻き数をカウントして、2倍の回数を巻けば発電電圧も2倍になります。この時コイルの外形が太くなりすぎると、その上にかぶせるフライホイールと干渉する可能性があるので注意が必要です。

POINT

  • ポイント1・部品の構成がシンプルな絶版車や旧車は、電気系が苦手なライダーでも機能が想像しやすい
  • ポイント2・点火系のコイルと充電&灯火系コイルの2系統がある場合、コイルの銅線が細く巻き数が多いのが点火系で、銅線が太く巻き数が少ないのが充電系となる

チャージコイルを半分しか使っていないことが判明


ヤマハチャピィ(1978年式)のチャージコイル。他のチャピィと比較したことがないので全年式がこの仕様なのか、たまたまこの1台がこうなのかは分からないが、通常の回路とは別にコアの端部に未使用の配線があった。これを使うと「緑/赤」と「黒」よりもコイルの巻き数が増えるので、増えた分だけ発生電圧が上昇する。灯火系の「黄」も巻き数が増えるので、ライトに流れる電圧もアップするはず。

ここで取り上げるチャピィの充電系は、チャージコイルで交流発電された電流をレクチファイアで整流してバッテリーを充電するという、1970年代の原付6V車としては標準的な構成となっています。そしてライティングコイルで発電された灯火用の電源は整流されることなく交流のまま使われるのも一般的なパターンです。ちなみにライティングコイルを交流のまま使うのは12V化された原付モデル、例えばホンダモンキーやエイプでも同様です。ただしそれらはレギュレーターで最大電圧を制御された交流を使っています。

ひとつの鉄芯(コア)に2種類の働きをするコイルを巻くことで、コイルから取り出される配線は一般的に充電用、灯火用、車体アースの3本となります。チャピィのコイルを観察すると、車体側のハーネス色が「緑/赤」が充電用、「黄」が灯火用、「黒」がアースになっています。ところがこのチャピィのチャージコイルにはもう一本、発電にも灯火にも使われていない配線がありました。

すべての原付6V車に当てはまるわけではなく、むしろレアな事例で理由は分かりませんが、この未使用の配線を使うことで既存の「黒」のアースよりもコイルの巻き数を稼ぐことができる状態になっていました。

POINT

  • ポイント1・充電とライト用の電源を取り出すチャージコイルは、1つのコイルに複数の配線がつながっている
  • ポイント2・機種によっては、ごく稀にコイルの配線のつなぎ替えで複数の電圧が取り出せる場合がある

コイルの配線をつなぎ替えただけで12V仕様に変身!!


コイル部分のサブハーネスを車体のメインハーネスにつなぐカプラーを外して、チャージコイル配線のつなぎ替えによる電圧の変化を測定する。それぞれの配線色がコイルのどこにつながっているかを観察しておけば、配線図とにらめっこせずに現物だけで作業できる。つまり電気に対する苦手意識は捨てて良いということだ。


チャージコイルから立ち上がった「緑/赤」はレクチファイアを通過していないので、交流モードで電圧測定を行う。本来は6V電装車だが、つなぎ替えだけで12Vを発生している。これはアイドリング状態なので、エンジン回転数を上げればさらに上昇する。当時、なぜこの能力のあるコイルを活用しなかったのだろうか?


アイドリング状態のライティングコイル。チャージコイルより巻き数が少ない分電圧が低いが、それでも8V以上発電している。回転数を上げれば10V以上になるので、12V仕様のヘッドライトバルブは充分に使える。


ホンダモンキーを筆頭に小排気量車で使われている12Vレギュレートレクチファイア。原付クラスで一般的な、チャージコイルが1本だけの単相交流発電に対応している。中型車以上の三相交流発電のオルタネーターの場合は、三相交流用のレギュレートレクチファイアを使用する。チャージコイルの配線を白につなぐと、交流を直流に変換して電圧を12Vにしたうえで赤から出力する。赤はバッテリーに接続。ライティングコイルの配線を黄につなぐと、交流のまま電圧を12Vに制御するので、ヘッドライトの配線に割り込ませる。黒は車体にアースすることで機能する。


レギュレートレクチファイアを結線して12Vバッテリーを搭載、エンジンを始動して電圧を測定すると14V半ばで打ち止めとなり、正しく機能していることが確認できた。この時、充電電流は1.2A程度だったので、原付クラスのバッテリーの充電には充分の発電能力がある。

交流で点灯するヘッドライトはバッテリーから電源を取っていないので、エンジン回転数によって明るさが変化する。アイドリング回転では6V程度なので12V電球にとって暗いが、走行中の回転数では10V以上となり夜間でも昼間でも実用的な明るさとなった。交流点灯のまま電圧を上げたいなら、ライティングコイルのみ巻き直すという手段もあり、以前紹介したように灯火類もバッテリーで点灯させるという手もある。難しく考えると混乱してしまう電気いじりも、アナログ時代の小排気量車なら意外となんとかなることも多い。

そこで車体側の「黒」をチャージコイルの端で余っていた配線につなぎ替えてみると、アイドリング回転数から交流12Vを発電することが判明したのです。チャージコイルと一体化しているライティングコイルは6V弱程度なので12V用のヘッドライトバルブには不足気味だが、スロットルを開ければ10V以上まで上がるので12Vバルブでも充分に明るくなります。

コイルを巻き直すことなく12Vが得られることが分かれば、車体側もそれに合わせたモディファイが必要になります。バッテリーやウインカーリレー、ヘッドライトやウインカーの電球を12V化するとともに、レギュレートレクチファイアも追加します。6Vの純正回路では交流を直流化するレクチファイアはありますが、充電電圧をコントロールするレギュレーターがありません。これはチャージコイルの巻き数によって最大発生電圧を決めつつ、6Vのバッテリー自体をレギュレーターとして使っているためで、排気量の小さい原付クラスならではの部品構成です。

6Vのバッテリーを充電するには6V以上の電圧が必要なのは当然ですが、過剰に電圧が高ければバッテリーが破損してしまいます。それを防ぐためにレギュレーターが設置されているのですが、そもそもバッテリーを傷めるほど充電電圧が上がらなければ問題ないわけです。

しかしここで話を振り出しに戻せば、もしこのチャピィにレクチファイアだけでなくレギュレーターが付いていれば、アイドリングから6V以上を発生できるチャージコイルを使用できるのにとパーツリストを確認したところ、点火系をポイントからCDIに変更した1979年式ではボルテージレギュレーターが装備され、さらに翌年には6V仕様ながら充電量をアップする変更が加えられていました。つまり6V電装の中でもアップデートが行われていたわけです(少なくともヤマハチャピィにおいては)。1980年代後半に登場したアメリカンタイプのホンダジャズ50も電装系は6Vでしたが、充電系はレギュレートレクチファイアを採用していました。

そうした改善が施される前のモデルでも、配線のつなぎ替えだけで12V仕様に変更できることが分かったこのモデルで追加するレギュレートレクチファイアは、当然12V仕様の部品となります。具体的には12V仕様のモンキーを初めとしたホンダ各車で使われており、汎用部品としても販売されている4ピンタイプを使います。

このレギュレートレクチファイアとチャピィのチャージコイルの配線をつなぐには、チャージコイルの「緑/赤」をレギュレートレクチファイアの「白」に、チャージコイルの「黄」を「黄」に、レギュレートレクチファイアの「赤」をバッテリーに、「黒」を車体アースします。たったこれだけの配線で、バッテリーの充電電圧は最大14Vで制御され、ヘッドライトとテールランプは交流12Vで点灯するようになります。

どんな6V車でもつなぎ替えで12V化できればこんなに楽なことはありませんが、残念ながら大半の機種ではコイルの巻き直しが必要です。ただ、チャージコイルとライティングコイルを同時に巻き直して充電系は直流、灯火系は交流で使用するなら汎用のレギュレートレクチファイアが使用できるため、車体側の配線は大幅に変更することなく12Vできるメリットはあります。

POINT

  • ポイント1・チャージコイル配線のつなぎ替えで12V化できる場合はバッテリーや電球に加えてレギュレートレクチファイアも12V化が必要
  • ポイント2・低回転からバッテリーが充電できるようになれば信号待ちでも灯火類が安定するので安全性が向上する

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