現在では原付から大型車まですべてのバイクの電装系は12V仕様ですが、1980年代半ばまでの原付クラスには6V仕様の機種も存在しました。ヘッドライトが暗い、ウインカーが安定しないなど灯火系に不安のある6V車をアップグレードする効果的な手段が電装の12V化です。ここでは充電系コイルの役割を理解し、巻き直しによって発電電圧を変更する手段を解説します。
6V車は電圧は低いが大きな電流が必要
このバイク(ヤマハポッケ)のコイルベースには上に点火用のソースコイル、下にチャージコイルの2個がセットされており、バッテリーを充電するチャージコイルとヘッドライト、テールランプを点灯するライティングコイルは一体化されている。点火はコンタクトポイントからCDIに進化しているが電装系は6Vのままだ。ここからチャージコイルを切り離す。
黄色い2本の線がライティングコイルで、右から出ている細い線がチャージコイル。チャージコイルの一端はコアにハンダ付けされて車体にアースされている。
スポーツモデル、ファミリーモデル、スクーターなど機種を問わず、1980年代までの原付バイクではキック始動のみの車両が当たり前のように存在しました。それらに採用されていたのが6V電装です。セルモーターを搭載するには12Vバッテリーが必要ですが、セルが無いなら6Vの方がバッテリーはコンパクトだし、発電・充電系の部品構成もシンプルなので、廉価で販売することも重要だった原付モデルには適していたのでしょう。
6V仕様のバイクに現代の感覚で乗ると、とにかく電装系に頼りなさを感じます。走行中はさておき、信号待ちで止まっている時にヘッドライトが暗い、ウインカーが弱々しくてついアイドリング回転を上げたりスロットルを煽りたくなります。絶版車人気は大型車だけでなく原付クラスでも上昇しているので、最近の機種から絶版原付に乗り換える、あるいは増車するライダーは少なくありませんが、皆一様に灯火類の不安を口にします。
なぜ6V車の灯火系は12Vに比べて弱々しいのか。それは電圧(V)×電流(A)=電力(W)の関係性で理解できます。例えば消費電力36Wのヘッドライトバルブを点灯させるために、12Vバッテリーでは3Aの電流が流れます。6Vバッテリーなら6Aです。同じ電力を得ようとすれば、6Vバッテリーは12Vの2倍の電流が必要になるということです。
これらをバケツと水に置き換えて考えると、バケツから流れ出る水の圧力=電圧の大きさは、バケツの高さによって変化します。一方、バケツの高さが同じでも、バケツを傾ける量を変えると水が流れ出す量=電流が変化します。これを先のヘッドライトに当てはめると、6V電装車はバケツの高さは半分ですが2倍の水を流さないと12Vと同じ仕事ができないことになります。
現行車の12Vも旧車の6Vも、エンジンの回転によりACジェネレーターで発電した交流を直流に整流してバッテリーを充電しますが、6V車のジェネレーターの発電電流を12V車の2倍にしないと収支が合わないことになります。逆に考えれば、6V車の発電電圧を倍の12Vにすれば、電流は半分でも12V車と同じ仕事ができることになります。すべてが当たり前の話ですが、これが12V化によるメリットになります。
- ポイント1・キック始動オンリーの1980年代までの原付バイクでは6V電装が一般的
- ポイント2・同じ仕事をさせる際、12Vと比べて電圧は半分だが電流は2倍必要な6V電装は脆弱になりがち
チャージコイルの発電電圧は巻き数に比例する
銅線を切らないように注意しながら、絶縁用のワニスを割りつつコイルをほぐす。この時、巻き数を忘れないように数えていくのが重要。チャージコイルの途中でライティングコイルが重なって巻かれている部分が出てきたら、それも合わせてほぐしていく。今回はライティングコイルは巻き直さないが、ライトを交流で点灯するする場合は、コイルを分解する前にチャージコイルと同様に発電電圧を測定しておく。
チャージコイルとライティングコイルをほぐすと、各々独立した銅線が巻かれていることが分かる。187回巻かれていたチャージコイルは6Vなのでこの程度の巻き数で済んでいるが、ソースコイル用の銅線はこれよりはるかに細くて巻き数はずっと多い。
中型以上のバイクは、すべての電装部品をバッテリーから供給される電力で作動させているのに対して、原付クラスの電気系には若干の違いがあります。具体的には、スパークプラグに点火火花を飛ばす電気は点火コイルで発電し、バッテリーを充電する電気はACジェネレーターのチャージコイルで発電し、ヘッドライトとテールランプはライティングコイルで発電した電気で点灯します。機種によっては異なる仕組みの物もありますが、ここでは一般的に採用されている方式で説明を行います。
6V車の12V化にとって重要なのはチャージコイルとライティングコイルです。機種によって異なりますが、この2種類のコイルはひとつのコア(芯)を共用して細い銅線が巻かれていることが多いです。チャージコイルで発電した交流は、整流器であるレクチファイアで直流化した後にバッテリーを充電し、ここからウインカーやホーンなどに電力を供給します。ライティングコイルで発電した電力は交流のまま、電圧だけを制御してヘッドライトとテールランプに流しています。
この構造は6Vも12Vも似たような物なので、バッテリーや電球類を12仕様に変更した上で12V用のレギュレートレクチファイアだけを取り付けて12V化する方法もあります。なぜそんなことができるかというと、チャージコイルの発電電圧はエンジン回転数に比例するため、エンジン回転次第で6V用のチャージコイルで12V以上の発電が可能な機種もあるからです。ただし元々は6V用コイルなので回転数が低ければ電圧も低く、12Vバッテリーを充電することはできません。
そこで常時安定して12Vバッテリーを充電するために有効なのがコイルの巻き直しです。原付クラスのコイルには点火コイル、チャージコイル、ライティングコイルの3種類があることは先に触れた通りですが、12V化に当たってはチャージコイルとライティングコイルを加工します。コイルの発生電圧は銅線の巻き数に比例するので、単純に6Vコイルの倍の回数を巻けば発生電圧は12Vになります。
ここでライティングコイルの処遇によって具体的な作業工程が分かれます。12V仕様の原付モデルで一般的な、ヘッドライトとテールランプは交流点灯にするのであれば、チャージコイルとライティングコイルの両方を巻き直します。これに対して中型車以上の機種と同じように、ヘッドライトもテールランプもバッテリーの電気で点灯させるのなら、ライティングコイルは不要になります。12Vバッテリーを搭載する際は12V仕様のレギュレートレクチファイアが必要で、その際に車体側の電気回路も一部手直しすることになるので、ライティングコイルから直接ヘッドライトにつながっていた回路をバッテリーから流すように変更します。
発電したすべての電気でバッテリーを充電するとなれば、チャージコイルの巻き数を数えて、その倍の量を巻けば発電量が倍になります。ただ、分解前に6Vコイルの発電能力を把握しておくことで、より具体的な巻き数を知ることができます。ここで紹介するバイクの場合、アイドリングの1500回転で7.3Vの交流電圧を発電していました。コアに巻かれたコイルを1巻ずつカウントしながらほぐしていくと187巻でした。
この数値を元に、このコイル1巻あたりの発電電圧を求めると、7.3V÷187巻き=0.039V/ひと巻となり、0.039Vであることが分かりました。
次に電圧を12Vとして必要な巻き数を計算すると、12V÷0.039V/ひと巻=307.9巻となり、308巻以上巻けば発生電圧が12Vになると分かりました。
12Vバッテリーを充電するには12V以上の電圧が必要なので、例えば電圧を15Vにするなら384巻すれば条件を満足できるわけです。
- ポイント1・ACジェネレーターの発電量はチャージコイルの巻き数に比例する
- ポイント2・元のチャージコイルの発電電圧とコイルの巻き数を知ることで、12V化で必要な巻き数を求められる
フライホイールに干渉しないよう線径を細くする
巻き数を倍に増やすため、元々0.84mmだった銅線を0.6mmにサイズダウン。電圧が倍になる分、電流値は半分で済むため細いポリウレタン銅線が使えるようになる。コイルをコンパクトにまとめるために細径化は有効だ。
チャージコイルの両端を新たに設置する12Vレギュレートレクチファイアに繋ぐため、絶縁チューブに通してコアに配置する。コアに対して直角に引き出された銅線を隙間ができないように巻き付けていく。
あとはただひたすら無心で巻くのみ。6Vで187回だったものを380回以上巻くので気が遠くなるので、何回か巻くごとにマーカーペンなどで銅線にチェックを入れると忘れ防止になる。コアの4角をしっかり折り曲げることで巻きの密度が高くなる。巻きが甘いと銅線がスカスカになり、外径も太くなってしまう。
巻き数は倍以上になったが、線径が細いおかげでコイルが太らずに済んだ。発電電圧を上げたいのならさらに巻き数を増やせば良いが、充電電圧はレギュレートレクチファイアで制御されるため余剰電圧が増えるだけで意味がない。ライティングコイルを巻かず、単相交流用レギュレートレクチファイアに接続するため、コイルの巻き直し自体はわりと単純な作業となる。
コイルに巻く銅線は、かつてはエナメルワニスで絶縁したエナメル線でしたが、現在では柔軟性に富み割れづらいポリウレタンを塗布した銅線が一般的になっています。UEW線と呼ばれるポリウレタン銅線を6Vコイル時代の倍の回数で巻けば12Vのチャージコイルになるわけですが、巻き数を倍増してコイルが太くなるとフライホイール内側のマグネットと干渉する可能性が出てくるので注意が必要です。
これを避けるにはコイル線径を細くすることが有効です。先に説明しましたが、同じ仕事をする時に電圧が倍になれば、電流は半分で済みます。つまり銅線の断面積は半分になっても良いわけです。6Vコイルのエナメル線の直径は0.84mmですが、これを0.6mmにしてコイルのボリュームを抑えます。この直径差で断面積はほぼ半分となります。またチャージコイルの上から二重巻になっているライティングコイルを廃止することも、コイルの太さを抑制するために有効です。
新たにポリウレタン銅線を巻く時は、ほぐした純正コイルと同様に銅線同士に隙間を空けず密着させて、ひと巻ずつ数えながら巻いていきます。これはただひたすら地道な作業なので、途中で飽きずに集中力を切らさないことが肝要です。計算で求めた必要巻数まで巻いた時に、元のコイルよりも太っていなければさらに巻き足してもかまいませんが、欲張り過ぎてフライホイール内側に接触しないように注意します。
また、チャージコイルから発生する電圧が12Vになることから、6V時代の電球やウインカーリレー、レギュレーターなどは使えなくなります。今回のようにライティングコイルを廃止してヘッドライトとテールランプもバッテリーで点灯させる場合、例えばキャブレター時代の12Vモンキー12V用のレギュレートレクチファイアでは、ヘッドライトとテールランプを点灯させる交流発電自体が無くなっているため使えません。ここではカワサキGPZ250用のレギュレートレクチファイアを流用しましたが、中型車以上と同等の回路に切り替える必要があります。
12V化しても車体側の配線まで変更できる自信がないという場合は、6Vコイルと同様にチャージコイルの上にライティングコイルを巻くことでヘッドライトとテールランプの交流点灯を継続でき、この場合は12Vモンキーなどのレギュレートレクチファイアが流用できます。
コイルの構造がシンプルで巻き数も少ない原付6Vモデルなら、チャージコイルの巻き数を倍にすれば発生電圧を12V化できることは原理的には難しくないでしょう。あとはフライホイールとの接触を避けられるかという物理的な問題と、レギュレートレクチファイアを組み込む回路が設計できるかどうかです。これは他機種のサービスマニュアルの配線図から、チャージコイルとレギュレートレクチファイアがどのように結線されているかを読み解く必要があります。
これは12V化する元の車両の回路と使用するレギュレートレクチファイアによって回路を変更する具体策が異なるので一概に説明することができないのが申し訳ないのですが、ここでは6V 車のチャージコイルの巻き直しによって発生電圧を12Vにできることを知ってもらえれば幸いです。次回は車体側の回路を大きく変更することなく12V化する実例を紹介します。
テンションを掛けながら巻くのに適したスポーツ用のバンテージテープでコイルを保護したら、ステーターベースに復元する。この画像でハンダ付けしているのは、上のソースコイルのアース線だ。
6V電装用の単純なレクチファイアを12V用のレギュレートレクチファイアに変更するのが、コイルの巻き直し以上に難しい作業。これはライティングコイルを廃止してチャージコイルの立ち上がり電流をすべてバッテリーの充電に使うための仕様変更となる。エンジンを2000回転も回せば充電電圧は13.1Vとなり、レギュレートレクチファイアのおかげで放電量が増えてもそれに応じた電圧で充電できるようになった。ヘッドライトやテールランプもバッテリーで点灯するので、信号待ちのアイドリング状態でも暗くなることはなく夜間走行も安心。
- ポイント1・巻き直したチャージコイルがフライホイール内面のマグネットに干渉しないように太さを確認することが重要
- ポイント2・ライティングコイルを廃してヘッドライトとテールランプもバッテリーで作動させる場合は車体側の回路の改修が必要
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