フューエルインジェクション全盛の現在でも、街中にはキャブレター仕様のバイクがたくさん走っています。旧車や絶版車の人気を受けて、長く眠っていたキャブ車を復活させようというライダーも少なくありません。長期保管車のキャブレターのメンテナンスではメイン系を気にする人が多いですが、スロー系のコンディションが何より重要です。

街中の走行でスロットル全開にする機会はどれくらい?


長期間乗っていないバイクのキャブレター内部の状態は、保管状況によってまちまちだ。温度変化が少ないガレージ内に置いてあったキャブは数年経過しても驚くほどきれいな場合もあり、逆に温度や湿度の変化が大きな場所では短期間でワニスや緑青が盛大に発生することもある。一度汚れたキャブの洗浄が不充分だと、再び汚れるまでの時間が短くなる傾向にある。数ヶ月以上乗る予定がないなら、フロートチャンバー内のガソリンは抜いておいた方が良い。


ガソリンが変質して生じるワニスは粘着質で、パーツクリーナーをスプレーしても汚れがきれいに落ちない。ガソリンが空気中で酸化されると真鍮製のジェット類を腐食させる酸性物質となり、それが緑青の原因となる。ガソリンの劣化が生じるのはFI車でも同様で、燃料ポンプやインジェクター内でワニスが生じると作動不良の原因となり、エンジン始動不能となることもある。

どんな時でもセルボタンひと押しでエンジンがかかるフューエルインジェクション(FI)は、燃料装置としてこれ以上便利なものはありません。しかし旧車や絶版車ユーザーにとってはキャブレターこそ慣れ親しんだ存在であるはず。50ccの原付スクーターにも1200ccのビッグバイクにも適切な混合気を作り出すキャブは、エンジンが発生する負圧に応じてガソリンが吸い出されるというアナログなメカニズムながら完成された存在です。

キャブ車でもFI車でも、ガソリンタンクからスロットルボディに至る燃料経路のガソリンは常にフレッシュであることが理想です。つまり通勤やツーリングで走っていることでコンディションが維持されます。しかし数ヶ月、あるいは年単位で乗らない、乗れない期間があると内部のガソリンが変質してやっかいな状態になります。

キャブレターのフロートチャンバー内のガソリンは、チャンバー内に溜まり続けることで変質します。単純に揮発するだけならまだマシですが、成分の一部は粘性が高く固体化したワニスとなって残ります。このワニスがガソリンや空気、両者が混ざった混合気の通路に詰まると、キャブレターは正常に機能できなくなります。

しばらく乗っていなかったバイクのエンジンを久しぶりに掛けようとして、始動性が異常に悪いと感じたことはないでしょうか?それでも何とか始動してスロットルを開けて、エンジンを高回転でキープしていれば回っているが、回転が落ちると止まってしまう。そんな症状を経験したことのあるライダーもいるはずです。

「上は回るのに下で止まるのはなぜ?」「スロットル開け開けで走ればいいか」と考えるかもしれませんが、どんなバイクでもスタート時はスロットル開度ゼロから徐々に開けていくので、スロットル開度が小さくエンジン回転が低い領域が正しく機能していなくてはまともに走行することはできません。最高速度350km/hに迫ろうかというMotoGPのマシンでも、コーナリングからの立ち上がりではスロットル全閉からデリケートな操作で開けていきます。その時のパワーの出方が不自然だと、世界トップクラスのレーシングライダーでもマシンをうまく操れません。

スロットル開度が大きい領域でグーンと回っても、開度が小さい範囲でしっかり吹け上がらずグズグズしているようではまともに走らせることはできません。400ccクラスともなれば、街中ではスロットル開度1/2以下でほぼ事足りてしまうので、スロットル開度が小さい領域でのコンディションを整えることが重要です。

POINT

  • ポイント1・キャブレター車でもフューエルインジェクション車でも、ガソリンが変質して生じるワニスは大敵
  • ポイント2・原付でもビッグバイクでもキャブレターはスロットル開度が小さい領域から使えることが重要

アイドリングからスロットル開度1/2以下はスロー系の担当


ワニスやカーボンを溶解させる泡タイプのクリーナーは、表面に付着したワニスを取り除くのに有効。クリーナーによって溶けた汚れは、クリーナー成分が揮発した後に再びワニスとして残ってしまうのでパーツクリーナーでしっかりすすいでおくことが重要。

取り外しが可能なジェット類だけでなく、キャブボディ内部の通路の汚れもしっかり落としたいなら浸漬タイプのキャブレタークリーナーが有効だ。ガソリンで希釈して使うヤマルーブのスーパーキャブレタークリーナーは、ベテランメカニックも信頼を置く高性能ケミカルだ。


キャブレターから外れるジェットやニードルなどは別途クリーナー液に漬け込んで洗浄する。泡タイプのクリーナーの中には真鍮素材の表面をピカピカに輝かせるものもあり、そうしたケミカルを使うと汚れが落ちるだけでなく気分的にも満足感を得られる。

長期保管、あるいは放置していたバイクのキャブレターの調子が悪くなる時、特徴的な傾向として先に挙げたように「スロットルを開ければなんとかなるが、閉じると止まる」という症状があります。ガソリンの変質によってできるワニスは、ガソリンが付着していた部分全域で発生する可能性があります。

腐ったガソリンが入ったキャブレターのフロートチャンバーを外すと、チャンバー内部とキャブ本体に汚れが付着して異臭を放っているのはありがちな光景ですが、変質したガソリンはキャブ内部の通路にも同様に詰まります。

キャブレターはスロットル開度に応じて空気とガソリンの通路が自動的に使い分けられる優れたメカニズムを持ち、そこにはアナログ的な手法が用いられています。スロットル開度といっても、負圧キャブとピストンバルブキャブのそれは意味合いが若干異なります。

負圧キャブの場合、スロットル操作によって開閉されるのはバタフライバルブで、このバルブの開閉によって生じる負圧の変化に応じてキャブレターの通路を塞ぐバキュームピストンが開閉します。このバキュームピストンの下端にはジェットニードルが付いていて、ピストンが上昇することでニードルジェットからガソリンが吸い出されます。

一方のピストンバルブキャブはスロットル操作によって直接ピストンを開閉します。エンジン回転数が低く空気の流量が充分でない状態でスロットルを大きく開けると、ニードルジェット部分に発生する負圧が小さいためガソリンが吸い上げられず、息ツキ症状が出てしまいます。

どちらの方式でもアイドリングからスロットル開度1/4まではパイロット、スロージェットが重要な要素となり、それ以降も開度1/2ぐらいまでは寄与しているのでスロー系は不可欠なのです。スロー系とメイン系では流れる空気の量、ガソリンの量が異なり、単純にいえばスロー系の通路は小さく狭く、メイン系の通路は大きく広く設定されています。そのため、同じ量のガソリンが付着して揮発した後にワニスが残ったとしても、スロー系の通路の方が詰まりやすくなります。これが「スロットルを開ければなんとかなるが、閉じると止まる」という症状の原因です。

POINT

  • ポイント1・スロー系通路はメイン系に比べて穴径が小さく狭いためワニスによって閉塞されやすい
  • ポイント2・アイドリングからスロットル開度1/2程度まではスロー系の担当なので、スロー系の汚れがキャブ不調に直結する

クリーナーで汚れを溶解させてリーマーで優しく突く


スロージェットの穴が詰まっている場合は荷札の細い針金で突くのが定番の手段だが、粘度の高いワニスだと針金が曲がってしまうこともある。そんな時にはジェット専用のリーマーがあると便利。ドリルの刃より太さのバリエーションが豊富で、ジェットの穴径に適したサイズでクリーニングできる。


取り外しできない鋳込みタイプのジェットにもジェットリーマーは有効。針金と違って硬いので、ワニスに突き当たっても簡単に折れ曲がらず汚れを掘り進むことができる。粘土質のワニスに突き刺さったら、リーマーを抜いてクリーナーをスプレーして再度突くことでワニスの溶解が促進される。

フロートチャンバーの中が惨状になっていても、始動できてもスロー系がイマイチな場合でも、長期保管後のキャブレターは徹底的な洗浄が必要です。普段使いしているキャブの洗浄ならパーツクリーナーでも対応できますが、ワニスが発生している場合はさらに強力なクリーナーが必要です。

キャブレター専用のクリーナーにはお手軽な泡タイプと手間のかかる浸漬タイプがあります。前者はクリーナー成分とスプレーの圧力でワニスを溶解させながら押し流します。軽度なワニス汚れには有効ですが、頑固な汚れには繰り返しスプレーする必要があります。

クリーナー原液をガソリンで希釈してキャブパーツを漬け込む浸漬タイプは、しつこい汚れにじっくり浸透して落とすことができます。泡タイプは汚れを落とした後にパーツクリーナーでしっかりすすがないと流れたワニスが再び定着するリスクがありますが、浸漬タイプは落ちた汚れを溶液に溶かすことで再付着しづらい利点があります。もちろん浸漬タイプでも、使用後にはパーツクリーナーで脱脂洗浄を行います。

クリーナーを使ってもなおジェットにワニスが残っているようなら、細い針で突いて除去します。市販されているキャブレター用のジェットリーマーを利用することで、穴径の小さなスロージェットも安全にクリーニングできます。ジェットに針を通す際は、くれぐれも穴径を拡大しないことが重要です。特に2気筒以上の場合、各々のジェット内径が同一であることがセッティングの基本となります。ジェットの内径は0.1mm単位で管理されているので、ドリルの刃などで内径を拡大してしまうと汚れ落としとは別の問題が生じるので注意が必要です。

キャブレター本体から外れないジェットやボディ本体の通路内の汚れも、まず最初にケミカルで溶解して、それでも残った分はジェットリーマーで優しく削り落とします。通路の内部は外から見えないので、充分にエアーブローを行って開通していることを確認します。

一度ワニスが付着したキャブをクリーニングするのは手間がかかり、僅かに残ったワニスが新しいガソリンの変質を早める働きをするのも面倒です。しばらく乗らないことが分かっているのならフロートチャンバー内のガソリンを抜き、エンストするまでアイドリングさせることで通路内のガソリンも使い切っておくと良いでしょう。またガソリンの変質を抑制するケミカルを活用するのも有効です。それでも汚れたキャブを洗浄しなくてはならない状況になった場合は、何よりもスロー系の詰まりを確実に取り除くことが重要です。

POINT

  • ポイント1・汚れ具合に応じて泡タイプと浸漬タイプのキャブレタークリーナーを使い分ける
  • ポイント2・ジェットや通路を突く際はキャブレター専用の極細リーマーを活用する

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