
エアクリーナーエレメントはホコリやゴミをエンジンに吸わせないために不可欠なパーツです。古い小排気量車やトレール車の中には、洗って繰り返し使えるスポンジ製のエレメントを装着している機種がありますが、経年変化でスポンジが劣化してボロボロに崩れてしまう場合があります。走行距離が少なくても、何年も点検していないスポンジエレメントは確認が必要です。
キャブ車でもインジェクション車でも、純正のセッティングはエアークリーナーエレメント付きでベスト
エアークリーナーケース内でスポンジエレメントがボロボロに崩壊していたので、エアークリーナーボックスからキャブにつながるインレットパイプを外すと、キャブの前面に粉のように砕けたスポンジの破片が張りついていた。エレメントが崩れて以降もエンジンを始動していたようだ。
カスタムの中でも、キャブ時代の年式のバイクで走り屋系の中でわりと頻繁に行われていたのが、エアクリーナーを取り外す直キャブ化です。エンジンに多くの空気を吸わせた方がパワーが出るはずというのはもっともな考え方で、そのためにはまずはエアークリーナーエレメントが邪魔者で、さらに入り口の小さなエアークリーナーボックスも取り払ってファンネルを付けることで、レーサー並みのパワーになるはずと思っていた若いライダーは少なくありませんでした。
しかし、これが運良くうまくいく場合もあるものの、多くの場合はどこか一カ所が良くても全体的には扱いづらくなるのがオチでした。単にゴミやホコリを濾過して吸わせないというだけでなく、市販車が装着しているエアークリーナーボックスやエアークリーナーエレメントには、吸気系全体をセッティングするための重要な役割があります。
キャブレターの場合、スロージェットやメインジェットから出て行くガソリンは、キャブレターの内部を通過する吸入空気の圧力(負圧)や流量によって引き出されています。吐出というとプラスの圧力で押し出しているイメージですが、実際には吸い出されています。キャブの内部を通過する吸気の負圧が大きければフロート室内にあるガソリンが多く吸い出され、負圧が小さいと吸い出される量も少なくなります。
吸気の足かせになっていると思われがちなエアークリーナーボックスやエレメントは、確かにキャブレター内を通過しようとする空気に対して抵抗になります。そしてジェット類のセッティングはその抵抗があることを前提に行われています(先に註釈を付けておきますが、これはスロットルが全開になる最高出力領域のことではありません)。
ここでボックスやエレメントを外せば、確かに抵抗は小さくなります。だからスロットルを開くと、抵抗が小さい分だけ空気は楽に吸い込まれるようになります。しかし楽に吸える分、ジェットからガソリンを吸い上げる負圧も小さくなってしまいます。そのため対症療法的にジェットのサイズ(番号)を大きくすることで帳尻が合う場合がありますが、ボックス撤去によってパワーアップしたからガソリンが多く必要になっているのではなく、本来必要な負圧が小さくなってしまったため、吸い上げ不足になるガソリンを補うためのサイズアップにすぎません。
もちろん、絶対的な吸入空気量を増やしたいならエアクリーナーがない方が有利ですが、季節や天候に関わらず一般公道を走行する際の扱いやすさを考えたら、ボックスやエレメントがある方が有利なのは間違いありません。
- ポイント1・市販車の吸気系はエアークリーナーボックスやエレメントがある状態でベストのセッティングを作り込まれている
- ポイント2・エアクリーナーやエレメントを撤去するとキャブレターのジェットの番号を大きくするのは、負圧不足でガソリンが吸い上げづらくなるため
洗浄できて使い回しできるが、経年劣化でボロボロになるスポンジエレメント
エアークリーナーボックス内のスポンジエレメントは円筒形のフレームを残して崩れ落ちていた。およそ2000年以前の2スト原付スクーターのエレメントは平面のスポンジタイプが多く、劣化したスポンジは指で触れるだけで簡単に穴が開き裂けるほど脆くなる。
1970年代の原付モデルながら、幸いにもスポンジエレメントは新品部品が購入できた。フレームは別売りなので、骨だけになっていた旧部品を流用する。もしフレームもエレメントも純正品が購入できなければ、太い針金を細工してフレームを作って、汎用のフィルタースポンジを巻き付けても良い。
新品のスポンジエレメントにフィルターオイルを染み込ませる。したたるほどベタベタにするする必要はなく、スポンジ全体にまんべんなく振りかけながらよく揉んで均等に行き渡らせ、ウエスで軽く押さえて余分を拭き取る。粘度の高いオイルをべっとり塗るとスポンジの目が詰まり吸入空気不足になる可能性がある。
エアークリーナーエレメントは不織布やコットンを用いたものと、スポンジを用いたものに大別されます。さらに前者は不織布やコットンを乾いた状態で用いる乾式と、オイルなどを浸透させたビスカス式に区別されます。乾式とビスカス式では、ビスカス式の方が細かなゴミやホコリまでキャッチできるとされていますが、オイルを洗浄して再使用することはできず、乾式と同様に定期的に交換することになります。
これに対して、原付スクーターやオフロード車で多く使われているのがスポンジエレメントです。素材はキッチンや洗車で使うような目の細かいウレタンスポンジで、スポンジオイルを染み込ませるか乾式のいずれかで使用します。湿式でも乾式でも、汚れて目詰まりしたら洗浄して再使用できるのが、不織布やコットンタイプとの大きな違いです。
ちなみに、先のエアクリーナボックスの有無による吸入負圧の変化はエレメントのコンディションにも当てはまります。長期間使用して目詰まりしているエレメントは、汚れのない新品状態に比べて吸気抵抗が大きくなります。するとキャブレターの場合、空気が吸えない分ジェットからガソリンを吸い上げようとするので、キャブセッティングが濃くなっていきます。
交換式エレメントは走行距離で管理して定期的に交換しますが、それと同様にスポンジ式のエレメントも洗浄して、オイルを塗布するタイプでは指定されたフィルターオイルを塗布します。洗浄とフィルターオイルについては、例えばオイルメーカーのモトレックスには何種類もの製品があるので、愛車のエレメントがスポンジタイプであるなら、こうした専用のケミカルを活用すると良いでしょう。
汚れたら洗浄して何度でも使えるのがスポンジエレメントの魅力ですが、いつまでも使えるというわけではありません。エレメントに限らずウレタンスポンジ類の宿命である加水分解があるからです。
- ポイント1・エアークリーナーエレメントの素材には不織布やコットン、ウレタンスポンジがある
- ポイント2・スポンジ素材のエアークリーナーエレメントは汚れを洗浄して専用オイルを塗布すれば繰り返し使える
キャブに詰まり、エンジンに吸い込まれる前に交換しよう
キャブの吸気側に崩れたスポンジが付着していたので、マニホールドを外してリードバルブを摘出。このエンジンはキャブとリードバルブの距離が近いので、スポンジの粉が到達している。
リードバルブとフレームの間に物が挟まると、クランクケースからキャブに逆流する混合気を止められない。リードバルブを外して表裏をパーツクリーナーで洗浄し、確実に閉じる状態を確認してから復元する。
加水分解とは、難しい反応の仕組みはいろいろありますが、現象として理解しやすいのはスポンジがボロボロになってしまう症状です。これはガソリンやオイルが付着するエレメントだけに生じるものではなく、食器洗いのスポンジやスニーカーのソールなど、ウレタンスポンジ素材全般に発生します。
エアークリーナーエレメントにおける劣化は、走行距離よりも使用期間の方が大きく影響するようです。1年で1万km走行するより、20年で3000kmしか走っていないスクーターの方が確実にスポンジは劣化しています。原付で10年も20年も経過するなんてあるだろうか? と思われるかもしれませんが、2000年型なら今年でもう21年目になります。
劣化したスポンジはいとも簡単にボロボロと崩れてしまいます。とりあえずフィルターの形状を保っているからといってエンジンを始動すると、崩れた破片がキャブレターやエンジンに吸い込まれて、ガソリンと反応してあちこちに張りつく可能性があります。
2ストロークエンジンの場合、キャブレターから吸った混合気の吹き返しを防ぐためにリードバルブが組み込まれています。リードバルブにはピストンリードバルブやクランクケースリードバルブなど異なるタイプがあり、エンジンによってはキャブレターとリードバルブの距離が近いものもあります。崩れたフィルタースポンジが何かの拍子にリードバルブに張りついたり、薄いバルブとフレームの間に挟まる可能性もゼロではありません。リードバルブが閉じなければ混合気がキャブ側に逆流するかもしれず、エンジンにとって良いことではありません。
そうしたトラブルを避けるには、保管期間や放置期間が長いバイクを復活させる際には、いきなりエンジンを始動するのではなく、スポンジの状態を確認することが大切です。ここで紹介するヤマハの原付ファミリーバイクは40年以上昔の機種で不動期間が長く、過去にエレメント交換を行ったか否かは不明でした。走行距離は4000km台でしたがエアークリーナーボックスを開けたところ、スポンジエレメントは骨組みだけを残して原型なくボロボロに朽ちていました。悪いことにキャブの入り口にスポンジの破片が付着していたのでリードバルブを取り外してみると、バルブの裏側にも粉のようになったスポンジが付着していました。
2ストエンジンは混合気がクランクケース内を通過してからシリンダーに入るため、クランクシャフトの潤滑に影響を与えていると厄介ですが、エアークリーナーボックスとリードバルブを洗浄して新しいスポンジエレメントを装着して始動したところ、幸いエンジン本体からの異音はなく、快調に走行できホットしました。
購入したけどあまり乗らず駐輪場や駐車場に置きっ放しだったスクーターを、今回のコロナ禍をきっかけに再度移動手段として使おうと、改めて整備を行う例が少なくないと聞きます。2スト時代の原付スクーターではスポンジエレメントが標準的な仕様だったので、バスや電車に代わる移動手段として整備する際は、必ずエアークリーナーカバーを外して、エレメントの状態をチェックすることをお忘れなく。
キャブレターとエアークリーナーボックスをエンジンに取り付けたら、フィルターオイルを塗布したエレメントをセット。これで空気中のゴミやホコリをキャッチしながら、適切な混合気をエンジンに送ることができる。
- ポイント1・スポンジエレメントのスポンジ素材は時間経過とともに劣化してボロボロになる
- ポイント2・破損した破片がエンジンに吸い込まれると洗浄に手間が掛かるので、長期不動車の再生時にはエレメントのコンディションを確認する
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