大型車を中心に採用されている油圧クラッチは、パスカルの定理によってレバー操作が軽くなるのが魅力です。ワイヤー式に比べてメンテナンスの手間も省けますが、定期的なフルード交換は必要です。それを怠れば操作性の悪化やフルード漏れにつながることもあります。マスターシリンダーをオーバーホールする際は、カップ組み付け時の損傷に注意しましょう。

クラッチフルードは2年に一度交換する


バイクも自動車も油圧ブレーキやクラッチの作動油はブレーキフルードを使っているのに、長期放置車両ではバイク用ブレーキの方がコンディションが悪い物が多い気がする。自動車はマスターシリンダーとブレーキまでの距離が長く、なおかつ使用するフルードの体積が多いので劣化が緩やかなのだろか。V-MAXのクラッチマスターシリンダーのタンク底には、劣化したフルードが汚泥のように溜まっている。

リザーバータンク内の汚れはサプライポートとリリーフポートを通じてシリンダーを行き来するので、ピストンやカップにも汚れが付着する。クラッチレバーが接するピストン先端(左側)はブーツがあるとはいえ外気に触れやすく湿気を帯びやすいので、カップの外周が汚れがちだ。

油圧ブレーキの作動油として使われているブレーキフルードには、幅広い温度範囲で液体状態を保ち、粘度や体積変化が小さく、ゴムシールにダメージを与えないなど様々な要求条件があります。そしてそれらを満たす液体として、アルコールの一種であるグリコールベースと、シリコンベースのどちらかが使われています。

エンジンオイルやロングライフクーラントと同様に、ブレーキフルードも使用過程で劣化し、性能低下していきます。湿気を吸うことで沸点が低下し、コーヒー牛乳のように汚れます。エンジンオイルも真っ黒でシャバシャバになるし、ロングライフクーラントもリザーバータンクが水あかで黒く汚れるので、それぞれ経年変化はありますが、劣化したブレーキフルードの変貌ぶりは衝撃的です。新品時には透明だったものが褐色になり、マスターシリンダーやキャリパー内に堆積物が溜まり、鍾乳石のような結晶がシールとシリンダーの境界にはへばりつくようになるとかなり重症です。

そうした変化は油圧ディスクブレーキだけでなく、同じフルードを用いる油圧クラッチでも生じます。ブレーキほど高温ではありませんがエンジンの熱を受けるし、空気中の湿気を帯びるのもブレーキと同条件です。クラッチではブレーキのようにパッドの摩耗チェック時のキャリパー観察に匹敵する作業はありませんが、マスターシリンダーのレベル窓の内側のフルードの変色やレベル低下のチェックがトラブルを未然に防ぎます。

特に液面の低下については、クラッチ板はブレーキパッドほど顕著に摩耗しないので、明らかに減少している時はバンジョーボルトやレリーズ側、もちろんマスターシリンダーピストンからフルードが漏れていないかを確認します。

もちろんそうした異状が認められなくても、空気に触れて吸湿して沸点が低下するという特性があるので、2年に一度の交換は必要です。

POINT

  • ポイント1・油圧クラッチの作動油はブレーキフルードと同じなので、2年に一度の交換が必要
  • ポイント2・クラッチマスターシリンダーのリザーバータンク液面が低下していたら、レリーズやホースからのフルード漏れをチェックする

マスターシリンダーは小さな孔まで徹底洗浄


水よりもお湯の方がフルードの汚れを落としやすい。シリンダー内部に歯ブラシや縦型ブラシを突っ込んで汚れをしっかり取り除く。力を入れすぎて内壁に傷を付けないように注意しよう。


大きなサプライポートに汚れが詰まることはまずないが、リリーフポートはフルードのちょっとした汚れでも引っかかってしまうほど穴径が小さいので、パーツクリーナーやエアーブローでしっかり貫通させておく。分解前の汚い状態ではクラッチが断続できたのに、洗浄時に擦り落とした汚れが引っかかって作動不良を起こす場合もある。

今回紹介するのは、以前クラッチレリーズのオーバーホール作業で紹介したヤマハV-MAXのクラッチマスターシリンダーです。かなり以前に交換して以来、不動期間もあったということでフルードは茶褐色に変色してリザーブタンクの底には粘度のような汚れが堆積しています。

幸いなことにピストン側からのフルード滲みや漏れは発生していませんが、リザーバータンク内の汚れを見ればシリンダー内も相応に汚れていることは確実です。シリンダー内の汚れがクラッチ操作のたびにストロークするピストンのゴム製カップに付着すれば、そこからフルード漏れが始まるかもしれませんし、硬い異物に変質してシリンダー内壁を傷つければさらに面倒なことになりかねません。

このような状態になり、さらにこの先も乗り続けていきたいと思ったら、マスターシリンダーをオーバーホールするのが最善です。これを機会にカスタムするのなら、アフターマーケットのクラッチマスターアッセンブリーと交換しても良いでしょう。

さて、汚れたマスターシリンダーをオーバーホールすると決めたら、とにかく徹底的に洗浄します。再使用するのはマスターシリンダー本体だけで、ピストン交換は当然ですがリザーバータンクのダイヤフラムもあわせて交換します。特に液面が低い状態で何年も不動状態にあったバイクでは、ダイヤフラムの蛇腹が伸びた状態でクセがついていることもあるので、新品部品が販売されているなら新調しておきましょう。

結晶化したブレーキフルードで汚れたマスターシリンダーの洗浄には、ブレーキクリーナーよりお湯と中性洗剤の組み合わせの方が低コストで効果が期待できます。もちろん、一般的なレベルの汚れならブレーキクリーナーで充分に洗浄できます。お湯が良いのは、そもそもブレーキフルードには鉱物油にはない吸湿性があるためです。水を弾くオイルでなはなく、水に溶けるブレーキフルードなので、固形化したフルードを湯に浸けると汚れが勝手に溶け出すのです。そこに中性洗剤が入っていれば、界面活性剤のパワーで剥がれた汚れの再付着を防止してくれます。

お湯と中性洗剤とブラシの組み合わせで、リザーバータンク底部のサプライポートとリリーフポートの2つの孔も確実に貫通させたら、洗剤をよくすすいで乾燥させます。スケジュール的に洗浄直後に復元する場合、エアーブローなどで水分をしっかり飛ばします。パーツクリーナーをスプレーしすぎると結露して湿気を帯びる場合があるので注意が必要です。冷えてしっとりした状態でピストンを復元すると、あえてブレーキフルードに湿気を与えているような状態になってしまいます。

POINT

  • ポイント1・ブレーキフルードは親水性なので、ひどい汚れを落とす時はお湯と中性洗剤で洗浄すると良い
  • ポイント2・マスターシリンダーやキャリパーにパーツクリーナーをスプレーしすぎると結露するため、完全に乾燥させてから部品を組み付ける

ゴムカップをピストンに組み込む際は慎重に


「シリンダキット,マスタ」という部品名称で販売されているヤマハV-MAXのクラッチマスターピストン。ピストンやスプリング、スナップリングとともに2つのカップがある。1個はピストンの前端で押すので穴はなく、レバー側のカップはピストンを貫通させてセットするため穴がある。カップ溝の手前の直径が大きいので、カップ自体を拡張して通す必要がある。


100円均一ショップの園芸コーナーで見つけた吸水キャップ。ピストンの先端が挿入できるよう中空の円錐形であればどんな製品でもかまわないが、カップの内側を傷つけないよう表面が滑らかであることが重要だ。


カップ溝の手前の直径に合うように適当な位置でカットして、ピストンに挿入して形状を整える。切りっぱなしでは円錐の裾が広がったままなので、ヒートガンで加熱してすぼめている。自動車用のカップロケットは、使用頻度の高いピストン径をいくつかセットにしてある。バイク用にもそうした製品があれば良いと思う。


ラバーシール組み付け剤やシリコングリスを塗布して、カップを挿入する。部分的に引っ張りながら溝に入れるより、無理なく拡張できている手応えがある。

クラッチやブレーキマスターシリンダーのピストンには「カップ」と呼ばれるゴム部品が組み込まれています。このカップはエンジンのピストンリングと同様に、ピストンとシリンダーの気密性を保つためにきわめて重要です。ピストンリングは合口隙間があるためどうしてもブローバイガスが発生しますが、ブレーキやクラッチで「少しフルードが漏れるけど、漏れたらウエスで拭いて下さい」という注意事項は通用しません。

漏れないようにするには、カップにダメージを与えないよう慎重かつ丁寧に取り扱う必要があります。軸にゴムシールをはめるだけ、と簡単に考えてしまうかもしれませんが、マスターシリンダーのピストンは直径が太い部分と細い部分がある複雑なデザインで、カップも単純なOリング形状ではありません。

純正部品でマスターシリンダー内部の構成パーツ、つまりピストン本体やカップ、スプリング、ピストンを押さえるスナップリングなどはセットで販売されているものが多いようで、交換したいのはカップだけなのにピストンも同時に購入しなくてはならない場合があります。それならそれで、オーバーホールなど頻繁に行うものはないので、インナーパーツ一式すべて交換するのは悪いことではありません。「シリンダキット」という部品名称で販売されるV-MAX用ピストンキットは、メーカー希望小売価格で税込3000円程度です。

しかしながら、アッセンブリー設定でもピストンとカップは別部品のままで納品されます。機種によってまちまちですが、カワサキでもアッセンブリー設定で未組み立てというパターンはあります。カップの内径を拡大してピストンの段差を乗り越えるしかありませんが、無理に拡張してカップの内径部分を傷つけては元も子もありません。

こうした作業の際の治具として、カップロケットがあります。これはカップ内径を均等に拡張して段差を乗り越えさせるための、ピストンの先端に被せる円錐状の工具です。工具ショップでも販売されていますが、私が知る限り自動車のマスターシリンダーピストン用ばかりで、寡聞にもバイク用のカップロケットを見たことはありません。自動車用とバイク用ではピストン径が違うので(当然自動車用の方が直径が太い)流用はできません。

ただ、カップがピストンの段差を越えられれば治具の目的は果たせるので、身の回りある円錐形の製品の中から、ホームセンターで売っている吸水キャップを流用します。ペットボトルのキャップと取り替えれば花壇の水やりなどに使える部品で、100円均一ショップでも取り扱っているところはあります。

この先端のテーパー部分をピストンの段差に合わせてカットして挿入すれば、無理にカップを引っ張ることなく所定の溝に収めることができます。カップが新品で慎重に作業すれば手で引っ張っても切れることはありませんが、ピストンの段差で擦って傷が付くことが心配ですし、ブレーキ部品メーカーのホームページなどでは昔に比べて最近のカップは材質硬度が高くなっているという記述もありますので、カップ内面に傷を付けず、なおかつ均等に拡張できる治具を自作、流用すると良いでしょう。


即席カップロケットで傷つけることなくカップをセットできた。カップ自体を逆組みすると全く機能しないので、ピストン先端に向けてカップの裾が広がるようにセットすること。3000円のピストンキットのカップを保護するためなら、100均の吸水キャップは惜しくない。


ピストン前側のカップにリターンスプリングをセットしてシリンダーに挿入する。吸湿したブレーキフルードが触れたスプリングはだいたい錆びるので、キットに新品スプリングが入っているのはありがたい。カップが引っかからないよう、シリンダー内壁にもラバーシール組み付け剤をスプレーしておく。


ピストンを押し込みながら、リテーナーリングとスナップリングを組み付ける。スナップリングを入れたら、リング溝に沿って回転させて抜けないことを確認する。ピストンが滑らかにストロークすることを確認してから復元しよう。

POINT

  • ポイント1・ピストンにカップを組み込む際はカップ内面に傷を付けない世に注意する
  • ポイント2・専用工具のカップロケットに代わる円錐形のキャップをかぶせるとカップ保護に有効

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