
年間を通じて不調とは無縁のインジェクション車に対して、昔からのキャブレター車はすぐに調子を崩してしまいがちです。
「そんな事ないぞ!」とい言う方はキャブ調整が自分で出来る方なので無視するとして、キャブレター車に乗っている大多数の方はエンジン(キャブレター)不調に見舞われた経験をお持ちのはず。
さらに、調整しようとしてキャブレターを触ったら余計にヒドイ事になった事もあるはず。
しかーし!
良くわかっていなのに精密な機械を触ったところで調子が良くなるわけ無いに決まってます。
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回はキャブレター不調解消の『キモ』を解説します!
目次
- 1 キャブレターは精密機械
- 2 キャブレターとはつまり「霧吸い」である
- 3 吸入負圧の低い時が問題
- 4 吸入負圧に応じて3種類の霧吸いノズルを持っている
- 5 不調の大部分はパイロット系
- 6 パイロットジェットは何故無いのか
- 7 バイパスさせる量をコントロールするのがパイロットスクリュー
- 8 パイロットスクリューは超精密部品
- 9 パイロットスクリューを締め込むとどうなる?
- 10 パイロットスクリューを緩めるとどうなる?
- 11 パイロットスクリューの調整範囲とは?
- 12 パイロットスクリューに調整用の専用工具があるのはなぜ?
- 13 パイロットスクリューはアイドリング付近にのみ影響する・・・?
- 14 多気筒エンジンでの調整方法
- 15 キャブレターには様々な構造がある
キャブレターは精密機械
現代のフューエルインジェクションが様々なセンサーの値を元の演算処理後に燃料を「能動的に噴射」するのに対して、キャブレターはエンジンの吸入負圧だけを頼りに「受動的に吸い上げる」燃料の量を完全に機械制御しています。
腕時計で例えるならインジェクションがGショックでキャブレターは機械式時計。
冗談抜きにそのくらい違います。
例え見た目が汚かろうとキャブレターの中身は精密部品の塊で、しかも擦り減るのが前提の構造です。
だから使っているうちに段々調子を崩して行くのは必然だったりします。
しかしそんな事もあろうかと!キャブレターは調整が出来るようになっています。
(原付スクーター用など、使い捨て前提のキャブレターでは調整不可能な物もありますが)
ところがイザ調整しようとすると、何だか得体の知れないネジやら穴がいっぱいで、いったいどこを触れば良いのやらサッパリ解りません。
ネットの情報を見ても人によって書いてある事が違い過ぎて何が正解なのやら……。
怖くて触れないという方、非常に多いと思います。
キャブレターとはつまり「霧吸い」である
そこで、まずはキャブレターのおさらいから。
原理がしっかり理解できればネットに溢れるセッティングの話で誰が正しくて誰が変な事を言っているのか判断が出来るようになります。
ちょっと難しい話ですが、ここを理解していないとどうにもならないので超重要です。
さて、唐突ですが霧吹きってありますよね?
握ったら液体を霧状にして噴射するアレ。
霧吹きはレバーを握って圧力を加える事で液体を狭い通路に押し込み、霧状にしながら噴射しているワケですが、キャブレターはその真逆。
ノズルの前に負圧を発生させ、その負圧で液体を引っこ抜いているのが基本原理です。
霧吹きの逆 = 霧吸い。
引っこ抜くための負圧はエンジンが空気を吸い込む事で発生させます。
引っこ抜かれる時に狭いノズルを通過するので、液体が霧状になってエンジンに吸い込まれていく……。
それがキャブレターの正体です。
吸入負圧の低い時が問題
インジェクションは自分で燃料を噴射するので、エンジンの発生する負圧が高かろうと低かろうと関係ありません。
演算の結果、最適な燃料の量はこれ!と算出された量のガソリンを噴射するだけ。
まさに霧吹きと同じ。
対するキャブレターはエンンジンの発生する負圧によってガソリンを「霧吸い」するのですが、問題はエンジンの吸入負圧は一定ではないという部分。
特に低回転域ではそもそも吸入する空気量が少ないので負圧が足りず、メインの燃料ノズルからガソリンを霧吸いできません。
最悪ガソリンが全く吸えないですし、もし吸えたとしてもキレイな霧にならずボタボタ垂れるような吸い方になります。
霧吹きボトルを弱弱しく握って圧力が不足すると、液体が霧にならずに垂れてしまうのと同じ理屈です。
※低回転でもスロットルが全閉なら実は負圧は高い……とか、高回転でもキャブレター口径が大きすぎると負圧が低くなる……とか、本当はもっと深い話もありますが、難解度が激増してしまうので今回は割愛。
吸入負圧に応じて3種類の霧吸いノズルを持っている
上記のように低回転(例えばアイドリング)では正常に霧吸いできなくてエンジンが絶不調になってしまうので、低回転用の(負圧が低い時用の)ノズルを別に設けてあります。
「スロー系」と言われるのがそれで、そんなスロー系の霧吸いガソリン量を計量するのが「スロージェット」というワケです。
ジェットは穴の大きさが微妙に異なる物と交換する事でガソリンの最大流量を変更します。
(高回転で負圧が大きい時用のノズルがメイン系で、そのメイン系のガソリン最大流量を決めているのが御存知メインジェットです。)
ただ、アイドリングのような極低速回転域ではスロー系でもまだ穴が大きすぎです。
もっと低回転向けの(低負圧向けの)霧吸いノズルが必要!
……という事で、スロットル全閉のアイドリング付近にだけ的を絞った「パイロット系」という流路も設けてあります。
「メイン」「スロー」「パイロット」で合計3種類。
それぞれの流路でガソリンを計量しているのが「メインジェット」「スロージェット」「パイロットジェット」……と言いたいところですが、パイロットジェットだけは存在しません。
理由は後述!
不調の大部分はパイロット系
実はキャブレター車が調子を崩してくる時にはちょっと特徴があります。
6速レブリミットのスロットル全開!なんて領域は、一旦セッティングが出ていれば滅多な事では調子を崩したりしません。
そういうのはメイン系の領域ですが、スゴイ負圧でスゴイ量のガソリンを吸い上げているので、何らかの理由で多少流量が変化しても大勢に影響無いのです。
つまり、(何らかのチューニングを施したりしなければ)エンジンの調子が悪くなったからと言ってメインジェット交換の必要なんかありません。
スロー系もスローと言いつつ結構な負圧がある領域なので、経年劣化による摩耗などがあっても多少不調なくらいで何とかなるものです。
調子を戻すにしても安易にスロージェットを交換するのではなく、摩耗しているジェットニードルとニードルジェット(針と針が入る筒)を交換するのが正解。
何ともならないのがパイロット系。
ここが不調になって一気にエンジン全体の不調感が出て来る……、これがキャブレター車が不調になっていく時の特徴です。
エンジン始動不能、ギリギリ始動するけど始動困難、始動はするけどアイドリングしない、アンドリングはギリギリするけど物凄く不安定、交差点からの立ち上がりで凄くギクシャクする、全閉にするとガボガボ言う、全閉にするとアフターファイア(パンパンという破裂音)が出るようになった……、こういうのはだいたいパイトロット系の不調が原因です。
ようするに『キャブレター起因のエンジン不調の場合、原因の大部分はパイロット系』です。
パイロットジェットは何故無いのか
実はパイロット系はスロー系の一部だからです。
スロー系はスロージェットで計量したガソリンとスローエアジェット(またはエアスクリュー)で計量した空気を予めキャブレター内部で混ぜておき、それをエンジンの吸入負圧で霧吸いしていますが、この一部をバイパスしてるのがパイロット系になります。
パイロット系はアイドリング付近で必要な燃料の計量に特化した機構ですが、アイドリング時に必要なガソリンの量はスロー系の燃料のうち、更に極一部を霧吸いするだけで十分足りてしまうのです。
そこまで要求量が少ないともはやジェット交換で流量をコントロール出来る範囲を超えていますし、いちいちジェット交換するよりもスロー系の一部をバイパスした方が早いというわけ。
下の図はキャブレターの断面を簡易化したもので、スロー系とパイロット系のバイパス通路だけを抜き出した図です。
スロージェットからガソリンを吸い、エアスクリューで混ぜる空気の量を調整し、パイロットスクリューで空気と混ぜた燃料をどれくらい吸わせるか調整している、という事を可能な限り簡易化してみました。
ご覧のようにパイロット系はスロー系の一部をバイパスしているので、スロージェットの交換やエアスクリュー調整の影響も多少受けます。
アイドリングにはあまり影響しないはずのスロージェットを交換したら何故かアイドリングが不調になったりするのは、スロー系がパイトロット系と直結しているのが原因だったりします。
バイパスさせる量をコントロールするのがパイロットスクリュー
パイロット系をもう一度確認です。
この構造を理解していないと絶対に上手く調整できません。
どこを調整したらどうなるのか、脳内で想像できるようになるのが調子を取り戻すための秘訣です。
パイロットスクリューは超精密部品
図を見ていると、エアスクリューで流量を調整するテーパーは大きな三角形なのに対して、パイロットスクリューの調整用テーパー部分はやけに細くて長いと思いませんでしたか?
別に図を書くのを失敗したわけではなくて、パイロットスクリューはそのくらい精密部品なのだという事を表しています。
そもそも極端に負圧の少ないアイドル回転数で極小のガソリンを霧吸いさせなければならないのがパイロット系。
通路も超細いですし、ものすごくシビアなのです。
穴に小さなゴミが入ったり、エアスクリューにキズなんか入ろうものなら一発アウトで、そんな状態では絶対に調子を取り戻す事はできません。
汚れを取ろうとしてワイヤーブラシで擦ったり、詰まったゴミを取り出そうと針で抉ったりするのは厳禁です。
パイロットスクリューを締め込むとどうなる?
パイロット系の通路を絞る事になります。
スロットル全閉のアイドリング付近でガソリン(と空気の混ざったもの)の量が減るので「薄くなる」事になります。
例えばアイドリング付近は調子良いけれどチョイ開けした辺りをちょっと濃くしたいなーという時に、エアスクリューを締めてスロー系のガソリン含有割合を増やす事で対応したとします。
こうするとスロー系が良くなる代わりに、スロー系と直結しているパイロット系まで濃くなってしまいます。
それを解消するため、パイロットスクリューを少し締め込む……、そんな使い方もできます。
パイロットスクリューを緩めるとどうなる?
上記と逆にアイドリング付近の極低速時での通路が大きくなってガソリン流量が増えるので「濃くなる」事になります。
なお、パイロット系から出るガソリンの量は非常に微々たるものなので、パイロット系をどれだけ濃く調整(パイロットスクリューを緩める)しても、アイドリング付近以外にはほぼ影響しません。
ややこしいのは表から見るとパイロットスクリューとよく似ているエアスクリューがある事。
しかもエアスクリューはアイドリングより上のスロー域全体に影響してしまう事。
おまけにエアスクリューは濃い/薄いの効き方がパイロットスクリューとは逆で、エアスクリューは締めると混合気が濃くなる事。
形状も効き方もとても間違えやすいので、しっかり確認しましょう。
パイロットスクリューの調整範囲とは?
非常に繊細な部品なので締め込む時は軽く締めるようにします。
普通のネジのようにギューギュー締めると、それだけで破壊されて再起不能になります。
良くてパイロットスクリューの新品交換、悪ければキャブレター本体まで破損してキャブ交換。
軽く締めていって締まり切った位置から緩めますが、ご覧のとおり単なるネジなので、緩めすぎると走行中の振動で脱落します。
(脱落するとアイドリング付近どころか全域で強烈に不調になります)
尚、どのキャブレターもだいたい「締め込んだ位置から1回転~2回転半戻し」が基本です。
あまり例外はありません。
この範囲を超えるところで調子が出るようなら、それは別のところに不調の原因があると考えた方が良いでしょう。
例えば通路のどこかにゴミが引っ掛かっている、とか。
パイロットスクリュー先端が汚れている、とか。
パイロットスクリューとセットで組むOリングが切れている、とか。
くだらない原因が潜んでいるものです。
でも稀に「3回転半戻しがベスト」なんて事もあるので、範囲を超えたら絶対ダメという物でもありません。
パイロットスクリューに調整用の専用工具があるのはなぜ?
パイロットスクリューは(ホンダ車の極一部の例外を除いて)マイナスの溝が彫ってあり、細いマイナスドライバーがあればキャブレターを分解しなくても外部から容易に調整できるようになっています。
なぜならエンジンをかけてアイドリングさせた状態でスクリューを回して調整したいから。
パイロットスクリューは全閉からの戻し回転数(緩めっぷり)で調整するものなので、車体に装着して実際にアイドリングさせながら微調整するのが一番!
と・こ・ろ・が・!
キャブレター周辺は狭くて手を入れる隙間が無い事が多いのです……。
並列4気筒だとキャブレターも4つ並んでるので、真ん中の2つなんか絶対無理。
エンジンも熱いし、火傷待った無し!
そうならないために、横から差し込んで奥まった場所にあるパイロットスクリューを回すために専用工具が売っています。
使い方は下の画像のとおり。
(右下から画像中央に伸びている黒い棒みたいなのが調整ツール)
車体の横の隙間から差し込んで、キャブレター本体にあるパイロットスクリューに合わせ、手元のダイヤルを回すとワイヤーやギヤで連結されている先端のマイナスドライバーも同じだけ回るようになっています。
いや、別に高価な工具が無くても調整は出来るんですよ?
ただし、専用工具無しで調整するにはいちいちキャブレターごと外さなけれならないので死ぬほどメンドクサイだけです。
「専用工具が欲しいけど専用工具は高いしなー」というワケで、工具を自作してしまう方も多数居ます。
皆さん創意工夫されていて面白いですよ!
下の画像は「手は入るけどドライバーを差し込む隙間がほぼ無い車両」専用の『パイロットスクリューを回す事しかできない超短いドライバー』の自作例です。
パイロットスクリューはアイドリング付近にのみ影響する・・・?
そう言われていますし、そう解説している記事も多いです。
確かにその通りで、純正装着されているキャブレターの不調を直したいのであれば「パイロットスクリューの調整範囲はアイドリング付近のみ」という認識で間違いなく合ってます。
ただし、純正ではない汎用レーシングキャブレターなどではその常識が通用しない場合もあります。
個人的にも大排気量シリンダーに口径の小さなキャブレターを組み合わせた場合、かなりスロー系の領域まで影響するのが実感です。
このように、純正キャブレターの調子を取り戻したいのか、レーシングキャブレターのセッティングをしたいのかで結構話が違います。
人によっていう事が違う原因の一つでもあります。
ですので、単に「パイロットスクリュー 調整方法」などで検索したやり方を鵜呑みにするとワケがわからなくなるかもしれません。
多気筒エンジンでの調整方法
全部まとめてポン!……とは行きません。
1気筒ずつ調整します。
その前にスロットル開度を合わせたりバキュームゲージで負圧の同調を取ったり、パイロットスクリューの調整以前にやっておかねばならない面倒な事もあります。
それらが全部終わってから初めてパイロットスクリューの調整に入ります。
まず1つの気筒でパイロットスクリューを全閉まで締め込み(燃料が供給されなくなるので回転数が落ちる)、そこから1/4回転刻みで開けて行きます。
開ける度に燃料が供給されやすくなるのでアイドリング回転数上がって行くので、一番回転数が高くなった位置にしてください。
この時の戻し回転数が規定値(1回転戻し~2回転半戻しぐらい)であればOK。
上がり過ぎたアイドリング回転数をスロットルストップスクリューで規定値まで下げて、次の気筒へ……。
という感じで、1気筒ずつ調整します。
全ての調整後に1/4~1/8回転開ける(少しだけ濃くする)のが良いという説もありますが、このあたりはお好みで。
あと、全てのシリンダーが完全に同じコンディションである可能性は非常に低いので、パイロットスクリューの戻し量は全部同じにならないのが普通です。
キッチリ揃うに越した事は無いんですけどね。
そして、このやり方が『唯一の正しいやり方』というワケでもありません。
人によって、車種によって、多少やり方が違う事もあります。
キャブレターには様々な構造がある
やたらメンドクサイ今回の話ですが、最後に超メンドクサイ話を。
いろいろ説明してきましたが、メイン、スロー、パイロットの3系統ではないキャブレターも存在します。
小排気量向けの廉価なキャブレターではパイロット系が存在しない場合がありますし、始動用に4つ目の経路(スターター系)を持っているキャブレターも存在します。
キャブレター内で予め空気とガソリンを増せておくと書きましたが、混ぜる為の空気の量も調整できたりできなかったりします。
調整出来たとしても「エアジェット」という極小の穴が開いたジェットを交換するタイプもあれば、「エアスクリュー」というネジの締め込み具合で空気量を調整する物もあります。
エアスクリューもメイン系とスロー系が別になって2つある場合と、1種類しか無い場合があります。
とにかく種類が豊富で『必ずこういう構造になっている』という決まりが無いのです。
ですが、パイロットスクリューの役割は変わりません。
どれだけ複雑なキャブレターでも、パイロットスクリューの役割は同じ。
また、キャブレターは精密機械ですが、負圧によって自動的に燃料の霧吸い量を調整するので、ある意味ではセッティングに寛容だったりします。
だから人によって調整方法が全く異なっても似たような結果になる事もあります。
物凄く奥が深いのです。
でも、エンジンが不調で始動性が悪いとかアイドリングが不安定なら、とりあえずパイロットスクリューを回してみませんか?
何が良いって、パイロットスクリュー調整は乗って試走する必要がほぼ無い事です(厳密にはあるけど)。
元の回転数さえメモしておけば、最悪でも元通りに戻せるのも良いですね。
部品も様々な種類のジェットを購入する必要が無く、ネジを回すだけ。
始動しなかったエンジンが始動して綺麗にアイドリングするように出来れば、それだけでゴハン3杯は行ける達成感が得られるはずですよ!
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