
スーパーカブに端を発するホンダ「横型エンジン」を搭載した4ミニシリーズ。一方、CB50に端を発するのが「縦型エンジン」を搭載したホンダ4ミニシリーズ。ファンのあいだでは、ホンダ横型4ミニ、ホンダ縦型4ミニと呼ばれることが多いが、いずれのエンジンシリーズとも、根強い人気を誇っているのはご存じの通り。ここでは、圧倒的なカスタムパーツ数、エンジンチューニングパーツ数を誇る「横型エンジン」の心臓部である、クランクシャフトに注目してみよう。ホンダ横型4ミニエンジンチューニングを楽しむ上では、避けて通ることができない、大きなパーツである。
目次
種類が豊富過ぎる年式違いと仕様の違い
商用デザインのホンダスーパーカブをベースにしたカスタムマシンは数多くあるが、セミダブルシートやダブルシートを取り付けた、ツーリング仕様のカスタムマシンは走り屋ファンに好まれているスタイルだ。生産ラインから出荷された段階ですでに、ダブルシートを装着したスーパーカブやその派生モデルもある。国内では、商用デザインがあくまで中心のスーパーカブだが、東南アジアはもちろん、北米市場でもヨーロッパ市場でも、スーパーカブはダブルシートで親しまれた日常の足バイクだった。
写真の黄色いスーパーカブは、通称名「カモメハンドル」を装着した最後のシリーズ、北米市場専用の輸出モデルだった「C70パスポート」の1980年型。ブラウンとアイボリーの2トーン・ダブルシートを標準装備。メーター内には、ハイビーム、ニュートラル、ウインカーのインジケータランプが組み込まれ、文字盤にはKm/hとMPHの双方が表示される。これはカナダ国内のKm/h表示圏への対応だった。フレームナンバー打刻は国内仕様の「C70-*******」とは異なり「DA01-*******」だった。細部の仕様にも専用パーツが数多く取り付けられており、6V仕様のセルスターターエンジンを搭載していた。
6V時代は数多くのクランク仕様が存在
6Vエンジン時代にはクランクシャフトのテーパー側(フライホイール取り付け側)に長さが異なるタイプがあった。左は一般的に「Lクランク」と呼ばれ、右は「Sクランク」と呼ばれた。6V時代のモンキーシリーズやダックスシリーズにSクランクの採用例が多い。Lクランクは、エンジンの始動性を高めるためフライホイール内側に点火ガバナー(スパークアドバンサー)を組み込むエンジン仕様用のクランクだ。つまりSクランク車のエンジンは、点火時期の最大進角が固定設定。Lクランク車は、エンジン始動時の点火時期を始動性がよい数値(例えば12~15度前後)に設定し、エンジン回転の高まりによる遠心力で3000rpmを超えるあたりで点火時期が早まる(例えば30度)ようになっている。このガバナー機能があるため、クランクシャフトはSクランクに対してやや長い作りになっている。
12ボルト仕様になったクランクシャフト
6Vエンジン仕様は、点火用エキサイターコイルとバッテリー充電用発電コイルがフライホイール内側(それを意味してフライホイールをアウターローターとも呼ぶ)に2本並んでセットされているが、12Vエンジン仕様では、そのコイル容量ではまったく発電不足となってしまうため、より多くのコイル巻き数を稼ぐことができる、通称ヒトデ型のコイルにデザイン変更されている(移行過渡期には12Vタイプの発電コイルデザインながら6Vで制御していたモデルもあった。アメリカンデザインのジャズがそうだった)。そのため、コイルの奥行き(厚さ)が深くなり、フライホイールのマウント位置がクランクセンターから外側への移動を余儀なくされている。それに伴い、クランクシャフトエンドのテーパー位置が外側へ移動している。6V時代とは、見るからに異なる12V仕様のクランクシャフトエンド。
6Vエンジンながらシャフトが長いセル始動用
ホンダ横型エンジンには、キック始動とセル始動のエンジンが存在する。クランクシャフトエンドがボルト状になり、フライホイールの固定にナットを使っているのがキック始動エンジン。このクランクシャフトのように、シャフトエンドがナット状になったネジ山が切られ、フライホイールの固定にはボルトを使う仕様がある。このクランクシャフトは、セル始動の輸出モデル、C70パスポートに組み込まれていた6Vセル始動エンジン用。フライホイールの内側にセルスターター用ワンウェイクラッチが組み込まれるため、その分、物理的にクランクシャフトが長くなっている。
チューニングエンジンのオーバーホール時には
横型シリーズ初のOHCエンジン搭載モデルは、1964年に登場したスーパーカブC65。その発売から2年後には、排気量ダウンした原付モデルのC50が登場。OHVエンジンのスーパーカブC100シリーズに変わり、その後の横型エンジンワールドのベースとなったOHCエンジンモデルが登場した。今ではライトチューンの75cc仕様から、88cc/106cc/110ccと排気量アップされ、原付2種の枠外へ飛躍した仕様も登場しているが、チューニングエンジンのオーバーホール時には、クランクベアリングのコンディションを必ず確認し、必要に応じて部品交換することをお勧めしたい。クランクシャフトはデリケートなので、ベアリングの脱着には高度なテクニックが必要だ。単純なベアリング交換作業は容易だが、交換後にクランクシャフトの振れ取り芯出しを行わなくてはいけない。また、カムチェーン用の一次スプロケットをベアリングの抜き取りと同時に抜かなくてはいけないため、復元時にはバルブタイミングを考慮したギヤ圧入が必要不可欠になる。したがってベアリング交換したい際には、内燃機のプロショップへ依頼するのが確実だ。
横型エンジンチューニングを愛するファンの中には「Sクランク」をベースにしたチューンドエンジン作りを好む者が多い。それには大きな理由がある。Sクランクは、ジャーナルベアリングからフライホイールの取り付けまでが短いため、高回転時にフライホイールの振れが少ない分だけ、エンジン振動が少なく気持ち良く高回転域まで一気に回る、といった印象がある。回転馬力を求めるエンジンチューニングでは、フライホイールの重量が大きなファクターとなるため、回転慣性マスを小さくするためにインナーローター仕様のCDIをチョイスする例も多い。回転馬力型エンジンを追求した純粋なレーシング仕様なら、確かにインナーローターの採用が大きな味方となるが、充電系が脆弱なため、街乗りならインナーローター仕様ではなくアウターローター仕様の安定的な充電システムの方が使い勝手が圧倒的に良い。
チューンドモンキーとならび高い人気を誇ったのが6V時代のダックス。走り屋の多くは、テレスコピック型フロントフォークを採用したスポーツ仕様の走りを楽しんだ。モンキーシリーズと同様、6V時代のダックスはSクランクを採用していた。
縦型エンジンの超高回転仕様
ホンダ創立50周年の限定モデルとして発売されたドリーム50。鈴鹿サーキットが開業した1962年、本格的レーシングマシンとして市販されたのが、50ccを超える高性能を発揮したカブレーシングCR110だった。ドリーム50は、そのCR110レーシングのイメージで開発、発売されたモデルだった。写真はジャーナルベアリングとタイミングギヤが外してあるが、左がドリーム50用クランクシャフトで、右が同じ縦型エンジンでもストリート仕様のエイプ50用クランクシャフト。常用1万2000rpm以上、レブリミットは1万5000rpm。レーシングキットパーツ組み込み時のポテンシャルを考慮したクランクシャフト設計は、高回転域でスムーズなレスポンスを可能にするシャフト長。アウターローターを裏返しに組み込むレイアウトを採用したことで、エキサイターコイルと発電コイルがクランクケースカバーの内側に組み込まれている。それらのパーツレイアウトによって可能になったのが、短いクランクシャフト設定=高回転域でもスムーズなスロットルレスポンスを可能にしたエンジン設計だろう。また、クランクシャフトの回転剛性を高めるため、フライホイール側ジャーナルベアリングは大型化されている。
- ポイント1・ 横型エンジンチューニングを楽しむときには、どのタイプのベースエンジンで楽しむのか明確にしよう
- ポイント2・ すでにチューニング済のエンジンを分解メンテナンスする際には、内部パーツの組み合わせを確認してから欲しい部品を注文しよう
ホンダ4ミニエンジンには、カブ系の横型エンジンとCBエイプ系の縦型エンジンがあるが、好みのベースモデルに合せて、エンジンチューニングを楽しむことができる。それほどまで数多くのスペシャルパーツが存在する。ベースモデルが何であれ、徹底的に楽しむことができるのがホンダ4ミニエンジンの特徴でもある。ここでは、横型エンジンをメインに、モデルの違いで「クランクシャフトの仕様が違う」お話しを進めているが、カスタムバイクの中には、様々なスペシャルパーツを組み合わせてチューニングを楽しんでいる例が多く、そんなカスタムマシンは、エンジンを分解しない限り、どんな仕様になっているのかわからないことが多い。
例えば、ボアアップしようと部品を購入したら、すでにボアアップされていたりするなど、ザックリした外観からは内部仕様がわからないケースもある。したがってチューニングパーツを組み込む際には、クランクケースのエンジン番号を調べるのはもちろん、現状のエンジン仕様がどのようになっているのか?確認することも極めて重要だ。ベースバイクを新車で購入したとか、明らかにノーマルだとか、その車両の履歴が明確ならエンジン適合に従ってパーツをチョイスすれば良いが、必ずしもそうとは言えないのがチューニングエンジン作りの難しさや楽しさでもある。
近年の横型チューニングでは、ボア52Φ×ストローク52mmの110cc仕様が人気である。以前に実践したメニューでは、ベースエンジンは6V時代のダックス用。6Vダックスのクランクケースに12Vモンキー用の110ccキットを組み込んだことがあった。同様に、6V時代のスーパーカブ50をベースに、12V仕様の110ccキットを組み込み、12V仕様のエキサイターコイルと発電コイルを組み込んだ電気系をチョイスすることで、完全12V仕様の電気制御でカスタムマシン作りを楽しんだこともある。旧式6V時代のモンキーやカブを純粋なノーマル仕様で楽しむのも良いが、せっかく様々なチューニングパーツがあるのだから、それらのパーツを組み合わせてパワーアップした走りを楽しむのも一考である。そんな面白さを存分に噛みしめることができるのが、ホンダ4ミニカスタム&チューニングの世界である。
最高速168km/hを記録したドリーム110
以前にチューニングを楽しんでいたドリーム50は、エイプ100用レーシングクランクシャフトをドリーム50のシャフト寸法に内燃機加工し対応。純正流用改ピストンを組み合わせて排気量は110ccとした。ビッグバルブを組み込み、燃焼室を広げたSP武川製スーパーヘッド(絶版)を組み合せ、キャブレターにはCR26をセットした。こんな仕様で4ミニ耐久レースのDE耐!にエントリー(当時のレギュレーションは125cc上限だった)。結果はいつものようにエンジンブローでグリッドに並べなかったが、それでもマシンポテンシャルは素晴らしく、電気式スピードメーターをセットしたところ下りのバックストレートでは最高速168km/hを記録!! そのポテンシャルは強烈でしたが、いつもエンジンブローで終了でした。
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