旧車レストアにおける仕上がり具合で気になることは数多い。なんと言っても、見た目を大きく左右する「ゴム部品のコンディション」は、誰もが気になる部分だろう。なかなか見つけることができない部品なら、自作してみようとチャレンジすることになったのがこの企画。ここでは、比較的、現実的な方法とも言える「石膏」を型にした、部品製作にチャレンジしてみよう。パーツの完成度には、誰もが驚く!?まずは、マスター部品からの型どりと、型作りから始めてみよう。

無いと目立つ「メーターケーブルサポート」

1963年モデルとして登場したカワサキ初の本格的量産モデルとして知られる125B8。この緑色のマスカットカラーは、当時のカワサキ福島販売が独自に限定車として販売した通称「フルーツカラー」仕様車。フルーツ王国でもある福島県のマスカットをイメージしているようだ。ゴム製のメーターケーブルプロテクターを、ワンオフしてみよう。

程度が良いけどカチカチの中古部品を型どり

マスターとなる部品は、劣化でカチカチになった純正部品そのもの。まったく同じ部品をフロントフェンダーの左右に各1個ずつ使うカワサキ125B8。フロントブレーキケーブルとメーターケーブル用だ。プラ板にマスターとなる純正部品を置き、アルミテープで土手を作って石膏を流し込む作業手順だ。

アルミテープで型枠作り


アルミテープは意外と腰があるため、形状維持しやすい。何枚か重ねて貼り付け、アルミテープの土手をしっかり補強しよう。アルミテープの仕様には数種類、厚さにも種類あるが、アルミ地肌に粘着剤が付いているタイプ(アルミテープの接着部分に保護紙が貼り付けられていないタイプ)が使いやすいと、製作担当のマキシ板橋さん。アルミ土手が完成したら、型枠の内側やマスターモデルにカリ石鹸と呼ばれる美術造形時=石膏用の剥離剤を満遍なくウエスで塗布する。石膏が硬化しても離型剤なしでは固まった石膏が割れてしまうそうだ。慎重に作業進行しよう。


石膏を流し込むだけでは型強度を得られない。FRP造形の時には、ガラス繊維にポリ樹脂を塗布して樹脂が固まり形状再現するが、石膏には繊維が無いため、意外ともろい。そこで繊維を混ぜて強度アップするのだ。今回作るのは小さな型だが、石膏だけでは乾燥後に割れてしまうため、流し入れた石膏は「サイザル(麻繊維)」で補強する。石膏と同様に販売されている。想像以上に引っ張り強度があり、型の剛性が確実にアップする。

ライン引きの石灰粉のような石膏

使った石膏はサクラ印「焼石膏」A級。プロユースの商品は20kg袋とかが一般的だが、サンデーメカニックにも嬉しい5kg袋がある。石膏練りにもコツがあるが、FRP樹脂を作るときに使う薄いビニールの容器が使いやすいようだ。いよいよ練り込みを開始する。

水を入れたカップの中に焼石膏の粉を少しずつサラサラ流し入れ、水面に石膏が出できて、さらに水面と焼き石膏の粉がほぼ一致(ツライチ)したところで、粉の流し入れをやめる。これが水と粉のバランスポイントだそう。素手をカップの奥まで突っ込み、指先をクルクル回して焼石膏と水を混ぜてゲル状にしていく。粉のダマダマが無くなるように、指先で擦って水と粉を徹底的に混ぜ合わせるのがコツだ。

型への石膏流し入れは慎重にゆっくりと


混ぜ合わせた石膏をゆっくり型の中へ流し入れる。このときにも粉のダマダマが無いか確認しながら作業進行しよう。指先で石膏液を擦りながら流し入れていくのが良いそうだ。いきなりマスターの上に流し入れず、型枠内の周囲から流し埋めていこう。ビニール袋の中に押し込んだ状態で販売されているサイザルをちぎって引っ張り出し、さらに密度が濃いかたまり部分は引っ張って延す。密度を浅くしないと石膏液に馴染み込みにくいのだ。とにかく引っ張って延そう!! 石膏液の中へいきなりサイザルを沈めるのではなく、カップに余っている石膏液の中へサイザルを沈めてもんで、サイザルに石膏液を染み込ませるのが重要だ。指先で擦り合わせて馴染んだところで、型の中に沈めるようにしよう。こうすることで型に流し込まれた石膏液とサイザルが馴染みやすく、エアー噛みしにくく高強度な石膏型を作ることができる。

POINT

  • ポイント1・カチカチに硬化したゴム部品は再利用ではなく、マスター型としての利用価値が大きい。
  • ポイント2・ アルミテープの粘着部分は保護紙ではなく、アルミテープ肌に直接兼着剤が付く商品が圧倒的に使いやすく高強度だ。
  • ポイント3・ 石膏と水の混合割合が成功するか否かを決定する。水の入れ過ぎ、石膏が多過ぎてもダメだ
  • ポイント3・ 石膏の強度アップに麻繊維=サイザルを利用する。サイザル密度が濃いとエアー噛みして型強度が低下するので、しっかりほぐして事前に石膏液と馴染ませてから型の中に沈めるのが良い

ゴム部品のワンオフ製作は、そのマスター型に液状のシリコンゴムを充填して作る製法が圧倒的に多いが、完成部品の大きさによっては、その型取り方法が変わってくる。指先サイズの小型部品を作るのなら、お湯で温めることで柔らかくなる「型取りねんど」が間違い無くお勧めだろう。大型部品を型取りし、製品数として数個(型作り次第だが4~5個程度)自作したい場合は、シリコンゴムを利用するのが一般的だ。マスター部品が大きいと、型取り終了後のマスターを抜く際に、部分的にチカラを加えたり、ひねったりすることがあるが、シリコンゴムを使った型なら、型崩れすることなく、安心して作業を進めることができる。

ここでは「石膏型」によるゴム部品のDIY製作にチャレンジしてみた。FRP部品や樹脂板素材を曲げるための型としては、よく知られている石膏だが、何故、今回ゴム部品の製作に石膏型を採用したのだろう?そのあたりを部品製作のプロであるモデルクリエイトマキシ主宰、板橋さんに伺ってみた。

「マスター形状を見る限り、抜き取りがスムーズにできそうなので、石膏型でチャレンジするのがベストかな?と感じました。ある程度の数作りを想定するならシリコン型作りが間違いありませんが、部品形状が平坦かつ単純なので、石膏型の方がより一般的のような気がしました。数作りには不向きですが、今回は2個完成すれば良いのですからね。部品はカーブしてますが、ほぼフラット形状なので、抜き取りはスムーズにできるはずですよ」とマキシさん。

ここでは、型作りの前半である石膏液の流し込みとサイザルを使った型の補強段取りをご覧頂いたが、確かに、単純形状のマスター型なら、石膏型でもかなりいい感じにゴム部品をワンオフできそうなことがわかった。石膏は、古代ローマ時代にも数多く使われてきた美術品素材でもある。使い勝手の良さとしては、シリコンゴムよりも、明らかに良いと思うが、いかが思いますか?

撮影協力 モデルクリエイトマキシ

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