バイクをメンテナンスするにあたって、交換用の部品が入手できるか否かは重要なポイントです。純正部品があればベストですが、旧車や絶版車になると必ずしも必要な部品があるとは限りません。エンジンメンテで不可欠なガスケット類の中でも、シリンダーベースやエンジンカバーのガスケットなら、自作品で対応できる可能性があります。
シリンダーヘッドガスケットはともかく、ベースガスケットなら自作で何とかなる
アンダーボーンフレームに横型シリンダーエンジンを搭載したビジネススポーツは、それだけでレースが行われるほど人気となったカテゴリー。日本国内ではほぼ見ることのないスズキFD125にはshogun(ショーグン)という勇ましい名称が与えられていた。この車両はキャブレター仕様の2000年代中盤モデル。
ピストンリングの張力低下によってエンジンオイルを掻き落とせなくなっていたことが白煙の原因だった。燃焼室やピストンはオイルが焼けたカーボンで真っ黒。ピストンリングは純正品の番号が不明だったので、ピストン径とリング厚さから別機種の社外リングで代用。
4ストロークエンジンのマフラーから白煙と焼けたオイルの臭いがする時は、オイル上がりかオイル下がりを疑わなくてはなりません。主にピストンリングの摩耗が主因となるオイル上がりも、バルブステムシールの劣化が疑われるオイル下がりも、シリンダーヘッドとシリンダーを外して確認すれば原因の特定が可能です。
原因さえ分かればあとは部品交換で一件落着……といきたいところですが、肝心の部品が手に入らない場合もあります。バイクメーカーには純正部品の保有期限があるため、あまりに古い部品は販売終了となることは避けられません。過去に製造したすべての機種の純正部品を無期限に供給するのは現実的ではないからです。
真っ先になくなるのはカウルやガソリンタンクなどの外装パーツやカラーリングが施された部品で、次に機種ごとにデザインが異なるヘッドライトやテールランプなども販売終了となります。一方で、エンジンやブレーキなど機関部分に関する部品は、バイク自体がモデルチェンジしてから年月を経ても、入手できる割合が高いです。
しかし、日本国内で正規販売されていない並行輸入車の中には、部品番号を特定すること自体が難しいものもあります。特に、海外で生産された小排気量車となると、たとえ部品番号が分かったとしても、国内の流通経路では部品番号に該当無し、となることも珍しくありません。
スズキがインドネシアで販売していたFD125というアンダーボーンフレームのビジネススポーツバイクもそんな一台です。日本に何台あるか分からないようなレアモデルで、ネット上で見つけたパーツリストの部品番号を参考に国内で部品検索したもののまったくヒットせず、インドネシアの部品商に尋ねようとしても言語の壁が高すぎで無理。
それにもかかわらずマフラーからオイルを吐き出す状況に対して、とりあえず分解して原因を探ってみようというのはいじり好きの性分としては致し方ありません。その際に、主たる原因と思われるバルブステムシールやピストンリングの入手は別途考えるとして、それ以外の部品は再使用できるよう注意を払いながら分解するのが鉄則です。
もちろん純正部品が容易に入手できるならガスケット類など問答無用で新品交換ですが、部品番号が不明であればそうもいきません。ヘッドガスケットはメタルタイプなので取り外しは簡単で再利用もできますが(本来は新品交換が原則ですが)、シリンダーベースガスケットがくせ者です。スクレーパーで外周から少しずつ剥がしにかかっても、たいていはどこかで切断してしまいます。年式が古くなるほどその傾向は顕著で、スクレーパーの刃を入れるそばからパリパリと割れてしまうことも珍しくありません。
そんな時でも、単気筒エンジンのベースガスケットなら何とかなる可能性が高いです。切れた部分がピッタリ一致すれば応急処置的に液体ガスケットで貼って復元できることもありますし、パズルのように分解してしまっても自作品で対応できる場合もあります。
燃焼室やピストンに付着したカーボンは、泡タイプのカーボンクリーナーで洗浄する。塗装剥離用のスプレーが使える場合もある。温度が低いと反応が鈍くなるので、冬場はパーツを温めてからスプレーすると良い。
クリーナーをスプレーしてしばらく待ち、ワイヤーブラシでこするとカーボンはきれいに除去できた。ピストンリング由来のオイル上がりなので吸排気バルブを外す必要はないが、念のためバルブの裏側やポートも洗浄してバルブステムシールも交換。純正シールは入手できなかったので、バルブステム径が同じホンダ横型エンジン用部品を流用した。
- ポイント1・エンジンメンテナンスを行う際は交換部品が入手できるか否かを確認してから作業を開始する
- ポイント2・原付クラスの単気筒エンジンなら、純正部品の入手が困難なシリンダーベースガスケットを自作できる可能性がある
チューニングにも使える汎用ガスケットシートを活用する
純正ガスケットを型紙代わりに0.5mmのデイトナ製ガスケットシートに形状を転写。エンジンから剥がす際にカムチェーントンネルあたりが切断したので、その部分はイメージで線をつないでいる。もっと細かく切れてしまった場合は、一度厚紙に貼り付けてからコピーを取ると良い。
M6サイズのスタッドボルト穴はデザインカッターでも切り抜けるが、シリンダースリーブの大きな穴をフリーハンドできれいに仕上げるのは難しいので、サークルカッターを用意して真円に切り抜く。コンパスやサークルカッターはバイクのメンテナンスでも重宝する。
シリンダーとシリンダーヘッド、いわゆるエンジンの腰上に組み込まれているガスケットはシリンダーヘッドガスケットとシリンダーベースガスケットの2種類で、シリンダーとシリンダーヘッドの間に挟まれるヘッドガスケットは混合気の爆発的な燃焼圧力に耐えられるよう金属素材でできています。
それに対してベースガスケットはジョイントシートと呼ばれるゴムや繊維を混合させた素材でできており、汎用品として入手できるガスケットシートから切り出して自作できます。ここではデイトナ製のガスケットシートを使用していますが、2ストロークエンジンにおけるベースガスケットの厚みはシリンダーのポートタイミングや一次圧縮室の容積を変更するチューニングパーツとしての要素もあります。このため、デイトナのガスケットシートには0.1mm刻みで厚さ違いが用意されています。
4ストエンジンでは一次圧縮もポートタイミングも関係ないので、破損したガスケットの補修用として用いますが、厚さを選択する際は純正ガスケットから大きく異ならないようにした方が無難です。
汎用シートでベースガスケットを製作する場合、純正ガスケットを型紙にするのが最も手軽で確実です。クランクケースやシリンダーから剥がす際に部分的に破損してしまったら、その部分は元も形状をイメージしてガスケットに書き込みます。いくつもの破片にバラバラになってしまったら、厚紙などに貼り付けて形状を再現してコピーを取り、その形状をガスケットに反映することで正確なデザインを再現できます。
このコピー方式はクランクケース左右のカバーガスケットの再生でも有効で、カバーからダウエルピンなどを抜いてコピー機に直接置いてコピーすることで、合わせ面の形状が把握できます。
デザインをガスケットシートに書き写したら、ハサミやカッターやポンチなどを使って切り出します。ここでは良く切れる刃物を使うことと、固いカッターマットの上で作業するのがポイントです。切れない刃物を軟らかいマットの組み合わせでは切断面がヨレてしまいがちで、正確な形状が再現できません。
ベースガスケットの役割としては、クランクケースとシリンダーヘッド間のオイル漏れの防止やシリンダースタッドナット締め付け時の沈み込み防止などがありますが、ガスケットによるシール面は限られているので、いい加減な形状にカットしないよう注意しましょう。特に4本のスタッドボルトの間隔と、シリンダースリーブ外径に合わせた円形の切り抜きは重要なので、良く切れるポンチやサークルカッターで仕上げる慎重さが求められます。
- ポイント1・シリンダーベースガスケットを自作するには専用の素材がある
- ポイント2・厚さの異なるベースガスケットは2ストエンジンのチューニングパーツとして活用されている
新作ガスケットをセットする前に、エンジン側に残った破片をきれいに剥がすのが重要
製作したガスケットをセットする前に、シリンダーとクランクケースに残った古いガスケットを取り除いておく。スクレーパーを使う際はパーツ側を傷つけないように注意しよう。
純正ガスケットの形状を正確に転写すれば、自作ガスケットでもまったく問題なくフィットする。そもそも2ストロークエンジンのでは、厚みを変えたスケットでポートタイミングを変更するチューニングパーツとしても活用されている。シートを重ねて厚さを変更する場合は2枚までにすること。
破損したベースガスケットに代わって自作品を切り出した後は、エンジン側に残った純正ガスケットの破片をきれいに剥がすことも忘れてはいけません。張りついたガスケットはクランクケース側に乗ることもシリンダーに残ることもありますが、スクレーパーやカッターナイフでそぎ落としてオイルストーンでならしておくことで、新しいガスケットが密着して余計なオイル漏れを防止できます。
またシリンダーヘッドナットを規定トルクで締め付けた際に、初期なじみでガスケットシートが若干潰れることもあるので、エンジンを復元してしばらく走行したらガスケット部分からオイルが滲んでいないかを確認して、必要に応じてナットを増し締めしておきましょう。
ガスケットの厚さを合わせるためシートを重ねて使用すると、ナットを締め付けた際にクランクケースとシリンダーの隙間から押し出される場合があります。これは締め付けトルクが大きすぎる場合に発生しがちですが、シートを重ねることで合わせ面が滑って外側に逃げやすくなるという面もあります。
例えば、製作するガスケット厚さが0.8mmの場合、デイトナ製のシートでは0.3mmと0.5mmを重ねるのと0.8mmを単体で使う2種類の方法がありますが、0.8mmを1枚で使った方がガスケットのはみ出しやトルク抜けやオイル滲みのリスクを軽減できます。
メンテナンス時には純正部品の入手が可能か否かを事前に確認するのが大前提ですが、もし入手困難なパーツがあっても自作で乗り切れる場合があることも覚えておきましょう。
- ポイント1・エンジン側に残ったベースガスケットの破片はきれいに除去しておくことが重要
- ポイント2・ガスケットに厚みが必要な場合は、薄いガスケットを重ねるのではなく厚みのあるガスケットを一枚で使用する
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