エンジンの排気量アップは、パワーがもっと欲しい!という希望をかなえるための最もシンプルな手段です。4ストローク50~90ccクラス向けのボルトオンボアアップキットは1970年代の小排気量車人気の頃に発売され、当時のバイクいじり好きに大人気のパーツとなりました。今でもいくつもの製品が販売されていますが、機種を問わず最初に行うべきは、ピストンを圧縮上死点に合わせることです。
4ストロークは吸排気タイミングをチェーンで決める。では2ストは?
ホンダモンキーやスーパーカブの横型に対して、エイプやXR系に搭載されたエンジンはシリンダーの角度が立っているため縦型と呼ばれている。輸出モデルでの展開が多い横型はFI化されて存続しているが、縦型はキャブ仕様で生産が終了した。
(※編集部注:エイプ50に限り、FI化したモデルが存在します。)
4ストロークエンジンが動くには、混合気の吸入、圧縮、燃焼、排気を4つの行程で考えます。その動きをつかさどっているのが吸排気バルブです。吸気バルブが開くと混合気が燃焼室に流れ込み、吸気バルブが閉じた状態で圧縮されてスパークプラグの点火火花で着火すると爆発的な燃焼が発生して、燃えかすは排気バルブが開いて排出されます。
これは吸排気バルブの動きだけに着目した説明ですが、実際のバルブの動きはピストンと連動しています。吸気バルブが開いて混合気が流れ込むといっても、空気は自発的に動くわけではありません。吸気バルブが開くのに合わせてピストンがシリンダー内部を下がることで、シリンダー内部の圧力が低下するので吸い込まれているのです。ピストン側から見れば、シリンダーを下がっている時に吸気バルブが開くことで混合気が吸い込まれる、と捉えることができます。
圧縮、燃焼行程も同様で、吸い込まれた混合気を圧縮するためにピストンが上昇して行く過程で吸気バルブが閉じることで、燃焼室が密閉状態となり混合気が圧縮されます。そしてピストンが最頂部に到達する寸前にスパークプラグに火花を飛ばすことで、爆発的な燃焼が発生して混合気の体積が一気に膨張して、ピストンを強い力で押し下げます。
押し下げられたピストンには勢いがついているので、最下部を超えて再びシリンダー内を上昇します。しかしここでシリンダー内部にあるのは燃え終わった混合気なので、最頂部でプラグから火花を飛ばしても燃えることはできません。そこでピストンが最下部から上昇する際には排気バルブを開いてマフラー側に排出します。そして最頂部を超えてピストンが下降するのに合わせて吸気バルブを開くと、また新しい混合気が吸い込まれるのです。
もし圧縮行程でピストンが上昇している途中で排気バルブが開いてしまったら、せっかく燃えようとしている混合気が逃げてしまいます。あるいは吸気のためにピストンが下降しているのに吸気バルブが開かなければ、シリンダー内部に混合気が入らない=燃えるネタがないのでエンジンは掛かりません。
実際のエンジンでは最頂部=上死点、最下部=下死点と呼ばれ、吸気行程では上死点前から吸気バルブが開き、排気バルブは下死点前から開く設定になっていることが多いですが、いずれにしてもピストンとの位置とバルブの開閉は完全にシンクロしている必要があります。
ピストンの位置と吸排気バルブの動きを同期させているのがカムチェーンです。カムチェーンが掛かっているのはカム側ではカムスプロケット、ピストン側ではクランクシャフトとなります。ピストンとクランクシャフトはコンロッドを介して一体化されているので、カムチェーンによってピストンと吸排気バルブの動きが連動していると考えられます。
4ストロークの中にはカムチェーンを使っていないエンジンもあります。例えばカワサキW650/800はベベルギアという機構でクランクシャフトと吸排気バルブを連動しています。一方ハーレーダビッドソンはプッシュロッドという棒でクランクシャフトの回転を吸排気バルブに伝えています。
これらの4ストロークに対して、吸排気バルブを持たない2ストロークエンジンがどのように吸気、圧縮、燃焼、排気を行うかと言えば、シリンダーの壁面に開いた穴=ポートとピストンの高さによって行程を分割しています。この仕組みについては、また別の機会に説明したいと思います。
- ポイント1・4ストロークエンジンの4行程は、ピストンの位置と吸排気バルブの開閉タイミングで成立する
- ポイント2・OHC、DOHC、OHVなどの形式を問わず、クランクシャフトとカムシャフトが同期してエンジンが作動する
圧縮上死点に合わせればピストンと吸排気バルブの位置関係がつかみやすい
エンジンを分解する前に、ピストンと吸排気バルブ位置を確認するためにヘッドカバーとエンジン左側カバーを取り外す。
フライホイール外周には刻印があり、エンジン側の合わせマークと一致させることでピストンの位置が分かる。Tマークはピストン上死点を示し、Fマークは点火時期を示す。点火時期は上死点より前に来るので、この画像ではフライホイールは反時計方向に回ることになる。
スプロケットボルトが外れているが、フライホイールのTマークを合わせてカムスプロケットの上部に○印が見える時が圧縮上死点となる。○が見えない状態でTマークを合わせると排気上死点となりバルブが開いている。
ピストン径を拡大して排気量を上げるボアアップキットは、小排気量エンジンのチューニングパーツとして1970年代から人気がありました。50ccを88ccにするだけで排気量比は60%以上アップになるので、バイクが速くなるのは当然です。
ホンダモンキーやスーパーカブなどの横型エンジン、CB50やエイプ/XR系の縦型エンジンのいずれにも多くのパーツコンストラクターがボアアップキットを販売しています。昔はキャブレターだったので、排気量アップに伴いキャブセッティングを行ったものですが、FI車が主流となった現在は燃料噴射量をコントロールするサブコンピューター付きのキットも販売されています。
使用するキットの種類によらず、またボアアップキットの装着ではなくオーバーホール目的であっても、エンジンからシリンダーヘッドを取り外す際は先に説明した通りピストンと吸排気バルブの位置関係を合わせることが重要です。クランクシャフトと吸排気バルブがカムチェーンでつながっている場合、適当な位置で分解すると組み立て時のタイミング合わせの基準が分からなくなってしまいます。
前段でピストンとバルブの動きがシンクロすることが重要だと書きましたが、混合気を閉じ込めるため吸排気バルブが閉じているはずのピストン上死点時にバルブが開いていたらどうなるでしょうか?
上死点ではピストンが燃焼室に最接近するので、バルブが開いていたらピストンと接触する可能性があり、そうなればバルブが曲がるかピストンが破損するかもしれません。そうなれば混合気を吸う、吸わないどころの話ではなくいじり壊しにもつながりかねません。
そうしたトラブルを未然に防ぐには、分解する際に組み立て時のことを考慮しておかなくてはなりません。具体的にどうするかといえば、分解時にはピストンを圧縮上死点にしておくのです。そうすれば吸排気バルブが閉じてピストンが最頂部にある状態になります。
バルブとカムシャフトの関係に注目しても、圧縮上死点では吸排気バルブが閉じている=カムがバルブを押していない=バルブスプリングが縮んでいない状態なので、カムシャフトを取り外す際にも余計な力が加わらないという利点があります。
ただしこれは単気筒エンジンでの話であり、2気筒以上のエンジンでは事情が異なってきます。例えば1、4番シリンダーと2、3番シリンダーが同一面上にある4気筒エンジンの場合、1番シリンダーを圧縮上死点としても他のシリンダーは圧縮上死点にはならず、吸排気バルブもどこかが開いた状態になります。
この状態でシリンダーヘッドを取り外すためにカムキャップを緩めると、バルブが開いている部分ではバルブスプリングの張力でカムシャフトが押されます。その力が一カ所に集中しないよう、カムキャップのボルトは均等に緩めることが必要です。カムシャフトを取り付ける際も同様で、一カ所のキャップだけを締めればスプリングで押されたカムが傾いてトラブルにつながる可能性があります。
4気筒が同時に圧縮上死点になるタイミングはないので致し方ありませんが、単気筒と4気筒では異なる点があることも知っておくと良いでしょう。
- ポイント1・単気筒エンジンを分解する際は、まず最初にピストンを圧縮上死点に合わせることが重要
- ポイント2・多気筒エンジンは一カ所のシリンダーで圧縮上死点としても他のシリンダーではバルブが開いているので、カムシャフトを外す際はカムキャップのボルトを徐々に均等に緩める
フライホイールのTマークをクランクケースの合わせマークに一致させる
ピストン上死点の時に2個のカムスプロケットボルトは水平となり、シリンダーヘッド上面に干渉してソケットレンチが使えない。スパナで緩めるとなめるリスクがあるので、フライホイールを少し回してカムスプロケットボルトを露出させて、ソケットレンチで緩める。2個のナットを緩めたら、再び圧縮上死点位置に合わせる。
2個のカムスプロケットボルトはサイズが同じだが材質が異なるので、外す際は位置を覚えておき、同じ位置に戻すこと。ボルトの落下に注意。
話は単気筒エンジンに戻りますが、上死点を知らせるため多くのエンジンのフライホイールにはピストンの位置を示すマークがあります。フライホイールでピストン位置?と思われるかもしれませんが、先に述べたようにピストンはコンロッドを介してクランクシャフトに組み付けられているので、クランクシャフト端部のフライホイールでピストン位置が分かります。
画像で紹介しているのはホンダエイプで、左側のエンジンカバーを外すと現れるフライホイールの外周にTとFの文字と線が刻まれています。このうちTマークの線をクランクケース側の合わせマークに一致させた時、ピストンが上死点となります。ただし、以前の記事で説明したように、4ストロークエンジンの上死点には圧縮上死点と排気上死点があるので、シリンダーヘッドを外すには圧縮上死点にしなくてはなりません。
ここで確認するのはカムシャフトを回すカムスプロケットです。カムチェーンが掛かる外周近くの一カ所に丸いマークが刻印されており、フライホイールをTマークに合わせて○が見えれば圧縮上死点です。
フライホイールとカムスプロケットの位置関係をこのように合わせておけば、ピストンは上死点で吸排気バルブが閉じているので、バルブスプリング周りにストレスを掛けることなくシリンダーヘッドを取り外すことができます。シリンダーヘッドが外れたら、シリンダーとピストンをカスタムパーツに取り替えれば、ボアアップ作業も難しいことではありません。
バイクいじりの中でもエンジンの分解組み立てに苦手意識を抱くバイクオーナーは多いですが、予備知識として分解時のセオリーを知ることでエンジンチューニングに対するハードルが少しでも低くなれば、バイクをもっと楽しめるようになるでしょう。
カムスプロケットを取り外したら、カムシャフトを押さえているカムキャリアのナット4個を取り外す。このナットはクランクケースからシリンダー、シリンダーヘッドを貫通するスタッドボルトの端部を固定する重要なナットだ。
圧縮上死点で吸排気バルブが閉じているため、ロッカーアームがカムを押していない。そのためカムキャリアにはスプリングの張力が加わらずスムーズに取り外すことができる。ここまではフレームにエンジンが載ったまま作業できるが、シリンダーヘッドを外そうとするとフレームが干渉するため、フレームからエンジンを降ろす必要がある。
フレームからエンジンを降ろせば、シリンダーヘッドを取り外すことができる。最初からエンジン単体で分解しても良いが、カムキャリアのナット4個を外す際にエンジン本体を保持した方が緩めやすいので、その工程までは車載状態で行った。
シリンダーを引き抜けば中からピストンが出てくる。この時点でピストンは上死点となっている。ボアアップなどでピストンを組み替える際にクランクシャフトが回るのは構わないが、新しいシリンダーをセットしてシリンダーを載せて、カムスプロケットを復元する際はフライホイールのTマークをエンジン側の合わせマークと一致させて、カムスプロケットの○マークが真上に来るようにカムチェーンを掛ける。
- ポイント1・フライホイールのTマークをエンジン側の合わせマークに一致させることでピストンが上死点になる
- ポイント2・ホンダエイプ系エンジンの場合、フライホイールのTマークを合わせた上でカムスプロケットの○マークが見えれば圧縮上死点となる
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