長年にわたって使い込まれた樹脂部品には、多かれ少なかれ劣化している部分がある。バックミラーを調整しようと動かしたところ、あれっ!?ミラーボディが垂れ下がってしまった……と確認すると、ボディが割れてしまい調整不能。なんて経験、ありませんか? ここでは、接着剤の利用ではなく、樹脂部品をしっかり接続固定できる「溶着」の応用で、樹脂製バックミラーボディを補修してみよう。

使うのはハンダゴテと溶着樹脂棒


経年劣化によって樹脂は縮んでしまうことがある。また、熱や紫外線で反ってしまうこともあるが、そんな状況によってミラー調整部分のクリアランスが減り、そんな中でミラー角度を調整したことで「パキッ!!」となってしまったようだ。動き硬いときには無理せず、シリコンスプレーを調整部分の隙間に吹き付けてから動かすのが良い。

今回は無理に割れ部分を引き寄せず、割れた隙間に樹脂を溶かして流し込み、溝を埋めることで修理再生することにした。ハンダは熱し過ぎると樹脂が焼け、煙が出て炭化してしまう。そうなると強度が無くなってしまうので、ハンダのコンセントを抜き差ししたり、濡れぞうきんに熱源を押し付け、冷ましながら作業進行するのが良いだろう。温度調整可能な高機能商品もあるが、ここでは一般的なハンダごての(30W)を利用した。溶かし込みに利用する樹脂棒は、模型店などでも購入することができる。ミラーボディはPP(ポリプロピレン)製だと判断し、市販のPP樹脂棒を利用した。


一番良い溶着棒は、ミラーと同じ素材=壊れたり不要になったバックミラーのベースをカットしたものが最高だが、修理したい時に、そのような材料はなかなか無い。ハンダでミラーボディの樹脂を溶かし、さらに溶かしたPP樹脂棒を一緒に練り込む。実用本位なら溶着だけでも良いが、見た目を仕上げるには彫刻刀を用意し、盛り上がった樹脂部分をそぎ落とす。ここで使っているのは大工さんが使うノミ。研ぐことで切れ味が良くなる。

サンドペーパーで仕上げ修正


裏面が粘着テープになったサンドペーパー(800番)を利用し、金尺(金属製の150mmものさし)に貼り付けて、溶着補修した患部周辺をなだらかに磨いた。樹脂部品は柔らかいので、軽く擦ることで表面はなだらかになる。ミラーエッジに残った接続段差も、なだらかに削った。接続部分の溶着樹脂がしっかり練り込んであれば簡単に割れることはない。失敗理由の多くが、熱しすぎの樹脂炭化=強度不足である。

表面はこの程度にまで仕上げることができた。強度的には十分なようだし、ミラー調整時の抵抗感も申し分ない。スクーターなどの樹脂ボディの割れも、ハンダごてを使って修理することができるが、ボディ材質に合致した樹脂棒もしくは不要な部品を短冊状にカットして、溶着棒として利用するのがベストである。

デイトナの樹脂ブラック

経年劣化や白化によって薄汚くなってしまった樹脂部品を黒々とした部品に復活させる缶スプレー塗料。ペイント時には、ペイント部分の脱脂洗浄をしっかり行ってから作業しよう。PE部品はペイントしやすいが、一般的にPP部品はペイントしにくく、密着剤を先に塗る必要がある。この樹脂ブラックは、PP剤でも直接塗れるのが大きな特徴だ。

POINT

  • ポイント1・強度が必要な樹脂部品は接着剤利用ではなくハンダごてを利用した溶着補修で修理しよう
  • ポイント2・ 樹脂部品は連続的に煙が立ち上るほど熱してはいけない。キャラメルのような解けと粘りが出たら溶着棒を溶かして練り合わせて冷まし固定する
  • ポイント3・樹脂本来の色で仕上げたいときには樹脂ブラックスプレーの利用がおすすめだ。スクーターボディやステップ周辺の白化も美しく仕上がる

バイク用外装部品が大きく変ったのは1958年。ホンダのスーパーカブがそれまでの常識を覆した。50年代以前は、鉄、アルミ、銅板などのプレス部品が一般的で、表面処理は塗装かメッキが一般的だった。初代スーパーカブが登場した時には、フロントフェンダーやレッグシールド、サイドカバーなどにポリエチレン系の熱可塑樹脂が採用された。技術的に試行錯誤が続いていた時代で、成形部品の色合わせが難しく、使用部品が限られるケースもあったようだ。60年代に入るとABS製合成樹脂部品が登場。70年代に先駆けCB750が登場した際には、ABS製部品が数多く採用されていた。その後は、技術革新が続き、有機溶剤やガソリンに強いPPポリプロピレンやPEポリエチレン製部品が数多く採用されるに至っている。

ここで修理再生しているのは樹脂製バックミラーだ。レンズを取り外すことができれば、内側には素材記号が入っていると思うが、明確に材質が何なのかは不明。このような樹脂部品の場合は、接着剤を利用するのではなく、最初から樹脂を溶かし合せる「溶着」がベストだろう。強度的にも接着剤利用より強い仕上がりを望むことができる。

そこで用意したのが「ハンダごて」だ。亀裂が入った溝には、黒色PP素材の溶接棒(模型屋さんで購入できる)を溶かして練り込みながら充填しようと思う。つまり母材となる樹脂部品を溶かしつつ、溶着用樹脂棒を溶かして練り込み合せ、亀裂部分を埋めながら修理再生する段取りである。直射日光による影響が原因で、経年劣化してしまう樹脂部品は、劣化と同時に変形したり、縮んでしまうことが多いようだ。このミラーボディは、劣化による縮みが原因で、レンズ部分とボディが突っ張り合い、パキッと亀裂が入ってしまったようだ。長年使っていれば、様々なトラブルと出逢うもの。こんな状況のバックミラーでも、修理再生できることを忘れずにいて欲しい。もちろん、新品部品に交換するのがベストである。しかし、ツーリング前日にこんなトラブルに気がついたとしたら、修理するのが最善の手段と言えるだろう。

取材協力:モデルクリエイトマキシ

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