エンジンオイルを交換し、暖機運転をしっかり済ましてスタート。高速道路を気持ち良く走っていたところ、前方にゆっくり走っているトラックを発見。シフトダウンして追い越し車線でスロットルを開けたところ、あれ!?エンジン回転ばかりが上昇し、車体が前へ押し出されない……。シチュエーションがどこであれ、追い越し加速などの際に、気がつくことが多いのが「クラッチディスク」の滑りである。

クラッチユニットは、エンジン内部のミッション室側に組み込まれているので、一般的にはエンジンオイルを抜き取らなくてはいけない。しかし、今回はオイル交換直後だったこともあり、エンジンオイルは抜き取らず、作業できないものか……?そんなときにおすすめしたいのが、車体を傾けたバイクメンテナンスのススメ、である。

リアタイヤを持ち上げて作業開始

ここで作業実践しているのはスズキGS1000だが、国産並列4気筒モデルなら(並列2気筒モデルでも)、エンジンレイアウトは似通っているので、同じように作業進行デキルモデルは数多いはず。ハンドルを右側へ末切りし、左グリップを机やテーブル面などで受けることでも車体は斜めに維持できるが、今回はリアタイヤの下に木っ端を挟み、車体の傾きを大きめにしてみた。

今回のような作業に限らず、メンテナンス時に必ず実施したいのが「前輪ブレーキレバーは握った状態」で固定しておくことだ。フロント周りをメンテナンスする時以外は、このようにブレーキレバーのロックしておくと、仮に、作業中に地震が発生してもタイヤが回ってバイクが移動してしまうこともない。トランポにバイクを積載するときも、前輪をロックすることで間違い無く安定する。ここでは、不要になったゴミ箱行きの「タイヤチューブを輪切り」にしたものを使っているが、トランポ用のタイヤロックを工具箱の中に入れておくのも良い。

右側後方がクラッチカバー

カワサキZ1の登場以降、大型バイクのクラッチユニットレイアウトは、ほぼ確立されたと言っても良いだろう。現代の最新水冷マルチエンジンは、ミッションの軸レイアウト変更によって、通称「3階建てエンジン」になっているが、湿式多板クラッチのユニットレイアウトに大差はない。クラッチカバーを取り外すと、このように内部にはクラッチユニットが見える。

特定モデルのメンテナンス(今回はスズキGS1000)なので他のモデルではこのような例は少ないと思うが、おそらく新車出荷当時のままのガスケットがエンジン側へピタッと残った。今回は新品ガスケットを事前に購入していたが、再利用することに決定。部分的に欠落したり、切れてしまったときに交換しようと新品純正ガスケットは購入していたが、これなら再利用できそうだ。しかし、ガスケットがクラッチユニットを隠す状態に覆う部分があったので、クラッチディスクを抜き取ることができるように、不要な部分のガスケットを指先でちぎり取った。

新品ディスクはビニール袋へ

湿式クラッチディスク、より正確に記せば「湿式多板クラッチのフリクションディスク」は、読んで字の如く湿式=エンジンオイルに浸って機能する部品だ。したがって湿式の新品フリクションディスクを組み込むときには、エンジンオイルにしっかり浸してから組み込むのが正解だ。エンジンオイルを塗布しないで組み込むと、エンジン始動後、クラッチが滑ったり、フリクション過多で焼き付き症状を起こしてしまい、エンジンオイルを不用に汚したりディスクを歪ませてしまうことがある。新品フリクションディスクを組み込む際には、事前にエンジンオイルを塗布するが、そんなときにおすすめしたいのが、ビニール袋に少量のエンジンオイルを入れ、その中でフリクションディスクをオイルに浸すことだ。無駄なく効果的なメンテナンスを目指そう。

今回組み込んだアドバンテージFCCのクラッチキットにはクラッチスプリングが同梱されていた。現代の高性能フリクションディスク用コンパウンドで旧車用フリクションディスクを開発しているのが特徴だ。従って摩擦係数が大きく滑りにくいフリクションディスクのため、クラッチスプリングのバネレートは当時の純正部品よりも低くなっている。ワンセットで購入できるおすすめのクラッチディスクキットだ。

プレート引き抜きに便利な磁石棒

旧フリクションディスクや鉄板のクラッチプレートを抜き取る際に、エンジンオイルでハリ付いてディスクを抜き取りにくいことがよくある。そんな際、鉄板のクラッチプレートには磁石棒を利用し、フリクションディスクの抜き取りには、先細かつ先が曲がったピックアップツールを利用するのが良い。いずれの工具ともに2本あると作業性はさらに良くなる。不要になったスポーク(自転車用が細くて使い勝手が良い)が2本あると、フリクションディスクを抜き取るための自作工具を簡単に自作することができる。

エンジンオイルにしっかり浸した新品フリクションディスクとクラッチプレートを順序良く組み込む。クラッチプレートの内側には凸凹があり、クラッチハブに組み合わせるが、面取りされて丸くなった凸凹側を奥にして組み込むことで、クラッチミートがスムーズになる。クラッチ切れの向上を目的に、面取り側を外向きに組み込む例もあるが、一般的には内向き(奥側) に組み込む。

分解時に旧ガスケットが切れずにきれいに剥がれたため、新品ガスケットは温存することにした。そんな際に必ず利用したいのがシリコン系液体ガスケットである。エンジンオイルを封じるときにはシリコン系ガスケットが使いやすくベストだ。少量販売しているデイトナの液体ガスケットは本当に便利!!

パーツクリーナーをウエスに浸し、ガスケット面を拭き取って油分を除去してからシリコン系液体ガスケットを薄く塗布。ガスケットの当り面とカバー締付け座の双方に塗ってから復元した。

POINT

  • ポイント1・クラッチディスク交換に限らず、バイクを傾けることでメンテナンス性が高まることがあるので覚えておこう
  • ポイント2・新品のクラッチフリクションディスクを組み込む際には、エンジンオイルにしっかり浸してから作業開始
  • ポイント3・旧クラッチディスクが抜き取りにくい時にはピックアップツールや磁石棒を利用すると良い
  • ポイント3・切れることなくきれいに剥がれたガスケットは、液体ガスケットを併用することで再利用可能。応急と考えたほうが良いが、オイル漏れや滲みが発生したときには新品ガスケットに交換しよう

「エンジンオイルを交換したばかりなのに~」といったタイミングで、何らかの変化やトラブルに気がつくことがよくある。エンジン内部パーツの点検や部品交換の際には、エンジンオイルを抜き取らなくてはいけないケースが多々あるので、そんなタイミングでの作業は気が重い……。

ここでひとつのご提案。交換したばかりのエンジンオイルを抜き取り、エンジンメンテナンス進行したい際には、2リットルのPETボトルを横向きに置き、上面にカッターの刃を入れ「廃油パン」のごとく利用することで、抜き取ったエンジンオイルを再利用しやすくなる。オイルジョッキへ再注入する際には、異物の混入を確認しやすいのが特徴で、しかも注ぎ口があるため、作業性がすこぶる良いのだ。原付クラスなら、2リットルの容量があれば十分だが、大型モデルの時には、2リットルのペットボトルを2~3本用意。飲料水用でなく自動車のウインドウォッシャー用PETボトル容器でも良い。もはやエコな時代なので、使える部品は再利用したいものだ。

大型エンジンのクラッチユニットは、ほぼ似たようなレイアウトで設計されているため、今回のような組み換え作業や点検は、車体を傾けることで楽にできるはずだ。以前に似たようなメンテナンスをスーパーカプの「遠心クラッチモデル」で実践したことがある。クランクシャフト側に一次クラッチがレイアウトされるスーパーカブだ。このようなエンジンの場合は、車体を大きく傾けて作業することをお勧めしたい。何故なら、ギヤチェンジ時にクラッチリフターが一次クラッチを開放し、ギヤチェンジ時のショックや振動を緩和する構造になっているが、そのクラッチリフター=スチールボール周りが復元時にズッコケて、組み立て復元しにくいのだ。スーパーカブでクラッチカバーを取り外す作業を行う際には、復元時にクラッチリフター周りの組み付けがうまくいかないことが多い。だから車体を大きく傾けて、メンテナンスすることをお勧めしたいのだ。

クラッチカバーに限らず、エンジン部品のカバー類を取り外したときに、幸運にもガスケットがきれいに剥がれることが時折ある(シリンダーのベースガスケットでも同様!!)。そんな際には、作業中もガスケットにダメージを与えないように注意深く進行し、カバーを復元する際には、カバー側の座面だけではなく、ガスケット側の締付け面もしっかり脱脂しよう。パーツクリーナーをキレイなウエスに浸し、ウエスを押し付けるようにガスケットを脱脂するのが良いだろう。さらにシリコン系液体ガスケットを併用し、薄く塗って復元すれば、オイル滲みやオイル漏れが発生する可能性は少ない。仮に、オイル滲みが発生したら、新品ガスケットに交換すれば良いだろう。ショップさんでこのような手順は御法度だが、我々サンデーメカニックのDIYメンテナンスでは、高性能液体ガスケットが本当にありがたい存在になることが多い。仮に、2ストエンジンのシリンダーベースガスケットを再利用する場合は、相手がエンジンオイルではなく混合ガソリンなので、シリコン系ではなく、耐ガソリン性の溶剤系液体ガスケットを併用しよう。

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