スロットルをひねるだけで発進から最高速まで滑らかに加速するスクーター。その駆動系を支えているのがエンジン回転数によって無段階で直径が変化するドライブプーリーとドリブンプーリー、そしてドライブベルトの3点です。原付スクーターの駆動系はノーメンテになりがちですが、走行フィーリングに違和感を覚えたらチェックしてみましょう。

パワー感や最高速が低下してきたら駆動系の摩耗を疑う


フロントとリアにカゴをつけて満載した新聞を運ぶ配達車。新聞配達といえばスーパーカブのイメージがあるが、女性配達員には乗り降りしやすいスクータータイプも人気がある。


原付スクーターで8万kmというのが驚きだが、ライダーだけでなく重い新聞を運んでの距離だからスクーターにとっては過酷だ。乗りっぱなしでは当然ここまで走れないので、エンジンオイル交換はもちろんブレーキや駆動系のメンテナンスは欠かせない。

マニュアルミッションはライダーの操作によって任意にギア段数を選択しますが、スクーターの無段変速はエンジン回転数や負荷によってスクーターが勝手にギア比を調整しています。通勤や通学の手段として、メカニズムに興味を持たず便利な足としか見ていないオーナーにとっては、スクーターはスロットルをひねればいつでも走って当たり前という認識でしょうが、この無段変速はなかなか優れた機構です。

1970年代終盤から80年代前半、ソフトバイクと呼ばれていた通勤通学や近所の買い物向け原付バイクがスクーターに取って代わった頃から、2組のプーリーとV断面のゴムベルトによるスクーターの駆動系は基本的に不変です。

ドライブプーリーに組み込まれた円筒状のウェイトローラーが、エンジン回転数の上昇による遠心力で外側に転がるという、きわめて単純な物理的な作用で、車体とライダーを60km/hの世界まで運ぶ原付スクーター。ギアチェンジにもたついているミッション車よりもスタートダッシュは速いというのは、自動車のATとMTにも当てはまります。

余談ですが、自動車のATは多段階に区切られたミッションギアを自動的に変速していきますが、CVTはスクーターの駆動系と同様に2組のプーリーの間を金属製のベルトでつなぎ、無段階で変速を行います。ただし原付スクーターと異なるのは、プーリーの制御をウェイトローラー任せではなく、電子制御で行っているという点です。これはバイクにも活用されていて、2000年代中盤のホンダフォルツァZにはドライブプーリーを電気的にコントロールする機構が付いていました。

話は原付スクーターに戻り、2組のプーリーのうちクランクシャフトに直結したドライブプーリーに注目してみます。ドライブプーリーは2枚の傘が向かい合ったような構造で、その間に断面がV字状のゴムベルトが挟まっています。この2枚の傘はエンジン回転数によって間隔が自動的に変化して、それにより挟まれたベルトの直径も自動的に変化します。

回転するベルトの直径が変化するという動きは、自転車の変速機を想像すると理解しやすいでしょう。ペダル側とリアタイヤ側の両方にギアを持つ自転車は、発進時にペダルを踏む力を軽くするにはペダル側のギアを小さく、タイヤ側のギアを大きくします。そして最高速で走行するには、ペダル側のギアを大きく、タイヤ側を小さくします。

スクーターの駆動系でもこれと同じことが起こっていて、エンジンが止まっている時とアイドリングの時はドライブプーリーはドライブプーリーの中心近くにあります。そしてエンジン回転数が上昇すると、向かい合う2枚の傘のうちムーバブルドライブフェースと呼ばれる傘に内蔵されたウェイトローラーが遠心力によって外側に移動して、2枚の傘の間隔が狭まり、その間に挟まれたドライブベルトは中心から外側に移動します。

この動きによって、リアタイヤ側のプーリーの外径近くにあったベルトは中心近くに移動して、リアタイヤの回転速度が速くなって速度がアップするという仕掛けになっています。

POINT

  • ポイント1・前後のプーリーとドライブベルトを組み合わせたスクーターの駆動系の仕組みは1980年代から受け継がれている
  • ポイント2・ドライブベルトがプーリー面を滑りながら回転することで無段変速を実現するが、摩擦による摩耗もある

スクーターにとってローラーやベルトのメンテは避けられない


ムーバブルドライブフェースを外すには、ドライブプーリーフェースのフィンに回り止めのホルダーをかけて、センターナットを緩める。ムーバブルドライブフェース、ドライブプーリーフェースというのはホンダ流で、ヤマハではプライマリスライディングシーブ、プライマリフィックストシーブと表記する。


見事に段付き摩耗しているウェイトローラー。ムーバブルドライブフェースとランププレートと呼ばれる金属板の間に挟まれながら、エンジン回転による遠心力で外に移動したり戻ったりを繰り返すうちに、当たりの強い部分が摩耗する。


ローラーが転がるムーバブルドライブフェースの溝もこの通りえぐれてしまう。エンジン停止時とアイドリング時にはローラーは中心近くにあり、回転上昇とともに徐々に外側に移動する。ローラーと溝が摩耗するとムーバブルドライブフェースの移動量が少なくなり、プーリー面の幅が狭くなりきれなくなる。それによりドライブベルトがプーリー面の外縁まで移動できなくなり、最高速が低下する。原因と症状は明らかにつながっている。


本来は中心から外縁まで角度は一定のはずだが、ドライブベルトとの摩擦でプーリー面が波打っている。プーリーが動いてもドライブベルトがスムーズに移動できないと、加速の伸びが悪くなったりパワー感不足につながる場合がある。摩耗の状態によって症状はまちまちだが、このまま乗り続けても良いことはひとつもない。

エンジン回転数の増減に連動して、遠心力によって移動するドライブプーリー内のウェイトローラーは常に摩擦を伴い、その結果として徐々に摩耗していきます。またプーリーに挟まれたドライブベルトも、2枚の傘の間で擦られながら移動して直径を変える動作の中で摩耗していきます。

ローラーとベルトの摩耗によって発生する症状として代表的なものは、発進時の力なさや最高速の低下があります。ローラーの摩耗は参考画像の通りで、円の一部が摩耗によってフラットになっています。本来ならローラーはムーバブルドライブフェースのローラー溝を滑らかに移動するはずですが、段付きになることで動きが一定でなくなり、エンジン回転数が上昇しているのにプーリーの幅が狭くなるのが遅れる場合があります。これは速度が出ていないのに高いギアを選択するのと同じことになり、パワー不足を感じさせる原因となります。

またベルトが摩耗して幅が狭くなると、ドライブプーリーの2枚の傘の幅が狭くなっても、ベルトがプーリーの外縁まで広がりきれなくなり、最高速が低下します。さらに今回は触れませんが、ドリブンプーリーに内蔵された遠心クラッチのシューが摩耗すれば、発進時のクラッチミートでスリップして走り出しが悪くなります。

プーリーやベルトなどの部品は給油やグリスアップができないので、摩擦や摩耗による消耗を軽減する手段はありません。タイヤやブレーキパッド同様に、走れば走るほど減っていくものなのです。つまり、スクーターの駆動系はメンテナンスフリーではないということです。

ただしメンテナンスが必要になるまでの距離と、一般的なスクーターの寿命を天秤に掛けた時に、先に寿命が来れば駆動系の摩耗が進行していても不具合として気づくこともないわけです。また変速タイミングや最高速の低下を気づかないオーナーが所有している場合も、摩耗や消耗が不具合として認識されないことがあります。さらに大原則を言えば、50ccの原付スクーターの法定速度は30km/hなので、最高速まで変速しなくても良いという考え方もできます。

POINT

  • ポイント1・スクーターにとってウェイトローラーとドライブベルトの摩耗は避けられない
  • ポイント2・メンテナンスが必要になる距離と、乗り換えや廃車までの距離によって駆動系のメンテを行うか否かが決まる

摩耗と症状を突き合わせると辻褄が合うからスクーターのメンテも興味深い


摩耗したムーバブルドライブフェースとウェイトローラーを新品に交換する。ドライブベルトに油分が付着するとスリップに直結するので、グリスなしで組み立てる。したがってやがて摩耗していくが、走行距離を重ねるスクーターにとってこの部品は消耗品である。


ドライブベルトはプーリーの角度に合わせて断面がV字状となっている。その上で小さい回転半径にも追従するよう内側は凸凹に仕上がっている。摩耗によって狭くなった幅が使用限度に達していないかとともに、凸凹面の凹の底にクラックが発生していないかどうかも確認しておく。


ドライブベルトの幅は機種ごとで異なるので、交換用に純正部品以外のベルトを使用する場合は適合機種を確認すること。またドライブプーリーフェースのセンターナットを締める際、プーリーフェースにベルトが挟まったままだとナット緩みの原因になるので、リアタイヤ側のドリブンプーリーを広げてベルトを中心近くまで押し込み、ドライブプーリーの外側に接した状態でナットを締めると良い。

とはいえ摩耗した駆動系のまま乗り続けるのは気分の良いものではありません。ここで紹介するのは走行距離は8万kmに達しようとしている、新聞配達に使われている4ストロークモデルのヤマハギアです。原付スクーターで8万㎞というのも相当ですが、重い新聞を積んで発進停止を繰り返す使い方は駆動系にとってもシビアです。

これまでにもドライブプーリーのメンテナンスは行っていますが、今回取り外したところやはりウェイトローラーは偏摩耗が進行していました。またウェイトローラーの摩耗だけでなく、ムーバブルドライブフェースにも異常がありました。具体的にはウェイトローラーが転がる溝の摩耗と、ベルトが移動するフェース面の波打ちです。溝の摩耗とローラーの偏摩耗では、ローラーの偏摩耗の方が進行が早いことが多く、ムーバブルドライブフェースは再利用しながらローラーのみ交換、という修理パターンが一般的なようです。しかし走行距離が多くなるほどローラー溝のえぐれも酷くなっていくので、ビジネスユースのスクーターでは注意が必要です。

ムーバブルドライブフェースの表側、ドライブベルトが接触するプーリー面の波打ちは、最高速まで使うことなく低速でのゴーストップを繰り返す新聞配達車らしい摩耗といえるでしょう。重い新聞を積んで負荷が高い状態で走行し続けると、エンジン回転数は上がっても高いギアに切り替われない状態が続きます。ミッション車であればローギアや2速で走り続けるような状態です。

トルクが大きい低速側を多用することでドライブベルトの摩耗も進行して幅が狭くなっています。幅が狭くなるとベルトがドライブプーリーの外縁まで移動できなくなり最高速が低下します。外したムーバブルドライブフェースを見ると、ベルトの摩耗痕は外縁まで届いていません。新聞配達で最高速度まで上げて走り続ける状況は少ないでしょうが、ベルト幅の摩耗と最高速の低下は見事に結びついています。

スクーターはあくまで移動手段であって、バイクいじりの対象にはならないという考え方もありますが、摩耗や不調には原因があり、その原因を取り除けば確実に復調します。そのプロセスにはスクーターもバイクも違いはなく、不具合を解消した時には達成感を味わえるものなのです。

POINT

  • ポイント1・高負荷で長い距離を走行した原付スクーターの駆動系では確実に摩耗が進行する
  • ポイント2・ムーバブルドライブフェースやウェイトローラー、ドライブベルトの交換は走行距離が多いスクーターの駆動系メンテの必須項目となる

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コメント一覧
  1. 高田 より:

    レッツ4の場合、純正プーリーだとスライドピースやベルトが壊れるよりも前に最高速度45キロまで落ちてくる。今までは5ヶ月で交換サイクルでした。
    ハイスピードプーリーのうちMFRハイパープーリー使用の場合はベルト16000キロで歯欠け断裂寸前になりベルトは交換、丸一年後スライドピースは2万キロで遂に気付かぬうちに完全に壊れてプーリーを損傷させてしまった。このことからウエイトローラーよりもスライドピースのほうが先に壊れる傾向があるようです。以上のMFRハイパープーリーの場合はタイヤとベルト新品状態で高規格道路では最高速度70キロ出ますがスライドピースが壊れるまで平地最高速度60キロをキープできる特性があります。

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