愛車のガソリンタンクに付いた擦り傷を見つけるとショックを受けるものです。しかし実際には、ウェアやタンクバッグ、キーホルダーなどによる擦り傷の多くは、塗装の表面にあるクリア層だけに留まっている場合があります。そのような傷なら、コンパウンドや耐水ペーパーによる研磨で目立たなくしたり、完全に消せる可能性があります。ここでは、クリア塗装の基本構造から傷の見分け方、コンパウンドや耐水ペーパーを使った補修方法、作業時の注意点を通じて、サンデーメカニックでもできる傷消しテクニックを紹介します。

想像以上に気になるガソリンタンクの擦りキズ

乗降時やライディング時にウェアやシューズがガソリンタンクに擦れると、このような傷が付きがちだ。これらがクリア層だけの傷か、カラー層まで達しているかは、耐水ペーパーやコンパウンドで軽く擦ると分かる。

バイクのガソリンタンクは車体の中心にあって、ライダーがもっとも目にする外装部品のひとつです。そのため、小さな擦り傷でも意外と気になることがあります。

傷の原因として多いのは、乗り降りの際にウェアのファスナーやバックル、シューズのつま先が触れること、ニーグリップによる長年の擦れ、タンクバッグの固定ベルトやマグネットの摩擦などです。ツーリング先の駐輪場で隣の車両が接触したり、洗車時の拭き傷が原因になったりするケースもあります。

こうした傷は走行性能に影響することはありませんが、一度気になり始めると視界に入るたびに目についてしまうものです。特に愛車を大切にしているオーナーほど、精神的ダメージは大きくなります。

しかし、傷の状態を正しく見極めれば、必ずしも再塗装や部品交換が必要になるとは限りません。まずは傷の深さを確認することが大切です。

バイクの塗装にはクリア層があるものとないものがある

傷の補修方法を理解するためには、まず塗装の構造を知っておく必要があります。

現在の多くのバイクでは、下地の上にカラー塗装を施し、その表面を透明なクリア塗装で覆う「クリアコート仕上げ」が採用されています。ソリッドカラーでもメタリックカラーでも、艶や耐候性を高めるためにクリア層を重ねているケースが一般的です。
この場合の塗装構造は、

・下地
↓
・カラー層
↓
・クリア層

という三層構造になります。

一方で、古い車両や一部の部品ではクリア塗装を省略し、カラー塗料そのものを仕上げ面としているケースもあります。また艶消し塗装では特殊なクリアが使われている場合もあり、一般的な磨き補修が適さないことがあります。

今回紹介する補修方法は、主に艶のあるクリアコート仕上げの塗装が対象です。

傷の状態を確認する際は、まず自分の車両がクリア塗装なのかを把握しておくとよいでしょう。

傷がクリア層だけならコンパウンドで消える可能性がある

コンパウンドで傷消しを行う際は「細目」「極細目」といった名称の製品を使用する。これらは#1000より細かなペーパーの削り跡(ペーパー目)を消すことができる。

クリアコート車両の傷補修で最初に試したいのがコンパウンドによる研磨です。

コンパウンドとは研磨剤を含んだ磨き剤で、塗装表面をごくわずかに削りながら平滑化することができます。

クリア層にだけ傷が入った場合、その傷は例えるなら透明な膜の表面に付いた溝のようなものです。そのため、その周囲を少しずつ均していくことで段差が目立たなくなり、結果として傷が消えたように見えます。

まずは洗車して砂やホコリを完全に除去し、塗装面をきれいにします。その後、細目から極細目程度のコンパウンドを少量クロスに付け、傷の周辺を優しく磨いてみましょう。

ここで重要なのは「まず最も細かい研磨剤から始める」ことです。

いきなり粗いコンパウンドを使うと、傷を消すどころか新たな磨き傷を作る原因になります。

傷の深さを見極めるには「爪チェック」が有効です。指の爪が引っ掛からない程度の浅い傷なら、クリア層だけの損傷である可能性が高く、コンパウンドで改善することが少なくありません。

爪チェックと並んで傷の深さを判断する簡単な方法としては、「水掛けチェック」もあります。傷の部分に水を掛けたとき、一時的に傷が見えなくなったり目立たなくなったりする場合は、クリア層だけに付いた浅い傷である可能性が高いと考えられます。

これは、水が傷の溝を埋めることで光の乱反射が抑えられ、傷が見えづらくなるためです。逆に、水を掛けても傷の見え方がほとんど変わらない場合は、カラー層まで達している、あるいは深い傷である可能性があります。

もちろん、この方法だけで完全な判断はできませんが、「爪が引っ掛からない」「水を掛けると傷が見えにくくなる」という2つの条件が揃っていれば、まずはコンパウンドによる磨き補修を試してみる価値は十分にあるでしょう。

コンパウンドで変化がなければ耐水ペーパーを検討する

極細目耐水ペーパーの一例。これはシート状で専用スポンジに張り付けて使用するタイプのペーパーで、番手は2000番で非常に細かい。

ここでは#2000の耐水ペーパーでニーグリップ部分を擦ってみる。ペーパーをスポンジに張ることで、研磨時の圧力が均等になりムラが出づらいメリットがある。また研磨時にペーパーに水分を与えることで、削れたクリア層がペーパーに絡みづらくなる。

コンパウンドを使用しても傷が薄くならない場合は、より研磨力の高い耐水ペーパーを使用する方法があります。塗装補修では主に1500番から3000番程度の極細目が使用されます。クリア層の補修では2000番前後から始めるのが一般的です。

ただし、ここから先は削り過ぎのリスクがあるため慎重な作業が必要です。

耐水ペーパーで研磨すると、一時的に塗装面は白っぽい艶消し状態になります。しかしこれはクリア層が削れた証拠で異常ではありません。

その後にコンパウンドで磨くことで透明感と艶が戻ります。

なお、ペーパーを指先で直接押し付けると圧力が集中して磨きムラが発生しやすくなります。スポンジや研磨ブロックにペーパーを巻き付け、面で均一に研磨することを心掛けましょう。

傷補修で失敗する原因の多くは、最初から削り過ぎてしまうことです。

早く傷を消したい気持ちから粗いペーパーや強力なコンパウンドを使うと、元の傷より大きな研磨傷を作ってしまう場合があります。

塗装補修の基本は、

1.まず最も穏やかな方法を試す
↓
2.効果がなければ少しだけ研磨力を上げる
↓
3.再度状態を確認する

という順番です。

例えば、

・極細目コンパウンド
・細目コンパウンド
・2000番耐水ペーパー
・1500番耐水ペーパー

というように段階的に進めます。

ガソリンタンクのクリア層は無限に厚いわけではありません。一度削り過ぎるとカラー層に達し、再塗装が必要になる可能性もあります。

補修作業では「攻める」よりも「様子を見る」ことが成功への近道です。

ポリッシャーがあれば時短&均等な磨きができる

ポリッシャーで磨きたい部分にコンパウンドを適量塗布する。塗りすぎるとバフの回転力で周囲に飛び散ってしまうので、コンパウンドをバフに塗ってから磨いても良い。

マイクロファイバークロスによる手磨きでも充分だが、ポリッシャーを使用することで磨きムラが出ず作業時間短縮にも役立つ。ポリッシャーをタンクに押しつけるとコンパウンドの研削力を引き出すことができるが、強く押し当てると深い磨き傷が入ることもあるので注意しよう。

ポリッシャーで磨いた後は古タオルや古Tシャツなど硬い布ではなく、残ったコンパウンドはマイクロファイバークロスで拭き取る。

小さな傷ならマイクロファイバークロスによる手磨きでも十分対応できます。しかし広範囲の擦れや、複数回のコンパウンド作業が必要な場合はポリッシャーがあると作業効率が大幅に向上します。

ポリッシャーは回転または振動によって研磨を行う工具で、人の手よりも均一な力で磨けるのが特徴です。

特にガソリンタンクのような曲面の多い部品では、研磨ブロックを使った手磨きよりも仕上がりにムラが出にくく、作業時間も短縮できます。

近年はDIY向けの小型コードレスモデルも増えており、自動車やバイクのメンテナンスを趣味にしているなら一台持っておくと便利です。

ただし研磨力が高いため、同じ場所を長時間磨き続けるのは禁物です。ポリッシャーを使う場合も、まずは極細目コンパウンドから始める作業手順は変わりません。

カラー層まで達していなければ磨き補修を試してみよう

「仕方ない」と諦めていた傷が再塗装なしでリフレッシュできるのが磨き作業の魅力だ。目の前の傷がクリア層だけで留まっているのかカラー層に達しているのかを判断した上で、クリア層の傷ならコンパウンドや耐水ペーパーで磨いてみよう。

ガソリンタンクの擦り傷を見ると、「塗装し直さなければ直らない」と考えてしまいがちです。しかし実際には、ウェアやタンクバッグによる傷の多くはクリア層だけに留まっています。

傷に爪が引っ掛からない、あるいは水を掛けると見えにくくなるような場合は、まずコンパウンドによる補修を試してみる価値があります。それでも改善しない場合は極細目耐水ペーパーを併用し、慎重に状態を確認しながら作業を進めます。

重要なのは、いきなり強い研磨を行わないことです。コンパウンドも耐水ペーパーも細かい番手から始め、少しずつ様子を見ることで失敗のリスクを大幅に減らせます。

傷がカラー層や下地まで達していなければ、塗装を行わなくても見違えるほどきれいになることは珍しくありません。愛車のタンクに気になる擦り傷を見つけたら、まずは磨き補修からチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

作業のPOINT

  • ポイント1・ガソリンタンクの傷には、クリア層でとどまるものとクリア層の下のカラー層に達している2パターンがある
  • ポイント2・傷がクリア層だけで留まっている場合、コンパウンドや耐水ペーパーで磨いて落ちる場合がある
  • ポイント3・目の粗いコンパウンドやペーパーは深い傷を作るリスクがあるので、研削力が低くても極細目から作業する
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