
70年代の四輪旧車カスタム、三種の神器と言えば「ソレ・タコ・デュアル(※1)」だろう。一方、我々バイクの世界で70年代カスタム、三種の神器と言えば「コンチ・集合・バックステップ」。カスタムバイク黎明期だった当時は、この三種の神器と呼ばれたスペシャルパーツで個性的かつスタイリッシュな自己満足改造車が数多かった(当時はカスタムマシンと言った呼び方は皆無だった)。しかも現代のように、美しいアルミ削りだし部品のような高品質な部品ではなく、ショップブロデュースの商品でも、手作り感満載なスペシャルパーツが数多かった。
そんな70sカスタムを懐かしむベテランライダーが、マシン作りの中で「バックステップ」をイメージしたときには、やっぱり自作する!?というのが多くの見解だろう。そこで、カワサキZ2/Z1の当時のバックステップキットを模倣し「左右ステップをひっくり返せば!?」といった感じで、スズキGS1000用バックステップの自作にトライしてみた。メンテナンス好きなサンデーメカニックは、時に、あくまで自己満足的なスペシャルパーツを創造するものだ。
※1 編集部注:ソレックス、タコ足(エキゾースト)、デュアルエキゾーストの事
目次
製作素材はあくまで純正部品
初期型GS1000シリーズ用の左右ステップ&ブラケットのセットと、おそらくキックアーム付きのGS400もしくはRG250用の右ステップの3個セットをネットオークションで落札。自己満足できる部品を自作できるのなら良いのだが、気が変った時はノーマルポジションへ即戻せるように、ノーマルパーツには手を付けずそのまま保管。そんな条件で作業進行した。当時では考えられなかったことだが、逆輸入旧車や中古部品が手に入りやすい現在だからこそ、こんな贅沢?かつリーズナブルなスペシャルパーツ作りも可能になるのである。
逆さま取り付けでこんな仕様に?
イメージ的にはこんな感じか?左右ステップブラケットの取り付け(締め付け)ピッチが同一なら、左右ステップを逆さまに取り付ければもう少し楽な展開になったかも知れない。しかし、GS1000は、左右ステップの取り付けピッチが異なっていたので、リアブレーキ側の右ステップは、そのまま逆さまに取り付けることにした。ステップの地上高はやや高くなるように設定し、約120mm後退した位置になることで高速クルージング時のライディングポジションはかなり良くなるはず?ハンドルバーは、スズキGS1000のヨーロッパ仕様純正レプリカを利用。この当時のヨーロッパ向けコンチハン仕様は、カワサキもスズキもヤマハもほぼ同系状だった。ここではシフトアップのカワサキ用ヨーロッパ仕様のレプリカハンドルを購入した。
可倒ステップの向きはカットで調整
ゴムの折りたたみステップのマウント部分とブラケット本体をコンターマシンでカット。セパレートにしてから倒れ角度や微妙な地上高の調整を行いつつ、切った、貼ったの溶接にて部品を再度一体化した。自作改造マニアにとって、金属加工用のベルト式金ノコであるコンターマシンは必需品。溶接機はCO2ガスを使ったMIG/MAG半自動溶接機を利用した。バイクメーカーの量産フレームや部品の溶接にもこの溶接機が利用されている。溶接時には花火が激しく出るので、周辺の保護養生には要注意。引火性のあるものは置かないこと。また、作業後しばらくは現場で待機し、小さな引火なども無いように確認しながら別の作業を進めると良い。安全第一を心掛けよう。
ブレーキペダルが何故、長いのか?
ブレーキペダルの踏み板部分を、どの程度の位置にポジショニングすればバランスが良く機能的にも満足できるようになるのか? バイスグリップで仮固定して、踏み板の位置を決定した。そもそも70年代以前は、前後ブレーキの設定バランスが現代とは違っていた。前4対後6の割合で「後輪メイン」の設計が成されていた時代である。80年代後半以降は、リアブレーキ容量がグーンと減り、リアディスクローター径も小さくなった。その分、フロントブレーキ容量が増え、実用配分が大幅に改められ設計されている。そんな時代的過渡期に登場したモデルであるのと、スズキ初のリッターバイクとの事で、リアブレーキが良く効く設定となっていたのだ。したがってバックステップ化と同時にリアブレーキペダルの長さをカットしても、ペダルを踏み込むテコの原理的には十分。良い効き味を確保することができた。
2液ウレタン塗装+焼き付け乾燥
足周りの小物部品やブラケット、メインスタンドやサイドスタンドを塗り直したいと思うことが時折あるが、気ままなDIYで現状最善の仕上がりを求めたいのなら、2液仕様の耐ガソリン系缶スプレーを使い、焼き付け乾燥を施すのが最善の仕上がりを約束してくれる。完成したステップブラケットからゴム部品を取り外し、2液ウレタン缶スプレーの「ブラック」でペイント。自然乾燥で20~30分後、カーベック製CVジュニアに投入して焼き付け乾燥。温度設定は70℃。狙いの温度に達してからタイマーダイヤルを1時間で設定し、焼き付け乾燥を行った。
いかにもバックステップ!! と言った感じではなく、走りのポジションとしてバックステップ気味が良いので「ノーマル然なデザイン」は大歓迎!! 溶接でポジションを決めたステップブラケット本体は2液エアーウレタンで焼き付けペイント。ブレーキペダルは長さを詰めてから溶接。目立たないように踏み板の下で溶接し、焼けて変色した部分をシルバーでタッチアップした。結果的に純正ポジションに対して120mm後退。高さは60mmアップした。左右共通になるように溶接で位置決めした。
チェンジペダルとリンクも純正流用
スズキGSF系チェンジペダル&リンクと初期型GS1000用ブレーキペダルの中古部品をネットオークションで購入。ステップ関係を含めて、すべての部品の合計落札額は1万円を超えなかった。自作できれば安いものだが、この作業をショップへ依頼すると部品代の数倍は作業工賃として請求されるはずだ。チェンジペダルをイメージする際は、砲金ブッシュを旋盤にて削り出して位置関係をレイアウト。チェンジペダルの長さがやや短く、デザイン的にはイマイチな気がするが、機能的には何ら問題ない。チェンジペダルのピボットは、マウントボルトと併用する設計にした。
- ポイント1・自分仕様のお気に入りパーツは自作することもできる。
- ポイント2・バイクいじり好きサンメカになると各種工作機械が欲しくなる。バイクの増車や部品購入だけではなく、インフラの充実にも積極的に!!
- ポイント3・メーカー純正パーツを利用した(素材にした)カスタム実例になるが、DIYが大好きなサンデーメカニックならこんなことも実現できる。
アメリカ仕様だった初期型GS1000の逆輸入中古車を購入。個人的に憧れていたのは、初期型GS1000のヨーロッパ仕様だった。70年代当時の国内バイクシーンは、メーカーの排気量自主規制=ナナハン規制が激しかった頃で、オーバーナナハンの逆輸入車購入は、夢のまた夢の時代だった。当時、日本のメーカー製エンジンを搭載したビモータ社の輸入発売元では、ヨーロッパ仕様の初期型GS1000を逆輸入。当時のバイク雑誌でテスト記事が掲載されたことがあった。その性能はもちろん、風格がまるで違う……。やっぱりナナハンとは、存在感が大きく異なっていた。
80年代に入ってから逆輸入車ブームが全国各地へ拡がり、各国内メーカーの輸出仕様車が続々と里帰り。スズキと言えば「4バルブエンジン」へすでに移行していた時期だったため、里帰りした大半がGSX1100Sカタナだった。したがって2バルブヘッドのGS1000が、80年代当時に逆輸入された数はごく少数。1985年には、前職の海外出張でイギリスに長期滞在したことがあったが、英雄、バリー・シーン選手の母国イギリスは、スズキ車が特別扱い的に大人気で、その時に見たヨーロッパ仕様の初期型GS1000は、とにかくカッコ良かった。そんな当時の残像を再現するかのように、自分流カスタムを21世紀に楽しんでみたのが、この初期型GS1000である。
70年代世代のライダーにとって、三種の神器と言えば「コンチハン・集合マフラー・バックステップ」と決まっていた。四輪改造車の三種の神器は「ソレ・タコ・デュアル=ソレックスキャブ・タコ足エキゾースト・デュアル管マフラー」だった。切った貼ったの大改造が大好きな自分にとって、この初期型GS1000を購入しようと考えたときには、すでに理想像を想い描いていた。ハンドルは、純正ヨーロッパ仕様と同形状のカワサキ純正ヨーロッパ仕様コンチハンのレプリカを取り付け、集合管はエキパイ径Φ42・7mmのカワサキKZ1000用を切った貼った溶接し直し、GS1000エンジンに合わせて取り付けた。外装パーツもヨーロッパ仕様の社外品デカールを取り寄せ、お気に入りの赤タンクでリペイント再生。そして、いよいよバックステップの順番に至った。当初は、イタリアのタロッティ製を取り付けようかと考えたが、どうも取り付けの位置と踏み込み感がしっくり来なかったので、今回のような自作ステップにしよう……となった。
「自作するしか無い!!」と強い思い込みを抱き、素材集めに取り掛かった。70年代当時、カワサキZ2用スペシャルパーツの中には、純正部品をベースに改造したバックステップが販売されていた。当時、Z2を所有していたので、そのパーツを取り付けたかった思い出がある。このGS1000でも、そんなイメージでバックステップを自作できないものか?夜な夜なインターネット画像を参考に素材パーツを探した。気になる部品を見つけたときには、中古車販売店でそのモデルの現物部品を確認したこともあった。色々と考えを巡らせたが、結局はシンプルな「これって純正!?」と間違われるような仕上がりを目指すことに決定した。
そんなこんなの紆余曲折を経て完成したのがこのGS1000用バックステップである。純正改造ステップバーの位置関係は大満足!!何とかなってしまうことを証明できた気もする。こんなカスタマイズをメンテナンスの延長上に捉え楽しむことができるのも、サンデーメカニックの特権だと思う。あ~、楽しかった!!
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