バイク磨きが好きで得意なライダーにも、外装は磨いてもカウルやカバーの内側は手つかずという人もいます。逆に見た目はそれなりだけど、エンジンや足周りは驚くほど入念に磨き上げているライダーもいます。エンジンの汚れの中でも、ドライブスプロケット周辺に堆積したチェーンルブの汚れは頑固で面倒ですが、小排気量車のエンジンならフレームから降ろして丸洗いするのも一つの手段です。
洗浄なしでのチェーンルブ重ね吹きが汚れの堆積につながる
半世紀前のバイクであることを思えば、エンジン右側だけを見る分には年式相応の汚れ具合だが、左側のスプロケットカバーを外すとコテコテの油汚れが堆積してタイトル画像のような状態になっていた。ドライブチェーンを洗浄せず注油だけを重ねてきたトレールモデルで林道ツーリングを楽しんでいるバイクだと、ドライブスプロケット周りがドロドロになっている車両は珍しくない。
スプロケット周辺だけでなくクランクケース内も洗浄するつもりで、先にシリンダーやピストンを外してからエンジンを降ろす。このバイクは2気筒90ccだが、ホンダスーパーカブやモンキーの単気筒エンジンならさらに軽いので、シリンダーヘッドまでついた状態でもフレームへの積み下ろしは簡単だ。
見えないところに汚れが溜まるのは、家の掃除でもバイクの洗車でも同様です。毎日床の掃除を行っていても普段は滅多に動かさないソファーの下はホコリだらけなのと同じく、ガソリンタンクの下のシリンダーヘッドやキャブレター周辺には汚れ放題で、カウルの内側は砂利だらけというのは珍しくありません。
バイクの隠れ汚れを代表する部分に、ドライブスプロケット周辺の油汚れがあります。ドライブチェーンのメンテナンスを小まめに行うことは重要ですが、そういうバイクほどスプロケットカバーの内側がドロドロでヌタヌタに仕上がりがちなのは皮肉な話です。
スプロケット周りの汚れの多くは、飛散したチェーンルブをきっかけに、ホコリや泥が張りついて粘度化したものです。チェーンメンテの際に、毎回チェーンクリーナーで汚れを落としてから新たなチェーンルブを塗布していれば、スプロケット周辺はあまり汚れないはずです。
しかしつい手順を省略してチェーンルブだけをスプレーし続けると、まず最初にチェーン自体の油分が過剰になり、それがスプロケット部分で飛び散って周囲に付着します。1960年代のノンシールチェーン装着車の場合は、シールチェーンに比べてチェーンルブの役割が格段に重要なので、スプロケット周辺の汚れが目立つ傾向にあるようです。
家のケアでは年に一度の大掃除に代わり、年に二度の小掃除が推奨されているように、ドライブチェーンのメンテナンスでも3回に1回はドライブスプロケットカバーを外して内部を洗浄すれば汚れの堆積を防止できますが、メンテナンスよりも走りに出掛けたいという気持ちが勝れば、チェーンルブの重ね塗りとなる気持ちも理解できます。
そうはいっても、いつまでも見ないふりを続けていても汚れは勝手に消えてなくなることはなく、いざチェーン交換やスプロケット交換をしようとカバーを外した時の光景にやる気を喪失することのないように、たまにはスプロケットカバーの内側を観察してみることも必要です。
- ポイント1・チェーンのメンテナンスを行う際は、クリーナーで汚れを落としてからチェーンルブをスプレーすることで汚れの堆積を防止できる
- ポイント2・汚れの上に塗り重ねたチェーンルブは飛散しやすくスプロケット周辺に堆積した油分に新たな汚れがまとわりついて定着する
パーツクリーナーの浪費がもったいないので灯油に漬け洗い
ある程度はスクレーパーでそぎ落としたものの、粘度のように張りついているオイル汚れをきれいに落とすにはエンジン単体の方が結局は楽。クランクケース後面はプレスフレームの内側に隠れているので、フレームに搭載したままだとほとんど洗浄できない。見えない部分なら汚れたままで構わないという考え方もあるが、フレームとエンジンの隙間からブラシを突っ込んで擦るといつまでも汚れの汁が垂れ続けるので気分が悪い。エンジン単体にすれば妥協することなく洗浄できる。
スプロケット周辺の汚れを洗浄するだけで、エンジン全体の印象は激変する。スプロケットカバーをかぶせれば見えなくなってしまうが、一度ここまできれいにしておけばこの後のメンテナンスが楽になる。外側には年式相応のサビが出ているが、箱状になったプレスフレームの内側は灯油で洗浄しているのでポンコツバイク特有の酸化した油脂の臭いはしない。
飛散したチェーンルブが堆積して汚れを加速させるのは間違いなく、それを小まめに清掃していれば粘土状に固まった汚れに手を焼くことはありません。パーツクリーナーで洗浄しようとしても、コッテリ積もった汚れにはなかなか浸透せずクリーナーを無駄に消費してしまいます。
油汚れを効果的に落とすには、昔から灯油を使うのが最善策とされてきました。缶スプレータイプのパーツクリーナーが存在していなかった1970年代以前は、洗油や灯油をコンプレッサーのエアーを使って吹き付けて洗浄に使っていました。バイクショップの中にはパーツ洗浄台を備えて、灯油や洗油を循環させてパーツを洗浄しているところもあります。
さすがに灯油を噴射するのは気が引けますが、汚れた部分に掛けながらナイロンブラシでこすれば、油汚れならきれいに落とすことが可能です。しかし灯油も掛け流してしまってはもったいないとなれば、エンジンをフレームから取り外して、大きめの金属バットやプラスチックコンテナに入れて灯油を掛けながらブラシで擦ることで、フレームに積んである時よりエンジンの隅々まで洗浄できるようになります。
スプロケットカバーを外すとドライブシャフトやチェンジシャフト、機種によってはクラッチのプッシュロッドがあり、それぞれにオイルシールが装着されています。ゴム製のオイルシールを灯油やガソリンに浸すのは良くありませんが、短時間であればまず大丈夫です。エンジンに灯油をかけてブラシで擦ってパーツクリーナーで洗い流す程度の時間でオイル漏れが始まるようなら、遅かれ早かれシール不良を発生する可能性は高いと思われます。
サンプルに用いたエンジンは50年以上前の機種で、エンジンの機能面では大きな問題はないものの、ドライブスプロケット周辺にはチェーンルブやオイルや泥が何重にも積み重なり地層のようになっていました。その堆積物をスクレーパーやマイナスドライバーで削り落とし、ある程度地肌が見えたところで灯油風呂を浴びせながらブラシで洗浄すると、油分でコーティングされていたがゆえの美しい鋳物肌が現れました。
エンジンを取り外すことでフレームも洗浄できるという利点があります。スーパーカブを筆頭としたビジネス系のバイクにはプレス鋼板製のフレームが多く、エンジンマウント部分はフレーム内側に油や泥汚れがこってり付着していることがあります。。中途半端にフレーム内にパーツクリーナーをスプレーすると、内部の汚れが止めどなく流れ続けてきて「実は相当汚れているんだろうなぁ」とゾッとすることがありますが、エンジンを降ろせばフレーム内部が丸見えになるので納得いくまで洗浄できます。
さらにエンジンを分解する目的でも、あらかじめオイル汚れを洗浄しておくことで余計なトラブルを未然に防ぐことができる場合があります。単気筒エンジンのクランクケースは左右合わせの場合が多く、分解した後で洗浄するつもりで油汚れをいい加減に落とした状態でケースを締結するビスを取り外したものの、オイル汚れに埋もれたビスの存在に気づかず緩め忘れてケースを叩き続け、ついには破損してしまったという実例もあります。面倒でも先に油汚れを落としておけばクランクケースをダメにすることもなかったのに、なんとも残念な話です。そんなトラップに引っかからないためにも、エンジン分解前の洗浄も手を抜かず行いたいものです。
- ポイント1・粘着質&頑固な油汚れにはパーツクリーナーより灯油が有効
- ポイント2・フレームから簡単に取り外せる原付クラスのエンジンなら、エンジン単体にして灯油で洗うのが効率的
- ポイント3・エンジンを分解する目的でフレームから取り外しても、先に洗浄することでトラブルを防止できる
エンジンオイルが溜まる2ストのクランクケース内も灯油で洗浄
2ストエンジンのクランクケース内も灯油で洗浄する。オイルポンプのチェックバルブに問題があってオイルが流れ込んでいる場合は、クランクケースをひっくり返してオイルを捨ててから洗浄する。ガソリンとの混ざりやすさはエンジンオイルによって異なり、それによってクランクケース内に溜まるオイル量も変化する。
クランクケースに灯油を入れて、コンロッドを摘まんでクランクシャフトを回すと、あっという間に灯油にエンジンオイルが混ざって汚れてきた。灯油を入れ替えて洗浄を何度か繰り返すと透明度が増し、ケース内部がきれいになる。
4ストロークエンジンのクランクケース内には常にエンジンオイルが存在しますが、2ストのケース内にはエンジンが掛かっている時だけ、必要に応じてオイルポンプからオイルが供給されるというのが大前提です。
2ストはキャブから吸った混合気をクランクケース内で圧縮して燃焼室に送り込んでいます。そしてこの混合気には、オイルポンプから送り出されてクランクシャフトやコンロッド、ピストンを潤滑するエンジンオイルも含まれています。2スト用のエンジンオイルは、燃焼室内部の部品を潤滑しながら燃焼室で燃えて排気ガスとなるのが前提です。そのため2ストの排気ガスにはエンジンオイルが燃焼した白煙が含まれています。
この2ストエンジンオイルがクランクケース内に過剰に溜まると、いつまでも白煙が消えないという症状につながります。オイルがケース内に溜まるのは、オイルポンプ内部のチェックバルブの不良により、エンジンが止まっているのに重力によってオイルタンクからオイルが流れ込む事例があります。これは1960年代から70年代の、旧車や絶版車のオイルポンプにはままある症状です。
また、オイルポンプの調整不良でオイルが供給過剰となって溜まることもあります。エンジンオイルはガソリンと混合して燃焼するよう設計されていますが、供給過剰であれば燃え残りが発生し、一部はマフラー内部に溜まり続け、あるいはクランクケース内に残り続けます。
クランクケース内部に残ったオイルを排出するにはシリンダーやピストンを外す必要がありますが、4ストと違ってバルブ周りやカムチェーンのない2ストのシリンダーヘッドは単なる蓋なので、取り外すのは容易です。
シリンダーやピストンを外してクランクケースの天地を逆にすることで、一次圧縮室と呼ばれることもあるクランクケース内部に溜まったエンジンオイルを排出することができます。オイルはガソリンより粘度が高いのでケース内部に残る分もあるので、灯油を注いですすぎ洗いすることで油分をより効果的に洗浄できます。
ただしクランクベアリングやピストンピン周りの油分を取り除けば、始動直後の潤滑が危うくなるので、ピストンやシリンダーを復元する際は潤滑剤をスプレーし、分離給油のバイクであっても最初は混合ガソリンで始動するなどの配慮をすると良いでしょう。
さらにエンジンを降ろす際にマフラーを外すついでに、不完全燃焼状態でマフラー内部に溜まったオイルも排出できます。旧車になるとエキパイの入り口を下向きにするだけでダラダラとオイルが滴り落ちることも珍しくなく、そのオイルを洗浄することで排気ガスの白煙が大幅に軽減されます。
このように、汚れたエンジンを単体にして洗浄することで外観はもちろん、2ストなら内部の汚れも洗浄でき、一石二鳥のメンテナンスが可能になります。
クランクシャフトやコンロッドやピストンの油分を洗浄したら、組み立てる際にはオイルを塗布する。ここでエンジンオイルを大量に塗布したら洗浄の意味がなくなってしまうので、エンジン組み立てに適したスーパーゾイルスプレーを吹き付ける。
クランクケースとマフラーのエキゾーストパイプ内に溜まっていたエンジンオイルを捨てて再始動すると、洗浄前よりも明らかに白煙が減少した。エンジン外側だけなくクランクケースやマフラーの洗浄も行うことで、旧車を気持ちよく走らせることができる。
- ポイント1・2ストロークエンジンのクランク室に溜まったエンジンオイルを灯油で洗浄すると白煙が抑制できる
- ポイント2・マフラーに溜まっているエンジンオイルも白煙の元となるので、溜まったオイルは排出する
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