インジェクションでもキャブレターでも、2気筒以上のエンジンを気持ちよく走らせる条件のひとつが「吸入空気量を揃える」こと。4ストの場合はバキュームゲージを使うのが一般的ですが、2ストロークは作業者の感覚次第という面があります。そこで活用したいのがシンクロテスターです。仕掛けは原始的ですが、吸入空気が目で見えるので頼りになります。
アイドリング近辺の負圧が一番強い。だから繊細な調整が必要
4スト4気筒用キャブレターの同調合わせで一般的に用いられるバキュームテスター。4つのゲージの変化を見ながらバタフライのリンク部分のアジャストスクリューを調整することで、スロットル開け始めの回転のバラツキが少なくなり、スムーズに吹け上がるようになる。キャブOH時の必須作業だ。
スズキRG250ガンマに限らず2ストローク2気筒のキャブはそれぞれ独立したスロットルケーブルでピストンバルブを開閉するため、同調合わせは個々のスロットルストップスクリューによって調整する。これが個人の感覚頼みになる部分がありなかなか難しい。
1960年代のサービスマニュアルには、マフラーの出口に手をかざして手のひらに感じる排気ガスの圧力が同じなら同調が取れていると判断する、と記載しているものもあるが、慣れないと圧力差を感じづらい。最初はわざと大きくずらして感触をつかみ、そこから差を小さくしていくことで、徐々に理解できるようになるが、それなりに経験を積まないと自信を持って判断するとはできないと考えた方が良いだろう。
どれだけ最高出力が出ているエンジンでも、走り初めはスロットル全閉からスタートします。1000cc、150馬力オーバーのスポーツバイクを街中で走らせるなら、スロットル開度は1/4も開ければ充分以上のスピードが出てしまいます。
4ストロークでも2ストでも、エンジンが発生する吸入負圧はスロットル開度が小さい領域の方が大きくなります。エンジン自体は常に最大限の混合気を吸いたがり、それをスロットルバルブで遮断しているからです。したがって2気筒以上のエンジンでは、スロットルバルブを全閉から僅かに開いたあたり、つまり信号待ちから発進するあたりでスロットル開度が揃う=同調が取れているか否かが、エンジンフィーリングに大きく影響します。
4スト4気筒のキャブの場合、ホンダCB750フォアK0のような例外もありますが、大半は4つのキャブが連携するリンク機構によって、1本のスロットルケーブルでバタフライが開閉します。そこで吸入負圧を測定できるバキュームゲージをインテークマニホールドにつないで、スロットルバルブの開度を調整します。
一方2ストローク車は、2気筒でも3気筒でもキャブレターは独立して装着され、それぞれのピストンバルブを独立したケーブルで開閉する機種が多いようです(スズキGT380や750の後期シリーズは3連キャブが同期する例もありますが)。
4ストの4連キャブの大半はひとつのスロットルストップスクリューで4つのスロットルバルブを動かすので、一度同調を合わせてしまえば吸入空気量は揃うというのが建前です。しかし複数のキャブが各々別のスロットルケーブルで開閉する2ストマルチとなると、同調を取るのもひと苦労です。
並列ツインを例にすれば、2個のキャブにそれぞれスロットルストップスクリューが付いており、独立した調整が可能です。指定アイドリング回転数が1300rpmだった場合、極端にいえば一方を全閉状態にしても、1個のキャブでなんとかアイドリングするかもしれません。スロットルをある程度開ければ全閉側のピストンも開いてくるので、走ってしまえばなんとかなるかもしれません。
しかし冒頭の通り、キャブレターはエンジンの負圧が大きい全閉付近の調整が重要です。スロットルバルブが僅かに開いた時に同じ量の混合気を吸い込むことで、それぞれの燃焼室が同じだけの仕事をして気持ちよい走り出しを実現します。マフラー出口に手のひらを近づけ、排気ガスの圧力の差を感じながらスロットルストップスクリューを調整するというのが1960年代から続く整備の基本手順です。
確かに人間のセンサーは敏感で、左右のマフラーの圧力が全く異なればその差は分かります。しかし排気圧力の差が少なくなってくると「合ってるような気もするけど、合っていないような気もする」という曖昧な領域になってきます。そこまでくればもう充分という考え方もできますが、バキュームゲージを活用して4ストの同調調整を行うライダーの中には、手の感覚ではなく数字や数値として知りたいという人もいるかもしれません。
- ポイント1・2ストロークでも4ストロークでも、スロットルバルブが閉じている時に吸入負圧が最大になる
- ポイント2・リンク機構を持たない2スト2気筒以上のキャブは、同調とアイドリング回転数の両方をスロットルストップスクリューで調整する
エンジンが吸い込む空気の量を測定できるシンクロテスター
インターネットで検索してヒットするシンクロテスターの大半はこのデザイン。先端のアタッチメントの有無で価格が上下するが、アタッチメントはホームセンターの材料で自作することもできる。パイプが長くて吸気抵抗が大きくても、2個のキャブを相対的に比較するのだから問題はない。
1960年代に製造された2スト2気筒90ccのヤマハAT90。90ccクラス唯一の2気筒はリトルツインと呼ばれ、ビジネスモデルのAT90とスポーツモデルのHS1に搭載された。AT90のインテークパイプはYの字で一個のエアクリーナーにつながっている。
キャブの口径が小さいので二次空気を吸わないように小さめのアダプターをかぶせてエンジンを始動する。左側のキャブは赤い針が2の位置にあるので、右のキャブでも測定する。不揃いであればスロットルストップスクリューで調整するが、吸入空気量が変化するとアイドリング回転数も変わるので、同調とアイドリング回転数の辻褄を合わせる。
そんな時に役に立つのがシンクロテスターです。太鼓のような、カタツムリのようなでサインのテスターは、ウェーバーやソレックスなど自動車のキャブレターの調整用として1970年代からチューニング業界で愛用されてきた測定機器です。
原理としては、キャブレターにテスターを押し当て、スリットが刻まれた円筒状の本体を空気が通過すると、その量を針が示すというとてもシンプルなものです。あまりに簡単すぎて信頼できるのかと不安になるかもしれませんが、吸入空気量を測定するフローメーターという考え方は、フューエルインジェクションシステムで空気量を計量する手法のひとつとして、マフスロー方式として実用化されている実績のある手法です。
2ストキャブの同調で用いる際は、吸入空気量の体積を計測するわけではなく、空気量を相対的に比較します。ここでは並列2気筒時代の1980年代のスズキRG250ガンマと、1960年代のヤマハAT90という2台のバイクでシンクロテスターの使い方を紹介しますが、どちらも基本的な手順は同じです。
シンクロテスターを使う際は、それぞれのキャブレターが吸い込む空気量を測定するため、エアクリーナーとキャブをつなぐパイプを外して、テスターをキャブレターのインレット部に直接押しつけます。それによる吸気抵抗の増加が心配かもしれませんが、シンクロテスターの吸入スリットは充分な面積が確保してあり、抵抗が生じるとしても2個のキャブにそれぞれ当てることで同じ抵抗になるため、相対的な空気量の比較は可能です。
ただし、テスターの先端のアダプターとキャブレターのファンネル部分の隙間から2次空気を吸ってしまうと、テスターの指示値の信頼性がなくなってしまうので、アダプターとキャブを密着させることが重要です。ある程度口径の大きい自動車のキャブレター用に作られたテスターなので、φ20mm以下の原付用キャブにはスカスカですが、ホームセンターで戸当たりゴムなど適当な材料を調達して対応します。
テスターを押し当ててエンジンを始動すると吸入空気量に応じて針が動くので、左右のキャブに交互にセットして現状を把握して、スロットルストップスクリューでスロットルかバルブ開度を調整します。スロットルストップスクリューを締めればバルブが開き、エンジン回転数が上昇して吸入空気量も増加します。逆に緩めればバルブが閉じて回転数が低下して空気量が減少します。これはテスターを使っても使わなくても当たり前のように起こってますが、テスターを使って可視化することでより具体的に理解できるようになります。
そしてサービスマニュアルに示されているアイドリング回転数に合わせても、吸入空気量が結構ずれていることがあることに気づくかもしれません。2つのキャブが同期していないと、2つのシリンダーに流れる混合気の量も不釣り合いになります。
するとスロットルの開け始めで2つのシリンダーの爆発力が揃わず、いわゆるエンジンがバラついた状態になります。スロットル開度がある程度大きくなり、流れ込む混合気の量が近づけば爆発力の差も気づきづらくなりますが、文頭で書いたとおり吸入負圧が一番大きいアイドリング付近での同調のズレは、エンジンフィーリングに影響を与えます。
速度ゼロからローギアに入れて、半クラッチでつないでいくあたりでは大きな発進トルクが必要で、ここで回転数がバラつくと信号発進でも気を遣います。そこでグズついてもスロットルを大きく開ければ力強く加速するから、それも乗り味のひとつとして捉えているライダーもいるかもしれません。2ストでも4ストでもキャブレターの同調がぴったり合うと、スロットル低回度でのもたつきや引っかかりがなくなり、スムーズにスタートできるようになることで逆に盛り上がりに欠けると感じるユーザーもいるぐらいです。
しかしエンジンとキャブレターの関係からすれば、複数のキャブが同時に同じ量の空気を吸える方が理に叶っているわけで、その点では空気量を測定できるシンクロテスターは有用な機器といえます。
RG250ガンマのキャブはAT90 より口径が大きく、シンクロテスターをセットしやすい。キャブとエアクリーナーボックスの距離が近い機種では、エルボタイプのアダプターでテスターの向きを90度振ると測定しやすくなる。
シンクロテスターの数字を見ながら、キャブボディ横のスロットルストップスクリューを調整する。4スト用のキャブではアイドリング回転数調整を気軽に行えるが、シリンダーごとにキャブが独立している2ストではスクリューをいじるたびに同調が崩れてしまうので、キャブ調整の最初にアイドリング回転数と同調を合わせることが重要だ。
- ポイント1・シンクロテスターはキャブレターが吸い込む空気量を測定して表示する
- ポイント2・スロットルストップスクリュー調整で吸入空気量を合わせれば、同調が合っていると判断できる
- ポイント3・同調を合わせるのと同時にアイドリング回転数も合わせる
ケーブルアジャスターでスロットルバルブの動き出しを揃える
キャブレターのトップキャップのケーブルアジャスターで2個のスロットルバルブを同期させる。スロットルバルブとベンチュリーの間に針金やドリルの刃を挟んで、スロットルを開いた時にそれらが同じように動くか否かで調整する。機種によってケーブルの遊び量が数値で示されている場合があるのでサービスマニュアルで確認する。遊びを詰めすぎると、全閉時でもスロットルバルブが引き上げられてしまう可能性があるので、適度な遊びは必要だ。
AT90のキャブレターのトップキャップはナット固定タイプで、キャップの上面にケーブルアジャスター(右)とスロットルストップスクリュー(左)が並んでいる。このタイプのスロットルストップスクリューは締めると回転数が下がり、緩めると上がる。スロットルストップスクリューで回転数と同調を合わせて、ケーブルアジャスターで動き始めの遊びを調整する。
2ストマルチキャブのスロットルストップスクリューがアイドリング回転数を決めるだけでなく同調を決めるためにも機能している事を知ると、スロットルバルブがリンクで同調する4スト4気筒のように気楽にアイドリング調整もできないことに気づくかもしれません。せっかく同調を合わせてアイドリング回転数を決めても、どちらか一方のスロットルストップスクリューをいじってしまえば、回転数だけでなく同調もずれてしまうからです。
とはいえ季節や暖機状態によってアイドリング回転数は多少上下するので、もしスロットルストップスクリューを調整する際は回す角度を同じにすることで、同調のズレを最小限に抑えることが可能です。少なくとも、どちらか片方だけの調整でエンジン回転を上下させることがないように気をつけましょう。
スロットル全閉時のスロットルバルブの位置を決めたら、スロットルを開けた際のバルブの動きを同期させるため、スロットルバルブカバーのケーブルアジャスターを調整します。この作業ではスロットルバルブとベンチュリーの間にドリルの刃や金ノコの刃を挟み、それらがスロットルを開いた際に同じように動くか否かを確認します。
スロットルバルブの原点はスロットルストップスクリューで調整してあるので、動き出しが遅い方のケーブルアジャスターを緩めることでケーブルを引き気味にして再度確認します。この作業を繰り返すことで2本のケーブルの動きを合わせていきますが、アジャスターを緩めすぎて=ケーブルを引きすぎて、スロットルバルブ自体をストップスクリューより引き上げないように注意します。また順序は逆転しますが、シンクロテスターとスロットルストップスクリューで同調調整を行う前に、スロットルケーブルがスロットルバルブを引き上げていないよう、あらかじめケーブルアジャスターを緩めておくことも重要です。
スロットル開度が大きくなれば大丈夫なのに、ローギアでスタートする時にエンジンがバラついてクラッチ操作に気を遣うという2スト車のオーナーは、キャブの同調とスロットルバルブの同期を見直してみると良いかもしれません。
- ポイント1・同調調整を行う前にケーブルアジャスターを緩めておく
- ポイント2・ケーブルアジャスターを締める際は、締めすぎてスロットルバルブを開けないように注意する
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