ドラムブレーキを採用するバイクでは、ブレーキペダルやブレーキレバーの遊びが徐々に増えることがあります。その際はアジャスターで遊びを調整しますが、それだけで安心してはいけません。遊びの増加は、ブレーキシューの摩擦材=ライニングの摩耗が進んでいるサインだからです。「ブレーキが効くから大丈夫」ではなく、ライニング摩耗によって生じる変化や交換時期の見極め方、日常点検で確認したいポイントについて知っておくことが重要です。

ABSの義務化で退場を余儀なくされた機械式ドラムブレーキ

初期型から最終型まで一貫してドラム式だった、ヤマハSR400のリヤブレーキ。自動車のドラムブレーキは油圧式だがバイクはワイヤーやロッドで作動する機械式で、ABSで制動力をコントロールすることは困難。そのためABS装備の義務化によって次々と販売終了となっていった。

ワイヤーやロッドで作動するメカニズムはディスクブレーキよりシンプルで、かつては原付から中排気量車まで幅広く採用されていたドラムブレーキ。しかし現在では、新車でドラムブレーキを採用するモデルは原付を除けばごく少数派となっています。

その背景にあるのがABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の普及です。急制動時にブレーキのロックを防止する安全装備であるABSは、現在では多くの車種で標準装備または義務装備となっています。制動力を断続させるABSは油圧制御を前提としているため、構造的にはディスクブレーキとの相性が良好です。

ワイヤーやロッドによって作動する機械式ドラムブレーキはABSとの組み合わせが難しく、システムの複雑化やコスト増加につながります。そのため現在では小排気量車までディスクブレーキ化が進み、ドラムブレーキ車は徐々に姿を消しつつあります。

とはいえ、公道を走行するバイクの中にはドラムブレーキ車が数多く存在し、長く安全に乗り続けるためにはメンテナンス方法を理解しておくことが重要です。

ドラムブレーキのライニングが摩耗するとペダルやレバーの遊びが増える理由とは?

ドラムブレーキの制動力を生み出しているのは、ブレーキシューに貼り付けられたライニングです。

ライニングは使用するたびに少しずつ摩耗していきます。摩耗が進むと、ブレーキシューがドラムへ接触するまでの移動量が増えるため、ブレーキペダルの踏み代やブレーキレバーの引き代が大きくなります。

そのため以前よりも深く踏み込まなければ効かなくなったり、レバーを握る量が増えたりするのです。

ブレーキを掛けるとライニングが摩耗するのはディスクブレーキも同様です。ディスクブレーキのブレーキパッドはベースプレートの上にライニングが焼き付けられていて、ディスクローターに押し付けられて制動力を発生する代わりに、徐々に摩耗します。

しかし、ディスクブレーキ車のブレーキレバーやブレーキペダルの遊びは、パッドが摩耗しても変化しません。その理由はブレーキフルードの液圧で作動するブレーキキャリパーとキャリパーピストンにあります。

ブレーキパッドをローターに押し付けるキャリパーピストンは、ブレーキレバーを握った際にマスターシリンダーから送り込まれるブレーキフルードで押し出されます。せり出したピストンは、レバーから手を離すとキャリパー内に戻りますが、その量はほんの僅かです。

そしてパッドが摩耗するにつれてピストンのせり出し量も徐々に増えていき、パッドとローターの隙間(クリアランス)に変化はありません。

これに対して機械式ドラムブレーキはライニングの摩耗量にかかわらず、ブレーキレバーやペダルを離すとブレーキカムが機械的に元の位置まで戻るようになっています。このため、ライニングが摩耗してブレーキドラムとの隙間が大きくなってくると、ドラムに接するまでの移動距離が長くなるため、ブレーキレバーやペダルの遊びが増えてストロークが大きくなるのです。

遊び調整に頼り過ぎるとブレーキトラブルの元となる

指で触れている蝶ナットがアジャスター。アジャスターを右方向に回すとブレーキペダルの遊びが少なくなるとともにブレーキアームが前方に引かれ、アーム根元のインジケーターの針が動く。この針が左いっぱいまで振れたらブレーキシュー交換の合図となる。

ブレーキペダルやレバーの遊びが増えたら、アジャスターによる遊び調整を行います。しかし、ここでの調整はあくまでもライニング摩耗によって生じた隙間を補正しているに過ぎません。

ライニングの摩耗が進めば、アジャスターを限界まで締めても適正な遊びを確保できなくなります。さらにその状態で使い続けると

●制動力の低下
●ドラム内面への悪影響
●シュー本体の損傷
●安全性の低下

といったトラブルにつながる可能性があります。

特に問題なのはドラム内面への影響です。ライニングが完全に無くなると、ライニングの土台である金属製のシューがドラム内面と接触します。シューにはライニングのような摩擦材としての機能はないので制動力が低下するだけでなく、ドラム内面を傷つけてしまいます。

同様のトラブルはディスクブレーキでも発生し、ブレーキパッドのバックプレートがディスクローターに接することで、ローターが使い物にならなくなる場合もあります。

ブレーキパッドと違って、ブレーキシューはホイールハブの内側にあるため、ライニングの摩耗状態を直接確認するためにはホイールを取り外さなくてはなりません。

それは面倒なので、多くのドラムブレーキ車には摩耗インジケータが装備されています。インジケーターはブレーキカムを作動させるアームに付いていることが多く、ブレーキを操作すると指針が動き、ライニングの摩耗状態を確認できる仕組みです。指針が「LIMIT」や交換限界を示すマークへ近づいている場合は、ブレーキシュー交換を検討する時期といえます。

タイヤ着脱あり。パッド交換より手間がかかるブレーキシュー交換

フロントでもリヤでも、ドラムブレーキのブレーキシューを交換する際はホイールを外さなければならない。ドラムブレーキ車ユーザーにとっては当たり前かもしれないが、ディスクブレーキのパッド交換しかやったことのないライダーにとってはここが大きなハードルになるかもしれない。

アクスルシャフトを抜いてホイールを外すと、ブレーキパネルを取り外すことができる。ドラム内部は摩耗したブレーキライニングのダストが付着している。

ブレーキダストはエアブローではなくパーツクリーナーで洗い流し、ウエスで拭き取る。洗浄後はライニングが接するドラム内面の摩耗や傷の有無を確認しておく。さらにホイールベアリングを指で回してスムーズかどうか、ゴロゴロした感触はないかも確認しておこう。

ブレーキパネルに取り付けられた2枚のシューは強力なスプリングで引き寄せられている。取り外す際は一方のシューを折り曲げるようにすると、スプリングの張力に逆らわず外すことができる。

パネルに付着したブレーキダストもパーツクリーナーで洗い流す。ブレーキカムがスムーズに回転しない時は、ブレーキパネル前面のブレーキアームを外してカムを抜き、軸部を洗浄後に薄くグリスを塗布しておこう。

ライニングが交換時期を迎えたら、ブレーキシューを新品へ交換します。交換時にはシューだけでなく、周辺部品も合わせて点検しておくことが重要です。チェックポイントは次のとおりです。

●ブレーキドラム内面の摩耗や段付き
●ブレーキカムの作動状態
●ピボット部の摩耗
●リターンスプリングの劣化
●ブレーキダストの蓄積

上記はいずれも重要ですが、中でも注意したいのがドラム内面の摩耗や段付きと、ブレーキカムの作動状態の2点です。

ブレーキを掛けるとライニングだけでなく、ライニングが接触するドラムの内面も摩耗します。社外品のライニングの中にはドラムに対する攻撃性が高いものもあり、接触部分の摩耗が進行している場合もあります。

摩耗によってドラム内径が拡大しすぎると安全性やブレーキの効き具合に影響が出るため、ホイールハブ本体やサービスマニュアルに内径上限値が明記されている際は、そのデータを参考に使用の可否を判断しましょう。

ドラム内面が段付き摩耗すると、交換用に使用するブレーキシューによってライニングが段付き部分に干渉してブレーキ性能に影響を与えることもあるため注意が必要です。

ブレーキシューをドラムに押し付けるブレーキカムは、ブレーキレバーやペダルのコントロール性の良し悪しを決める重要な部品です。ライニングやドラム内面へのグリス付着は絶対に避けなくてはなりませんが、ブレーキカムの回転部分やブレーキシューとの接触面はグリスを薄く塗布することで固着を防止でき、摺動部分の摩耗も予防できます。

チェックポイントも重要ですが、ドラムブレーキのブレーキシュー交換でなによりハードルとなるのがホイールの着脱です。

慎重さが不可欠なのは言うまでもありませんが、ディスクブレーキのパッド交換作業は車体からホイールを外す必要はありません。しかしドラムブレーキのシュー交換は原付スクーターでもヤマハSR400でもホイールを取り外さないとできません。

センタースタンド付き車両のリヤブレーキシュー交換なら、スタンドで自立した車体からホイールを外すことができます。しかしセンタースタンド付きでも、フロントブレーキシュー交換を行う際はジャッキなどフロントタイヤを浮かせる手段が必要です。

車体が安定しない状態で作業を行い、途中でバイクが倒れてしまったら取り返しがつかないので、ホイールの着脱に自信がなければバイクショップなどに作業を依頼しましょう。

ドラムブレーキ車を安全に乗り続けるためには、定期的に摩耗インジケータを確認してライニング残量を把握することが重要です。「遊びが増えたから調整する」だけで終わらせるのではなく、「なぜ遊びが増えたのか」というメカニズムを理解した上で適切に対処することがドラムブレーキメンテナンスの基本です。

125cc以上はABS装着が義務化されたことで、原付の前後コンビブレーキ以外でドラムブレーキを採用したニューモデルが発売されることはないが、既存モデルを継続して乗り続けることはできる。そのため交換用ブレーキシューはアフターマーケットパーツメーカーから購入できる。

新たにブレーキシューを取り付ける際は、2個のシューをピボットとブレーキカムを支点にV字状にして、ブレーキパネルに外向きに押し広げると軽い力でセットできる。

ブレーキアームを操作してカムを回し、ブレーキシューが均等に広がることを確認してからホイールを復元する。ブレーキロッドを取り付けたら、ペダルを踏んだ際に適度な遊びができるようアジャスターを調整して作業は完了だ。

作業のPOINT

  • ポイント1・ドラムブレーキシューのライニングが摩耗するとブレーキレバーやペダルの遊びが増える
  • ポイント2・レバーやペダルの遊びが増えたらアジャスターで調整し、摩耗インジケーターが限界値まで到達したらシューを交換する
  • ポイント3・ディスクブレーキのパッド交換と違い、ドラムブレーキ車はシュー交換の際にホイールを取り外さなくてはならない
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