「バッテリーが上がりやすい?」「何故だろう?」そんな経験を抱いたことがあるサンデーメカニックは数多いはずだ。新品バッテリーに交換したばかりなのに、何故だかバッテリーが弱い、あがり気味な雰囲気が……。そんな思いがあるときに確認点検しておきたいのが、チャージ系出力の実測確認である。一般的に、バッテリー電圧の測定や点検は知られているし、実践しているユーザーは多い。しかし、エンジン側の発電機=オルタネーターの交流出力状況がどうなのか?レギュレーターレクチファイア通過後の直流電圧と電流のコンディションはどうなのか?その数値を測定したことがあるユーザーは意外と少ない。これらの発電出力コンディションが良くない限り、バッテリーコンディションが安定するはずもない。
以前は、一般的なサーキットテスターで、静的なバッテリー電圧やアイドリング時のバッテリー電圧、エンジン回転上昇時のバッテリー電圧を測定する作業実践が多かった。しかし現在は「クランプテスター」が買い求めやすい状況にあるので、電圧=ボルトだけではなく、電流=アンペア数値の確認をチェックすることができる。
昔は高額、今は買い求めやすいクランプテスター
現在では様々なテスターメーカー製や工具ショップオリジナルで販売されているクランプテスター。その昔は、かなり高額だったクランプテスターも、現在では比較的買い求めやすい価格帯の商品が増えてきた。今回使ったクランプテスターは、数年前に購入して、本体価格は1万数千円だった。AC/DC切替えで、電圧はもちろん電流測定も可能な商品である。
V(ボルト)レンジでバッテリー電圧の点検
バッテリー電圧の点検時に使うのがV=ボルトレンジ。ダイヤルでVレンジをセレクトし、赤リードをバッテリーの+端子へ。黒リードを-端子へ接続すると、液晶表示左側に直流を示す「DC」の液晶文字が表示され、アイドリング時の測定では直流DC 12.90ボルトと表示。そのままでエンジン回転を6000rpmまで高めると、バッテリー端子電圧は直流DC 14.11ボルトを示した。
V(ボルト)レンジで発電出力値の点検
エンジン内部(ステーターコイル)から立ち上がる3本の配線は、このモデルの場合は3相交流の出力線である。テスターのダイヤルをVの位置にセレクトして、3本の出力線から順列組み合わせで2本間のデータを測定してみた。3本の出力線を仮にA/B/Cと呼んだときに、A-B間、A-C間、B-C間で出力データを測定してみよう。アイドリング時はいずれも交流AC16.8ボルト前後を示し、エンジン回転を5000rpmまで上昇させると、いずれも交流AC61.5ボルト前後まで上昇。さらにエンジン回転を上昇させれば、交流出力値もさらに上昇しそうだ。
クランプテスターで「DC-A」を確認
クランプテスターのクランプ部分に明記される「+-」を確認し、ダイヤルを40Aレンジにセレクトする。バッテリーサイズが14AH(アンペアアワー)なので、このレンジで十分だろう。バッテリーの+ターミナルに締め付けられるリード線をクランプするが、この際にクランプ側面表示の+側をバッテリー側へ向けてクランプ。逆さまにクランプすると表示データが「-/マイナス」になる。アイドリング時はDC-A 2.05アンペア付近を表示し、エンジン回転を5000rpmまで上昇させると8.04付近を表示した。エンジン回転をさらに高めれば、表示電流=DC-Aはさらに高まる。バッテリー端子で測定するデータは、バッテリーコンディションによって左右される。具体的には、弱まったバッテリーなら電圧も電流もチャージしようとして高まるが、逆に、満充電のバッテリーでは、電圧も電流も高める必要性が無いため、数値は抑え気味に表示される。もちろんレギュレーターレクチファイアが正常作動してのお話しではあるが。
- ポイント1・お値頃価格で購入できるようになった高性能クランプテスターを使いこなそう。
- ポイント2・バッテリー電圧だけではなく、エンジン稼働時の交流出力も測定しよう。三相交流なら3系統同じような出力データになって正解だ。
- ポイント3・プラスの赤リードにクランプテスターを挟み、アイドリング時のDC-Aアンペアを測定。エンジン回転上昇時のDC-Aアンペアも測定してみよう。
原付クラスのアウターローター発電は「単相交流発電」仕様が一般的だ。80年代中頃に入り、原付も6V時代から12V時代へとシフト。この時代を契機に、原付クラスも一気に電気系が充実していった。ここでは、大型モデルの電気系がほぼ確立された時代に登場した70年代末のスズキGS1000で発電機能の点検を実施してみよう。
作業実践に取りかかる前に、発電系の歴史を簡単に振り返ってみよう。今でこそ大量に発電した電流電圧を「レギュレーターレクチファイア」で整流し(交流→直流化)、電圧制御されているが、12ボルトモデルでも70年代前半以前のモデルの中には、6ボルトモデルと同じように、レギュレータ機能(電圧制御機能)を持たないモデルもあった。単相交流発電の場合は、レクチファイア(整流器=60年代以前はセレン整流器が使われ、その後、ダイオードが使われるようになった)を通過した電気が交流から直流へと整流され、その後、レギュレータ(電圧制御機器)によって電圧調整されている。12ボルト仕様の場合は、12.8~14.5ボルト前後で電圧制御されている。エンジン回転域によって制御電圧が変化し、過不足無くバッテリーへ充電される設計となっているのだ(6ボルトモデルの場合は6.4~7.2ボルト前後で電圧制御される)。
前述したように、原付クラスの旧車の多くにレギュレータが装備されていなかったため、バッテリーコンディションが低下すると、充電するはずだった電気が車体ハーネス側へ流れ、夜間走行中にヘッドライトバルブが急に明るくなってからバチッと切れたり、同じようにテールランプやウインカーバルブも次々球切れになる、といったトラブルが発生した。仮に、バッテリーコンディションが良ければ、発電された電気は、充電消費の中でバランスが保たれていたはずである。そのような電気回路設計となっていたはずだ。しかし、電球切れが頻発するトラブルが発生……。この原因の多くが、バッテリーコンディションの低下=「バッテリー液量の不足」からくる例が多かった。バッテリー液が不足すると、充電時に沸騰して液が干上がりやすくなるため、この時代のバイクは特にバッテリーコンディションが重要だったのだ。
電装管理が良くなった現代のバイクでは考えにくいが、走行前もしくは走行後には、「バッテリー液量を点検しなくてはいけない時代」があった、それが70年代以前のライダーにとってはルーティンでもあったのだ。
三相交流発電とは、大容量の発電コイルが3個1セットになって交流発電するシステムで、3つのコイルは発電位相をずらしてあるのが大きな特徴だ。エンジン始動中には常に安定発電し、レギュレーターレクチファイアを介すことで整流および電圧制御。そして大型バッテリーへ充電されるシステムである。ここでは、バッテリーコンディションを知るためのバッテリー端子電圧の測定ならびに、エンジン稼働中の交流発電機から立ち上がってくる「交流電圧」とレギュレータ通過後の「直流電流」がしっかり出力されているか?発電機単体の性能も点検してみようと思う。交流でも直流でも、電圧=ボルトの測定は通常のテスターで確認可能だが、電流=アンペアの測定では、専用機器が必要であり、以前は簡単に測定することができなかった。しかし近年では、電流=アンペアを測定できるクランプテスターも普及しているため、このように発電系の良否を判断しやすくなっている。機会があるときには、是非、測定して頂きたい。
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