
旧車のディスクブレーキは、制動時にブレーキキャリパーから「キキーッ」とノイズが聞えることが多い。本来なら、ノイズは出なくて正解である。しかし、ノイズが出たり、ブレーキコントロール中にビビリ感がブレーキレバーへ伝わることがある。旧車の場合は、パーツ交換の時期に至っている例もあるため、いくら整備しても思い通りにならないこともあるが、それでも何とか改善方向にチャレンジしてみたくなるのが、サンデーメカニックの意地?と言うものかも知れない。ノイズの有無にかかわらず、ここでは、可能な限りやっておきたいキャリパー周辺の「ついで」メンテナンスに注目してみよう。
小さな積み重ねで消えるブレーキ音
ここでは80年代の定番ブレーキパッド、デイトナの「赤パッド」を組み込んでみた。80年代以降のモデルラインナップはもちろん、80年代のモデル用もあり、ここではカワサキ70sブレーキキャリパー用のデイトナ赤パッドを組み込んだ。パッケージはZ2/Z1用だが、W3やマッハ系大型モデルにも利用することができる。
基本的にはそのまま組み込む部品だが、押側パッド、受け側パッドとも当り面のエッジを面取りすることで、ローターの引き摺りや使い始め初期のバリ発生を防いでみる策を施してみた。丸パッドのシングルピストンキャリパーに限らず、角形パッドでも同じように面取りすることで、引き摺り音を抑制することができる。
フルード滲み無しなら外部清掃が効果的
2年に1度は最低でもブレーキフルードの入れ換えを行いたいもの。日常ユースで雨天走行を繰り返した梅雨時期などは、使用期間に関係なく、梅雨明け後にフルード入れ換えを行いたい。フルードを抜いてキャリパーメンテナンスを行う際には、ピストンシールをキャリパーから抜き取り、シール溝に堆積している不純物を除去しよう。溝をほじる専用ツールやピックアップツール先端を使って堆積した不純物を除去したら、不要なハブラシなどで溝の中をブラッシングし、パーツクリーナーで洗浄&エアーブローを行う。
取り外したピストンシールは弾力性を確認し、分解時にフルード滲みがある際には新品シールに交換しておこう。ピストンシールを組み込む際には、指先にラバーグリスを塗布し、指先でつまむようにピストンシールにラバーグリスを薄く塗布すれば良い。
ピストンシール無しでスムーズ稼働が重要
ブレーキキャリパー本体からキャリパーピストンを抜き取った際には、ピストン外周の汚れを除去し、点サビなどが無いか?しっかり確認してから復元しよう。点サビがあるとその部分がピストンシールを乗り越える際に、オイル滲みやオイル漏れの原因となる。また、点サビが原因でピストンシールにダメージを与えてしまう場合があるので要注意だ。
ピストン及びキャリパー本体のクリーニングを終えたら、いずれの部品にもグリスやフルードを塗ることなく「完全ドライ状況」でパーツを組み合わせてみよう。キャリパーシリンダー内のピストンが、スムーズに前後作動し、スムーズに回転するか?ピストンシールやフルードが無い状態で確認しておくことが重要なのだ。
キャリパー合せ面は必ず「面出し」
片押しピストンキャリパーでも、70年代前半に開発されたキャリパーは2分割ボディを採用している。ボディの合わせ目にゴミやバリがあるとキャリパー剛性が低下してしまい、ブレーキの効きにも大きな影響が出てしまう。組み付け剛性を高めるため、キャリパーボディの締め付け座面やキャリパーブラケットの座面にはしっかりオイルストーンを掛けて締め付け座面をフラットに「面出しクリーニング」しておこう。
ブレーキング違和感があるときには……
ブレーキング時のフロント周りからビビリが出たり、ブレーキング時にブレーキレバーへキックバック(レバーへ微振動が伝わる)を感じるときには、ディスクローターの歪みや偏摩耗を疑おう。ローターの歪みはホイールへ組み込んだ状態でダイヤルゲージを利用し確認することができる。ローターを組み換えるときには、ホイールハブへの締め付け部分をマーキングしてからローターを外し、ハブ側、ローター側の締め付け座面にオイルストーンを掛けてからパーツクリーナーで洗浄。元通りの位置にローターを組み付け直そう。それでも違和感があるときには、ローターの締め付けを180度回転させて固定し、再度走行確認。変更後のブレーキフィーリングをチェックしてみよう。
- ポイント1・ブレーキパッドを交換する際には、純正部品にこだわらず多くのユーザーレビューを参考に商品選択してみよう。
- ポイント2・ブレーキパッドの組み付け時は、ローター当り面のエッジを面取りしよう。また、パッド裏面のピストン摺動部にはパッドグリスや鳴き止めグリスを薄くのばして塗布しよう。
- ポイント3・キャリパーピストンシールのコンディションを確認し、組み付け時はラバーグリスを薄く塗布しよう。シリンダー側はシール溝内の不純物を徹底的に除去しよう。
- ポイント4・キャリパーピストンとキャリパー本体の脱脂洗浄を終えたら、ドライ状態でピストン挿入し、前後、回転作動がスムーズに行えるか確認しよう。
- ポイント5・ブレーキング時にフロント周りから小さなビビリが出る場合や、ブレーキレバーへのキックバックを感じるときにはローターの締め付け箇所をローテーションしてみよう。
70年代以前の油圧式ディスクブレーキシステム黎明期に登場した部品と80年代以降に登場したメーカー純正ディスクブレーキ用キャリパーを比較すると、その完成度や取り扱い性は絶対的に向上している。ごく一般的なメンテナンスでも、本来持つべき性能を発揮してくれるのが後年に登場したキャリパーだ。一方、70年代前半に登場した油圧ディスクブレーキ用キャリパーは、技術的にも過渡期感があり、メンテナンス性も決して良いとは言えない。通常のメンテナンスで、十分な効き具合を発揮するものの、押し歩きの際にパッドの引き摺りを起こしやすかったり、ブレーキの鳴りが発生しやすいなど、後年のディスクブレーキ用キャリパーと比べると、メンテナンスにもコツのような慣れのようなものが必要なことが多い。
フレアリングパイプと呼ばれる「金属パイプ」のオイルラインをブレーキキャリパーへダイレクトに締め付ける部品は、取り付け方や締め付け手順を間違えると、パイプが曲がって(変形して)クセが付いてしまい、そのクセがキャリパー本体の作動性に影響し、フローティング作動の妨げになってしまうこともある。
80年代初頭以降に登場した片押し(一方向から作動するピストンによってブレーキパッドがディスクローターへ押し付けられる)キャリパーは、キャリパー本体が一体構造でメンテナンス性が良いのも特徴だ。70年代以前の油圧ディスクブレーキ用キャリパーは、同じ片押し構造ながら、キャリパー本体が表裏別体構造で、締結ボルトで一体化。また、締結ボルトがフローティングガイドになっている構造のキャリパーもあった。まさにバイク用の油圧ディスクブレーキシステム黎明期の技術遺産とも呼べる構造である。
昨今の旧車ブームの中で、ホンダCB750Kシリーズやカワサキ空冷Zシリーズ、2ストモデルのサンパチやマッハが数多く公道復帰しているが、中には部品の摩耗やコンディション低下が原因で、パッドの引き摺りやブレーキノイズを発生させている個体もあるようだ。
ここでメンテナンス実践しているのは、カワサキの初代油圧ディスクブレーキシステム用のキャリパー本体。具体的には、1971~77年までの2スト大型トリプルに標準装備されていたブレーキキャリパーである。キャリパー本体のフローティング作動性にフレアリングパイプが影響しないよう、パイプの曲がりに注意したり、キャリパーサポートブラケットのガイドブッシュにガタが出ないように定期的にメンテナンスするなど、それでもブレーキパッドの交換時にはパッドエッジを面取りしたり、パッド裏面のキャリパーピストンが当たる部分には鳴き止めグリスを塗布するなど、様々な注意を払いながらメンテナンス実践してきた。メンテナンスの甲斐もあり、ブレーキの効き具合は申し分なかった、しかし、時折引き摺りが発生したり、停車寸前にキーッとノイズが出たりなど、なかなか思い通りにならないこともあった。ブレーキシステムに限ったことではなく、旧車のコンディション維持には慣れやコツが必要なのは確かな事実である。それでも、当たり前のメンテナンスや手順を確実に実践し、愛車のコンディションを可能な限り保ちたいものである。
フルード充填に効果的な逆流式エアー抜き
ブレーキフルードを完全に抜いた状態でメンテナンスを行い、パーツを復元した際には新規でブレーキフルードを充填することになる。そんな際には、シリンジにブレーキフルードを充填して、キャリパー側エアーブリーダーから「ブレーキフルードを逆流充填する」ことで、無駄なくフルードを流し込むことができる。ブレーキマスターのリザーブタンクへフルードが上がったら、ブリーダーを締め付けてブレーキレバーを小刻みに作動させてマスター周りのエアー抜きを行い、その後、通常のエアー抜き方法でキャリパーブリーダーからエアー抜き作業を行えば良い。作業スピードの早さに驚くはずだ。エアー抜きができたら、ハンドルを左に切って車体をサイドスタンドで保持し、プレーキレバーをタイラップや輪切りチューブで握り込んだまま一晩置いてみよう。この方法が意外にも効果的だ。ブレーキホース内の細かなエアーがリザーブタンクへ上がる「ダメ押しエアー抜き」と呼ばれる方法だ。
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