
扱いやすいコンパクトさとパワフルを備え、10年ほど前からスクーターの中心クラスとなっているのが125ccモデルです。エンジンが4ストロークになって以降のスクーターはオイル補給の手間もなく気楽に乗れるのが魅力ですが、2スト時代より車重が増えた分、ブレーキの役割が重要になっています。知らないうちにパッドが摩滅していた!!なんてことにならないよう、定期的にブレーキのチェックを行いましょう。
レバーの遊びが変わらないディスクブレーキはローター破損のリスクが高い?
2013年にデビューしたスズキアドレスV125SS。コンパクトな車体は街中での取り回しが良好で、通勤や通学に愛用された。
現行モデルのアドレス125はフロントに12インチタイヤを装着するが、ひと世代前にあたるV125SSは10インチ。ブレーキキャリパーはピンスライドの1ピストンタイプ。
2ストローク時代のスクーターのブレーキといえば、スタンダードグレードは前後ドラム、ホンダディオZXやヤマハジョグZRなどのスポーツモデルになるとフロントディスクという仕様が相場でした。50ccモデルが減少した代わりに125ccクラスのスクーターが充実した現在では、フロントディスクは当然、リアブレーキもディスクという機種も珍しくありません。
ディスクブレーキはドラムブレーキに比べて放熱性が良く、制動力を微妙にコントロールでき、ルックスもスポーティなのが魅力で、さらにブレーキパッドが摩耗してもブレーキレバーの遊びが変化しないのが特長です。
ドラムブレーキを体験したことのないライダーには理解できないかもしれませんが、ケーブルで作動するドラムブレーキは、自転車のキャリパーブレーキと同様にブレーキライニングが摩耗するにつれてブレーキレバーの遊びが大きくなります。
スーパーカブを愛用するライダーにとっては日常茶飯事だと思いますが、ブレーキレバーの遊びが大きくなったらブレーキケーブル先端のアジャスターで遊びを詰めるといった作業は、ディスクブレーキのスクーターには不要です。もちろんスクーターだけでなく、すべてのディスクブレーキ装着車で不要です。
ここで125ccスクーターを取り上げるのは、このクラスのバイクがあまりにも日常の生活に溶け込んでいるからです。趣味として排気量の大きなスポーツモデルを所有するライダーには、バイクに対する意識や愛情を持って接する人が多いはず。しかし手軽な移動手段としてスクーターとなると、普段の手入れがおろそかになりがちなユーザーも少なくないようです。
その結果、エンジンオイルの交換時期を忘れたり、スリップラインが出るまでタイヤを使ったり、ブレーキパッドが摩滅するまで使い込んだり、というノーメンテスクーターが生み出されてしまうのです。特にブレーキに関しては、パッドが新品でも残量ゼロでもブレーキレバーの遊びが変化しないのが、メンテ不良の最大の原因となっています。
ホイールの外側から確認しづらい自動車のディスクブレーキには、パッドが摩耗した時にローターに擦れて異音を発生するインジケーターが装着されている例もあります。しかしバイクのブレーキパッドは、多くの機種で目視できるため、機械的に摩耗を知らせてくれる仕組みはありません。
そのためブレーキローターを挟み込む摩擦材であるライニングをすべて使い切り、ライニングを貼り付けているバックプレートがローターを挟んだ時点で初めて気づくというトラブルも発生します。ブレーキレバーの遊びが変化しないからパッドの摩耗に気づかないといっても、実際はマスターシリンダー内のフルードは低下しているので、確認窓から液面の下がり具合を見ればパッドの摩耗が想像できます。また自分の目線をキャリパーの位置まで下げてパッドを覗き込めば、ライニングの残量は確認できるはずです。しかし、趣味のバイクでないとそうした気遣いもなかなかできず、ついつい乗りっぱなしに……というパターンになりがちです。
ちなみに、ライニングが摩滅してバックプレートがローターに接すると、金属同士が直接擦れるため異常な音が出ます。またバックプレートにはライニングのような制動効果はないのでブレーキが利かなくなり、さらにライニングより硬いバックプレートでローターを挟み込むことでローターが一気に傷だらけになり、パッドだけでなくローター交換も必要になります。つまり無駄な部品交換で出費しないためにも、鉄板ブレーキになる前にパッド交換を行うことが重要なのです。
- ポイント1・ドラムブレーキはライニングの摩耗でレバーの遊びが大きくなるが、ディスクブレーキはパッドが摩耗してもレバーの遊びが変わらない
- ポイント2・パッドが摩耗してバックプレートでローターを挟むと、ローターが削れて交換しなくてはならない
- ポイント3・ローター交換に至らないためには、パッドの摩耗具合の定期チェックが必要
天候に関わらず乗るからキャリパーピストンの汚れも多い
キャリパーブラケットマウントボルトは六角穴のキャップボルト。L字型のレンチでは力が加えづらいので、ラチェットハンドルやT型ハンドルで回すと良い。
パッドが摩耗するとキャリパーピストンはせり出した状態で止まる。摩耗すればするほど前進して汚れが付着するので、汚れが付着する上にサビが発生しやすくなる。汚れた部分をきれいな部分が明確に分かれているのは、ブレーキレバーを数回握ってピストンを押し出しているため。
中性洗剤と歯ブラシで汚れを落としたら、ゴムシール組み付け用のケミカルやシリコングリスを薄く塗布する。ピストンシールやダストシールとの相性を考慮して、メーカーによってはブレーキフルードの塗布を指定している場合もある。
洗浄して潤滑ケミカルを塗布したピストンをキャリパーボディに収める際は、ピストンが傾かないようまっすぐ指で押し下げる。摩耗したパッドを交換する際はピストンを押し戻さなくてはならないが、汚れたピストンを押し込むとピストンシールを傷つけるおそれがあるので、必ず洗浄する。
通勤や通学など日常の交通手段として125ccスクーターを活用していると、天候に関わらず走行している車両も多いはず。バイクに乗るのは一週間に一度、週末のツーリングというのであれば、雨天走行後には入念な洗車を行うでしょうが、毎日使うスクーターで雨天走行後に必ず洗車するのは難しく面倒です。
パッドの摩耗が進行し、ここに雨天走行が重なることでキャリパーからせり出したピストンに付着した汚れが懸念材料となります。ブレーキパッドが摩耗してもレバーの遊びが変化しないのは、パッドとローターの隙間を一定にするためにキャリパーピストンが徐々にせり出してくるおかげです。露出したピストンはパッドを新品に交換する際にキャリパー内に押し戻しますが、摩耗したパッドのダストや雨天走行による水分が付着して、それが恒常化するとピストン表面にサビが発生するので厄介です。
キャリパーピストンを汚れから守るには乗らないのが一番ですが、通勤や通学用のスクーターにその選択肢はありません。汚れが付くのは仕方がないとして、それをサビに変えないためには定期的にキャリパーピストンの清掃を行うのが効果的です。
車体からキャリパーを取り外してブレーキパッドを外し、ピストンの汚れを確認します。砂利やホコリ、摩耗したパッドのダストなどが混ざった汚れが付着している場合、キッチン用の中性洗剤と歯ブラシで洗浄します。頑固な汚れがある場合は、ピカールのような液体状の金属磨きをウエスに取って磨くのが良いでしょう。
金属磨きや洗剤で脱脂洗浄した後は、キャリパーピストンにシリコングリスやゴムと金属の接触部分に適した潤滑剤を薄く均等に塗布します。このケミカルにはキャリパー内部のゴムシールとピストンの潤滑を保ちながらサビを防ぐ役目もありますが、塗りすぎると逆に汚れが付きやすくなるので、塗膜がうっすら付着する程度で充分です。濡れすぎたと思ったらウエスで拭き取っても、潤滑成分が残っていれば役目は果たします。
潤滑剤によって汚れが付着するリスクがあるなら、脱脂洗浄状態で使いたいという考え方もありますが、ピストンシールとダストシールと接する部分の滑りが悪いとピストンの動きが悪くなったり、シールが食いついて変形する原因にもなるため、潤滑成分を塗布しておくことをおすすめします。
同時に2年に一度、ブレーキフルードを交換してやればマスターシリンダーからキャリパー間のメンテナンスは理想的といって良いでしょう。
- ポイント1・ブレーキパッドが摩耗するとキャリパーピストンの露出が増えて、汚れが付着しやすくなる
- ポイント2・ピストンにサビが発生する前に中性洗剤で洗浄し、潤滑剤をスプレーして表面を保護することが重要
パッド交換時はスプリングやリテーナーを傷めないように注意
作業順序は前後するが、ブレーキパッドを交換する際はパッドピンを緩めて取り外す。このキャリパーはピンが緩んだ際の抜け止めのためにクリップが差し込まれているので、先に引き抜いてからピンを緩める。
通勤で雨天走行も行うため、パッドピン表面には赤さびが発生している。このピンはブレーキパッドと接しながらパッドの動きを支えているで、サビがひどくなるとパッドの動きが悪くなるので、新品に交換する。
パッドピンを抜くと、反対側の爪が外れてパッドを取り外すことができる。キャリパーの汚れは中性洗剤で丸洗いすると良い。その際はパッドスプリングやリテーナーの組み付け状態を確認しておくこと。
実用的に使うスクーターでも定期的にキャリパー洗浄を行うことで、パッドの摩耗具合も同時に確認できます。そしてここでパッドが摩耗限度に達していれば、いよいよ交換です。
125ccスクーターのブレーキキャリパーは片押しのピンスライドタイプなのでパッド交換は簡単です。機種によってブレーキキャリパーとパッドの組み付け方法が異なるので、作業前によく観察することが大切です。ここで紹介するスズキアドレスV125SSのブレーキパッドは、片側をキャリパーに掛けてもう一方にパッドピンを挿入して固定します。通勤に用いられている車両なのでキャリパー本体はパッド汚れでコーティングされており、パッドピンの表面もサビで荒れています。ただ幸いなことにキャリパーピストンにサビはないので、洗浄と潤滑剤塗布で再使用可能です。
新品パッドを組み込む際に注意したいのは、古いパッドの裏側に薄い金属板のパッドシムが組み込まれている場合は、それを移植するのを忘れないことです。パッドシムはブレーキ鳴きを抑制するための重要なパーツで、シム用グリスを併用して再利用します。また、キャリパーに薄い金属板を成型したパッドスプリングやパッドリテーナーと呼ばれる部品が組み込まれていることがあります。
これらはキャリパー内部でパッドを押さえてカタカタと遊ぶのを防ぎつつ位置を決めるための重要な部品です。パッドを外すのと同時にスプリングがリテーナーが外れたら、必ず正しい位置に正しい方向で取り付けてからパッドをセットします。スプリングのセットを誤ってパッドを組み付けると、パッドの戻りが悪くなり引きずり症状を起こす原因となることがあるので注意が必要です。
使用するパッドはデイトナ製ゴールデンパッド。現在は後継モデルのゴールデンパッドχにモデルチェンジされており、シンタードメタルパッドの常識を覆すコントロール性と効力が高いのが特長。
純正パッドの裏側に薄い金属のパッドシムがセットされている場合、新たに装着するパッドにも移植する。パッドとシムの合わせ面にはパッドグリスを薄く塗布する。
またパッドの位置を決めるリテーナーの爪とパッドの組み付け位置を誤ると、ブレーキを掛けた途端にリテーナーの爪が折れて、やはりブレーキパッドの戻りが悪く引きずり状態となることがあります。
パッドダストなどでキャリパーが汚れていると、洗浄を優先したいがためにリテーナーやパッドスプリングの組み付け状態をしっかり記憶せず分解しがちですが、復元時に迷わないためにも取り外す前に位置と向きをスマホのカメラなどで記録しておきましょう。
アドレスV125SSのパッドピンは1本ですが、新品パッドに挿入する際は表面にグリスを塗布しておきます。これによりピンの上をパッドがスムーズにスライドし、さらにピン自体の防錆にも役立ちます。
足代わりのスクーターといっても、ブレーキキャリパーやパッドのメンテナンスはビッグバイクと変わるところはありません。実用車なのに面倒な……と感じるかもしれませんが、天候や気候に左右されず実直に働いてくれる愛車のコンディションを保つためのメンテナンスは手間を惜しまず実践したいものです。
パッドピンが錆びている時はヤスリやサンドペーパーで表面をならし、パッドグリスを塗布する。このグリスはパッドの動きをスムーズにすると同時に、ピン自体の防錆効果もある。
キャリパーピストンのスライドピンもグリスアップすることで、キャリパー自体の動きが良くなる。キャリパー側に古いグリスが残っている場合は、ウエスや綿棒などで拭き取っておく。
ブレーキパッドをセットする時はパッドスプリングやパッドリテーナーがパッドの動きを阻害しないように正しくセットする。またスプリングやリテーナーとパッドの接触部分にはパッドグリスを薄く塗布するとブレーキ鳴きが抑制され、パッドがスムーズに動き引きずりが防止できる。
- ポイント1・ブレーキパッドを外す前に、キャリパーとパッドの組み付け方を入念に確認して覚えておく
- ポイント2・パッドを装着する際はパッドスプリングやリテーナーの取り付け方向に注意する
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