ドリブンスプロケットを固定するフランジカップリングの裏側には、ゴムブロックのダンパーユニットが組み込まれている。このダンパー機能には、発進加速時やギヤチェンジ時のトルク変動を吸収する意味もあり、走行中のドライブチェーンにかかる負担を減らす部品としても知られている。このラバーダンパーは、排気量を問わず数多くの4ストロークモデルに組み込まれているが(ダンパー機能を持たないスーパーカブも過去にはあった)、旧車2ストロークでは、スポーツバイクやレーシングバイクでも、ダンパー機能を持たない仕様が多くあった。しかし、リアホイールから受けるバックトルク(エンジンブレーキなど)でドライブチェーンにダメージを受けるケースが多く、80年代中頃以降に登場したモデルには、2ストローク、4ストロークを問わず、ほぼすべてのモデルにダンパー機能が採用されるようになっている。

このダンパー機能が低下すると、発進加速時にドライブチェーンの張りがダイレクトに伝わり、急激なトラクション発生時にはギクシャク感を強く感じるようになる。また、急激なエンジンブレーキ時には、チェーンの張りが逆側へ強く発生し、リアホイールをロックさせやすい状況になってしまう。いずれにしても、ドライブチェーンの偏った伸びやライフに大きく影響しているのがダンパーユニットなのだ。リアホイールを取り外した際には、ドラムブレーキ車、ディスクブレーキ車に関係なく、ダンパーユニットの点検&メンテナンスをしっかり行おう。

ダンパー点検でチェーンライフ向上

リアホイールを車体から取り外した際に、何気なくホイールハブから抜き取ることがあっても、単品にした部品をじっくり確認点検したことがあるサンデーメカニックは、実は数少ない?のかも知れない。このダンパーコンディションはたいへん重要である。劣化によって亀裂が入ったり、完全硬化で痩せてガタガタに遊んでいることも少なくない。そのようなパーツは、本来の機能を果たしていないと断言できる。まずはホイールハブからダンパーを抜き取り、弾力性やヒビ割れ亀裂などなど、目視確認から始めよう。

ダンパーユニットには様々なタイプがある。この部品は一体式だが、各ダンパー部屋毎にセパレートになっている分割式もある。バケツや洗面器に水道水を入れ、中性洗剤を混ぜて取り外したダンパーをブラッシング洗浄。エアーブローで水分を飛ばし、天日干しで完全乾燥させたらホイールハブに組み込もう。

亀裂を発見できる折り曲げ点検

カップリングフランジから伝わるトルクを受ける箇所は、機種によってそれぞれ異なる。亀裂が入っているものは再利用しても、思い通りのダンパー機能を果たさない。ダンパーブロック本体部分(つなぎ部分ではなくブロック本体)を折り曲げるようにチカラを入れて曲げてみると破裂を発見できることもある。中性洗剤で洗浄後は、エアーブローで水分を飛ばし、天日に干して完全乾燥させよう。

ハプ側Oリングやオイルシールが持つ意味

円形のホイールハブにカップリングを押し込みセットする。ハブセンターの円筒突起に沿って回転作動するのがカップリングで、ハブ側の摺動部にはOリングが組み込まれている。このOリングは、ダンパー室からベアリングへ向けた雨水やゴミの浸入を防ぐためのシールである。ダンパーの点検と同時にOリングのコンディションを確認し、カップリングの復元時にはラバーグリスを塗布し作動性を確保しよう。

ギュッと押込んで正解なのがダンパーゴム

ホイールハブ側の点検が済んだら、ドリブンスプロケットを組み込んだフランジカップリングをダンパーハウジングに押し込み復元する。フランジカップリング側の突起にはラバーグリスを薄く塗布しよう。これによりスーッとスムーズに押込むことができるはずだ。抵抗など一切無く、スポッと簡単に押し込めてしまう場合や、組み込んだ後にスプロケットをつかんで回転方向へ動かしたときに、ガタがあるようではドライブチェーンをケアするダンパー機能を発揮できない。そんな際には、新品ダンパーに交換したい。

POINT

  • ポイント1・ダンパー機能が低下するとドライブチェーンのライフに大きな変化が現れる。
  • ポイント2・ガタや亀裂を発見したら新品カップリングダンパー=スプロケットフランジダンパーに交換しよう。
  • ポイント3・オイルシールやOリングのコンディションが重要。ダンパー無しでスムーズに作動するか?組み立て時には必ず確認しよう。

以下は、以前に目撃した実話である。

純正塗装がボロボロに剥がれて汚くなったキャストホイールを取り外し、焼き付けペイントに依頼した。仕上がってきたホイールは、とにかく美しく大満足。ペイント依頼前のホイールとは雲泥の差、まさに大満足の仕上がりである。ハブベアリングやダンパーゴムを組み付け、車体へ復元。仕上がったバイクは足周りが美しくなったことで、まるで別のバイクのようになっていた。

しばらく走ったある日、信号待ちからの発進時に、ドライブチェーンがカチッと突っ張った感じになり、減速時にもギクシャク感が激しくなったそうだ。明らかにヘンなフィーリングなので、リアホイールを取り外し、ドリブンスプロケットのフランジカップリング部分を取り外そうとしたところ、スーっと抜けない……。粘りながらも抜けるのが正解なのだが、ガッチリ食い込み「カジっている?」ような雰囲気。カップリングの隙間にマイナスドライバーを差し込み、塗装にキズを付けないように「テコの応用」でフランジカップリングの隙間をグイッとやったら、なんとか抜き取ることができた。取り外したカップリングをひっくり返したら、そこにはギクシャク感の原因があった……。

ダンパーラバーを抜き取り、フランジカップリングをホイールハブに差し込もうとしたら、思い通りにセットできない……。原因は、ホイールペイント時の「マスキング」間違いだった。本来なら僅かなクリアランスがあり、ドライブチェーンの駆動力を吸収しつつ、フランジカップリングがダンパーラバーに押し付けられるのだが、作動する摺動回転部分にもペイントが載っていたため、塗膜の厚さでスムーズな摺動ができなくなり、結果的にカジってしまったようだ。ホイールハブに対してフランジカップリングがスムーズに回転摺動できないため、その衝撃吸収をドライブチェーンがすべて背負ってしまったのだ。当然、エンジンブレーキ時のバックトルクもすべてドライブチェーンが受けてしまい、走行中にぎこちないギクシャク感となり現れてしまったのだろう。

マスキングの間違いによって、このようなトラブルに発展したが、ホイールハブとフランジ摺動面のペイントをスクレパーで剥がし、不織布シートで磨き上げたことで、衝撃吸収するための回転摺動が復活し、その後はスムーズに走れるようになった。

今回は、ペイントの塗膜が原因で「回転摺動部分の作動不良」が発生した。通常ユースでも、メンテナンス不備の車両では似たようなトラブルが発生することもある。ホイールを取り外す機会がある際には、ドリブンスプロケット裏側のクリーンナップと同時に、ボルトの増締め点検やスプロケットダンパーラバーのコンディション確認、ホイールハプとフランジの回転摺動がスムーズに動くか?などなど、必ず確認するように心掛けよう。

ダンパーラバーはゴム部品なので、水道水やぬるま湯に中性洗剤を混ぜ、ブラシやたわしを使ってゴシゴシ洗浄するのが良いだろう。洗浄終了後はエアーブローで水分を吹き飛ばし、天日干ししてから組み込もう。ダンパーラバーを組み込まず、フランジカップリングをセットすることで、どのように回転摺動するのかを確認することでもダンパー機能が働く様子をイメージできるはずだ。

この記事にいいねする


コメントを残す