
エンジン始動時にメインキーを回せば、ニュートラルランプが点灯する。ところが、バッテリーが上がっている訳ではなく、ギヤはニュートラルなのに、ニュートラルランプが点灯せず、キックを踏んでもスパークプラグに火花が飛ばない?そんな経験、ありませんか?そんな状況下で疑うべきは「メインキー接点」の不良だろう。前述状況に遭遇したら、メインキーのON⇔OFFを何度か繰り返し、さらにONのポジションを保持しながらキーをググッと揺らしてみよう。そんなときに、ニュートラルランプがパッと点灯したり、しなかったりを繰り返したら、そのトラブル原因はメインキー接点だと断言できる。
基本は「部品」交換。無ければ分解メンテ
メインキーの接点不良が原因で故障しやすいモデルと言えば、80年代以前の旧車である。70年代前半以前に登場したモデルでは「故障あるある」のひとつとも呼べるメジャートラブルがメインキー接点の不良だ。80年代中頃のバイクブーム以降は、メインキーの作りや防水性が一気に良くなり、この手のトラブルはかなり減っている。しかし、もはや一過性ではない旧車を愛でるバイクブームの影響で、倉庫や軒下で眠っていたバイクが冬眠から目覚め、このようなトラブルを起こしている例が多いようだ。
ここでは、70年代後半に設計されたスーパーカブのメインキーを題材に、キー接点の清掃や作動確認を実践してみよう。しかし、中にはメインキーを分解できない、分解しにくいモデルもあるので、あくまでこのようなメンテナンス実例があることを知って頂ければ幸いだ。
分解作業時は「白ウエス」を広く敷こう
ハンダ固定されていたアース線を分離し、キーシリンダーボディに組み合わされる裏ブタの固定を開放。ボディが樹脂製なのでカチッとハメ込む固定方法だったが、金属ボディの場合は、接点となる裏ブタを組み合わせてから金属ボディの爪を折り曲げてカシメ固定する場合がほとんどだ。細かな部品が多く、裏ブタを外したとたんに飛び散ってしまうこともあるので、作業スペースに白ウエスを敷き、分解時は両手が入るクリアなポリ袋の中で作業するのが良い。透明な袋の中で分解作業を行えば、仮に、パーツが飛び出しても紛失することなく目視で回収できるはずだ。
キーシリンダー側に付く接点プレートが、メインキーの動きに同期してスイッチ接点の上を移動し、スイッチを切り替えるのがメインキーだ。この動く接点プレートを取り外すが、裏側にはスプリングやスチールボールが組み込まれているので、飛ばして紛失しないように注意しなくてはいけない。接点の取り外しは指先でつまむのではなく、ラジオペンチや先細プライヤを利用。しっかり保持しながら抜き取ろう。裏ブタ側の接点には、接点プレートの移動によって擦られた痕があり、また、プレート接点の突起部分が減っているように見えたので、アルミ板に突起接点と同じサイズ(外径)の丸ザグリを作り、接点プレート突起の摩耗を裏から押し出すことにした。
接点摩耗時は接点突起を叩きだし!?
接点突起とほぼ同サイズのザグリ穴に裏返した接点プレートを置く。平面ではなくエッジが面取加工されたポンチを利用し、突起部分を裏側から軽く叩いて押し出してみた。当て台となるアルミ板は万力へ固定できるようにアングル材を利用。この作業によって接点プレートの突起量が僅かに増え、裏ブタ接点への押し付けが、安定するようになるだろうと考えたのだ。
小さなバネ、紛失には要注意
キーシリンダーの動きに同期した接点プレートの裏側にはスプリングとスチールボールが組み込まれていた。スチールボールは転がって紛失しやすいので、マグネットに吸着させて紛失防止しても良い。長年に渡る作動の繰り返しでスプリングがやや変形していたので、先細プライヤを利用して形状復元しつつ、縮みを少しだけ伸ばして(1ミリ程度)接点プレートの押し付けを強める策を施してみた。
組み付け復元前にテスターチェック
復元時に入り組み順序を忘れてしまいそうな場合は、携帯カメラで分解前や分解時の状況を撮影しておくのが良いだろう。便利な時代になったものだ。ローガンズなおじさんサンメカにとって、スマホ画像は本当に役立つたいへん便利なもの。例えば、メインジェットなどの打刻数値を肉眼で読み取れないときには、スマホで撮影し画像をクローズアップすれば、驚くほど鮮明に数字を読み取ることができる。
ここでは、復元後のキーシリンダーを車体へ取り付ける前に、キーシリンダー単体で機能するか?サーキットテスターで回路を確認してみよう。どの配線色と、どの配線色がキーOFF時に導通するのか?キーON時にはどの配線色と導通するのか?そのモデル年式のサービスマニュアルや配線図があれば簡単に確認できるが、無いときには、接点分解時にキーOFF時のポジションやキーON時のポジションがどの位置で、どの配線色との組み合わせになるのか?現物確認でメモしておくと間違い無い。
テスターで回路確認できたら、樹脂ボディと裏ブタのセット位置をハンダで溶かして、裏ブタ接点が抜け落ちてしまわないように溶着固定した。キーONのポジション時にテスターで導通確認しながら、キーをつまんで揺らして、断線しないかも確認しよう。
- ポイント1・イグニッションシリンダー=メインキーの不調は新品部品への交換が基本だが、部品が無い時には分解修理で対応しよう。
- ポイント2・内部接点の摩耗が不調原因なら、接点「突起」を押し出して補修することで当りが強まる。
- ポイント3・とにかく「小さな部品」が多いので、分解前にしっかり段取り。大きな白ウエスと大きなビニール袋の併用が分解時には効果的。
キーを回したのに「ニュートラルランプが点灯しない」こと、ありますよね。まずはニュートラルポジションにギヤがあるか?リアホイールを空回しできるか確認してみよう。次に、キーON状態でホーンを鳴らしてみたり、ウインカーを作動させてみよう。それらのスイッチ動作をしても機能しないときには、バッテリーの電圧を確認してみよう。仮に、バッテリーが大丈夫なら、疑いの目は「フューズの飛び」だ。そして、フューズが飛んでないとなれば、残すは「メインキーの内部接点不良」だと考えられる。
実は、このキートラブルは意外と厄介である。始動時のトラブルならまだしも、走行中に突然キー接点の不良=断線で、エンジンが停止してしまうこともある。また、キーを回したときに、キー接点のガタで電源がボディアースして、フューズが飛んでしまうトラブルも多々発生する。
メインキーが何らかのトラブルに陥ったら、基本的には新品部品へ交換するのが最善の修理策である。しかし、部品が手に入らない場合は、そうも言ってられないので、分解修理するしかない。現代のバイク部品のように、簡単には分解修理できない例もあるが、80年代以前のバイクなら修理できないこともないし、ガレージセールや部品交換会などでは合い鍵作りやキーシリンダーの修理を専門に出店しているテントもある。
今回、分解修理に至った理由は、キーを差し込みONのポジションへ回しても、ニュートラルランプが点灯するときと、点灯しないときがあったためだ。点灯しない時に、ONのポジションでキーを握ってググッと動かすと、ニュートラルランプがパパッと点灯することがあったのだ。これは明らかに接点不良だと考えられた。
旧スーパーカブの多くは、キーボディの裏側にスイッチ接点があり、キーボディの動きに接点プレートが同期して様々なスイッチングポジションが選択される。裏ブタを取り外すと、稼働側のスイッチプレートの接点が摩耗し、パックアップスプリングの変形を発見した。そこでプレート接点の突起を押し出し、スプリングの張力を回復させたところ、スイッチ接点の不良は起こらなくなった。
新品部品があるのなら交換した方が確実である。しかし、ハンドルロックキーと別のキーになるのもイヤなので、今回は敢えて分解修理で回復にチャレンジした。今回のような接点不良は修理が容易だが、キーシリンダーボディのタンブラー不良によるキー操作の不良は、簡単に直すことはできないので、そんなときにはプロに依頼するのがベストである。
この記事にいいねする