
タイヤ交換時やホイールハブのベアリング交換時には、リアホイールを取り外さなくては作業進行できない。そんな状況とは関係なく、いわゆる「磨き魔」と呼ばれるバイク好きの中には、洗車時に前後ホイールを取り外し、前後フェンダーも取り外して、部品単位でクリーニング&ワックス掛け後に部品を復元するといった例も。
極端なお話しかも知れないが、磨き魔と呼ばれるライダーは、そんなやり方でバイク常に美しく保っている。そうではなくても、部品を取り外す機会があるときには、可能な限り「ついで」メンテナンスを行いたいものだ。ホイールを外したときには、必然的にブレーキパネルを取り外すことになるのがドラムブレーキモデル。そんなメンテナンス機会=チャンスにこそ「ついで」メンテナンスを行うことで、ブレーキコンディションをより良く保つことができるのだ。
目次
ホイールを取り外し作業の「ついで」
今回は、雨天ツーリング後の洗車ついでにリアホイールを取り外し、フェンダー内部も水道水で洗い流した。その「ついで」メンテナンスで、ドラムブレーキのメンテナンスを実践することにした。ブレーキハブのライニング室内には、ブレーキシューの摩耗カスが溜まっているもの。擦り減った粉塵をエアーブローでまき散らすのではなく、ブレーキクリーナーやパーツクリーナーを使って、しっかり洗い流してからウエスで汚れを拭き取ろう。こびり付いた汚れは不織布シートで擦り落とすのがよい。それからエアーブローを行うことで、粉塵を大きくまき散らさなくて済むのだ。
そもそもパーツクリーナーやブレーキクリーナーと呼ばれる脱脂洗浄用ケミカルスプレーは、大型トラックなどのドラムブレーキメンテナンス時に、粉塵をまき散らしてしまうのを避けるために製造されたもの。そう考えれば、我々のようなバイクメンテナンスでも、これらのケミカルを有効活用することができる。
作動部分を「より一層スムーズに」が基本
ブレーキパネルのブレーキシュー側も擦り減った粉塵にまみれていた。4~5000kmも実走すれば、このようなコンディションになってしまうのがドラムブレーキである。こんな粉塵もエアーブローでまき散らしてしまうのではなく、パーツクリーナーで洗い流し、ウエスで流れ出た汚れを拭き取ってから諸作業に取り掛かろう。
ここでは、ブレーキカムの作動性向上とブレーキシューによるビビリ音やブレーキノイズを抑制するため、主要パーツの分解とクリーニング、そしてケミカル塗布を実践しよう。
ブレーキパネルからブレーキシューを取り外したら、古新聞を地面に敷き、パーツクリーナーを使って汚れや粉塵を洗い流そう。パーツクリーナーには速乾性と遅乾性があるが、こんな作業時やスプロケット周りのようなしつこい油汚れの除去などには、遅乾性パーツクリーナーが圧倒的に使いやすい。粉塵を洗い流したらウエスで拭き取り、最終的にはエアーブローで仕上げよう。
分解前の「位置確認」後々の作業性向上に
ブレーキパネルにはブレーキカムとブレーキアーム(ブレーキレバー)が組み込まれているが、ブレーキアームはブレーキカムエンドのセレーション溝に組み合わせ固定されている。分解する前に、そのセレーション溝とブレーキアームの位置を明確にしておこう。セレーション端面とアーム側面にポンチマークがあるモデルはそれを合せれば良いが、今回のようにマークが無い旧車の場合は、ブレーキアームの締め付け溝部にポンチマークを追加するのがよいだろう。後々の組み立て時にレバーの位置を一発で決めることができる。
ポンチマークではなくマーカーペンで記せば、後々マークを消すこともできる。
ブレーキカムはブレーキパネルの内側から外側へ差し込まれている。軸受け部分には溝があり、その溝は潤滑グリスの保持溝となっている。古いグリスや汚れをすべて拭き取ってから洗い流し、軸受け部やカム山にサビが発生している場合は、ワイヤーブラシやサンドペーパーで必ずサビを除去しよう。
クリーニング後のカムをブレーキパネルに差し込み、スムーズに回転するか?異常な摩耗でガタが無いか?グリスを塗布しない状態で必ず確認してみよう。作動性が悪いときにはその原因を突き止め、摺り合わせを行い、スムーズに作動するようにしてから作業進行しよう。
各種ケミカルが「不快な音」を消す!!
ブレーキカムの軸受け摺動部にはグリスをしっかり塗布してパネルに差し込み、何度かカムを回して馴染ませておこう。溢れ出したグリスはウエスでしっかり拭き取る。ブレーキカム側へは鳴き止めの耐熱ブレーキグリスを薄く塗布。この鳴き止めグリスを塗布することでグリス膜がシューのビビリを抑え、ブレーキ鳴りを防止するのだ。ディスクブレーキのバッド裏側へ塗るパッドグリスでも良い。
今回は、ブレーキシュー側のカム摺動面へ塗布したが、ブレーキカム側へ塗布しても効果は同じだ。
ドラムシュー組み立て時のコツがこれ!!
ブレーキパネルにブレーキカムを差し込み、ポンチマークの位置へブレーキアームを復元してからブレーキシューを復元しよう。シュー復元のコツは、ブレーキシューを同じ向きにして2つ合わせにしてスプリングを引っ掛ける。次に、スプリングが外れないように2つ合せを保持しながら片側のブレーキシューをカム山とパネル支持部分に押し付け、もう片側のシューを引っ張りながらバネを伸ばしてブレーキパネルにセットする。これが復元手順だ。バイクでも四輪でも、ブレーキシューのセット時は、シューを2つ折りにしてから引っ張って、パチッとセットするのがコツだ。
- ポイント1・ホイールを取り外したときには「ついで」のメンテナンスでブレーキコンディションが良くなる。
- ポイント2・作動部分がスムーズに動くかどうかが大切だ。作動性の向上が基本中の基本。ブレーキノイズ対策にはケミカルが効果的である。
- ポイント3・ブレーキシューは2つに折りでたたんでスプリングを接続する。組み立て時のコツを覚えると作業がはかどる。
どんなメンテナンスの実践時でも、目的部品の交換だけではなく、周辺メカニズムを点検し、気がついたときには必要に応じて修理や部品交換を行うのが本当のメンテナンスである。例えば、タイヤ交換時にホイールを取り外したら、ベアリングへの異物混入を防ぐダストシールのダメージを発見。そんなときには、タイヤ交換だけを急がずに、ダストシールも新品部品に交換するのがベストである。
ダストシールに異物が混入し、それが影響してホイールサイドカラーを摩耗させてしまうこともある。えっ?鉄部品のカラーが摩耗するの?と思われがちだが、これがあるあるなのだ。砂利などの異物がダストシールリップに挟まると、ホイール回転で、いつしか鉄部品のサイドカラー外周が線状に摩耗してしまうのだ。そうなるとダストシール交換だけではなく、サイドカラーも交換しなくてはいけない。
今回はリアホイールをとりはずした「ついで」にリアドラムブレーキのメンテナンスを実践した。リアブレーキシューは、ディスクブレーキのパッドと同様に消耗部品である。ディスクパッドは外部から残量確認できるが、ドラムブレーキの場合は目視確認できない。80年代以降に生産されたモデルには、ブレーキカムの外側にブレーキシューインジケータがあるためメンテナンスの目安にはなるが、やっぱり目視確認したいのが本音である。
ブレーキパネルを取り外すと、内部は擦り減ったブレーキシューの粉塵にまみれていた。昔ならエアーブローで、真っ黒なホコリをまき散らしながらクリーニングしたが、環境保護からそんな作業は絶対NG。必ずブレーキクリーナーやパーツクリーナーを使って粉塵を洗い流し、ウエスで拭き取ってクリーニングしよう。
ドラムブレーキの効き具合はブレーキカムの作動性に依存することが多い。例えば、ブレーキカムの軸受け部分がサビや砂利の混入でカジってしまい、作動性が悪くなったとしよう。そうなるとブレーキペダルを踏み込みライニングへ押し付けたブレーキシューが、ペダルを戻してもスムーズに戻ら無くなってしまうのだ。まさにその原因が軸受けのカジリや作動不良であることが多い。
ドラムブレーキの効き具合はオーバーヒートによって大きな影響を受けるが、そのオーバーヒートはブレーキシューの引き擦りによって起きているケースが多いのだ。また、長期にわたって引き摺りを起こすと、粉塵がシューとライニングの間に噛み込み、ライニングの摩耗を早めてしまうことがある。ドラムブレーキのライニングが凸凹に摩耗している場合は、必要最低限の研磨をプロショップにお願いすることもできる。
スポークホイール車ならホイールハブだけ旋盤研磨できるが、キャストホイールの場合はタイヤを外し、ホイール単品でライニング研磨することになるが、いずれにしてもプロショップへの依頼が確実だろう。
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