
バイク用のセルフスターターモーター、俗に「セルモーター」は、一生涯、回り続ける部品ではない。モーターには一般的に「給電プラシ(整流子)」と呼ばれるカーボン素材のブラシ=鉛筆の芯のような四角柱の部品が組み込まれており、そのブラシを通じて大きな電気を流し、モーターを力強く回転させるメカニズムとなっている。スプリングで押し出されるブラシ先端は、アーマチュアと呼ばれる回転ローターに接触しており、その摺動面から電気を流してモーターを回転させる。ブラシは回転によってすり減り、すり減ったカーボン粉が密閉されたモーター内部に堆積してしまう。その堆積状況によっても、様々な不具合症状がセルモーターに発生してしまうのだ。
バイクの修理(エンジン修理)を実践するにあたり、セルモーターを取り外し、単品部品にするような際は、作動状況確認をモーター単品で行い、必要に応じて、エンドカバーを取り外し、内部コンディションを目視確認することをお勧めしたい。走行距離が数万キロ以上なら(セルモーターの使用状況の違いによって、それぞれコンディションは異なる)、ほぼ間違い無く、内部コンディションはカーボン粉で汚れ始めていると思われるので、エアーブローを行うだけでも、内部クリーニングは実践できる。
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クランクケースに固定されるセルモーター
70年代後半以降の4ストロークエンジンなら、クランクケースアッパーの吸入側に取り付けられており、それ以前の2気筒モデルなら、クランクケース前方のエキパイ下にレイアウトされていることが多いセルスターターモーター。自動車用や一部の外車用セルモーターは、スターター機能を一体化した設計が多いが、一般的なバイク用セルモーターは、モーター本体だけのコンパクト設計を採用し、スターターソレノイド機能(マグネットスイッチ)は別体設計でサイドカバー内やバッテリーの近所にレイアウトされている例が多い。
エンジンから取り外したセルモーター単品。クランク駆動ギヤを回すシャフト側をアッパー側、反対側(写真では右側)をエンドカバー側と呼び、このエンドカバー内部に給電ブラシ(整流子)が組み込まれている。バイク用セルモーターには、2ブラシと4ブラシの2タイプがあるが、このセルモーターは2ブラシ式だった。
コンパクト設計のバイク用セルモーターの多くは2本のボルトでアッパーカバーとロアカバーを組み合わせている。このボルトは意外と強く締め付けられ、固着していることもあるため、ボルトの頭をナメないように電動インパクトドライバーを使って一気にズドンと緩めた。プラスドライバーのビットがピッタリ合致した工具を利用しよう。
驚き!!すり減ったカーボン粉だらけ……
エンドカバーにはOリングを挟んで防水処理するタイプとOリングが入らないタイプがある。Oリングが組み込まれるタイプなら、新品部品をあらかじめ注文しておくのが良いだろう。エンドカバーを分解する際には、ウエスを大きく広げ、エンドカバーを取り外したときに内部から部品が飛び出さないように注意しよう。アーマチュアの前後軸受け部分には調整シムが入るので、間違い無く復元できるように要注意。ご覧のようにモーター内部はすり減ったブラシ粉(カーボン粉)で汚れていた。まずはブラシを使って飛び散った汚れをざっくり除去した。
分解時は部品の配列を画像保存しよう
カバーを取り外したら、アーマチュアエンド側の軸受け部分に入るシムを抜き取り、マグネットが固定されているボディ(本体筒)を抜き取り、さらにアッパーカバーからアーマチュアを抜き取ろう。アッパーカバー側の軸受けにもシムが入っているので、配列を間違えずシムを無くさないように要注意。組み立て復元時にシムの配列や部品の取り付け向きを間違えないように、部品分解時には携帯電話のカメラで撮影しておくのが良い。
アーマチュア側ブラシ接点もクリーンに
アーマチュアのブラシ接点部分は相当に汚れているはずだ。ブラシ接触面の外周を600番前後のサンドペーパーを使って「滑らせるように磨いて」(部分的に強く擦ってはいけない)汚れを落とし、接点と接点の隙間に詰まった汚れを、ピックアップツールなどの先端でこそぎ落とす。この僅かな溝にブラシ粉が詰まってしまうと、通電時にロスとなってセルモーターが力強く回らない。洗浄後はパーツクリーナーでブラシ接点を完全脱脂しよう。
分解清掃したセルモーターを復元したら、バッテリーとブースターケーブルを使って、バッテリーアースとセルボディをつなぎ、プラス電極にブースターケーブルを接続する。そして、ケーブル反対側の接点を慎重にセルスターターの電源端子に押し当てる。モーターが力強く回るとその反動でモーター本体がブンッと動くので、モーター本体はしっかり押し付けておこう。万力があるときには、モーターエンドカバーを固定すると良い。
冷却用電動ファンモーターの故障原因
故障したラジエターのファンモーターが手元にあったので、本来は非分解部品だったがエンドカバーのカシメを起こして分解してみた。モーター本体の大きさこそ異なるが、12Vの直流モーターはブラシ付きで内部構造はほぼ同じだった。カバーを外したらご覧の通り。2個のブラシが向かい合いレイアウトされたエンドカバーだったが、ブラシの残量は1/3程度。まだ使えないことは無かったが……。
すり減ったカーボンブラシだけではなく、アーマチュア側接点も減っていたため、これほど多くの粉塵が密閉されたモーター内に堆積し、ステーターコイルとアーマチュアの隙間に詰まって作動不良を起こしていた。こんなすり減り方でも、粉塵を除去して接点をクリーニングしたら、動かなかったモーターが動くようになった。応急処置だとしたら、これも立派な修理である
- ポイント1・セルモーターの給電ブラシはロングスパンの消耗部品。不調を感じたら即分解交換しよう。
- ポイント2・モーター分解時はブラシ単品がブラシホルダー内でスムーズに作動するか確認しよう(スプリングのチカラで押し出される)
- ポイント3・アーマチュア(鉄心)の前後軸受けには調整シムが入っているので間違えないように復元しよう。
- ポイント4・作動性=回転トルクの低下原因の多くは内部の汚れ。粉塵の堆積が考えられる。取り外しタイミングに分解清掃しよう。
バイク用のセルモーターには大きく分けて2タイプある。ここでは、国産車に多いスタータースイッチとモーター本体がセパレート構造になった「モーター本体」の分解&クリーニングを実践してみた。分解清掃といった単純な作業だけでも、実は、セルモーターのコンディションや寿命には大きな影響を与える。画像解説のように、直流電源のブラシ付きモーターを採用しているので、使用頻度が高まるにつれブラシが減り、モーター内部には削れたブラシのスラッジが堆積する。仮に、同じ使用頻度のセルモーターを比較分解するとわかるが、分解清掃せず走り続けてきたモーターの内部には、相当量のカーボンスラッジが堆積しているはずだ。一方、途中で分解清掃したモーターは、スラッジの量が少ない。このスラッジがモーター内のどこに堆積するかは、そのモデルやエンジンの特徴と言える。モーター軸心=アーマチュア周辺に堆積すると、スラッジが抵抗となり回転トルクを発揮し切れない場合がある。それがズバリ、始動不良の原因に直結するケースも少なくないのだ。
このタイプのセルモーター本体は、想像以上にシンプルな構造でメンテナンス性は良好。だからこそ、なかなか外すようなことがないセルモーター本体を取り外す機会があるときには、モーター内部をクリーニング、もしくはエアーブローしたいものだ。作業時に気おつけたい注意点は、アーマチュア軸心の前後に入る複数のシムを必ず元通りに復元すること。このシムが軸心とマグネットの位置関係を作っているので、シムを紛失してガタが多くなったり、入り組みを間違えると軸心の回転トルクに影響してしまうのだ。
モーターを分解したら、各パーツをユニット毎にパーツクリーナーで脱脂洗浄し、組み立てるときにはOリングやオイルシールのコンディションに気を配り、それらのラバーパーツにはラバーグリスもしくはシリコングリスを少量塗布する。また、軸心前後の軸受けにはボールボアリングが組み込まれているので、指先で触れてスムーズに回転し、しかも違和感がないか?必ず確認しよう。分解&エアーブローの作業だけでも大きな効果を得られるのがセルモーターの分解清掃である。
ブラシ接点の溝に汚れが詰まっている場合は、先端が鋭いピックアップツールなどで溝の汚れをこそぎ落とそう。その際、ブラシ接点のエッジにバリが立ってしまことがあるので、そんなときにはバリを丁寧にサンドペーパーで除去しよう。バリが立ったまま復元すると、ブラシからの通電がスムーズに行かなくなり、パリ部分でショートが発生するなど回転不良の原因となってしまうのだ。
分解組み立て後はモーター単品で回転状況を確認しよう。ブースターケーブルを利用し、バッテリーからダイレクトに通電する。作業手順は、モーターボディとバッテリーアースを接続し、プラス電源を瞬時に接触させてモーターの駆動状況を確認するのがよい。
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