
4ストロークエンジンのエンジンオイルで常に話題になるのが、安価なオイルを頻繁に交換するのか、高価なオイルを長く使うのが良いのかという問題です。またそれとは別に、エンジン冷却方式によってオイル管理を変えるべきか否かという課題もあります。空冷エンジンより水冷の方が交換時期が長く設定されているヤマハ車を例に、交換タイミングについて考えてみましょう。
価格やグレードに関係なく、エンジンオイルは必ず劣化する
セローのエンジンオイル量はエンジン右側に点検窓で確認する。走行後などエンジンオイルが温まっている状態で車体を垂直に保ち、油面がフルレベルとロアレベルの間にあれば良い。乳化しているとオイルに透明感がなく、ミルクティやコーヒー牛乳のように濁って見える。
4ストロークエンジン用のエンジンオイルは、ベースオイルを鉱物油にするか化学合成油にするか、どんな添加剤を使うかによって無限と言って良いほどのバリエーションが生まれています。オイルメーカーはコスト重視、性能重視、コストパフォーマンス優先などさまざまな目的でエンジンオイルを開発、販売しています。
私たちバイクユーザーは安価で高性能で長く使えるオイルを求めがちですが、残念ながらそうしたオイルは今のところ存在しません。自動車の世界では交換サイクルが2万㎞以上というロングドレインが増えてきましたが、バイクではそれほど長い交換サイクルはありません。
その最大の理由は、バイクと自動車のエンジンの潤滑の違いにあります。バイクのエンジンはごく一部の機種を除いてシリンダーやクランクシャフト、カムシャフト周りとクラッチ、ミッションを同じオイルで潤滑しています。これに対して自動車のエンジンはエンジン本体とミッションは別々のオイルで潤滑しています。
シリンダーとピストンのクリアランスを密封し、クランクシャフトの回転を支えながら放熱する働きは自動車もバイクも同じですが、バイクはミッションの歯車の潤滑も行わなくてはなりません。
この歯車の潤滑というのがオイルにとって大敵なのです。ミッションギアの歯車はエンジンからの駆動力により強烈な力で当たり、擦られています。そしてこの隙間を潤滑するオイルも強い力で叩かれています。その衝撃によってオイルの添加剤に含まれる高分子化合物=ポリマーが叩き切られることで、オイルの粘度が低下します。
もちろん、ピストンやクランクシャフトやカムシャフトの潤滑でもポリマーは劣化しますが、ミッションギアの潤滑の方がはるかにシビアであり、それが自動車用オイルよりも短期間での交換が推奨されている理由となります。
もうひとつの理由は、常用されるエンジン回転数の高さにあります。排気量や仕様によって異なりますが、自動車よりバイク用エンジンの方が常用回転数が高く、エンジン回転の上昇や下降のレスポンスが良い傾向にあります。エンジンオイルにとっては、回転数の変動が少なく低回転で回り続けることが劣化を抑える好条件であり、その真逆となるバイクのエンジンは、自動車に比べてどうしても劣化のスピードが早くなってしまいます。
高性能オイルは新品時の性能を長く維持できるよう、ベースオイルや添加剤の品質を吟味して製造されていますが、バイクのエンジンの特性上、交換までの期間が長くなるという意味での高性能化を謳う製品は少ないようです。エンジンオイルはエンジン部品のひとつと喩えられることもあり、ブレーキパッドやタイヤなどと同じように考えると交換の必要性が理解できるでしょう。
- ポイント1・ベースオイルや製品グレードの違いに関わらず、エンジンオイルは必ず劣化する
- ポイント2・強く押しつけられるギアの潤滑を行うバイクのエンジンオイルは、自動車用エンジンオイルに比べて早く劣化する
空冷と水冷ではオイル交換のタイミングが異なる場合がある
林道や山道を走行するトレール車はエンジンの泥汚れがつきがちなので、あらかじめ洗車しておく。ドレンボルトは12mmで、メガネレンチかソケットで回す。泥で汚れたボルトをスパナで回すのはトラブルにつながる可能性が高いので避けること。
ドレンボルトを緩めていくと、抜ける手前でネジ部のガタが大きく感じられるようになるのでそこからはゆっくり回して、ボルトが抜けると同時に手前に引くことでオイル汚れを最小限にできる。エンジン停止直後は油温も高いのでヤケドしないように注意。また抜いたオイルは地域のゴミ収集の規則に従って処分する。
では具体的にエンジンオイルの交換タイミングはどうするか?というと、排気量やエンジンの冷却方式、使い方などの条件によってオイルの劣化具合が変化するため、ひとくくりにすることは難しいです。
参考になるのが、バイクメーカーが設定している交換タイミングです。ファイナルエディションが発売され長い歴史に終止符を打ったヤマハセローは、あらゆるライダーに人気の1台ですが、取扱説明書によればオイル交換タイミングは225cc時代から最終モデルまで3000km走行ごととなっています(初回は走行1000kmまたは1ヶ月後)。
これに対して同じ250cc単気筒のWR250Rは6000kmごと、2気筒のYZF-R25は5000kmごとの交換が指定されています。どちらもセローよりもスポーティな味付けのエンジンだと思われますが、交換スパンが長いのはなぜでしょうか。
ここで考えられるのが冷却方式の違いです。セローは空冷でWRとR25は水冷です。他の機種で比較すると、ドラッグスター250やスクーターのシグナスXなど空冷エンジン搭載車は3000kmごとで、水冷エンジンのスクーターNMAXは6000kmごととなっています。
水冷エンジンの方が空冷エンジンより交換スパンが長いのは、水冷はエンジンで一番熱を発する燃焼室周りの温度を管理でき、その結果油温も安定するからだと考えられます。夏場の空冷大排気量のエンジン油温は100℃を超えることも珍しくありませんが、これはエンジンオイルにとってはかなり過酷です。高温耐久性に優れている化学合成油でも、120℃を超えるとベースオイルより先に添加剤のポリマーがダメージを受けて粘度が下がる場合があります。
夏場だけでなく、これから寒くなる冬季も実は水冷エンジンにとって有利です。エンジン内部の金属パーツは温度がある程度上昇して各部が膨張することでクリアランスが適正になるよう設計されています。つまり暖機後に比べて冷間時は各部の隙間が広いということになります。
水冷エンジンの冷却水経路に組み込まれたサーモスタットの働きにより、外気温が低く水温が充分に上昇しないうちは、冷却水はラジエターに流れず燃焼室やシリンダー周辺に留まっています。そのため燃焼温度で温められた冷却水がカイロのようにシリンダーや燃焼室を保温します。
そのため暖機に要する時間を節約でき、燃焼室やシリンダー周辺の冷却水温度が上昇したところでサーモスタットが開き、その後はラジエターで適度に温度を下げた冷却水が循環します。
これに対して空冷エンジンは、冷間時の始動では暖機を促進することができず、走行中も走行風によって油温が低下してしまうことがあるほど、油温の上昇が遅くなります。油温が低いままだと流動性が上がらないので狭い隙間の潤滑性能が低下し、燃焼室で発生した排気やブローバイガスがピストンリングとシリンダーの隙間からクランクケース側に通過してエンジンオイルに触れる機会が増加します。
現在のフューエルインジェクション仕様のエンジンは、冷間始動時の制御を細やかに行っているのでまだましですが、キャブレター時代はチョークを引いて始動してしばらく濃い混合気でアイドリングするのも一般的だったので、ブローバイ中に未燃焼ガスが混入してエンジンオイルを希釈する可能性もありました。この点も、空冷エンジンの方が交換タイミングが短い理由のひとつとして考えられます。
- ポイント1・ヤマハ250ccクラスの一例では、空冷エンジンは水冷の約半分の走行距離でオイル交換が指定されている
- ポイント2・エンジン周りの温度管理ができない空冷エンジンは、オイルへの負荷が高いため短距離での交換が必要と推測できる
オイル乳化の温床となる冬季の短距離走行
ドレンボルトのガスケットはソリッドタイプだが、潰れることで気密性が出るので一度外したら新品に交換する。今回はオイルフィルターエレメントも同時に交換するため、エレメントだけでなくエレメントカバーのOリングも入手しておく。エレメントは初回は1000kmで2回目以降は9000kmごとに交換する。
1:オイルフィルターエレメントカバーは3本のキャップボルトで固定されているので、着脱する際は5mmのヘックスレンチで回す。六角穴に泥汚れなどが詰まっている場合は細いマイナスドライバーなどで掻き出してからレンチを使用する。
2:カバー裏側のオイル汚れはパーツクリーナーで洗浄し、フィルターカバーのOリングは交換する。
3:フィルターカバーの左上にはオイル通路があり、オイル漏れを防ぐためのOリングがセットされる。取り付け部分は凹加工されているが、カバー装着時の脱落を防止するため僅かにグリスを塗布して貼り付けておくと良い。
4:円筒状のオイルフィルターエレメントには取り付け方向が決まっており、反対向きだとエレメントカバーがセットできない。
バイクのメンテナンスに慣れたライダーなら、エンジンオイル交換など朝飯前という人も多いでしょう。しかし、冬季のオイル交換時で注意が必要なのがオイルの乳化という現象です。ドレッシングやマヨネーズのように、油分と水分が混ざり合った状態を乳化といいますが、エンジンオイルでも乳化は発生します。
エンジン内部に水分が発生する大きな原因となるのがクランクケース内の結露です。温かい室内と寒い屋外を隔てる窓ガラスに水滴が付くのと同様に、外気温とエンジン内部の温度差によってクランクケース内に水分が発生して、エンジンオイルと混ざることで乳化します。
油温とともにエンジン全体の温度を上昇させることで乳化は解消できますが、油温があまり上昇しないようなチョイ乗りばかりを繰り返すことで乳化は加速します。外気温との温度差に加えて、ガソリンが燃焼して発生するブローバイガスにも水分は混ざっています。冷間時にマフラーから水分が滴るのを見たことがあるライダーは多いと思いますが、あの一部が暖機が不充分なピストンとシリンダーの隙間をすり抜けてエンジンオイルに混入しているとイメージすると、あまり良い気分にはなりません。
乳化した水分を蒸発させるためには、チョイ乗りではなくしっかり走って油温をエンジン温度を上げることが重要ですが、温度を上げることで外気温との温度差がより拡大するという矛盾も含んでいるのが悩ましいところです。オイル点検窓から確認して乳化したオイルが、充分に油温が上昇してしばらく走行した後にもまだコーヒー牛乳のように乳化したままだったら、走行距離で時期に達していなくても交換しても良いでしょう。
セローやトリッカーに搭載された空冷単気筒エンジンは軽量でタフなパワーユニットとして愛好者も多いので、長く好調さを維持するためにもエンジンオイル交換は定期的に行いましょう。
この型のセローやトリッカーのオイルフィラーキャップの頭は六角で、14mmのメガネレンチかソケットで緩める。スパナはなめやすいのでここでも使わない。
エンジンオイル量はオイル交換のみの場合は1.2リットル、オイルフィルター交換時は1.3リットル必要。エンジン内のすべてのオイルが抜けるとは限らないので、最初から全量を入れるのではなく、1リットルを入れてエンジンを始動して循環させ、エンジンを止めて油量が安定したところで点検窓で油面を確認。油量が少なければ追加する。
- ポイント1・エンジン内部と外気との温度差によって結露が発生し、エンジンオイルを乳化させる
- ポイント2・結露を解消するにはチョイ乗りを避け、油温が充分に上昇するまで走行するのが効果的
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