
エンジンカバーを取り外してクラッチディスクを交換するときや、オイルフィルターを交換するときなどに、エンジン内部を覗き見して「えっ!?」と驚いたこと、ありませんか?エンジン部品のほとんどはアルミ製鋳物部品なので、見た感じはアルミ地肌の「銀色」のはず。ところが!?眺めたエンジン内部は、ススけて、ほぼ真っ黒な状況だった…。これはエンジンオイルの汚れが、つもりに積もった油アカだと考えられる。そんな真っ黒エンジンであれば、内部の機能部品も、ほぼ間違い無く真っ黒なはず。機能的に問題ないコンディションなら良いが、分解したついでやどうしても気になるときには、エンジンを完全に分解して、各機能部品を点検し、汚れた部品は思い切ってクリーニンしたいものだ。
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知らずもがなに汚れが進むエンジン内部

例えば、ネットオークションやガレージセールで購入した部品取りエンジン。「ジャンク扱い品」と理解した上の購入なので仕方ないが、思いの外、エンジン内部が真っ黒に汚れていた、なんて経験のあるサンデーメカニックは数多いはずだ。単純に、オイル漏れやオイル滲みにドロや砂利が堆積した外的な汚れではなく、明らかにエンジンオイル交換を怠った結果のエンジン汚れだと、やはり内部コンディションが気になるものだろう。
そこで、エンジンをバラバラに分解したところ、中味は驚くほどの真っ黒け……。分解後、単品になったクランクケースはご覧の通り。内側も外側も、汚れて焼けたエンジンオイルによって、文字通り「真っ黒」だった。
汚れた部品は花咲かGマルチクリーナーで洗浄

バイクの樹脂製外装部品の汚れ落としはもちろん、エンジンの各部品に至る様々な部品の洗浄に威力を発揮するのが花咲かGブランドで知られる榮技研の「花咲かGマルチクリーナー」だ。汚れ具合により水道水で3~30倍に希釈し利用することができる。ぬるま湯から常温で使用できる水溶性の脱脂洗浄剤である。したがって火気厳禁ではないので、引火せず、溶剤特有の臭いや刺激なども一切無いのが大きな特徴だ。素手にも優しく、環境にも優しい脱脂洗浄剤として知られている。また、一般の中性洗剤のように大量の泡が出ないので、すすぎ洗いの際にも使い勝手が良好だ。
ペール缶に希釈洗浄剤。部品はドボンと

車両の外装や足周り部品を洗浄する時には、スプレーボトルを用意してマルチクリーナー原液を入れ、そこへぬるま湯を注いで原液を希釈。エンジン周りのしつこい油汚れを洗浄したい際には、ぬるま湯で3~5倍程度に希釈するのが効果的だ。今回のような真っ黒なエンジンの場合は、ペール缶にマルチクリーナー原液を入れ、給湯器からお湯を入れてドブ漬け洗浄するのがよい。今回は、約8倍のお湯で希釈し利用することにした。
軽度な油汚れならスプレー洗浄可能

画像はイメージになるが、軽度な油汚れを落とすのならスプレーボトルに希釈したマルチクリーナーを入れ、スプレーして汚れに馴染ませつつ外装ならスポンジ、エンジン部品なら毛足の硬いナイロンブラシで擦り洗いすると良い。脱脂洗浄後は水道水でしっかり洗い流そう。エンジン部品の洗浄時にはマルチクリーナーを容器に入れて水道水で希釈。ブラシを使って容器の中で脱脂洗浄するのがよい。洗浄後は、エアーブローしてから新聞紙の上などで部品を乾燥させよう。コンプレッサーがあるときにはエアーガンを使って圧縮空気で水分を吹き飛ばそう。
酷い汚れはペール缶にドブ漬け「しばらく放置」が良い

今回は、あまりにも汚れが激しいクランクケースなので、お湯で8倍に希釈した洗浄液をペール缶に入れ、ドロ汚れを落としたクランクケースを洗浄液に沈めて放置。溶剤系洗浄剤のようにアルミ表面が溶けてしまうことは無いので安心だ。ドブ漬けのまま放置し、ブラッシングしてはまた放置を繰り返すこと数日。当初は薄い乳白色だったマルチクリーナー希釈液が、徐々に黒く変化していった。この洗浄液の汚れからも、その洗浄効果を想像することができる。
手磨き追加でご覧の通りの仕上がり

花咲かGマルチクリーナーでドブ漬け洗いを繰り返しながら数日。カーボン汚れがおおよそ落ちたので、最後に仕上げ手磨きを加えたら、このような美しさに仕上がった。ウエットブラストなどの設備や機器が無くても、その気になれば汚い汚れ落としは可能。そんな作業がサンデーメカニックとしての経験となり、将来に生かされていくのだ。最後に中性洗剤でもう一度脱脂洗浄し、エアーブロー後に組み立て段取りに入った。
- ポイント1・花咲かGマルチクリーナーは水溶性なので安全かつ環境にやさしい作業が可能。
- ポイント2・外装パーツの汚れ落としには希釈洗浄液をスプレーボトルに入れて利用するのが効果的。
- ポイント3・汚れが相当に酷いエンジン部品は、希釈したマルチクリーナーにエンジン部品をドブ漬けするのが良い。
汚れたエンジンを放置し続けると、後々のクリーニング作業が大変になる。オイル漏れやオイル滲みに気がついたら、即刻、パーツクリーナーやブレーキクリーナーなどの洗浄スプレー(溶剤)で汚れを洗い流し、脱脂確認後にリークリペアなどの高性能ケミカルを使って、漏れた患部を外側から硬めて、漏れや滲みの再発を防止しよう。ところが、そんな汚れ=オイル滲みを知ってか知らずか、放置し続けると、後々の汚れ落としがとにかく大変になることを知っておきたい。特に、高温になるシリンダーヘッド周辺の汚れは、エンジンオイルが焼き付いてシミになるので、とにかく早めにクリーニングしよう。
今回、ここに紹介するクランクケースは、ノーメンテナンスのまま走り続けた結果、このように汚れてしまったのだろう。何故、このような汚れに陥ったのか?以下の内容はあくまで想像に過ぎないが、おおよそ正解なのではないかと思う。
オイル交換することなく、おそらく余裕で1万キロ以上は走り続けてきたエンジンだと思われる。エンジンオイル性能が著しく劣化しているにもかかわらず走り続けた結果、ピストンリングやシリンダースリーブが摩耗限界を超えてしまったのだろう。摩耗限度を超えると、次に起こるのがコンプレッション=圧縮圧力の低下である。爆発燃焼時の排気ガスは、開いた排気バルブから排気ポート→エキパイ→マフラーを通過後に大気解放されるものだ。しかし、ピストンリングやシリンダーが摩耗限度に達すると、爆発後の燃焼ガスが気密を保てなくなってしまう。その結果、ピストンリングやリング合口の隙間から燃焼ガスがクランクケース内へと侵入。
さらに汚れたエンジンオイルがシリンダーとピストンリングの隙間から燃焼室へと混入し、再び、爆発燃焼行程を繰り返す。そのような4ストロークエンジンの作業行程の繰り返しによって、クランクケース内には大量のブローバイガスが混入。その燃焼ガスがエンジンオイルの汚れを早め、さらにエンジン内部を真っ黒に汚してしまったのだろう。
このようなコンディションに陥ったエンジンは、マフラーからも相当量の白煙を吹き出していたはずだ。結果的には、エンジンパワーが著しく低下し、エンジン載せ換えの運命になった?もしくは廃車解体となり、何かの縁で我々がコンプリートエンジンを購入したのだろう。いずれにしても、このように汚れきったエンジン部品を再利用する際には、各部品をしっかり洗浄しなくてはいけない。
ここでは、クランクケースを例に洗浄作業を実践したが、何故、このようなクリーニングが必要なのか?それは、エンジン内部が汚れたままで部品を再利用すると、新しいエンジンオイルを入れても、エンジンオイルの汚れ方が早まってしまうからだ。各ユニット部品はできる限りバラバラに分解してから汚れ落としを行うことで、真っ黒だった内部パーツが、実に美しい輝きを取り戻すのである。
真っ黒に汚れたエンジンをオーバーホールする際には、ピストンやピストンリングなどの主要部品の点検や交換作業だけではなく、クラッチハウジングなども単品に分解し、徹底的に洗浄することで、内部パーツは想像以上に美しくなる。そんな機会に巡り逢ったら、是非とも実践していただきたい。
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