旧車や絶版車において、シリンダー内で圧縮された混合気を爆発的に燃焼させるスパークプラグの点火時期を決めているのがコンタクトポイントです。1,000rpm前後のアイドリングから8,000rpm以上の高回転まで幅広い使用回転数で理想的な燃焼を実現するために働いているのがスパークアドバンサー=自動進角装置です。

燃焼室内の混合気が爆発燃焼するにはある程度の時間が必要


クランクシャフト端部にコンタクトブレーカーが付くカワサキZ2。ポイントベースを外すと、その奥にスパークアドバンサーがある。「スパークアドバンサー」は主にホンダ車で用いられる呼称で、カワサキの当時のサービスマニュアルでは自動進角装置と表現されている。

絶版車でも最新機種でも、シリンダー内の混合気にスパークプラグで火を着ける内燃機関では点火時期がとても重要です。吸排気バルブが閉じて混合気が閉じ込められた燃焼室内に点火火花を飛ばすと、爆発的な燃焼が起こりピストンが押し下げられてクランクシャフトを勢いよく回してエンジンパワーとなります。

シリンダーを往復するピストンがどの位置にある時に火花を飛ばすのか。それが点火時期となります。キャンプで薪を燃やしたり、石油ストーブに火を着ける時、いきなり最大火力にはなりません。小さな種火が燃え広がるまでにはそれなりの時間を要します。
エンジン内の混合気でも同じ現象が起きています。つまりスパークプラグに火花を飛ばしてから混合気が燃え広がるまでには一定の時間が掛かります

キャンプの薪は火力が大きくなるまで私たちが待てば良いのですが、エンジンの場合はそうはいきません。小さな種火が大きく燃え広がるまでの時間は一定ですが、エンジンは回転を上昇させることでピストンスピードが上昇します。

何を言っているのかと思いますよね?

混合気が燃焼して一気に膨張するタイミングと、ピストンが上死点から下死点に移るタイミングには密接な関係があります。例えばピストンが圧縮上死点に向かう途中で爆発的膨張が起こったら、上昇するピストンを押し下げる力になってしまいます。逆に、上死点を過ぎてピストンが下降している過程で爆発的膨張が発生しても、力強くピストンを押し下げることはできません。

燃焼には一定の時間が必要なので、ピストンが圧縮上死点に到達する前に混合気に着火して、上死点を通過後に最大圧力になるように点火時期を設定します。

発電機のエンジンのように、基本的に一定回転で使う物であれば特定の回転数、例えば1,500rpmという回転数に合わせて点火時期を設定できます。発電機の場合は、負荷の増減によって回転数が上下しないよう、ガバナーという装置が付いています。

しかしバイクの場合、1,000rpmのアイドリングから12,000rpm、機種によってはもっと高回転までエンジン回転が変化します。するとピストンが往復する速度も変化します。

高校時代の物理で角速度という概念を習った記憶のある人もいると思いますが、エンジン回転数が上昇すれば1秒あたりにクランクシャフトが回転する角度は大きくなります。アイドリングの時よりレッドゾーン近くの方がピストンの往復スピードは速くなることはイメージしやすいと思います。これに対して燃焼速度は不変なので、アイドリング時に最適に合わせた点火時期は、エンジン回転数が上昇することで相対的に遅れていくことになります。

回転数の変動が大きい内燃機関では、点火時期が常に同じタイミングでは最高のパフォーマンスが発揮できないとされています。

 

POINT

  • ポイント1・混合気が爆発的に燃焼する際、最大圧力に達するまでには一定の時間を要する
  • ポイント2・点火時期が変わらないと低回転から高回転まで全域での点火条件が最善にならないこともある

最適な点火時期はエンジン回転数によって変化する


中心のポイントカムに対して、薄い板状のウェイトが対に配置されている。ウェイトはスプリングによって引かれているので、エンジン回転が低い1,500rpm以下の領域ではウェイトは閉じて上死点前5°で点火する。


エンジン回転数が1,500rpm以上になると、遠心力によってウェイトが外に開き、ウェイトの基部で接続されたポイントカム(指で摘まんだ部分)がクランクシャフト回転方向に回って点火時期が早くなる。外側のストッパーにウェイトが当たると3,000rpmで進角が止まり、その時の点火時期は上死点前40°となる。1,500~3,000rpmの間で上死点前5~30°までどのように進角するかはウェイトとスプリングにお任せになる。

そこで採用されているのが点火進角装置です。大昔のエンジンでは、ライダーが手動で点火時期を調整していました。トランジスタを用いた無接点方式となって以降は、イグナイター内部で自動的に点火時期を調整しています。

コンタクトポイント式点火のスパークアドバンサーは、手動式と自動式の間にある機械式の進角調整装置です。手動進角は本当に過去のメカニズムで、1950年代以降のポイント点火車では自動進角がポピュラーとなっています。ちなみに1970年代後半以降になるとトランジスタの無接点方式が一気に普及するので、ポイント+自動進角の実動期間はおよそ40年弱ということになります。また、コンタクトポイント式の点火装置を装備する車両でも、主に小排気量車では進角装置を持たない機種も存在します。

スパークアドバンサーはエンジン回転による遠心力を受けるウェイトと、コンタクトポイントを開閉するポイントカムによって構成されています。エンジン回転が上昇して遠心力が大きくなりウェイトが外側に開くと、ウェイトとつながったカムがクランクシャフトの回転方向に回るようになっています。この機械的な仕組みによって点火時期が早まるのです。このウェイトはスプリングで引っ張られており、エンジン回転数が低くなりウェイトに加わる遠心力が小さくなれば元の位置に戻り、点火時期も遅くなります。

回転数と点火時期進角の関係は、エンジンの特性や仕様に応じてメーカーが設定しています。例えばカワサキZ1の場合、1,500rpm時は上死点前20°で2,350rpmで上死点前40°がメーカー設定値です。これに対して750ccのZ2はエンジンのはそっくりですが、1,500rpm時は上死点前5°で3,000rpm時に上死点前40°という設定になっています。

これはボアストロークの設定やカムシャフトの特性によって最適値は変わってくるので、チューニングではなくメンテナンスにおいてはエンジンごとの標準仕様を踏襲するのが基本です。

その前提の上で、エンジン回転数における点火時期はウェイトの重量とスプリングの張力に依存します。スパークアドバンサーが純正であれば、進角特性はバイクメーカーの設定通りになりますが、経年劣化によってスプリングが折損した場合、エンジン回転が低くてもウェイトが遠心力で開いて点火時期が早くなります。

逆にウェイトのピボット軸やポイントカムの潤滑不良で、回転数が上がってもカムが動かなければ、点火時期が進まず高回転でのパワー感が減少します。

 

POINT

  • ポイント1・スパークアドバンサーはウェイトとスプリングのバランスによりエンジンの回転に応じた点火時期を決める
  • ポイント2・アイドリング時と進角後の点火時期はエンジンによって異なる

スパークアドバンサーのメンテナンスの基本はグリスアップ


カワサキZ1やZ2のポイントとスパークアドバンサーはエンジン右側にある。新車当時はポイント点火が当たり前だったが、定期的なメンテナンスが不可欠だった。現在ではボルトオンで装着できる無接点の点火ユニット(ASウオタニ製SPⅡフルパワーキットが有名)が存在するので、強力な火花とメンテナンスフリーの両立が叶うそれらのパーツに交換するユーザーも少なくない。


1)コンタクトブレーカーベースを外すと現れるスパークアドバンサー。
2)クランクシャフトに固定している中心部分の長いボルトを取り外すと、コンタクトブレーカーが外れる。復元時に取り付け方向を迷うことがないよう、コンタクトブレーカー裏側とクランクシャフトの接触面には位置決めピンがある。
3)ポイント根元の切り欠きとウェイトの凸部が噛み合って動きが連動している。切り欠きの位置を合わせて手前に引けばカムが外れる。
4)カムが接する軸部にグリスを塗布する。グリス溜めの溝があるので、ここからはみ出さない範囲で塗布しよう。

コンタクトブレーカーポイントのメンテナンスでは、ポイントギャップやポイント表面の荒れ、点火時期を確認しますが、スパークアドバンサー付きの機種であればその機能の確認も重要です。

先に述べたようにウェイトとカムが固着していないか、スプリングにダメージがないかを確認しますが、スパークアドバンサーがポイントベースの裏側にある場合が多いので、ポイントベースとスパークアドバンサーを取り外した場合は改めて点火時期調整を行う必要があります。

スパークアドバンサーの構造はシンプルで、ウェイトとカムの関係性も見ればひと目で分かります。メンテナンスの際はウェイトがスムーズに開閉するか、スプリングに折損や伸びはないか、カムが滑らかに回転するかどうかに注意して、必要ならば各部をグリスアップします。ただし過剰に塗布すると、飛散したグリスがポイント面に付着して点火不良の原因となる場合もあるので、塗りすぎには注意しましょう。

スパークアドバンサーが正しく機能しているか否かは、タイミングライトで確認できます。カワサキZの場合、1,500rpmでクランクケースの刻み線とスパークアドバンサーのFマークが一致して、3,000rpm以上でスパークアドバンサーのピンがクランクケースの刻み線と一致すれば正常です。

エンジンが止まった状態でもアイドリング回転時相当の調整、すなわちFマークと刻み線が一致した瞬間にポイントが開くようにポイントベースを合わせることはできますが、3,000rpm時にアドバンサーのピンと刻み線が一致しているかを目視で判断することはできません。したがって、スパークアドバンサーの進角側の機能についてはタイミングライトがないと正しく判断できないということになります。

現存するバイクの中でポイント点火車の数は圧倒的少数派なので、スパークアドバンサーといわれてもピンとこない人が大多数だと思います。しかし電気的に点火時期を決めている無接点のトランジスタ点火車でも、エンジン回転数によって点火時期を変化させています。さらに新しいバイクでは複数のセンサの情報を組み合わせることにより、エンジン回転数だけでなくエンジン負荷の状況も活用して点火時期を決定しています。

つまり、エンジンの新旧を問わず混合気の燃焼には一定の時間がかかるという自然の摂理には変わりはなく、その中で最大のエンジン効率を発揮させるための点火時期制御が重要になっています。スパークアドバンサーはウェイトとスプリングの組み合わせという単純な仕掛けですが、エンジン回転数によって点火時期を自動的に変化させるという、内燃機関に不可欠な要素が詰まっているのです。


進角が最大になった時、スパークアドバンサーのピンとクランクケースの刻み線が一致すれば進角機能は正常に働いていると判断できる。3,000rpmで回転するスパークアドバンサーのピンを確認するにはタイミングライトが必要だ。

 

POINT

  • ポイント1・スパークアドバンサーがスムーズに動くには適度なグリスアップが不可欠
  • ポイント2・現代のエンジンも回転数や負荷の状況に応じて点火時期をコントロールしている

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