
良いなーと思った車両のスペック、とても気になりますよね。
スペック表(諸元表)の数字を見ながらアレコレ模索するのは楽しいものです。
パワーが〇馬力だけどどんな感じなんだろう?
ハンドリングは?最高出力以外のフィーリングは?
新車なら試乗会などが開催されているので現車確認可能ですが、中古車や絶版車となるとスペック表から想像するしかありません。
しかーし!
スペック表を見ればかなり正確にバイクの特性が読めるものなのです。
様々なバイクに乗ってきた経験があるベテランなら尚更にね!
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
スペック表からどんなバイクかを読み解くコツの話です。
今回はエンジン編!
目次
オンロード車の話です!
スペック表からバイクを想像するといっても、原付1種(~50cc)スクーターやオフロード車はあまり読み解く事ができません。
それらは基本的に各車で大きな差は無く、その車両特有の個性みたいな物は非常に少ないです。
全く差が無いって事は無いのですけどね。
スクーターも原付2種(50~125cc)になると少しづつ個性が出てきて読み解きも可能になって来るのですが……。
逆にスクーターやオフロード車はスペック表より車体の画像の方が「どんなバイクか」の読み解きの参考になります。
スペック表には表れない車体構成の方が遥かに個性的だからです。
排気量は考え方が別
スペック表から特性を読む話とは少しズレますが、排気量は超重要です。
バイクの場合、小排気量と大排気量では全く別の乗り物と言っても良いからです。
もちろん小排気量がダメとかそういう話ではありません。
大排気量はおいそれと全開でレブリミットまで回すなんて無理だけど、小排気量は気軽にブチ回せて楽しい……といったありがちな話の事でもありません。
間違いなく小排気量と言える85ccモトクロッサーが良い例で、気軽にブチ回すなんて相当な手練れでも無理です。
排気量は『余裕』を表すと思っていただければ概ね合っています。
小排気量でも超速いバイクは存在しますが、そういうタイプは常時全開などの運転をして初めて速く走れるのが普通です。
ようするに余裕が無い。
それが悪いという事ではなく、その余裕の無さを楽しむのが目的な事もあります(小排気量スポーツ車はだいたいコレ)。
なので、自分がどんな事をしたいのか、どんな事が楽しいと思うのか、それをどこまで追求したいのか、この辺りで求める排気量が決まってきます。
余裕たっぷりに悠々とロングツーリングしたいなら小排気量ではキビシイですし、適切なタイミングで的確な操作を行ってシャープな挙動を楽しみたいなら大排気量は向いていません。
でも敢えて小排気量車でロングツーリングに行ってヒドイ目に遭うのも楽しかったりするので、目的に合わせた排気量選定は超大事です。
最高出力・最大馬力・出力特性
排気量がだいたい決まったとして、次は皆さん大好きで嫌でも気になる最高出力です。
一番ハイパワーな奴を選んでしまいがちですし、敢えてライバル車より低い最高出力のバイクを購入するのはちょっと勇気が要りますよね。
しかし、ここに重大な落とし穴があります。
カタログスペックに書いてある最大馬力は『スロットル全開の時の馬力』でしかないからです。
パワー曲線も『スロットル全開の時にどういう出力になるか』を表したグラフでしかありません。
シャーシダイナモのグラフも同じで、パカッと全開した時にどうなの?というグラフでしかありません。
更に、グラフを良く見ると低回転域は線が無いですよね?
アレは「それ以下の回転数からスロットル全開にするとエンジンが止まってしまうから」です。
「そんな低回転は俺様にはカンケー無いぜ!」という理由ではありません。
カタログスペックに書いてある数値は全てスロットル全開の時の話。
ココ、超重要。
もちろん最高出力はスロットル全開の時に出るのですが、エンスト寸前の極低速からいきなりスロットル全開にして最高出力が出てくるのを待つような乗り方は普通しませんよね?
スロットルはON-OFFスイッチではないです。
だから、最高出力はスペック表やグラフ数値のとおりですが、実は中間域の出力に関してはカタログスペックの数値はほぼ何の参考にもなりません。
「15000まで回るけど6000rpmに谷があるな……。」ではなく、15000も回るエンジンなら6000rpm以下の低回転からスロットル全開にして待ってるような乗り方をするワケが無いのです。
最高出力は最高速度を出す為に必要なものですが、それとてスロットル全開な事が条件。
そんな場面がどれだけある?!と考えると、『ほぼ無い』という結論に至るはずです。
このようにバイクにとって大事なのはスロットル全開の最高出力ではなく中間域の出力特性ですが、この大事な部分は最高出力や最大トルクの数値はもちろん、パワー曲線やトルク曲線のグラフからも読み取る事はできません。
出力特性グラフから読み取れるのは「高回転高出力型だな?」とか「低速トルク重視型っぽい?」くらいです。
ですので、最高出力や最大トルクの数値やパワーカーブにコダワリ過ぎるのは正直オススメしません。
気筒数とエンジン特性
最高出力や最大トルクやパワー曲線グラフからは本当のエンジン特性は読めないと書きました。
復習すると、読めない理由はそれらは全てスロットル全開時の話だからです。
では中間域のエンジン特性は全く読めないのかというと、そうでもありません。
中間域のエンジン特性で最も影響が大きいのは最高出力でも最大トルクでもなくエンジンの気筒数です。
「はぁ?」と思った方はずーっと愛車が4気筒の方かもしれませんね。
4気筒だってエンジンごとに出力特性は異なりますが、そんなのは気筒数の違いに比べたら微々たるものです。
話をわかりやすくするために、とあるコーナーでエンジン回転数が半分程度まで落ち込んだ全閉状態から加速して立ち上がって行くシーンを想像してください。
まずは日本人が大好きな並列4気筒ですが、これは元はと言えば高回転高出力を狙ったエンジン形式です。
余りにも熟成され過ぎて極低速から豊富なトルクを発生するようになってしまっていますが(事実、Uターンが最もやりやすい)、高回転狙いだった痕跡は消せません。
それが顕著に表れるのが中間回転域。
4気筒はスロットル操作に敏感に反応します(ピックアップが良いと言います)が、エンジンは反応するだけで実は大したトルクやパワーは出ていません。
もともとパワーやトルクの値は高いので「大して出ていない」と言っても結構出ているのですが、数値とは裏腹に優しい感触。
結果、滑らかに加速を開始し、そのまま開け続けると4気筒らしい強烈なパワーを発揮する……そんな特性です。
「スロットルを開けてから本来のパワーが出て来るまでしばらく開け続けて待つ」といったイメージです。
逆に単気筒はエンジン回転数が4気筒ほど高回転ではない事もあって、スロットルを開けても直ぐにはエンジンは反応しません。
と言っても『4気筒と比べたら』という話で、乗っていてエンジンの反応が鈍いと感じる程ではありませんが。
そして、一旦反応が始まるとスロットルを開けた分だけのトルクとパワーが一気に出てきます。
かなり暴力的で、ドカンと蹴飛ばされるような加速は4気筒の優しい加速感とは全く異なります。
「開けた瞬間に望んだ分だけパワーとトルクがドカンと出てくる」イメージです。
2気筒や3気筒はそれぞれの中間です。
程度の差こそあれ、気筒数による基本特性はコレです。
高回転型の過激な単気筒も、低中速重視な4気筒も、程度は違えど基本特性はどこまで行ってもこのまま。
4気筒は後ろから背中にそっと手を置かれた後、そのまま強烈に押され続けるような感じ。
単気筒はいきなり後ろから蹴り飛ばされるけど、だんだん蹴る足が届かなくなって行くような感じ。
優しい出力特性と言うとパワー至上主義な4気筒の人は怒るのですが、そんな事言われたってホントだから仕方ないです。
4気筒と比べて明らかに最高出力の低い単気筒車や2気筒車ですが、中速域だらけの場面(公道は峠も含めてだいたいコレ)でやたら速かったりするのはこういう理由です。
ボアとストロークの関係
同じ排気量、同じ気筒数でも、エンジンによってピストン径(=シリンダーボア径)とピストンストローク量は違うものです。
「内径×行程」などと書かれている項目の事です。
そして、その組み合わせによってエンジンの特性がある程度読めます。
まず、同じ排気量と同じ気筒数であればボアとストロークの関係は反比例します。
ボアが大きくなればストロークが減り、ボアが小さくなればストロークが増えます。
排気量とは要するにピストンが移動する円筒形の体積の事なので、円柱の体積の求め方を想像すれば一目瞭然ですね。
詳細な話は数字だらけになるので全部割愛しますが、スロトーク量が少ないほど(ボア径が大きいほど)高回転高出力を狙ったエンジンであると判断できます。
これには物理的な理由があり、ピストンがシリンダー内を移動するスピードには限界があるためです。
ストロークが長いほど低いエンジン回転数でこのピストンスピードの限界に到達してしまい、高回転高出力型にはできないので必然的に低中速寄りのトルク型となります。
そう書くとボアが大きくてストロークが少ない方がエライとなるのがカタログ数値大好きな日本人の悪いクセですが、決してそんな事はありません。
もちろん最高出力はボアの大きな高回転高出力型の方が出しやすいですが、そういうエンジンは街乗りで頻繁に使う低中速回転域では単に回っているだけの面白みが無いエンジンになりやすいです。
普段使いの回転数でもトルクがグイグイ出て楽しい方が良いか、普段使いは無視してでも高回転を常用する場面でパワーが炸裂する非日常感が良いか、ボアxストローク比を比較すると大なり小なり特性が見えたりします。
余談ですがボアxストローク比の事を「ボアスト」と言うとツウっぽいのでお試しあれ。
圧縮比とエンジン特性
排気量、気筒数、ボアスト比と来て、次は圧縮比です。
正直なところ圧縮比を気にしている方はすごく少ないと思いますが、圧縮比はエンジンのキャラクターをかなり左右します。
高圧縮比は高性能エンジンの証であり、結果としてハイオクガソリンを要求するといった話は別で書いているので詳細はそちらに譲るとして、高圧縮エンジンは良くも悪くもガツガツしたフィーリングになりがちです。
※圧縮比とハイオクガソリンの話は下記
エンジンは連続してパワーを出し続けているわけではなく、1回1回の燃焼の連続によって細切れにパワーを出しています。
この燃焼と燃焼の間には排気、混合気吸入、圧縮というパワーを食われる事をやっているので、出力には大きな波があります。
波の大きさ(波の高さ)はエンジン出力に比例するので、高出力エンジンほど波が大きくなります。
でも、それは排気量の差でも起こる話なので、圧縮比による特性とは別です。
そうではなく、圧縮比が高いと波の角が直角に近くなって行く感じになります。
逆に低圧縮比だと波の角は丸くなり、超低圧縮比では正に「波」のようなまろやかな感触になります。
例えば、小排気量なのでパワーは低いけれど高圧縮でガツガツしたエンジンとか、大排気量でパワーも出ているけど低圧縮でマイルドなエンジンとか、単なるパワー差を超えて体感的にかなりの差を感じます。
ではどの位の圧縮比からガツガツと過激なフィーリングになるの?と思ったかもしれませんが、これは明確な区切りはありません。
理由は圧縮比と合わせてバルブタイミングなどと絡み合った『スペック表には書かれていない実圧縮比』に非常に関係しており、一概に言えないからです。
ただ、12:1を超えるようなエンジンは間違いなく高圧縮ですので、並みのエンジンよりはガツガツとした過激なフィーリングになりがちと言えます。
尚、同じ排気量なら気筒数が増えるほどこの波の数が増えて波の高さが減るので、波の影響を受けにくくなります。
だから、同じ『高圧縮比のエンジン』と言っても、4気筒ではそれほど過激なフィーリングにならないのに対して、単気筒では素人は帰れ!みたいな過激なフィーリングになりがちです。
『大排気量単気筒で高圧縮比のレーシングシングルエンジン』が最凶で、パワーは200馬力OVERの高性能な4気筒の半分以下かもしれませんが、ちょっと普通の人には乗れないくらい過激なフィーリングになります。
様々なバイクを経験したベテランが最後にヤマハSRのチューニングに辿り着いたりするのは、ドコドコ感やノスタルジーといったヌルい話ではなく、最も過激なのがソレだったからという場合も多々あります。
尚、オフロードの競技専用車はだいたい単気筒で高圧縮で極端な高回転型のボアスト比となっており、エンジンフィールの過激さならブッチギリです。
まだまだあるけど難易度高め
上でも少し話に出ましたが、カムタイミングやバルブ数や冷却方式など、エンジン特性を左右する要素は他にもまだまだたくさんあります。
スペック表(諸元表)にはそれらが書いてある事も多いので、慣れて来ると様々な条件を組み合わせて「だいたいこんな感じだろう」と目論見立てる事が出来ます。
しかし……、今回紹介した「排気量」、「最高出力・最大トルク」、「気筒数」、「ボアスト比」、「圧縮比」以外の要素はスペック表に記載があっても想像するのが非常に難しいです。
一概に言えない項目ばかりなので、残念ながら経験数がモノを言う世界になってしまいます。
潤滑方式は無関係
誰が言い始めたのか知りませんが、ドライサンプはクランクシャフトがオイルを掻き上げないのでオイルの攪拌抵抗が減ってパワーが出るという通説が大昔からあります。
しかし、少なくとも近年のバイクの場合、これは誤りです。
だって普通のウェットサンプであってもクランクシャフトはオイルに浸かっていないんですもの。
ウェットサンプのクランクシャフトが実際にオイルに浸ってオイルを掻き上げていたのは遥か彼方の大昔の話。
よって、潤滑方式の違いによるエンジンフィーリングの差はありません。
潤滑方式は気にしないでイイんですヨ……ククク。
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