【金属鋳造パート2】自作部品作りが大好き、部品工作が大好きなサンデーメカニックにとって、鋳造部品を自作できたなら……、それはとっても楽しいはず!と誰もが考えると思う。我々モトメカニックスタッフにとっても、それは同じだった。そんな夢を実現してみようとチャレンジしてみたのが、ホワイトメタル鋳造である。今回の金属鋳造パート2では、マスター部品の脱型からホワイトメタルの熔解→流し込みにチャレンジしてみよう。

金属アクセサリー用ホワイトメタルで挑戦


熱で溶け、融点が低いのが、ホワイトメタルの特徴である。配線修理や配線の接続時にはハンダゴテを使ってハンダを溶かし、銅芯線を一体固定するが、そのイメージとほぼ同じと考えて良いだろう。ホワイトメタルの成分は、スズ(錫)を主成分に、アンチモンや鉛や銅を含有している。その微妙な濃度割合の違いによって、完成後の輝きや曲げ特性や切削特性に違いが出るため、どの仕様が良いのかは、作ろうと思う部品によって違ってくる。



柔軟性があり、加工しやすい金属として知られるのがホワイトメタルの特徴である。手作りの指輪やネックレスやブローチなどなど、アクセサリー類の個人製作は今や大人気のホビーだ。そんな手作りアクセサリー用の材料として、幅広く使われているのもホワイトメタルの特徴で、ここで使っている耐熱シリコンゴムの型作り用材料も、手作りアクセサリーを作るユーザーみなさんに使われている商品のひとつである。
インターネットで「手作りアクセサリー ホワイトメタル」などで検索し、そこからさらにネットサーフィンしつつ通販でホワイトメタル素材を購入した。

白い粉は離型剤、FRP工作用のタルク


離型剤として利用した白い粉末は、FRP作業などの型作り時に、充填剤として利用するタルクと呼ばれるもの。滑石を微粉末にした粉らしいが、このホワイトメタル鋳造を実践して下さったモトメカニック誌のテクニカルアドバイザー、モデルクリエイトマキシ主宰、板橋儀典さんによれば、「タルクではなく小麦粉でも片栗粉でも、離型剤として使えるはずですよ」とも。要するに、粉末状の粉であることが重要らしい。ちなみにタルクとは、FRP部品作りなどでは樹脂のかさ増し用として利用される。タルクとアエロジルと呼ばれる粉をポリ樹脂に混ぜることで、FRP部品作りの成形時には、パテとして利用できるそうだ。



褐色の耐熱シリコン型がこれだけ白っぽくなるようにタルクを何度もまぶして乾燥した刷毛を使って型の溝の奥まで行き渡らせた。そんな状況を見て「黒板チョークの粉でも大丈夫ですかね?」と板橋さんへ質問したら、まったくもって大丈夫との返答を頂いた。確かに、チョークや地面に絵を描いたロウ石は、硬度こそ異なるが鉱物由来で分類としてはタルクと同じとも言える?



タルク粉で白くなった耐熱シリコン型を高温乾燥機(カーベック製CVジュニア)に入れてしっかり温める。耐熱シリコン型自体を温めることで、溶解したホワイトメタルとの温度差を少なくしている。温度差が少なくなると、ホワイトメタルの流し込みを容易に行えるようになるそうだ。逆に、溶かしたホワイトメタルとシリコン型の「温度差が大きく一気に冷えてしまう」と、マスター通りの形状再現が難しくなる。一番上の画像をご覧頂くと、文字のエッジが丸くなっているのがわかるはずだ。温度差によって溶かしたホワイトメタルが一気に冷えて、このような仕上がりになってしまったようだ。



カーベック製高温乾燥機のCVジュニアは、台所用のオーブントースターを2階建てにしたようなデザイン。温度設定やタイマー設定を柔軟にできるのが大きな特徴だ。最大200度超え、時間もタイマー最大で1時間。連続運転も可能なので、様々なシーンで幅広く使うことができる。小型のステンドグラスや陶芸にも利用されているそうだ。もちろんバイク用小物部品の焼き付けペイント乾燥にも最適である。簡易温度計付きで設定温度をアナログ的にフィードバック可能。今回は最強(200℃以上)に設定。ただ今、温度上昇中だ。

カセットコンロとステンレス鍋で溶ける!


事後確認になるが、今回はJIS規格2種、4種、6種、8種のホワイトメタルを購入。それぞれの素材で簡易鋳造を試しつつ楽しんでみた。我々としてはJIS規格2種のホワイトメタルがエンブレム作りに適している、と判断。同ホワイトメタルをステンレス製の鍋(100均ショップで購入)に入れ、カセットコンロで加熱。おそらく200度を超えた頃にはバターのような感じでホワイトメタルが溶け始めている。火力の加減調整は、鍋の上下動作で行う。温度を高くし過ぎても良くないようだ。



完全に溶けたホワイトメタルを十分に温めた耐熱シリコン型へ流し込んだ。この際、シリコン型は200度設定で30分以上温めた。溶けたホワイトメタル(俗に“湯ゆ”と呼ばれる)が溢れ、型から流れ出してしまうと火傷するので、CVジュニア標準のアルミトレイの上で作業進行。素手では触れられない温度なので革手袋を着用し安全に作業進行した。試行錯誤しながらDIY金属鋳造を進めた。このカワサキエンブレムにはJIS規格2種のホワイトメタルが良い相性だった。スズが主成分の2種は、磨いた時の輝きが良く、曲げ加工に対する追従性も良いようだ。

冷えたら脱型!平ヤスリで仕上げよう


エンプレム外周や周辺のバリは平ヤスリで削って仕上げよう。ホワイトメタルを流し込んだ直後に、2箇所に穴明けしたアルミ板を押し付けてみた。溶けているホワイトメタルの上から押し込むことで穴の中にホワイトメタルが流れ込み、エンブレムの裏側に2箇所の突起ができた。アルミ板とホワイトメタルは融点がまったく違うので、このような工作が可能になった。



平ヤスリでおおよそ仕上げてから密着力を高める透明プライマーを下塗り。次に、半艶黒のウレタンペイントを準備し、表面と外周に薄く重ね塗りでペイントを吹き付けた。ここまで作業が進むと、仕上がりを想像できてワクワクする!



ペイントが完全乾燥したら表面を削り、「Kawasaki」の文字が浮かび上がるような仕上がりを目指した。小型のポリッシャーバフにサンドペーパーを貼り付け、文字の表面だけ僅かに削った感じだ。なかなか好印象の仕上がりである。ある程度、ポリッシャーで磨いてから、サンドペーパーでヘアライン仕上げにして完成だ。


POINT
  • ポイント1・作る部品、復刻したい部品と相性が良いホワイトメタル素材を選ぼう。
  • ポイント2・ホワイトメタルを流し込む前に耐熱シリコン型をしっかり温めよう。型が冷えていると溶解したホワイトメタルがスムーズに流れない。
  • ポイント3・ゴム型の寸法に合せたアルミ押し板を製作することで、製品の仕上がりが良くなる。

各種イベントやガレージセールなどに出展している個人テントの中には、手作りアクセサリーを販売しているショップもある。手作りの指輪やペンダントやブローチなどなど、テントの下では様々な商品が陳列されているが、そんな手作りアクセサリーの材料として利用されている素材のひとつに「ホワイトメタル」がある。すべての商品素材がホワイトメタルとは限らないが、色といい、艶加減といい、輝きといい、おそらくそれらのアクセサリーは、ここで実践しているホワイトメタル素材だろう。中には、色合いが酷似していたものもあった。

どんな素材で型作りしているのか?詳細は訊ねていないので不明だが、ベースとなる型に加熱溶解した金属=おそらくホワイトメタルを流し込んでブランクを作り、そこから彫金で唯一無二の個性を主張。過去に聞いたことがあるお話しだが、「ホワイトメタルを素材に彫金すれば、唯一無二のアクセサリーが作れますし、そんなアクセサリーが大人気なんです!!」といったお話を聞いたことがあるが、確かにお気に入りのデザインを表現するには、彫金や加工が楽なホワイトメタルのチョイスがベストと言えるかも知れない。


実は、ホワイトメタルと同系列の軽金属を素材にしたエンジン部品をご存じだろうか?エンジン部品で知られている、あのクランクメタルがまさにそれである。クランクシャフトのジャーナル部やコンロッドのビッグエンド部に組み込まれる、軸受け金属として使われているのが「クランクメタル」である。

今回利用したホワイトメタルは、JIS規格(日本工業規格)の配合で作られた市販のホワイトメタルだが、エンジン部品用のマテリアルとは金属成分の配合や製造方法に違いがあるようだ。そんな「レシピの違い」こそが、各メーカーの企業秘密でもある。適度なクリアランスを保った中、エンジンオイルで潤滑することで摺動抵抗は極めて少なくなり、耐摩耗性にも優れているのがホワイトメタル系金属素材の特徴でもあるのだ。


今回のエンブレム製作に当たっては、JIS規格のホワイトメタル素材を数種類購入した。すべて一般的に購入できるものばかりである(インターネット通販で購入)。100均ショップで購入したステンレス製の鍋とガスコンロを使って我々なりにホワイトメタルを熱溶解。さらに流し込み手順をいろいろ変えながらテストを繰り返したが、今回自作したエンブレムに関しては、JIS規格2種のホワイトメタルが、最善のように思えた素材だった。流し込む前に耐熱シリコンの型も200度近くまであらかじめ温め、溶解したホワイトメタルを流し込んだが、常温の耐熱シリコン型に流し込んだ際とは明らかに仕上がり具合が異なり、型を事前に熱することで、各文字のエッジをしっかり出すことに成功。常温の耐熱シリコン型に流し込むと、各文字のエッジが出ず、丸く面取りしたような文字になってしまった。


我々サンデーメカニックには当然ながらノウハウが少なく、思い通りにならないことが多々あったが、それでもトライ・アンド・エラーを繰り返しながらもDIY金属鋳造=ホワイトメタル鋳造を楽しむことができた。また何らかの機会に、違ったアプローチでホワイトメタル鋳造を楽しみたいと考えている。

取材協力/モデルクリエイトマキシ

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