【金属鋳造パート1】
溶かした金属を「型」へ流し入れるもの作りを鋳造(ちゅうぞう)と呼ぶ。
冷えて固まった部品を型枠から外して成形仕上げ。部品の自作工作好きには、まさに夢の鋳物部品作りである。

ここでは、耐熱シリコンを使って型作りを行い、そこへ「融点が低い金属」を溶かして流し込む鋳物部品作りにチャレンジしてみよう。耐熱シリコンを鋳型として応用した「鋳物入門」とも呼べる内容である。

一般のシリコン型では、常温に近い温度域で作業は進行する。硬化前の液体樹脂を流し込むのが一般的だが、今回はガスコンロで溶かした金属「ホワイトメタル=スズやアンチモンなどの合金」を流し入れる金属鋳造だ。まずはレンガ色の耐熱シリコンを使って型作りを実践してみた。

後の「パート2」では、実際に溶かしたホワイトメタルを型へ流し入れてみよう。

金属アクセサリー用ホワイトメタル素材

本格的な鋳造部品作りではなく、今回は「簡易鋳造」とも呼べるやり方で実践トライ。
融点が高い鉄やアルミ素材を溶かすのとは大きく異なり、圧倒的に低い融点の「ホワイトメタル」を使うのが特徴だ。樹脂製純正エンブレムをマスターにして型取りを行い、ホワイトメタル製エンブレムを作ってみよう!! というのが目論見なのだ。
初トライなので、素材となるスズやアンチモンの含有割合が違った、数種類のホワイトメタルを自作アクセサリーのWeb通販で購入した。


カワサキGPZ900Rニンジャのシートカウルエンドに取り付けられていたカワサキ純正エンブレム。この部品をマスターに、ホワイトメタルの金属エンブレムを自作する。果たして、そんなことが可能なのか?
ホワイトメタルの融点が低いので、このような企てが可能になるのだが……。


アクリル板でマスター型の枠作り

ホームセンターで購入できるアクリル板をカットして、型枠に利用した。専用カッターを利用することで、アクリル板は美しくカットすることができる。
一気に切るのではなく、何回か繰り返し切り込みを入れ、徐々にカット溝を深くしていくのがコツだ。板厚の半分~3分の2に達すれば、パキッと切断できる。


瞬間接着剤を利用して点付け仮固定から開始。アクリル板を突き合わせた部分に瞬間接着剤を数滴流すと、毛細管現象で接着剤が隙間に流れ込みしっかり接着される。
ここでは色違いのアクリル板を使っているが、大きな意味はなく、作業場に余っていたアンバー色のアクリル板を使っている。


瞬間接着剤は「凝固促進剤」といったケミカルを併用することで、あっという間に接着固定できる。流し込み各部がガッチリ接着されることで、シリコンゴムを流し入れても型枠が破壊せず、シリコンが漏れることもない。心配なときにはガムテープで外周をぐるっと巻きつけるのもよい。


「Kawasaki」ロゴの樹脂製エンブレムをマスターに利用した。強力な両面テープを使って底板に貼り付け固定。仮に、両面(裏表)とも型取りしたい場合は、最初に片面だけ型取りして、硬化後に反対面を型取りすることでセパレート仕様の型が完成する。


耐熱シリコンは褐色のレンガ色が特徴

型取りに使うのは褐色の「耐熱シリコン(PRO-HOBBY)」という商品だ。一般的に常温で型取りするシリコンは硬化時に乳白色になる。専用トナーを混ぜれば色着けも可能だ。
一方、この耐熱シリコンは最初からレンガ色=褐色なのが大きな特徴。融点が低いホワイトメタルなら、耐熱シリコンの型に流し込めるはず!? との考えから、このような企画を実践してみることにした。


重量比で主剤と硬化剤を正確に混ぜよう

シリコン主剤500g(レンガ色)に対して、硬化剤は15gの商品構成。つまり500対15=33対1の割合で混合する仕様だ。このように細かな数字が出てくるときには、正確な秤(ハカリ)を利用しよう。ここでは、プロユースの電子秤を利用しているが、もっとアナログな「お料理用の秤」を使っても良い。
単純な混合比率だけではなく、型取りするアクリルケースの容積を計算して、耐熱シリコンの使用量を決定しよう。少量ではシリコン型の剛性が落ちるので、やや多めに作り容器一杯まで必ず注ごう。


レンガ色の耐熱シリコンを流し込む際には、マスター型に液を当てるように、直接的に流して入れてはいけない。型に液が直接当たると、泡立ちやエアー噛みの原因になってしまうのだ。エアー噛みが無いように、型の周囲からシリコンを徐々に注ぎ入れ、「ロゴ部の隙間」にしっかりシリコンが流れ込むように目視確認しつつ、作業を進めよう。


購入のタイミングでは6000円(税抜)だった耐熱シリコン。今回の型取りでは、およそ5分の1程度の使用量だった。
それぞれの容器(注いだ部分)に付着したシリコンや硬化剤は、キレイなウエスでしっかり拭き取り、容器のフタをマスキングテープでしっかり固定。このように密閉し、高温多湿を避けて保管すれば、後日、余ったシリコンも利用できるはず。


POINT
  • ポイント1:樹脂部品やゴム部品の復刻なら常温用シリコンで良いが、今回のような金属鋳物には「耐熱シリコン」を必ず利用。
  • ポイント2:マスターの型取りにはアクリルケースが良い。無駄なく製品サイズをしっかりカバーできるケースをアクリル板で自作しよう。
  • ポイント3:アクリル板のカットにはアクリル用カッター(通称Pカッター)を利用。一気にカットするのではなく、定規に沿って徐々に深く切り込み、ある程度まで切り込んだらパキッと折る。
  • ポイント4:シリコン主剤と硬化剤の軽量には正確な秤(ハカリ)を使用する。型取り容器の容積+αで計量。僅かに多く計量すれば、容器サイズで型作りできる。

なかなか入手できない部品を「復刻製作してみたい」「オリジナル部品を作ってみたい!!」といった夢は、少なからず誰もが持つものだろう。そんな復刻部品に関して、このエンブレムと「同じものを作ってみたい!!」と思ったときに、現実的なのが、シリコンゴムを使った「型どり」からの復刻部品製作だろう。

シリコンゴム素材(硬化前の液体)を準備して、マスターとなる部品を入れた容器にシリコンゴム液を流し込むことで型どりは可能だ。完全硬化後にカッターを使って慎重に切り割れば良い。ザックリした説明にはなったが、このような方向性で復刻部品の製作を進めることにしよう。


シリコンゴムを使って型どりができたら、次はいよいよ製品作りである。そして、次なる課題は、製品のマテリアル決定だろう。このマテリアルが何なのかによって、当然ながら流し込み段取りも変ってくる。ウレタン系樹脂素材の復刻部品なのか? エポキシ系樹脂素材での復刻なのか? それともウレタンゴム系素材なのか? などなど、完成品素材によって流し込むマテリアルが変ってくる。

この製品注型にあたっては、エアー抜きや脱泡と呼ばれるシビアな作業がある。また、製品を乾燥成形時に熱を加えるなど、様々なノウハウやそれにともなう行程がある。
しかしここでは、敢えてそれらの内容は無視して、目的の作業へ進もうと思う。

今回、ここで実践トライしたいのは「溶かした金属の流し込みが可能か否か?」ということ。
もしも可能なら、メーカー純正では樹脂製エンブレムだったものを、金属製部品に変更することもできるし、自分だけのオリジナルアクセサリーも作れるはずだ。


常温での部品作りなら、型の材料も一般的なシリコンゴムで大丈夫だ。しかし、今回は「ホワイトメタル」を溶かして流し込む、簡易ながらも鋳造である。復刻部品製作するホワイトメタルは、スズ(錫)を主成分とした合金で、アンチモンや銅や鉛などを含有している。クランクシャフトジャーナルやコンロッドのビッグエンドに組み込まれる「軸受け用メタル」など、エンジン部品に使われるホワイトメタル合金も、同じ金属に分類される。しかし、エンジン用部品はホワイトメタルの中でも「パビットメタル」と呼ばれるタイプで分類され、それらは融点がより高く、耐摩耗性にも圧倒的に勝れた合金として知られている。

今回利用した耐熱シリコンの硬化時間は、説明書によれば23度の気温で4時間となっている。加熱乾燥に関する説明記載は特に無かったが、型枠が乾燥温度に耐えられる前提で設定温度200度なら2時間の強制乾燥で使えるようだ。今回のような少容量利用だと硬化時間が安定しないので、説明書の硬化時間は利用全量時と考えた方が良さそうだ。【パート2へ、つづく】

取材協力/モデルクリエイトマキシ

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