
スーパーカブやモンキー&ゴリラ、ダックスやシャリィに搭載されたホンダ横型エンジンは4ストロークの教科書のような存在で、中身を見てみたいライダーも多いはず。シリンダーヘッドやクランクケースを分解するにはいくつかの専用工具が必要ですが、シリンダーやピストンの着脱であればハンドツールだけでも何とかなります。エンジンメンテナンスやカスタムのはじめの一歩となる腰上の分解手順を紹介しましょう。
シンプルなのに奥が深すぎるOHC・2バルブエンジン
エンジンカスタムやチューニングに興味があっても、いきなり4気筒を手がけるのは無謀と言わざるを得ない。分解と組み立ての手順を習得し、4ストロークの仕組みを知るにも単気筒OHCのホンダ横型エンジンは好適だ。カスタム部品の多さ、いじった成果が分かりやすいところも、多くのファンに愛されるポイントだ。
国民的に知られる乳酸菌飲料の容器よりも小さな、わずか50ccのシリンダー容積から発生する燃焼エネルギーによって走行している原付バイク。中でもホンダ横型エンジンシリーズは超ロングセラーとして知られています。
1950年代末に発売されたスーパーカブに搭載されたエンジンはバルブ駆動系がOHVでしたが、60年代半ばにOHCとなり、それ以降仕様変更を受けながら40年以上に渡り基本設計を踏襲して製造され続けました。
それだけに、バイクいじりの第一歩がこの横型だったというライダーは多く、年齢を重ねても横型エンジンのカスタムやチューニングを趣味としている人も少なくありません。
エンジンをパワーアップするために最も手っ取り早いのは排気量を上げることで、単気筒エンジンは2気筒以上に比べてそれが簡単でした。またシリンダーヘッドもカムシャフト組み込み式で、カムシャフトをカムホルダーで押さえつけるタイプのエンジンより組み立てや分解が楽という利点があります。
そして何より、人気のエンジンゆえカスタムパーツが安価で豊富にあったことも、横型エンジンが長く愛された大きな理由となっています。4気筒の400ccや750ccのエンジンには当然ピストンが4個あり、2バルブエンジンでも吸排気バルブは8本、4バルブなら16本必要です。これに対して単気筒のホンダ横型ならピストンは1個、バルブは2本です。
ただし単気筒2バルブであっても4ストロークエンジンのメカニズムは4気筒と同じなので、エンジンの仕組みや各部パーツの動き方を知りたいライダーにはもってこいの存在なのです。メンテナンスやカスタム、チューニング目的でなくても、4ストロークエンジンの中身がどうなっているのか見てみたいという純粋な好奇心を満たすためにも、とても良い教材といえるでしょう。
- ポイント1・4ストロークエンジンの基礎が学べるホンダ横型エンジン
- ポイント2・スペシャルパーツが数多く存在するのでカスタムやチューニングも楽しめる
ピストンが圧縮上死点の位置でカムチェーンを外す
1)腰上の分解はエンジンがフレームに載ったままでも可能だが、見やすいように単体で作業を行う。エンジン左にフライホイールーがあるので、左側のカバーを外す。
2)フライホイール上のTマークの刻み線とクランクケースの切り欠きの位置を合わせる。
3)Tマークでピストンが上死点になるので、圧縮上死点か排気上死点かを確認するためタペットキャップを外す。
4)吸排気バルブのロッカーアーム先端を摘まんで揺すり、両方にガタがあれば圧縮上死点。ガタがなければロッカーアームがバルブを押しているので、フライホイールを1回転させて、もう一度Tマークの刻み線をクランクケースの切り欠きに合わせてロッカーアームのガタを確認する。
ここで紹介するエンジンは、1992年に登場したAB27型モンキーに搭載されているものです。車体デザインはそれ以前のZ50Jと大きく変わりませんが、エンジンは発電系が12V、点火系がCDIを採用するなど、時代に合わせた進化を果たしています。
しかしながらシリンダーから上の構造部分はZ50Jやスーパーカブ、ダックスやシャリィと大きく変わる部分はないので、同じ手順で分解することができます。同じ横型でも機種によって遠心クラッチとハンドクラッチモデルがあるので、ミッションについては作業手順に違いがあります。
シリンダーヘッドとシリンダーを外す場合、クランクシャフトとカムシャフトをつなぐカムチェーンを外さなくてはなりません。2ストロークエンジンのシリンダーヘッドは、単純に考えればシリンダーの蓋ですが、4ストはシリンダーヘッドに吸排気バルブがあり、その開閉はクランクシャフトの回転、つまりシリンダー内におけるピストンの位置によって決まるため、クランクシャフトとバルブを開閉させるカムシャフトの動きをシンクロさせる必要があるのです。
余談ですがホンダ横型はこれをカムチェーンで行いますが、RC30の呼び名で知られるホンダVFR750Rや1980年代に発売されたCBR250/400はチェーンの代わりにギアを用いたカムギアトレインを採用していました。またスーパーカブの初期モデルや、ハーレーダビッドソンはチェーンでは無くプッシュロッドと呼ばれる金属製の棒でバルブを開閉するOHVという機構を採用していました。
さて、カムチェーンを外す際の重要なポイントは、ピストンを圧縮上死点に合わせておくということです。圧縮上死点とは吸排気バルブの両方が閉じていて混合気が充満しており、ピストンがシリンダー内の最上部にある状態です。スパークプラグに点火火花が飛ぶのは、圧縮上死点よりも手前なので、圧縮上死点ではまさに爆発的燃焼が発生していることになります。
4ストエンジンは1回の燃焼のために4つの行程、つまり吸入、圧縮、燃焼、排気があり、そのためにクランクシャフトが2回転します。ということは、ピストンが上死点に来るタイミングは2回あり、そのうち1回は混合気に着火しない上死点となり、これを排気上死点といいます。
圧縮上死点では吸排気バルブがどちらも閉じていますが、排気上死点では吸排気バルブが開いている可能性があります。可能性というのは、カムシャフトの特性(バルブタイミング)の設定によっては、排気上死点前に排気バルブが閉じる機種もあるためです。その場合も吸気バルブは開いています。
ともあれ、排気上死点ではカムがバルブを押しているためバルブスプリングが圧縮されています。そこでスプリングの張力が抜けた状態でシリンダーヘッドを取り外すため、圧縮上死点に合わせておくわけです。
ちなみに、単気筒エンジンは圧縮上死点で吸排気バルブのスプリングの張力が抜けますが、4気筒エンジンはそうはいきません。1番シリンダーが圧縮上死点であっても、2~4番の他のシリンダーはそれぞれ吸排気行程にあるため、4気筒分すべてのシリンダーの吸排気バルブが同時に閉じているタイミングはありません。
ホンダ横型エンジンで圧縮上死点は、カムスプロケットの丸い印とシリンダーヘッドの合わせマーク、エンジン左側のフライホイールの刻み線で合わせます。フライホイールを反時計回転に回し、Tの刻印がある刻み線をクランクケースの合わせマークに合わせると、カムスプロケットの○印がシリンダーヘッドの切り欠き状の合いマークと合うはずです。
この状態でピストンが最も上がった上死点になりますが、先の通り上死点には圧縮上死点と排気上死点があるため、どちらの上死点かを確認します。そのためには、タペットキャップを外して吸排気バルブのロッカーアームを揺らします。
どちらもガタがあれば、カムがバルブを押していない圧縮上死点であると判断でき、カムがロッカーアームを介してバルブを押していればロッカーアームはまったく動かないので排気上死点であると判断できます。
5)カムスプロケットカバーはシリンダーヘッド右側から長いボルトで固定されているので、このボルトを緩めて取り外す。
6)フライホイールのTマークの刻み線が合っていれば、カムスプロケットの○印とヘッド側の切り欠きの位置が合うはず。この位置で上死点が合っていても、圧縮と排気の二種類の上死点があるから要注意。
7)画像は割愛したがエンジン左下、チェンジシャフトの前にあるカムチェーンテンショナーを緩めてカムチェーンに余裕を持たせてからカムスプロケットをマグネットで取り外す。もしシリンダーヘッドを外さずカムシャフトだけ交換するような場合は、カムスプロケットから外れたカムチェーンをエンジン内に落とさないように注意する。落下してもシリンダー途中のアイドラーに引っかかるのでケースの底まで落ちることはないが、見失わない方が良い。
8)シリンダーヘッドカバーの4個のナットは、右下以外の3個は袋状のキャップナットで右下だけが一般的な貫通ナット。また左下のだけが銅製のシーリングワッシャーで、他はスチール製なので覚えておく。
- ポイント1・ピストン上死点には圧縮上死点と排気上死点がある
- ポイント2・圧縮上死点を確認するにはロッカーアームのガタを見る
ヘッドアッセンブリーなら腰上分解は簡単
9)シリンダーヘッドとシリンダーをつなぐボルトは頭が10mmだが、ヘッドと干渉してメガネレンチが使えないので3番のドライバーで回す。
10)シリンダーヘッドが固着してたらプラスチックハンマーで叩きながら取り外す。カムチェーンはシリンダーのアイドラーに引っかかるので、これ以上クランクケース内には落下しない。
11)シリンダー横のボルトを抜くと、カムチェーントンネル内のアイドラーが外れる。アイドラーを外し忘れてシリンダーを抜くと、途中でカムチェーンが引っかかって抜けなくなる。アイドラー下のシリンダーとクランクケース合わせ面のボルトも取り外す。
12)シリンダーヘッドガスケットとシリンダースタッドボルトのノックピンを取り外す。シリンダーボアとカムチェーン通路とは別の大きめの穴の部分にもOリングが入る。これはシリンダーヘッドを潤滑下オイルの戻し穴となる。
13)シリンダーとクランクケースの間にも位置決めのためのノックピンが入っているので、プラスチックハンマーで軽く叩きながらシリンダーを引き抜く。抜けづらいからといってマイナスドライバーなどで合わせ面をこじってはいけない。
14)シリンダーが抜けるとピストンとカムチェーンが露出する。
15)コンロッドとピストンをつなぐピストンピンは、ピストンピン両端のC型のクリップで抜け止めとなっている。細いマイナスドライバーで溝から取り出す際に飛びやすいので、ピストン下部にウエスを巻くなどしてクランクケース内に落下させないよう対策をしておく。
16)ピストンピンクリップはピストンピンの両側にセットされているが、片方を外して反対側から押せば抜けてくる。バイク用のピストンピンはこのように簡単に抜けるフローティングタイプだが、自動車用は圧入タイプが多いのでピンを抜くには油圧プレスが必要。
ピストンが圧縮上死点にあることを確認したら、カムスプロケットのボルトを抜いてクランクケース下部にあるカムチェーンテンショナーを緩めてからカムスプロケットを取り外します。この時、スプロケットに磁石を貼り付けると外しやすいです。
カムスプロケットが外れれば、シリンダーヘッドの先端にある4個のナットと、シリンダーヘッドとシリンダーをつないでいるエンジン左側のボルトを外すことでシリンダーヘッドアッセンブリーが外れます。
ここでの要注意ポイントは4個のナットの向かって左下に銅製のシーリングワッシャーが入ることと、シリンダーヘッドとシリンダーをつなぐボルトの存在を見落とさないことです。
またシリンダーヘッドとシリンダーの合わせ面には、両者の位置を正確に決めるためのノックピンが入っており、古いエンジンでこのピンが腐食気味になっていると、シリンダーヘッドががっちり食い込んでいることもあるので、その場合はプラスチックハンマーで優しく叩きながら固着を剥がすと良いでしょう。
シリンダーヘッドが外れてピストンの頭が見えると、こんな小さなピストンで走っているのかと感動することでしょう。AB27モンキーのシリンダーボアはたった39.0mmしかありません。このシリンダーを外すには、シリンダーとクランクケースをつなぐエンジン左側のボルトを1個取り外します。シリンダーとクランクケースの間にも位置決め用のノックピンがあり、シリンダーの中にはピストンも入っているので、シリンダーを貫通している4本のスタッドボルトに沿って真っ直ぐ引き抜きます。
ピストンを外すにはピストンピンクリップを取り外します。このクリップはピストンピンの両側にセットされており、どちらか片方を外せば反対側に押し出すことができます。ここでの注意事項は、外したクリップを勢いでクランクケース内に落下させないことです。もし落下後にケース内を覗いて見えなければ、クランクケースまで分解するはめになるかもしれません。それを避けるには、クランクケースにタオルやウエスなどを詰め込んでからクリップを外すと良いでしょう。
これで腰上が分解できたので、例えばボアアップキットや吸排気効率をアップするシリンダーヘッドなどのカスタムパーツ組み付けることもできます。今回はシリンダーヘッドをカムやバルブが組み付けられたままアッセンブリー状態で取り外しましたので、シリンダーヘッドの分解については別の機会に紹介します。
純正よりサイズの大きなピストンや、吸排気バルブ径を拡大したスペシャルシリンダーヘッドなど、ホンダ横型エンジン用のチューニングパーツは他のどのエンジンよりも豊富に存在する。そのためここまで分解できれば、その後のエンジンカスタムはボルトオン感覚で楽しめるようになる。横型エンジンを一度経験すれば、これが4個並ぶのが4気筒で、カムが2本になればDOHCになるなど、応用がきくようになる。
- ポイント1・カムチェーンを外せばシリンダーヘッドは4個のナットと1個のボルトで取り外せる
- ポイント2・シリンダーヘッド内にカムシャフトが組み込まれた状態で着脱できるので分解組み立てが容易
- ポイント3・ピストンピンクリップを外す際はクランクケース内への落下に注意
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