4ストロークエンジンの点火時期は、一般的に「上死点前◎度(角度)」で表されているケースが多い。その一方で、2ストロークエンジンの場合は「上死点前△mm(ミリ)」で表されているケースが多い。中には4ストエンジンと同様に、上死点前◎度で表しているデルもあるが、80年代前半以前の、2ストロークエンジン全盛期以前に登場したモデルの多くは、一般的に「上死点前△mm」で表されている。
ここでは、ヤマハスポーツ50FS1(1990年代後半から2000年初頭にかけて発売されたヤマハYB1系エンジンと同タイプのエンジンを搭載)の点火時期を調整してみよう。
上死点確認用純正特殊工具があると便利
ヤマハ純正特殊工具の上死点確認用ツール(この商品は90890-01252のスパークプラグ穴にセットするアダプターツールとダイヤルゲージ本体で、延長測定子は別途購入)。スパークプラグのネジ込み角度がピストンの往復運動に対して直角なら利用できるが、斜めネジ込みタイプでは正しく使えない。
ピストンが上死点付近にあることを確認してから、アダプターにプリセットしたゲージ+測定子をスパークキプラグ穴へ締め付ける。この際の締め付けは手締めで十分だ。アダプターを締め付けたら測定子先端をピストン頭頂部へ当て、ゲージ作動途中でアダプター側の固定ボルトを手締めし「0」ポイントを合せる。
シリンダーヘッドスパークプラグ穴が斜め締めモデルの場合は、一度シリンダーヘッドを取り外し、正確な上死点をダイヤルゲージで探すのが良い。点火時期の基本は「正確な上死点の確認」から始まるのだ。
上死点位置とフライホイール内側のポインターが一致
フライホイール内側にポインターがあるモデルは、上死点を確認したらこのポインターをフライホイール側の刻線と一致させる。フライホイール外周に刻線があり、クランクケース側にも刻線があるモデルは、刻線同士が一致していることを確認する。このFS1には何故かフライホイール側に刻線やクランクケース側にポインターが無かった。そんな時には暫定的に油性ペンでマークを入れても良い。
ヤマハスポーツFS1の場合だと、点火時期は上死点前2.2ミリとの指示がある。上死点位置を確認したら、クランクをゆっくり逆転させて上死点前2.2ミリを僅かにこえたら止め、再度正転で上死点前2.2mmの位置にてクランクをストップさせる。
この際に、フライホイール側の刻線とクランクケース側の刻線もしくはポインターの位置の合致を確認するが、旧式エンジンではこの刻線が無い場合もあるので、そのような際には、フライホイール側とクランクケース側(固定側)を一致させる刻線もしくはポンチマークを入れるのがよい。その合いマークが無いと調整点検で点火時期が早い、遅いを判断できないからだ。
ポイント制御の点火方式なら、ポイントヒールがポイントカムに乗り上げた瞬間にポイント接点が開いて、その瞬間、スパークプラグ電極に火花が飛ぶ。無接点制御のCDI点火車は、フライホイール内部の電極切り替わり時にタイミング制御している。
タイミングストロボがあれば、火花が飛んだ瞬間にフラッシュが光り、現状点火時期の確認が取れる。そして調整作業に入る。
アイドリング中の点火時期を確認しよう
タイミングストロボのクランプをプラグコードにセットしてから(クランプ部分には電気の流れ「→」マークがあるので間違えない)、エンジンを始動。ストロボ本体のスイッチを押込むことでフラッシュの光が断続的に飛び続けている。このフラッシュの瞬間がポイントが開いた瞬間=点火タイミングだ。マークとズレがあるときには、ポイントの締め付けをビスを僅かに緩め、マイナスドライバーでポイントの締め付け位置を僅かにずらして、マークが一致するように調整しよう。
- ポイント1・2ストエンジンモデルは上死点位置の確認から始めよう
- ポイント2・上死点前◎ミリのデータに従い、特殊工具のダイヤルゲージを使って数値通りのピストン位置を探り出す。
- ポイント3・正しい点火時期の確認にはタイミングストロボが必要不可欠。
- ポイント4・タイミングの調整はポイントの締め付け位置の微妙な調整、つまりポイントギャップ広さの微妙な調整で行うことが多いアウターローター式。
4ストロークエンジン以上に、旧式エンジンとも呼べる2ストロークエンジンの方が、点火時期の調整作業はシビアだと言える。4ストロークエンジンの場合は、一般例として上死点前6度~12度といったアイドリング時のデータがある。そして、おおよそ3000prmを超えた頃には、最大進角値まで点火進角する仕組みだ。
アナログ時代で、しかもポイント制御の時代は、点火進角の調整を遠心力で行っていた。技術が進んだトランジスタ点火やCDI点火の場合は、電子信号制御で点火進角を調整している。数は少ないが、そんな技術的過渡期に登場したモデルでは、トランジスタ点火ながらアナログの遠心ガバナーを装備する例などもあった(70年代末に発表されたホンダCB750Fなどがそうだった)。
2ストロークエンジンの場合は、一般的に角度制御ではなく、上死点に対してピストンの位置が「何ミリ手前で着火」という意味で「上死点前△ミリ」といったデータがある。
これはアイドリング時の数値データであり、公道仕様の市販2ストロードバイクの場合は、ほぼ点火進角は無く、いわゆる「固定進角」を採用している。しかし、4ストロークエンジンで、固定進角と呼ばれる場合は、アイドリング時の点火時期ではなく、進角後の点火時期を指しているのがほとんどだろう。
エンジン始動後、アイドリング時の点火時期のままでスロットルを開けば理解できるが、4ストエンジンの場合は、点火進角させないとエンジン回転は高まらない。一方、高回転時に合せて点火進角を固定することで、エンジンはスムーズかつ気持ち良く回すことができる。しかしながら、高回転時の点火時期固定だと、エンジンの始動時は今ひとつ良くなくなってしまうこともある。
つまり低回転時に点火時期が早すぎるため、安定したエンジン始動が難しくなるのだ。
4ストロークエンジンを搭載した市販車のサービスマニュアルを見ると、点火時期の項目に「アイドリング時はB.T.D.C12度/3500rpmで最大進角35度」との詳細が出ている場合は、アイドリング時に12度で調整すれば、最大進角は遠心ガバナーで35度まで進むと考えれば良いだろう。
しかし、エンジンの吹けが悪くタイミングストロボで点検すると、アイドリング時はFマーク(ファイアーマーク)ぴったりなのに、回転を高めても最大進角幅の刻線範囲内に入らないケースもある。吹けが悪い原因は、十中八九、点火進角の不良だと考えられる。
仮に、遠心ガバナーが不調だと思い、取り外して点検してみたところ、ガバナーがサビており最大進角まで開かない!? なんてケースもある。そんなときには、ウエスを広げて部品を無くさないように注意して、ガバナーをバラして作動部のサビを除去して摺り合わせするのが良いだろう。そんなメンテナンス後は、エンジン回転がスムーズに高まるようになった!! といったお話しは珍しくなく、過去にそんな経験は何度もしたことがある。
2ストロークエンジンの場合は、ピストン上死点位置を探し出し、点火時期データの上死点前△度は、特殊工具を利用して探し出す。
機種によっては、フライホイール側にもエンジン側にも刻線やポインターが無いケースもあるので、そんな際には、まず始めに上死点を探しだそう。そして、マニュアルに記載されている点火時期データ通りにピストンの位置を移動し、ポイント式ならその瞬間にポイントが開くようにポイント固定の調整ボルトの締め付けで行う。
ピックアップコイルがフライホイール外側にあるCDIモデルの場合は、おおよそデータ通りの位置でピックアップコイルのセンサー位置とフライホイール側突起の位置が一致するようにエンジン設計されているはずだ。
上死点位置を表す刻線やポインターがある場合、また、点火時期のFマークが刻まれているような場合は、そのFマークの位置にフライホイールがさしかかった瞬間にポイントが開くようにポイント調整する。しかし、その調整は「眼見当」でしかないので、厳密な調整を行うには合いミングストロボが必要になる。
眼見当でポイントが開いた瞬間にFマークが一致するように調整したつもりでも、タイミングが早かったり、微妙に遅かったりするものだ。そんなときにタイミングストロボがあれば、微妙な調整を手間取らずに完全一致させることもできるのだ。
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