エンジンの調子が良くない時に、チェックすべきポイントのひとつが点火系です。スパークプラグを外して火花が飛べば点火系は大丈夫と判断しがちですが、大気中と燃焼室内ではプラグへの負荷が異なります。そんな時に火花ギャップを任意に調整できるイグニッションスパークテスターがあれば、原因がプラグなのかイグニッションコイルなのかを判断する助けになります。

スパークプラグを外せば点火火花が飛ぶか否かが分かる


どんな高性能エンジンでも、スパークプラグが火花を飛ばさなければ混合気は着火しない。最近のバイクはプラグの着脱のためにカウルやガソリンタンクなど多くの部品を外さなくてはならない機種も多い。だが1本数百円の部品でエンジン不調に陥らないよう、走行距離に応じて点検、交換したい。

調子の良いエンジンには「良い混合気」「良い圧縮」「良い火花」の三大要素が必要で、エンジンがかからない、始動するが調子が悪いといった時にはこの三つの要素をチェックします。この中でもっとも簡単にチェックできるのが良い火花、つまりスパークプラグです。

簡単といっても、最近のバイクはスパークプラグにたどり着くまでにカウルやガソリンタンクを外さなくてはならない機種も多いので、手間としては大変かもしれません。

しかし混合気をチェックしようにも、ガソリンと空気がちゃんと混ざっているか、ガソリンの供給量が過不足ないかを知ることは簡単ではありません。エアークリーナーエレメントが詰まっているとか、吸気系のパイプが外れたり亀裂が入るなどの症状があれば、そこに疑いを向けられますが、キャブレター車ならキャブセッティングやインジェクション車の燃料噴射プログラムをチェックするのは容易ではありません。

圧縮に関しても同様で、プラグを外してセルモーターを押せばプラグ穴からシュポシュポと空気が吹き出しますが、コンプレッションゲージがなければ圧力を測定してシリンダーやバルブの状態がどうかを知ることはできません。

だからプラグに到達するのにひと苦労したとしても、シリンダーヘッドからプラグを外してプラグキャップを外し、エンジンに押し当てた状態でセルモーターを回す、あるいはキックペダルを踏めば電極にスパークが発生するかどうか見て分かる火花チェックは、三大要素の中では容易に確認できる項目となります。

ここで火花が飛ばない場合、その原因はプラグがカーボンで汚れたり過度に濃いガソリンで濡れてショートするなど、プラグ本体にある場合と(ガソリンが濃すぎるのは混合気の問題にもなってきますが)、イグニッションコイルから高電圧が発生していない点火系に問題がある場合に分けられます。

ちなみに、スパークプラグの火花を確認する際は、必ずプラグのネジやカギ状に曲がった外側電極をシリンダーヘッドの金属部分に接触させてアースを取った状態でセルボタンを押すことが重要です。もしプラグを手に持った状態でエンジンにアースさせずセルモーターを回す、あるいはキックペダルを踏めば、2~3万ボルトの電圧が人体に流れて感電します。


プラグに火花が飛ぶか否かは、外したプラグをエンジンに当ててセルモーターを回すかキックペダルを踏めば分かる。プラグキャップを持ってプラグのネジ部がエンジンに触れていれば大丈夫だが、ネジ部を握ってエンジンから浮いた状態でセルを回すと感電するので要注意。

電圧は高いですが電流は小さいので、感電といっても即座に命に関わるほどではありませんが、場合によっては指先から肩口まで大きなショックを感じることもあるので、思わぬ事故を未然に防ぐ上でもエンジンに接触させておくことが大事です。

プラグの先端から「パチパチ」と火花が飛べば、一応点火は行われていると判断できます。一応、というのはそれが正しいタイミングで必要なエネルギーであるかどうかは別の問題となるからです。

点火の制御を機械的に行うコンタクトブレーカーポイント点火、いわゆるポイント点火方式の場合、点火時期をユーザーが調整する必要があります。「良い火花」はピストンが圧縮上死点となる手前で飛ぶ必要がありますが、ポイントの調整次第では見当外れの場所で飛ぶこともあります。したがって、プラグ単体では火花が飛んでいるのに、エンジンに組み付けると調子が悪い、始動できないという可能性があるのです。

二番目の点火エネルギーについては、イグニッションコイルが発生する電圧が低下して火花が弱くなることが考えられます。コイル本体の経年劣化でハウジングに亀裂が入って絶縁性が低下することで、コイルの温度が上昇するとプラグが失火したり、コイルとプラグコード、プラグコードとプラグキャップの接続部分から電気がリークして点火が弱くなる場合もあります。

したがって、外したプラグに火花が飛ぶという一点だけで、点火系には問題ないと判断すると不調の原因にたどり着けないかもしれません。

 

POINT

  • ポイント1・スパークプラグをエンジンに当ててエンジンを回すことで火花が飛ぶか否かが分かる
  • ポイント2・プラグの金属部分をエンジンの金属部分に触れておかないと感電するので要注意

大気圧下と高圧圧縮の燃焼室下では火花の負荷が異なる


これがイグニッションスパークテスター。同じ形状で名称が異なる製品もあるが、機能に違いはない。

「良い火花」を確認するためにスパークプラグを外して火花を飛ばしたのに、それだけでは不充分だとすれば、どうすれば良いのでしょうか。

点火エネルギーが低下していると、スパークプラグは大気中では火花が飛ぶのにエンジンに取り付けると弱い、あるいは失火することがあります。その理由は、高圧で圧縮された混合気に満たされた燃焼室内には、電気火花の種火も圧縮して潰そうとする力が働くためです。

圧縮圧力を測定できるコンプレッションゲージで燃焼室の圧力を測定すると、エンジンにもよりますが800~1300kPa程度の圧力があります。大気圧は約100kPaなので、およそ10倍ほどに圧縮されるわけです。さらに混合気が爆発膨張する際には燃焼室内の圧力は5000kPaにも達すると言われています。

このため、大気圧中で火花が飛んでも、燃焼室ではうまく着火できずエンジンの不調につながることがあります。点火エネルギーが弱く燃焼室で火花が飛びづらい場合の対症療法としては、これは旧車や絶版車の路上修理のテクニックでもありますが、一時的にプラグギャップを狭めてしまうことで圧力に負けず火花を飛ばせるようになることがあります。

ただし、ギャップが小さいと種火も小さくなるため、適正なギャップで大きな火花を飛ばす時よりは着火燃焼の性能は低下します。とはいえ点火系のエネルギーが小さく適正ギャップでは火花が飛ばないよりはましなので、このような対処は有効となります。

スパークプラグの外側電極と中心電極のギャップは、一般的には0.7~0.9mm前後です。高性能点火ユニットとして知られるASウオタニ製SPIIキットでは1.1~1.3mmもの広いギャップが指定されていますが、これはSPIIのコントロールユニットとハイパワーコイルが純正の点火系より高い電圧を発生することができるためです。

大気中で「パチパチ」と火花を飛ばすだけでは点火系の診断ができないとなれば、どうすれば良いのでしょうか。ここで登場するのがイグニッションスパークテスターです。この工具はスパークプラグテスター、プラグギャップテスターと呼ばれることもあります。

「テスター」というわりには、プラグキャップに差し込むターミナル部分と、先端が尖って隙間が調整できるネジ部分とクリップ付きコードという単純な構造で、アナログ風の見た目からどれほどの機能があるのだろうかと思う人もいるかもしれません。

ただ、この単純な仕組みの中に点火系の能力を診断できる秘密があります。

先に、大気中では火花が飛んでも燃焼室では圧力によって火花が潰される例を書きました。

大気圧より圧縮圧力下の方が着火しづらいのと同様に、大気圧中でもプラグギャップは狭いより広い方が火花が飛びづらくなります。そこでイグニッションスパークテスターはプラグギャップを任意に調整することで、イグニッションコイルの性能を測定しようというわけです。

ここで取り上げるテスターには本体にいくつかの数字が書き込まれており、隙間を広げながらどこまで火花が飛ぶかによって、イグニッションコイルの発生電圧が分かるようになっています。一般的なイグニッションコイルは2~3万ボルトの電圧を発生するので、テスターの20の数字まで隙間を広げても火花が飛べばコイルの性能は正常と判断することができます。30なら3万ボルト、40なら4万ボルトを示します。

これならスパークプラグの0.7~0.9mmのギャップだけ判断するより、負荷の高い状態で測定することで信頼できる結果が得られると考えて良いでしょう。


ターミナル部分にプラグキャップを差し込み、リード線を車体にアースしてセルボタンを押せば、イグニッションコイルから発生する電圧で空中放電が起こる。青白いスパークとジジジジ……という放電音に若干恐怖を感じる。


調整ネジを緩め方向に回すと隙間が広がり、放電に必要な要求電圧が高まる。隙間を広げても火花が飛べばイグニッションコイルが発生する二次電圧が高いというシンプルな仕掛けながら、複数のイグニッションコイルを測定する際にも隙間の再現性があるから相対比較に便利。2個のコイルのうち一方が3万ボルトなのにもう一方が2万ボルト以下なら、低い方に何らかの問題や不具合があると考えられる。

POINT

  • ポイント1・大気圧下では火花が飛んでも、燃焼室内で圧縮された混合気の中では火花が飛ばない場合がある
  • ポイント2・イグニッションスパークテスターはイグニッションコイルが発生する電圧を測定できる

安価でも想像以上に使えるイグニッションスパークテスター


1シリンダー1コイルの2気筒エンジンの場合、一方のコイル不調がアイドリング不整やプラグかぶりの原因となる。キャブセッティングの見直しや圧縮圧力の測定と共に、イグニッションコイルの発生電圧の測定がトラブルシューティングの一助となる。


1、4番と2、3番が同時点火の4気筒2コイルの場合、プラグの失火が発生する時も2気筒ずつがセットとなる。したがって1、2番のプラグがかぶる場合は、点火系よりキャブセッティングに原因があると推測できる。純正コイルの2~3万ボルトに対してASウオタニのSPIIハイパワーコイルが4万ボルト発生できるのは、コイルとコントロールユニットの組み合わせがあるから。

イグニッションスパークテスターはスパークプラグチェッカーと呼ばれることもあるため、プラグに火花が飛ぶか否かの確認をする機器だと解釈されることがあります。それも確かにこの工具の一面を捉えていますが、隙間を調整することによってイグニッションコイルの発生電圧が分かるところに本質があります。

この能力は特に4気筒エンジンで有効です。一般的に4気筒エンジンには2個のイグニッションコイルがあり、1、4番シリンダーのプラグを1個のコイル、2、3番シリンダーのプラグをもう1個のコイルで点火しています。そのためどちらかの点火コイルに不具合が発生すると1、4番か2、3番のどちらかの点火状況が悪くなります。

このような場合、まずは2個のコイルを入れ替えて症状に変化が現れるかどうか確かめます。ここで不具合の発生するプラグが反転すれば、コイルが原因だと診断できます。コイルを変えても状態が変化しないのなら、プラグに問題があるか、失火やかぶり症状が出ているなら混合気に問題があるのかもしれません。

次にイグニッションスパークテスターでコイルが発生する電圧を測定します。2万ボルトの隙間で火花が飛べばまずはOKですが、4気筒の2コイルであればそれぞれの発生電圧を測定することで相対的な性能差を知ることができます。2万ボルトと2万5000ボルトで性能差を実感できるかどうかは分かりませんが、1万ボルトと3万ボルトではそれなりの差が出ます。

特にポイント点火の場合、ポイントギャップが小さいとコイルに流れる一次電圧が低くなり、それに比例してイグニッションコイルの発生電圧も低くなるため、4気筒2コイル間の電圧差が発生しやすくなります。この場合、コイルの性能ではなくコンタクトブレーカーのギャップ調整に由来するもので、イグニッションスパークテスターがあればそうしたことも分かるようになります。

なおスパークプラグチェッカーの中には、プラグキャップとプラグの間に挟んだり、プラグコードに沿わせることでランプが点灯するタイプの製品もあります。これらはテストするプラグが着火しているかどうかを確認することができますが、発生電圧を知ることはできません。

簡単な構造のイグニッションスパークテスターは1000円前後で購入できる安価な工具ですが、一般的には測定が難しい数万ボルトの高電圧を簡単にチェックできる有用なテスターのひとつです。

POINT

  • ポイント1・複数のイグニッションコイルの発生電圧を相対的に比較して点火系を診断できる
  • ポイント2・測定機器としてはシンプルで安価なわりにはエンジンメンテナンスで重要な内容が把握できる

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