美しくに仕上げられたフルレストア車のような旧車でも、単純に組み立てられた美しさの裏には「エンジン不調」トラブルがあったりするもの。ポイント点検と清掃ついでにフライホイールを取り外し、さらにポイントベースを取り外してみたところ、クランクシャフトのオイルシールからブチブチ漏れを発見……。
仮に、4ストロークエンジンなら、通常のオイル漏れでエンジン性能に大きな変化を感じることはできないレベルである。しかし2ストロークエンジンは違う。何故なら、2ストエンジンは、ピストン下降時にクランク室内で「一次圧縮行程」が行われているからだ。


ポイントベースの中央内側をLEDランプで照らしてみたら、オイルシールリップがキラキラ輝き、下へ向かってネチョネチョなオイルが流れている様子を発見!!
4ストロークエンジンではなく2ストロークエンジンの場合は、このオイル漏れが直接的にエンジンのパワーダウンにつながることを、ご存じだろうか?

フライホイール締め付けナットはインパクトでズドン!!


フライホイール外周をクランプし、回転しないように保持するフライホイールホルダー(特殊工具)が手元にあるなら、フライホイールを保持しながらロックナットをソケットレンチで取り外すこともできる。
特殊工具が無い場合は、インパクトレンチでズドン!!と一気に緩めることで、固定ナットは簡単に緩めることができる。


ロックナットを緩めることができても、クランクシャフトエンドのテーパーに、ガッチリ固定されているフライホイールは簡単に抜取ることはできない。ここでは、十文字型の汎用フライホイールプーラーを利用した。メーカー純正特殊工具ではなくても、各工具ショップやコンストラクターのオリジナル商品でネジサイズが合致するものもある。

プラス溝の「皿ネジ、皿ビス」はナメやすい!!


発電コイルや点火コイルを一緒にマウントするポイントベースの固定は、プラスドライバー溝の皿ネジで固定されているモデルが多い。プラス溝の形状や大きさに合致したドライバーを使うのが当然だが、このプラス溝をナメてしまう例が多いので、作業は慎重に行いたい。電動ドライバーの利用はお勧めだが、何より重要なのがプラスビットの合致である。

以前に紹介した「自作工具」が輝いて見える!!


ヤマハ純正特殊工具(スライディングハンマー)に自作した先端部分を組み合わせることで、エンジンに圧入されているオイルシールを引き抜くことができる自作工具(抜けないオイルシールも当然にあります)。
2020年9月27日に更新した過去ログをご覧頂ければ、詳細をご確認頂けます。


クランクシャフトにキズを付けないようにシールリップ部分から、先端の引っ掛け部分を滑り込ませ、クランクシャフトの向きにスライディングウエイトをスコッ、スコッと力強く引き当てる。1箇所ばかりではなく、向けにくい部分も平均的に引っ張るのがコツだ。


オイルシールはヤマハ純正部品を購入。このモデルは1970年に登場したFS-1だが、2000年頃に発売されていたYB-1と同型式エンジンを搭載していたので(もちろん他のモデルでも利用されている可能性がある)、オイルシールはメーカー在庫があった。

液ガスとラバーグリスを上手に併用


オイルシールの外周には耐ガソリン性液体ガスケットを薄く塗布し、オイルシールリップにはラバーガスケットを適量塗布する。双方が混ざらないように慎重に塗布しよう。


クランクケース側のオイルシールホルダーをクリーニングしたら、オイルシールリップを痛めないように注意しつつクランクシャフトにオイルシールを差し込む。シール外周に塗った液体ガスケットが乾く前に押込むのがコツだ。乾く前なら、液体ガスケットが滑って圧入しやすく、乾燥後はガッチリ食いつく。なかなか圧入できないときには、パイプやディープソケットを利用して押し込もう。オイルシールがクランクケースのツラと一致する「ツライチ圧入」にするのがポイントだ。

POINT

  • ポイント1・2ストエンジンのクランクシャフトシールダメージは、エンジンパワーに直結する。漏れや滲み発見時は即交換しよう。
  • ポイント2・クランクケースは分解せず、オイルシールを外側から抜取り新品部品に交換。
  • ポイント3・液体ガスケットは耐ガソリン性を利用。グリスはラバーグリスを利用する。

大切な愛車のコンディションを維持するためのメンテナンス。そんなメンテナンスで極めて重要なのが「ついで」のメンテナンスである。リアホイールを取り外したついでにリアアクスルシャフトにグリスを薄く塗ることで、次にリアアクスルを抜取る作業時にはスムーズな抜取りが可能になる。
また、乾燥して油っ気がなかった際には、防錆剤としてグリスが大きな役割を果たすことにもなる。また、リアホイールを取り外せば、ドリブンスプロケットダンパーの様子も点検できる。ダンパー機能がスムーズに作動していれば良いが、カジリ気味やダンパーゴムが痩せてガタが生じていると、ドライブチェーンが伸びやすくなってしまう。交換したばかりなのに「チェーンの伸びがちょっと早くないか?」なんて感じた時には、チェーン性能を疑う前に、ドリブンスプロケットダンパーのコンディションを点検してみよう。
ホイールペイントをペイント仕上げしたため、ダンパーユニットの摺動部分がキツくなり、ダンパーが機能不全になってしまうこともある。また、ダンパーゴムが痩せ細ってダンパー機能を果たしていないこともあった。いずれの症状でも、ドライブチェーンは伸びやすくなるので、分解時は点検することをお勧めしたい。この「ついで」のメンテナンスで、不具合箇所に気がつくことが実は多いのだ。

このヤマハスポーツFS-1のメンテナンス時も「ついで」のメンテナンスによって、パワーダウンの根本的原因を発見することができた。ここでは、そんな具体例をリポートしよう。
エンジン不調でスピードが出ないとオーナーから伺ったので、始動性の確認や、それにともない点火時期確認=ポイントタイミングの確認や断続作動状況を点検してみた。そんなときに、何気なくLEDランプでポイントベースの奥にある「クランクシャフトシール」をランプで照らしてみた。その先に見えたのが、クランクシャフトシールリップの不良だった。クランクシャフトエンドからは混合気に混じったエンジンオイルが、シールリップを乗り越えて、ブツブツと外側へ流れ出ていたのだ。
マシンオーナーによれば、頑張ってスロットル全開を続けても、せいぜい50km/h前後の最高速しか出なかったそうだ。フルレストア後なのに何故か?そんな想いで悶々としていたそうだ。僅か50ccの排気量ながら、発売当時のメーカーデータによれば、最高速度は95km/h!!こんなエンジンでは、到底そんな速度には至らない!!

そんな「ついで」のメンテナンスによってオイルシール不良を発見。より具体的に申せば、このオイルシールがクランク室の一次圧縮を保つ役割を担っていて、オイルシールがダメになると、一次圧縮時の圧力がクランク室外へ抜けてしまい(オイルシールから)、掃気ポートから燃焼室へ向けた圧縮混合気の勢いを低下させてしまう。その結果、良い爆発を得ることができず、エンジンパワーが不足していたと考えられる。
そこで、まずはこの圧漏れしているオイルシールを新品部品に交換。そのときに利用したのが、以前のメンテナンスログでも紹介している、スライディングハンマー仕様のDIYオイルシール抜き専用工具である。この工具があったお陰で、オイルシールの交換は、スムーズに行うことができた。

この記事にいいねする

今回紹介した製品はこちら

コメント一覧
  1. ak40mmhg より:

    バイクではありませんが2ストジムニーの一次圧縮についてお尋ねです。
    クランクケースの気密状況ですが、一切漏れは許されないのでしょうか。アイドリングが不安定な症状が出たため一次圧縮漏れを疑い、全ての穴を塞いで空気を注入(100kps程度)入れてみたところ、30分後にはほぼ0kpsまで抜けてしまう状況です。

コメントをもっと見る
コメントを残す