4ストロークエンジンの吸排気バルブは、混合気を排気の出入りをコントロールしている重要な部品です。これらはカムシャフトの回転に合わせて開閉しますが、カムとバルブの間には適正な隙間、バルブクリアランスが必要です。シックネスゲージを使用してバルブクリアランスを確認、調整することでエンジンはいっそう好調になるはずです。

バルブクリアランスは狭すぎても広すぎてもダメ


バルブクリアランス測定の一例。カムシャフトの回転に合わせてシーソーのように動くロッカーアームの先端にアジャストスクリューが付き、その先端がバルブステムの先端を押してバルブを開閉させる。スクリューとステムの隙間に何ミリのシックネスゲージを挿入できるかでバルブクリアランスを測定する。

吸気バルブが開いた時に混合気が燃焼室に流れ込み、吸排気バルブが閉じた状態で混合気に着火して爆発的な燃焼を起こし、排気バルブを開いて排気ガスを排出するのが4ストロークエンジンです。バルブはカムシャフトによって開閉されますが、両車の間には「バルブクリアランス」、「タペットクリアランス」と呼ばれる一定の隙間が設定されてます。

回転運動するカムシャフトと直線的な往復運動を行う吸排気バルブは、エンジンの熱によって各々が熱膨張します。特にバルブは燃焼室の蓋となって混合気の燃焼にさらされており、高温の排気ガスが触れる排気バルブは特に温度が上がります。温度上昇によってバルブが熱膨張するとカムシャフトに接近するため、バルブクリアランスが必要なのです。逆に言えば適正なバルブクリアランスがあることで、エンジン全体の温度が上昇した時に吸排気バルブが理想的に動作できるわけです。

バルブクリアランスはエンジンごとで適正値が決まっていますが、先の理由から吸気バルブより排気バルブの方がその値が大きいのが一般的です。

ではバルブクリランスが適正範囲を外れるとどのようなことが起こる得るのでしょうか。

クリアランスが狭い場合、バルブが膨張した時にカムシャフトに突き当たってしまうため、バルブが常に開いた状態になる可能性があります。するとピストンが圧縮上死点に達しても圧縮が漏れてしまい、エンジン馬力が低下します。多気筒エンジンで特定の気筒だけクリアランスが狭いと、アイドリング不調を起こす場合があります。

一方クリアランスが広いと、カムシャフトの山がバルブを押そうとしてもなかなか届かないので、バルブが開いている時間とリフト量が少なくなり吸排気効率が低下します。またカムがバルブを押す際の接触音、打音が大きくなり、シリンダーヘッド周りから「カチカチカチ……」という異音が聞こえることもあります。

一般的には走行距離が増えることで、バルブクリアランスは小さくなる傾向があります。これはバルブの開閉に伴ってバルブの傘(バルブフェイス)とシリンダーヘッドのバルブシートが強い力で叩き合うことで摩耗し、バルブが僅かに後退することでバルブステムの端部がカムシャフトに接近するために発生する症状です。

サービスマニュアルでは定期点検整備項目に指定されているわけではありませんが、走行距離を重ねることで摩耗が進むのは避けられないので、ノーメンテナンスで済むというわけではありません。

 

POINT

  • ポイント1・カムシャフトとバルブの隙間をバルブクリアランスという
  • ポイント2・バルブクリアランスは狭すぎても広すぎてもエンジン不調、トラブルの元となる

バルブの開閉方法には2種類ある


調整が必要な場合は、ロックナットを緩めてスクリューを回す。この時シックネスゲージは挟んだまま、スクリューを回してはゲージを滑らせ、抵抗が大きすぎず小さすぎない締め具合を見つける。ロックナットを締める際にスクリューを一緒に回さないように。


アジャストスクリューとナット。左の2本が新品で、バルブステムと接触するスクリュー先端が滑らか。走行距離が長くなると先端が偏摩耗して、スクリューを回した際にステムとの接触位置の相性が悪くなり、バルブクリアランスが正しく測定できなくなることがある。スクリューの先端に傷が付いていたら新品交換する。

カムシャフトとバルブのクリアランスを適正に保つには確認と調整が必要ですが、バルブを開閉する仕組みには2つの種類があります。

ひとつめはカム山が直接バルブステムの端部を押す「直打式」で、もうひとつはカムの動きをシーソーのような部品でバルブに伝える「ロッカーアーム式」です。ロッカーアーム式はカムシャフトが1本のOHCエンジンで用いられることが多く、DOHCエンジンでは直打式とロッカーアーム式のどちらもあります。

バルブクリアランスを調整するには何らかの調整機構が必要で、直打式とロッカーアーム式ではその部分が大きく異なります。直打式の場合、カムシャフトとバルブの間に「シム」と呼ばれる薄い金属製の円盤が入り、この円盤の厚さでクリアランスを変更します。このシムにはインナーシムとアウターシムの2タイプがあります。

これに対してロッカーアーム式は、ロッカーアーム式の先端のアジャストスクリューと呼ばれるネジの先端でバルブを開閉し、このスクリューを回すことでクリアランスを調整します。つまり直打式で必要なシムがなくても調整できるというわけです。

ただしロッカーアーム式の中にもシムを用いるエンジンがあり、その場合はシムの変更が必要です。

直打式でもロッカーアーム式でも、バルブクリアランスを確認する際は薄い金属板が何枚もセットになったシックネスゲージを使います。リーフと呼ばれる金属板はもっとも薄いもので0.01mmまで存在し、測定範囲によってセット内容が異なります。

測定はエンジンが冷えている状態で行い、サービスマニュアルに記載されたクリアランス値を参考に調整が必要かどうかを判断します。クリアランスはエンジンによって異なり、たとえばホンダエイプやスーパーカブは吸排気とも0.05mmで、カワサキゼファーχは吸気が0.08~0.17mm、排気は0.17~0.26mmです。またカワサキZ1は吸排気とも0.05~0.10mmとなっています。

エイプやスーパーカブがズバリ0.05mmなのに対して、カワサキの2機種の数値に幅があるのは、前者がアジャストスクリューを使ったロッカーアーム式なのに対して後者はシムを用いた直打式だからです。

シム調整を行う際には厚みの異なるシムが何枚も必要です。0.01mm違いで用意できれば理想的ですが、大量生産を行う市販車ではそれだけ細かい部品設定をするのは現実的ではありません。そこでZやゼファーχではシムの厚みを0.05mm刻みに設定しています。そのためバルブクリアランスにも一定の幅が許容されているのです。ゼファーχのクリアランス範囲は0.09mmですが、この範囲があれば0.05mm刻みのシムの中の1個はストライクゾーンに入ります。

また機種によっては(ホンダCBR250R)シムの厚さが0.025mmというものもあり、この場合はバルブクリアランスの範囲を狭めることができ、吸気は0.16±0.03mm、排気は0.27±0.03mmとなっています。

シックネスゲージでバルブクリアランスを測定する際は、カムがバルブを押していない圧縮上死点で行います。多気筒エンジンでは一カ所のシリンダーが圧縮上死点でも他のシリンダーはバルブ押して開いているので、各シリンダーごとに圧縮上死点になるようクランクシャフトを回します。この時、スパークプラグが付いていると燃焼室で空気が圧縮されてクランクに勢いが付いて回ろうとするので、プラグは抜いておいた方が圧縮上死点を出しやすくなります。

この状態でカムとバルブの隙間にシックネスゲージを差し込みますが、どの厚さのリーフが入ったかによって現状を知ることが重要なので、規定値にこだわる必要はありません。規定値が0.05mmなのに0.02mmのゲージしか入らなくても、それを調整するための測定なので大丈夫です。

単気筒2バルブのエイプなら測定は2カ所で終わりですが、4気筒16バルブのゼファーχは16カ所すべて測定しなくてはなりません。その測定値はメモに残して調整のためのデータとします。

 

POINT

  • ポイント1・バルブの開閉方法にはロッカーアーム式と直打式の2種類がある
  • ポイント2・調整の前にシックネスゲージで現状のクリアランスを測定する

アジャストスクリューに対して、調整が大がかりになるシム


アウターシムタイプのカワサキZ1のシリンダーヘッド。シムはタペットの上に乗っているので、専用工具を使ってタペット外周を押さえておくことでシムを着脱できる。不要にカムを回すとカム山が工具に接触して傷が付くので慎重に作業する。


0.05mm刻みのシムは500円玉ぐらいの大きさで吸排気バルブ共通。調整範囲が大きくなるとその分多くのシムが必要になる。測定の結果、吸排気、シリンダーごとのシムの位置を変えることでクリアランスを適正範囲に合わせ込むことができる場合がある。

測定の結果、規定値から外れていたら調整を行います。

アジャストスクリューの場合、ロックナットを緩めてスクリューを回します。この時、エイプであればスクリューとバルブの間に0.05mmのシックネスゲージを挟んだ状態でスクリューをゆっくり締めて、緩すぎずきつすぎずの抵抗感でシックネスゲージが動くように調整します。厳密なゲージを使うわりに感覚に頼る部分も多いのですが、ようかんに包丁を入れるような感触と喩えられることもあります。

アジャストスクリューの位置がきまったら、シックネスゲージを残してスクリューを動かさないようにしながらロックナットを締め付けます。ナットを締めるのに合わせてスクリューも回しがちなので、スクリューの固定を意識します。

ナットを締めた後でシックネスゲージの感触が変化したら、再度調整します。作業に慣れないうちはゲージが渋くなる=ナットと同時にスクリューも締めていることが多いようです。ただしナットの締め付けが弱く、走行中に緩んだり外れると大きなトラブルの原因になるので、締め付け自体はしっかり行うことが必要です。

これに対してシム調整は大がかりで手間が掛かります。

先にシムにはアウターシムとインナーシムがあると書きました。アウターシムは、カムがバルブを押す「タペット」というコップを逆さまにしたような円筒形の部品の外側にシムがあり、カムシャフトと直接接しています。一方のインナーシムは、シムがタペットの内側にあって外からは見えません。

性能面で考えればアウターシムよりインナーシムの方があらゆる点で優れています。しかしカムシャフトを取り外さないとシム交換ができないという大きな難点があります。

測定したクリアランスが規定値よりも広ければ、現状よりも厚いシムに交換すればクリアランスは狭くなります。規定値が0.17~0.26mmのゼファーχの排気バルブを例に挙げれば、測定値が0.28mmだった場合は現状より0.05mm厚いシムにすれば計算上クリアランスは0.23mmになるはずです。

しかしクリアランスが0、あるいはカムがバルブを押して開いている状態では、隙間が測定できないので最適なシムが選択できません。ゼファーχの場合、排気バルブの下限は0.17mmで、0.01mmのリーフも入らない現状のクリアランスがちょうど0mmなら、現状より0.20mm薄いシムを選択すればクリアランスは0.20mmになるはずです。

バルブがバルブシートに密着していないとなると、0.20か0.25、あるいは0.30mm薄くする必要があるかもしれません。それを確認するには、とりあえず薄いシムを組み付けて測定しなくてはなりませんが、そのたびにカムシャフトを毎回外さなくてはなりません。

カムシャフトの着脱は簡単なようでいて、4気筒エンジンの場合はどこかのシリンダーが圧縮上死点でも他のシリンダーはカムがバルブを押しており、カムはバルブスプリングの強い張力で押し上げられています。そこでカムホルダーボルトを緩めていくと、当然カムホルダーとボルトにも強い力が加わり、同じ作業を繰り返すとシリンダーヘッド側の雌ネジがダメージを受ける場合もあります。

またアウターシムでもインナーシムでも、シム交換によるバルブクリアランス調整を行う場合、調整に必要なシムはその都度購入しなくてはなりません。ちなみにゼファーχの純正インナーシムは1サイズ1枚税抜680円、Zのアウターシムは1サイズ1枚税抜800円なので、何枚も交換する場合はそれなりの費用が掛かります。

とはいえ、吸排気バルブは4ストロークエンジンの肝心要の部分なので、仕組みと調整方法を知っておけばきっと役に立つはずです。


インナーシムタイプのカワサキゼファーχ。カムが接触するのはタペットで、タペットの裏側(下側)にシムが入っているのでこのままでは交換できない。吸気0.08~0.17mm、排気0.17~0.26mmの範囲に入っていれば調整は不要。


インナーシムは指でつまんだバルブリテーナーの中心部部分に入る。シムを交換する場合はカムシャフトとタペットを外さなくてはならないので、作業が大がかりになる。測定したクリアランスが0に近い場合、何ランク薄くするかが作業回数を左右する。

POINT

  • ポイント1・アジャストスクリュー式はドライバーとスパナでクリアランスを調整できる
  • ポイント2・シム式は測定結果に基づき適正なシムを購入して交換する
  • ポイント3・インナーシムはアウターシムよりもシム交換にかかる作業が多くなる

この記事にいいねする


コメントを残す