快調なエンジンの条件のひとつ「よい火花」のためには、ピストンが上死点に達する手前でスパークプラグに火花が飛ぶことが重要です。現在のエンジンは電気的な信号で火花を飛ばしていますが、1970年代半ばまでは機械的に行うのが当たり前でした。「コンタクトポイント」と呼ばれるメカニズムを知ることで、点火の仕組みが理解できます。

現代の点火方式は機械的な動作を電気で置き換えただけ!?


KZ900LTDはカワサキZ1/Z2の後継機種であるKZ900の派生モデル。コンタクトブレーカーはエンジン右側のポイントカバー(DOHCの浮き文字があるカバー)の内部にある。KZ1000までがポイント点火で、KZ1000Mk IIでフルトランジスタ点火式となる。

バイクや自動車のガソリンエンジンはすべて、スパークプラグに発生した電気火花をきっかけに燃焼室内の混合気を爆発的に燃焼させて、混合気が一気に膨張する力でピストンを押し下げて動力を発生しています。3.7馬力のスーパーカブ50も、218馬力のCBR1000RR-Rもプラグに火花が飛ばなければエンジンは動きません。

その火花を発生させるタイミングも重要です。いつでも良いわけではなく点火する最善のタイミングがあり、圧縮上死点の手前という大原則があります。吸排気バルブが閉じた状態でピストンがシリンダーの頂点にある瞬間を圧縮上死点といい、混合気が燃焼室内に密閉される直前に火花を飛ばすことで、頂点を超えて下りかかったピストンに爆発的燃焼の追い打ちを掛けることができるのです。

その点火タイミングを決めているのがコンタクトブレーカーポイントです(以下ポイントと略)。ポイントは1970年代以前のバイクやクルマでは一般的な存在でした。しかし1980年代以降は姿を消し、現在はトランジスタ式やCDI式といった無接点式の点火システムになりました。

なぜ旧車がポイントだったのかといえば、当時は高速で回転するエンジンから正確な点火タイミングを決めるメカニズムがそれ以外になかったからです。その後、電子部品の小型化と高性能化が進んだことで、電気的に回転信号を拾うことができるようになり、ポイントは廃れていきました。

しかし、複雑で高度な電子制御システムが搭載された現代のバイクでも、クランクシャフトやカムシャフトの回転からピストンの位置を算出して最適なタイミングで点火するという根本的な仕組みには変わりはありません。したがって、機械成分が丸見えのポイントの働きとメンテナンスが理解できれば、ブラックボックスに置き換えられた現行車の点火の仕組みも理解できるというわけです。

 

POINT

  • ポイント1・新旧問わずガソリンエンジンはスパークプラグの火花で燃焼が起こる
  • ポイント2・ピストンが圧縮上死点前まで上昇した時に点火する

クランクシャフト1回転で一度接点が開く


長円の点検窓の中に見える縦の筋がクランクケース側の合わせマークで、その下に小さく「T」の刻印が見えるのがブレーカーベース。Tというのはピストンのトップ(Top)を示し、Tの右に「1」とあることから1、4番ピストンが上死点にあることを示す。点火時期のFマークを通過しているので、点検窓の手前のポイント接点はすでに開いている。1、3番のプラグを点火するのは向かって左側のポイントだ。

ピストンが圧縮上死点手前の時にスパークプラグに点火するため、ポイントの動きはクランクシャフト(4ストロークはカムシャフトの場合もあります)と同期しています。ポイントは接点の開閉で電気を断続し、閉じたポイントが開いた瞬間にイグニッションコイルからスパークプラグに高電圧が流れて火花が発生します。

ポイントが開いて電気が流れる際には電磁誘導作用が発生しますが、この説明は省略します。閉じた接点が開いた瞬間にプラグに火花が飛ぶ、と覚えておけば良いでしょう。

余談ですがトランジスタ式点火でも、それまで流れていた電気が遮断された瞬間にイグニッションコイルから高電圧が発生するという仕掛けは同じで、機械的な接点を無接点に置き換えています。CDI式は電気の使い方が逆で、点火時期のタイミングで大電圧を発生させてさらにイグニッションコイルで昇圧します。

ポイントの接点を開閉動作は、クランクシャフト(またはカムシャフト)上にあるブレーカーベースのポイントカムとポイントアームのヒールによって行われます。卵形のカムには一カ所に山があり、ここにヒールが乗り上げると接点が離れる仕組みになっています。先に接点が開いた瞬間に火花が飛ぶと書きましたが、カムとヒールの位置関係によって適正なタイミングで開いた時に、最も良い火花が飛ぶわけです。

点火時期はエンジンによってまちまちですが、ここで紹介するカワサキKZ900LTD(Z1の後継派生モデル)の場合はエンジン1500回転時に上死点前20°、2350回転時に40°となっています。アイドリング時から回転数が上がると点火時期が早くなるのは、回転の上昇にともなってピストンの移動スピードが速くなり、上死点に近い位置で点火し続けると爆発的燃焼のタイミングが相対的に遅れるためです。

エンジン回転に応じて点火時期を変えるため、ポイント点火では遠心力によって作動するガバナーという機械的なメカニズムを使います。無接点タイプのトランジスタ式では、電気信号によってエンジン回転数を把握して点火時期を電気的に変更しています。


コンタクトブレーカーが取り付けられたポイントベースのネジ穴も長穴になっているので、コンタクトブレーカーだけでは点火時期を調整できない時には、ポイントベースの位置をずらして調整する。このポイントベースを外すと、エンジン回転素によって点火時期を変えるスパークアドバンサーがある。この中心にポイントを開閉するカムがある。

POINT

  • ポイント1・コンタクトブレーカーのポイントはクランクシャフトまたはカムシャフト(4ストロークエンジンの場合)と同期する
  • ポイント2・エンジン回転数が高くなると点火時期は早くなる

コンタクトブレーカーは「最大ギャップ」と「タイミング」で調整する


カムがポイントアームのヒールを押して接点が最大に開いた時の隙間をシックネスゲージで測定して、0.3~0.4mmの間になければネジを緩めて調整する。昔はシックネスゲージがなければ名刺の厚さを目安にすると良いと言われたが、今は名刺にもさまざまな種類があるので、一概には当てにできない。


クランクケースの合わせマークとブレーカーベースのFの刻印を頼りに、コンタクトブレーカーの接点が開くタイミングを合わせる。エンジン右側から見るとクランクシャフトは時計方向に回るが、Fマークの前後で僅かに逆回転させると開閉前後の接点のわずかな動きが分かる。エンジン内部に無理が掛かるので大きく回してはいけない。

ここで登場するKZ900LTDをはじめとして、4気筒エンジンでポイント式の場合はふた組のポイントによって点火が行われます。これは1、4番ピストンと2、3番ピストンが同じ位置関係にあり、それぞれが180°ずれた位置にあるためです。

つまり1、4番ピストンが同じタイミングで点火しており、2、3番ピストンも同じタイミングで点火しているというわけです。このため、点火時期の調整を行う際は2つのポイントを別々に確認することが必要です。

コンタクトブレーカーポイントの調整は「最大ギャップ」と「点火時期」の2項目で行います。最大ギャップとはポイント接点が最大に開いた隙間のことで、KZ900LTDに限らず0.3~0.4mmぐらいに指定されています。ポイントの接点はポイントアームのヒールがブレーカーベースのカム山に乗った時に開きますが、ギャップの広さによって接点が開いている時間が決まります。

規定値よりギャップが狭いと接点が閉じている時間が長くなり、接点が離れても接点間で火花が飛ぼうとするためポイントの焼けが早くなります。逆に規定値より広いと接点が閉じている時間が短くなるため、イグニッションコイルに流れる電流が不足して火花が弱くなります。

そのため、メガネレンチなどでクランクシャフトを回して、ポイントアームのヒールがカム山の頂点に乗った状態で最大ギャップを測定し、必要ならば調整します。ただ、回転するカムと常に接しているヒールは摩耗するため、走行距離が多くなると調整しきれなくなることもあります。この場合はコンタクトブレーカー自体の交換が必要です。

次にタイミングですが、クランクケースの合わせマークとブレーカーベースのカム山の位置を示す「F」マークが一致した瞬間にポイント接点が開くよう、コンタクトブレーカー自体の位置を調整します。ブレーカーベースとコンタクトブレーカーは1、4番と2、3番ピストンで対になっているので、それぞれ別々に調整します。

「F」マークの前後で狭い範囲でクランクシャフトを正転、逆転させるうちに、慣れてくるとFマークと接点が開く瞬間が目視でも判断できるようになってきます。しかしカムとヒールのフリクションによって曖昧な部分もあるので、正確に判断するにはタイミングライトを使います。

1、4番の点火時期を確認する際は、タイミングライトのコードを1番か4番のプラグコードに取り付けてエンジンを始動して、クランクケースの合わせマークを照射します。タイミングライトはスパークプラグの点火と同時にストロボライトが点灯するので、調整が正しくできていれば合わせマーク位置にブレーカーベースのFマークが止まって見えるはずです。

この時点で両方のマークが合っていなければ、エンジンを止めてコンタクトブレーカーの位置を再調整します。点火タイミングが進み方向にずれているか、遅れ方向にずれているかはタイミングライトで照射すれば分かるので、その結果に従って調整することで正しい点火時期に合わせることができるはずです。

点火時期が正しくないとちょうど良いタイミングで混合気に着火されないため、馬力不足やノッキング、加速不良やオーバーヒートなどの原因となります。無接点のトランジスタ式やCDI式のバイクにはまったく縁のない作業ですが、ポイント点火の調整手順を知ることでスパークプラグへの点火の仕組みを知ることができます。


ポイント点火のバイクを所有しているなら、ぜひとも持っておきたいのがタイミングライト。電池式、12Vバッテリー式などいくつかの製品があり、タコメーター機能付きの高性能品もある。


たとえアイドリングであってもブレーカーベースの回転は速すぎて刻印は読めないが、タイミングライトを照射するとスパークプラグに電気が流れるのに合わせてストロボライトが点滅するので、刻み線や文字が止まって見える。1、4の間のFの刻み線がエンジン側の合わせマークと一致しているので、1、4番の点火時期は合っていると判断できる。

POINT

  • ポイント1・コンタクトブレーカーはポイントギャップと点火時期を調整する
  • ポイント2・点火時期を正しく確認するにはタイミングライトが必要

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