通勤や通学、買い物のお供にも気軽に乗れて頼れるスクーターは、125cc~150ccクラスともなれば速さも充分。ミッション付きバイクに比べてメンテナンスフリーと思われがちなスクーターですが、当然ながらタイヤやブレーキも摩耗します。さらに無段階変速の要であるVベルトやウェイトローラーも、乗りっぱなしでは済みません。走行不能になる前に、駆動系のベーシックメンテナンスを行いましょう。

最新モデルも1980年代の原付スクーターも変速の基本は同じ



ベルトケースを外すと、前後のプーリーとVベルトが確認できる。ベルトケースの外側には消音とケース保護を目的とした樹脂カバーが付き、ベルトケース内に外気を送りこみ換気するためのダクトが付くモデルもある。

1980年代のスクーターといえばきゃしゃな作りの2スト原付が中心で、まさに原動機付き自転車感覚で乗りつぶされるのが当たり前でした。また当時はスクーターレースも盛んで、安く買ってきた車両を改造して遊ぶ文化もありました。

しかし現在のスクーターカテゴリーを見ると、当然ですが50ccも4スト+インジェクションとなり、チューニングはよく分からないけどとりあえず排気ポートを削ってみた、ということもできなくなりました。また50ccの原付1種クラス自体が縮小して、原付2種から250cc以下の軽二輪モデルの勢力が拡大しているようです。

現代のスクーターは昔と違って、カウルの造形も複雑で高級感があり、インパネ周りの機能も充実、シート下のトランク容量も大きく実用性に富んでいます。125cc以上の軽二輪なら高速道路も走行できるので、快適なロングツーリングだって可能です。

そんな魅力的なスクーターですが、外装を取り払って駆動部分に注目すると、仕組み自体は1980年代のスクーターとほとんど変わっていません。ギアミッション車だってクラッチがあり、ミッションがあり、ドライブチェーンでリアタイヤを駆動するというメカニズムは1950年代から同じと言えば同じです。しかし軽二輪クラスまでのスクーターの駆動系は、極端に言えば2スト時代のDIOやJOGと同じと言っても過言ではないほどです。250ccやそれ以上になるといくつかの電子制御が加わることもありますが、それにしても無段変速の原理に大差はありません。

改めてスクーターの変速の仕組みを説明すると、エンジン側とタイヤ側のプーリーがゴム製のVベルトで繋がり、エンジン回転の変化に応じてエンジン側プーリーの直径が無段階で変化するのに連動してタイヤ側のプーリー径も変化します。Vベルトの長さは不変なので、エンジン側のプーリー径が大きい時はタイヤ側が小さく、エンジン側の径が小さくなるとタイヤ側のプーリー径が大きくなります。

プーリー径の変化は変速機付き自転車のギアに置き換えると分かりやすく、大きなギアの時はペダルは軽いが速度は遅く、小さなギアに変速するとペダルが重くなるが速度が上がるのと同じです。

POINT

  • ポイント1:スクーターの無段階変速は前後プーリーの直径比の変化で行う
  • ポイント2:ベルトによる変速は1980年代から不変のメカニズム

車両の耐久性がアップしたことで注目されるVベルトの摩耗


エンジン側のドライブプーリーはドライブプーリーフェース(右)とムーバブルドライブフェース(左)が向かい合わせとなって機能する。2枚のフェースによって決まるプーリーの内幅の中で、Vベルトが移動して変速比が無段階に変化する。ドライブプーリーの幅はエンジン回転が低い時は広く、高くなると狭くなる。プーリー幅が狭くなるとVベルトが外周方向に押し出されて速度が上昇する。

Vベルトは常に引っ張られながら屈曲するため、劣化によって内側に亀裂が入ることもある。
亀裂が確認できたら、摩耗が限度以下でも交換する。

Vベルトの使用限度は機種によって異なるのでサービスマニュアルで確認する。
摩耗限度に達していなくても、走行距離で管理するほうが明確だろう。

ベルトケース内に外気を導入していてもベルトの摩耗粉はケース内に堆積する
交換時にはパーツクリーナーを使って洗浄しておこう。

前後のプーリーをゴムベルトで繋いでいる以上、回転に伴って摩擦が発生することは避けられません。前後のプーリーで挟み込まれながら、強制的に回転直径が変化するのだからなおさらです。このメカニズムゆえ、Vベルトは摩耗して幅は徐々に狭くなります。するとプーリーで挟まれたベルトの位置が徐々に変化していきます。その状態で走行を続けてさらに摩耗が進行して幅が狭まれば、強度不足によって切断することもあります。

2ストスクーター全盛時代は、高回転型のチューニングによってVベルトにガツンと駆動力が加わることで摩耗していないベルトがいきなり切断するトラブルもありました。現代の4ストスクーターではさすがにそんな事例は稀ですが(一部のハイチューンド4ストスクーターは除外しますが)、逆にエンジンや車体の耐久性が向上したことで1台あたりの走行距離が伸びたことがVベルトに対するストレスになっています。

Vベルトの交換はベルト幅の実測値で判断しますが、走行距離も基準となっています。メーカーによって異なるかもしれませんが、例えばヤマハ車の場合50ccから250ccのスクーターのVベルトは2万kmごとの交換が指定されています。シビアコンディション車の場合は1万kmです。50ccのJOGで2万km走行するユーザーは少ないかもしれませんが、250ccのXMAXなら2万kmは珍しくないかもしれません。

ギヤミッション車でも走行距離に応じてドライブチェーンやスプロケットを交換するのだから、スクーターでドライブベルトを交換するのは考えてみれば当然ですが、スクーターという乗り物の特性上、どうしても駆動系はメンテナンスフリーと思いがちになるのは仕方ないかもしれません。しかし無段階変速であっても消耗部分がある以上、そこにメンテナンスが必要になります。

Vベルトの交換にはベルトケースを取り外し、エンジン側のドライブプーリーとタイヤ側のドリブンプーリーを外します。この際、それぞれのプーリーを固定するホルダーと、プーリーの中心を固定するボルトを外すためのレンチが必要になります。

走行距離が多いスクーターでは、Vベルトケース内が摩耗したベルトのダストで汚れていることが多いので、ベルトを取り外したらパーツクリーナーでしっかり洗浄してから新品ベルトを取り付けます。

POINT

  • ポイント1:走行距離に応じて定期的にVベルト交換を行う
  • ポイント2:Vベルトはチェーンと同様の消耗品と考える

摩擦しながら回転するウェイトローラーのチェックも重要

ムーバブルドライブフェースの裏側にあるウェイトローラーは、重さを変更することで変速のタイミングを変更できる。通常の街乗りならスタンダードの重さで良く、直径の変化や偏摩耗の有無を確認しておくことが重要。

タイヤ側のドリブンプーリーは内蔵スプリングの張力によって狭まる力が加わっている。新品ベルトを組み付ける際は、スプリングを縮めてプーリーの幅を広げ、ベルトを駐輪部分まで押し込んでおくことで、ドライブプーリーがスムーズに組み立てられる。

Vベルトの摩耗と合わせて確認しておきたいのが、ドライブプーリー内のウェイトローラーの摩耗です。ウェイトローラーは円筒形で、ドライブプーリー(ムーバブルドライブフェースと呼ばれることもあります)の裏側に複数個あります。

ドライブプーリーはエンジンのクランクシャフトにつながっており、エンジン回転数が上昇するとプーリーの回転も上昇し、遠心力によってウェイトローラーがプーリーの外側に移動します。するとドライブプーリーの内幅が狭くなり、中心部分にあったVベルトが外側に押し出されます。

この動きによって減速比が変化して、Vベルトによってタイヤ側のドリブンプーリーの幅が広げられて速度が上昇していきます。したがってドライブプーリーのスムーズな動きにとって、ウェイトローラーの働きはとても重要になってくるわけです。

そしてVベルトと同様に、このウェイトローラーもまた走行距離が伸びるに従って摩耗します。エンジン回転の上下にともなってプーリーの内側の坂を登ったり降りたりを絶えず繰り返す中で、円筒形のローラーは摩耗によって直径が小さくなったり、場合によっては偏摩耗によって真円ではなくなる場合もあります。

するとエンジン回転が上がっているのにドライブプーリーの幅が狭くなるタイミングがずれて加減速にムラが出ることもあります。
ウェイトローラーはVベルトと違って走行距離で交換時期が示されていることはありませんが、円筒部分の寸法によって限度以下まで摩耗したら交換するように指定されているので、ドライブプーリーを外したら裏側のウェイトローラーの状態も確認しておきましょう。

チェーンやスプロケットと違って、スクーターの駆動系は外側から見えないため摩耗状態や交換時期が判断しづらいので、走行距離に従ってメンテナンスを行うことが重要です。

POINT

  • ポイント1:ウェイトローラーの摩耗がスムーズな変速を阻害する
  • ポイント2:ローラーの交換時期は摩耗や片減りで判断する

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