通勤や通学、近所の買い物の足として便利な50ccスクーター。新車で購入できる50ccモデルがなくなった現在、メンテナンスによってコンディションを維持するのが賢明です。前回はスクーターの駆動系のカギとなるドライブプーリーとウェイトローラーについて解説しましたが、今回はドライブベルトを介して回されるドリブンプーリーに組み付けられた遠心クラッチの重要性に注目します。
目次
変速は無段階だが動力を断続するクラッチは存在する
原付を始めとしたスクーターの自動変速は、エンジンのクランクシャフトにつながるドライブプーリーとリヤタイヤにつながるドリブンプーリー、その間をつなげるゴム製のドライブベルトの3つのパーツで構成されています。
前後プーリーはエンジンの回転数によって自動的に幅が変化し、それに連動してプーリーのV字溝にはまったドライブベルトの回転半径が増減することで減速比が自動的に調整されて速度が変化します。
実際にスクーターを運転すると、エンジンがアイドリング回転数の時には車体は進まず、スロットルを開けて回転数がある程度上昇して初めてリヤタイヤが回り始めるはずです。
その理由は、スクーターの駆動系の中にクラッチ機構が組み込まれているからです。ここでいうクラッチとはマニュアルミッション車でクラッチレバーを握って操作するクラッチと同様に、エンジンの動力をリヤタイヤに伝える装置を指します。
しかしスクーターにクラッチレバーはなく、ライダーが自らの意思でクラッチを操作することはありません。スクーターのクラッチ断続で利用されているのは、ドリブンプーリーが回転する際に発生する遠心力です。
ドリブンプーリーの回転による遠心力で駆動力を断続する

中心のナットを外すとクラッチアウターを引き抜くことができる。スクーターの駆動系内部は乾燥(ドライ状態)のはずだが、クラッチシューが接する部分に点サビが発生している。このサビがライニングを摩耗させる原因となるので、サンドペーパーなどで取り除くことが必要。

ドリブンプーリーのV字溝にもドライブベルトの側面形状に倣ってサビが付着している。走行中に水が入る場所ではないが、湿度の高い場所に長期放置してあったのだろうか。サビ部分がベルトと擦れると摩耗が進行するため、このまま再使用するのはお勧めできない。
ドリブンプーリー周辺の構成パーツを詳しく見ると、一体化したドリブンプーリーとクラッチ、それとは別にクラッチアウターに分割できます。ドリブンプーリーとクラッチはドライブベルトで一緒に回転するパーツで、クラッチアウターはファイナルドライブ(ギヤボックス)を経てリヤタイヤにつながっています。
エンジン停止時や低回転時はクラッチシューが閉じているためクラッチアウターから離れており、エンジンの駆動力は伝わりません。また駐輪場などで押し歩く際も、リヤタイヤの回転によりクラッチアウターは回りますが、クラッチシューが閉じているためドライブベルトは回らず、したがってドライブプーリーもクランクシャフトも回りません。
エンジンを始動して回転数と比例してドリブンプーリーの回転数が上昇すると、クラッチシューが遠心力によって開いてクラッチアウターに接触、さらにエンジン回転数を上げると強く密着してドリブンプーリーの回転がリヤタイヤに伝わり、走行開始となります。
減速時はその逆で、エンジン回転数が低下することでクラッチシューに加わる遠心力が小さくなり、クラッチスプリングの張力を下回るとクラッチアウターから離れて駆動力が切れて、車速がゼロになってもエンジンが止まることはありません。
スクーターはエンジン回転数の増減に応じてドライブプーリー内部のウェイトローラーに加わる遠心力の大小によって減速比を自動的に調整しますが、駆動力の断続に関しても遠心力を活用しています。どちらも電子制御とは無縁で、回転する物体に生じる遠心力だけでコントロールしているのが秀逸です。
クラッチ分解時は薄型ナットとセンタースプリングの張力に要注意

クラッチのナットサイズは39mmと大きく、一般的なメガネレンチやソケットでは対応できない。口幅の広いアジャスタブルレンチ(モンキーレンチ)なら対応できる場合もあるが、薄いナットを二面でしか掴めないので安定性が今ひとつ。

アストロプロダクツで販売しているクラッチセンターナットレンチ。通常のメガネレンチはボルトやナットにセットしやすいよう六角部にザグリが設けてあるのが一般的だが、薄いナットが滑らないようザグリなしなのが特徴。
ドリブンプーリー部分の一番外側に見えているのはクラッチアウターで、中心のナットを取り外せば簡単に抜き取ることができます。そしてクラッチアウターが外れると、内側のドリブンプーリーと遠心クラッチも一体で取り外すことができます。
プーリーとクラッチはクラッチ側の薄ナットで組み立てられていますが、このナットの取り外しには細心の注意が必要です。まず第一に、ナットサイズに合った工具が必要です。一連の作業でサンプル車として使用しているAF35型ホンダDIO(いわゆるライブDIO)の場合、ナットの二面幅は39mmで、一般的なスパナやメガネレンチやソケットレンチよりはるかに大きいです。
またナット自体が薄いため、モンキーレンチやウォーターポンププライヤーも掛かりが浅く外れやすいのが問題です。ナットの角をマイナスの貫通ドライバーやタガネで叩いて緩める人もいますが、経験やコツが必要です。
こうした場面で頼りになるのが専用工具です。
スクーターや4ミニ系モデルのチューニングやメンテナンスパーツのラインナップが豊富なコンストラクターや工具ショップによっては、クラッチセンターナット専用の薄型レンチを製品化しているところもあります。それらは専用工具だけあり、ナットの着脱作業最適化されているのが特長です。
加えてナットを取り外す前の準備も重要です。ドリブンプーリーと遠心クラッチの間には非常に張力が強いセンタースプリングが組み込まれており、不用意にナットを外すとクラッチが勢いよく外れて大きな怪我につながることもあります。
そうしたアクシデントを防ぐには、プーリーとクラッチを専用工具のクラッチスプリングコンプレッサーで保持しながらナットを着脱すれば確実ですが、結束バンド(タイラップ)で代用することも可能です。細いバンドではスプリングに負けて切れてしまうので、できるだけ太いバンドを複数用意してプーリー中心の穴に通してクラッチを縛り、ナットを徐々に緩めます。
ナットが外れた瞬間にスプリングが伸びて結束バンドが切れるリスクもあるため、飛び跳ねたクラッチが作業者自身や周囲に当たらないよう注意が必要です。さらに器用になると、両足の靴の底でクラッチを踏んで体重を掛けながらナットを外す人もいますが、いずれの場合もセンタースプリングの張力を甘く見ないことが大切です。

薄いナットは4~5山しかネジが掛かっていないので、緩めばすぐに外れる。センタースプリングは勢いよく伸びてクラッチが飛び上がるので、怪我をしないためにも専用工具のクラッチスプリングコンプレッサーや結束バンドによる準備が重要。結束バンドも強度不足だとスプリングの張力で切断してしまう。
ドラムブレーキと同じくクラッチシュー表面の摩擦材が重要

手前で裏返しになっているのが遠心クラッチ。クラッチシューは2ピースタイプと3ピースタイプがあり、ライブDIOは3ピースタイプを使用してる。1本のピボットピンで支えられたクラッチシューは、回転時の遠心力でスプリングが伸びるとライニングとクラッチアウターが接して駆動力が伝達される。

手前の新品と中古品を比べると、ライニングの摩耗具合がよく分かる。遠心力で断続する過程で必ず半クラッチ状態があるため、ライニングは徐々に減少しクラッチアウターの内径は徐々に拡大する。どのぐらいの期間、走行距離で摩耗するかは乗り方などで変わるため一概には言えず、ブレーキパッドやドラムブレーキシューに比べて摩耗具合の確認も容易ではないが、交換が必要であることは認識しておこう。
スクーターのクラッチは遠心力によってクラッチシューが外側に開き、クラッチアウターに密着するか否かで断続します。クラッチシューはドラムブレーキのブレーキシューと同様、アルミ鋳物製のシューの表面にライニング(摩擦材)を貼り付けた構造です。
このため走行距離が増えてクラッチの断続回数が多くなればライニングが摩耗して、最終的にライニングが摩滅してクラッチシューとクラッチアウターがダイレクトに接触すると駆動力は伝わらずクラッチアウターも損傷してしまいます。
機械式ドラムブレーキであれば、ブレーキレバーやブレーキペダルの遊びが増えてライニングの摩耗を知ることができますが、遠心クラッチの場合はライダーが感じ取れる変化はわずかです。しかし摩耗が進むことでクラッチが滑り駆動力が伝わりにくくなるので、スロットルを開けているのにいつもより加速が鈍いと感じることが多くなってきたら、ライニングの摩耗を確認してみると良いでしょう。
今回はクラッチアッセンブリーで交換しましたが、クラッチのつながり具合を左右する要素としてクラッチスプリングも重要です。遠心クラッチのクラッチスプリングはシューが開く際に必要な遠心力を決める部品で、シューを閉じる方向に働きます。
このスプリングが弱ければクラッチに掛かる遠心力が小さい=エンジン回転数が低い状態でクラッチアウターに接します。逆に強ければ遠心力が大きくならないと=エンジン回転数が高くならないと駆動力は伝わりません。
考え方としては、勢いよくスタートダッシュを決めたい時は高回転でクラッチミートするマニュアルミッションと同じです。
さらにクラッチシュー自体の重量もクラッチミートのタイミングに影響します。ノーマルより軽いシューは遠心力が掛かりにくいため、クラッチがつながる際のエンジン回転数がより高回転になるため、スタートダッシュで有利になります。
ただし度が過ぎれば扱いづらくなるため、部品を選択する際はエンジンやウェイトローラーなどの駆動系全体でバランスを考えましょう。
- ポイント1・スクーターにも駆動力を断続するためのクラッチは存在する
- ポイント2・クラッチはドリブンプーリーとともに回転しており、遠心力が掛かることでシューが開いてクラッチアウターに接触して駆動力が伝達される
- ポイント3・クラッチを分解する際はセンタースプリングの張力に注意しながらナットを着脱する
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