現代の高性能バイクなら当たり前の装備であるグリス封入式シールチェーン。「シールの作動抵抗が気になるから……」などなど、そんなお話しをするベテランサンメカは意外と多い。しかし、現代のシールチェーンは一般のドライブチェーンと比べて「暖機後」の抵抗が圧倒的に少ない。冷えているときに抵抗感があっても、温まればシール無し以上にスムーズなのが現代のシールチェーンなのだ。

ドライブチェーンがタルンタルンに伸びた状態のままで走り続けているバイクを見かけることがある。時にはキコキコッと、金属が擦れ合うメカノイズを発しながら走り去るバイクも……。ドライブチェーンのコンディションは、ドライブ&ドリブンスプロケットの寿命にも大きな関わりがあるので要注意だ。「初期伸び」と呼ばれる、新品チェーンへの交換直後の特有の伸びは、以前と比べて確実に減っている。しかし、それでも「新品チェーンに交換したから大丈夫!!」とは思わず、ある程度の距離を走った後や、いつもと違うシチュエーションを走った時(連続高速走行など)は、ドライブチェーンの張り具合を確実に点検しておきたい。
ピンッと張っていれば良いのではなく、リアサスペンションの作動範囲を考慮した張り具合に調整しなくてはいけないのがドライブチェーンである。サスストロークが大きなオフロードモデルは、特に、張りすぎには要注意!!

左はクリップ式のドライブチェーンジョイント(ノンシールタイプ)。右は専用シールをピンに組み込むEK社製シールチェーン。カワサキではEK製ドライブチェーンをメーカー純正部品に指定しているモデルが多い。一般的に、原付クラス用の415/420/428サイズにはクリップジョイント式が多く、同じ428サイズでも250ccや400ccクラスには、シールチェーンが採用され「カシメジョイント」を使う例が多い。


ドライブチェーンで「お洒落」かつ「個性」を楽しむことができる現在。昔ならゴールドメッキやシルバーのメッキチェーンがお洒落仕様の代表格だったが、現在はブラック仕様のサイドプレートに、ゴールドメッキのリンクやピンなどもある。上の商品は、ゴールドメッキの520シールチェーン。ジョイントはカシメ式。下は原付クラスの420サイズで、シールレス仕様のクリップジョイント式だ。

チェーンカットは特殊工具を使おう

様々なメーカーからドライブチェーンツールが販売されている。我々、モトメカニックガレージでも、複数の商品を使っている。カット時のコツは、カットしたいピンの出っ張り部分をディスクグラインダーやベルトサンダーで削り落としてから、チェーンカッターを利用する。カシメたままのピンをカッターピンでグイグイ押し込むこともできるが、カシメ部分の出っ張りをあらかじめ削り落とすとこで、ピンはスムーズに抜けるようになり特殊工具を痛めない。また、特殊工具のネジ部分は、使い終わったときのグリスアップ(モリブデングリス)を心掛けよう。それが特殊工具を末長く使い続ける秘訣だ。

古いチェーンを利用して新品チェーンを組み込む

古いドライブチェーンをカットしたら、ズルズルズルッと抜き取ってしまうのではなく、カット部分のリンクに新品チェーンのリンクをタイラップで縛り、グルグルッと回すように新品ドライブチェーンを組み込むのが良い。こうすれば無用な部品を取り外す必要がなくなるのだ。

カシメ式シールチェーン用のジョイントには、リンクピンとブッシュ間を潤滑するグリスが同梱されている。そのグリスをジョイントのピンとリンクのブッシュ側にしっかり塗布しよう。このグリスを外部に逃がさず、潤滑油として安定的に使えるようにしているのが専用シールなのだ。

ピンカシメの前にプレートをピンに圧入

サイドプレートを普通にセットできるクリップジョイント式に対して(カシメプレート式のクリップジョイントもあった)、カシメジョイント式の場合は、2本のピンをカシメ固定する前にサイドプレートを正しく圧入しなくてはいけない。圧入し過ぎるとリンクの作動性が悪くなるので、圧入量を確認しながら作業進行しよう。

チェーンジョイントのピンにプレートを圧入する。均一に圧入したことを確認し、その圧入量は「となりのリンク幅」と同じに調整する。リンク幅をノギスで測定し、同じ寸法になるようにジョイントのサイドプレートを圧入すれば良い。ノギスが無いときにはとなりのプレートと段差が出ないように、金尺エッジで確認しながら作業を進めよう。

スムーズに動くか? カシメ後に要チェック

今回利用した「DRC製PROドライブチェーンツール」は、カシメ前のピンの太さをノギスで測定し、カシメ後のピンの太さが「+0.3~0.4mm」(カシメ後はピン端が拡がる)になっている状況でカシメ完了としている。また、このカシメ後にリンクがスムーズに作動し、カシメ部分に亀裂などが入っていないかも確認しよう。扱いやすいチェーンツールである。420系と50系チェーンに対応している。

クリップジョイント式は「ワイヤリング」で安心!!

クリップジョイント式は、クリップが開いて外れてしまわないように、ワイヤリング固定で安心できる。小排気量クラスのレーシングマシンには、クリップジョイント式ドライブチェーンの採用例が数多いが、チェーンジョイントのクリップにワイヤリングすることで、外れにくくするノウハウがある。ワイヤーを2重巻にして、ワイヤーツイスターで縛る例が多いようだ。

POINT

  • ポイント1・古いチェーンはそのまま抜き取らず、新しいチェーンと仮連結して新品チェーンを取り回す。
  • ポイント2・ドライブチェーンツールのカッターを利用する際には、古いドライブチェーンのカット部分のカシメをディスクグラインダーやベルトサンダーで削り落とす。
  • ポイント3・ドライブチェーンツールを利用し終えたら、ネジ部分に必ずグリスアップして工具を長持ちさせよう。
  • ポイント4・カシメ終えたジョイント部分がスムーズに屈曲作動することを必ず確認し、作業終了後にはチェーングリスをしっかり塗布しよう。

ドライブチェーンのメンテナンスは、バイクいじり好きサンデーメカニックにとっては永遠のテーマと言えるかも知れない。メンテナンス方法はひとそれぞれで、もの凄くこだわりを持った作業方法もある。メンテナンスする意識が高く、メンテナンスの大切さを理解しているからこそ、様々なやり方があり、それはそれでたいへん良いことである。
チェーン交換時に大切なことは、「本当にドライブチェーンの交換だけで良いのか?」。 部品購入の前に、エンジン側ドライブスプロケットの歯先や後輪側ドリブンスプロケットの歯先を必ず確認してみよう。スプロケットが減っているにも関わらず、ドライブチェーンだけ交換しているユーザーが、実は多いのだ。

スプロケットとドライブチェーンは、しっかり噛み合ってこそ本来のトルク伝達=駆動力を発揮する。サイズ違いのアンマッチでは、まともな噛み合わせにならず、走ることができない。原付クラスで間違いやすいのが「幅違い」の組み合わせだ。スプロケットが420サイズなのに対して、ドライブチェーンには428サイズを取り付けて走っている例が意外にも多いのだ。
420と428の違いは、チェーンリンクの「幅」である。ピンのピッチは同じだが、スプロケット側から見た場合、420サイズに対して428サイズのスプロケットは、やや厚い寸法となっている。「大は小を兼ねる」という言葉があるが、噛み合わせにガタがあると走行振動で横方向に振れが起こり、思いも寄らなかったスプロケットの減り方やチェーンの伸びが起こってしまうケースもあるので要注意だ。ちなみに逆パターンだと、歯車とチェーンが噛み合わず走行不可能になる。

ドライブチェーンの交換で極めて重要なのが「チェーンジョイント」の接続作業である。失敗するとチェーン切れの原因になり、最悪でエンジンに大きなダメージを与えてしまうこともある(切れたチェーンに叩かれてクランクケースが割れてしまうこともある)。
シールチェーンの接続時は、ジョイントピンとブッシュ側それぞれに付属グリスをしっかり塗布し、サイドプレートの圧入時は、カシメ済のチェーン幅をノギスで測定して、その幅と同じになるようにプレートを圧入するのがよい。
ピンカシメには専用ツールが必要不可欠だが、専用ツールを利用する際には各商品の取説を熟読し、内容を理解してから作業に取り掛かろう。ドライブチェーンツールは、メーカーによって微妙に使い方が異なるため、取り扱い時には十分な配慮が必要だ。

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