目的があって作業を行うのがメンテナンスの通常の手順ですが、「よく分からないけど内部を見てみたい」という動機から経験を積んだサンデーメカニックも少なくありません。そんなバイクいじりの教材として最適なのが、空冷2ストロークの単気筒モデルです。今では2スト自体が稀少が存在となってしまいましたが、シリンダーヘッドを外せばすぐにピストンと対面できるシンプルな構造は今も魅力的です。

ものの5分でシリンダーとピストンに対面できる単純な構造が魅力

空冷単気筒の2ストロークエンジンは、4個のナットを外すだけでシリンダーヘッドを取り外すことができる。4ストロークエンジンなら、ピストンを圧縮上死点に合わせてカムチェーンテンショナーを緩めて、カムスプロケットを外してカムチェーンをずらした上でようやくナットを外せるので、すでにそこまでの手間が大きく異なる。

50ccの原付スクーターまで4ストロークエンジン+インジェクションが行き渡った現在のバイク界において、空冷2ストロークといえば化石のような存在です。カワサキトリプルシリーズを筆頭とした人気の絶版車やNSR250Rなどのレーサーレプリカモデルは別格としても、原付クラスの2スト車を見かける機会は皆無というのが現実です。
しかし昭和時代からバイクに慣れ親しんできたベテランの中には、2スト車に親しみを抱いているライダーが多いのも事実です。趣味性の高さやマニアックさとは別に、かつての2スト車には手に入れやすい価格の安さやバイクいじりの素材としてのシンプルさがあったからです。
キャブとチャンバーを交換してポートをちょっと削るだけで、4スト車よりも簡単に速くなるのが2スト車の大きな魅力でした。また4ストロークのようにカムチェーンや吸排気バルブがないため、エンジンの分解組み立て作業もきわめて簡単にできたのも、特殊な工具やサービスマニュアルを持たない当時の若いライダーにとってはありがたい点でした。
スポーツモデルからスクーター、ファミリーバイクに至るまで小排気量車=2ストという時代には、簡単なメンテナンスで息を吹き返すバイクも多くあり、バイクいじりを趣味とするライダーはこぞってシリンダーヘッドやシリンダーを外してピストンを磨いたものでした。
その結果が吉と出ても凶と出ても部品自体が極端に高価ではないため、一度失敗しても二度三度とチャレンジしてバイクいじりの腕を磨くことができました。壊れるのが前提というと語弊がありますが、トラブルも自分の糧になると思いながらバイクいじりをできた時代は、考えようによっては恵まれていたのかもしれません。

長期間シリンダーを取り外したことがなければ、シリンダーベースガスケットが接着剤代わりとなってシリンダーとクランクケースが貼り付いているかもしれない。シリンダーフィンを割らないように気をつけながら叩き、それでも外れなければシリンダーに接触させたハンマーをもうひとつのハンマーで叩いて衝撃を与える。

POINT

  • ポイント1・構造がシンプルで分解組み立てが容易な2ストロークエンジン
  • ポイント2・人気絶版車以外の2スト車は減少の一途を辿っている

2ストロークと4ストロークではエンジンオイルの使い方が全く異なる

1970年代の古い2ストロークエンジンの場合、ピストンピンと直交する側面は多かれ少なかれ摩耗痕があっても不思議ではない。鋳鉄製のシリンダーとアルミ製のピストンでは熱に対する膨張率が異なるため、暖機不足でもスロットルを全開にする原付スクーターのような使い方をすると傷が入りやすい。

傷ついた部分をサンドペーパーで補修する場合、縦方向の傷に対して斜めにペーパーを当てて傷をならしていく。すべての傷を削り落とそうとするのではなく、凸凹の凸がなだらかになれば良しという程度で。ペーパーの目もあまり深く削れない600番ぐらいを使う。

4ストロークエンジンにとってエンジンオイルは血液のように重要だと喩えられますが、2ストにとってもそれは同様です。2ストロークエンジンは混合気がクランクケースに吸い込まれ、ここで一次圧縮された後に掃気ポートからシリンダー内に流れ込んで燃焼します。これは原付スクーターでもかつてのGP500レーサーでも同様です。一方、4ストロークはシリンダーヘッドの吸気バルブから吸い込まれた混合気は直接燃焼室に入ります。
このメカニズムの違いによって、4ストのエンジンオイルがクランクシャフトやピストンとシリンダー、カムシャフトや吸排気バルブのステム、ミッションやクラッチなど燃焼室の外側すべての潤滑だけを行っているのに対して、2スト用エンジンオイルは混合気とともにクランクケース内に入ってクランクベアリングを潤滑して、掃気ポートから燃焼室に送り込まれてピストンとシリンダーを潤滑して、最終的に混合気とともに燃焼して排気ガスと一緒に排気されます。
つまり、エンジン内に留まり続ける4スト用オイルに対して、混合気と共に燃えて消費されるのが2スト用オイルというわけです。昔から2スト車に乗っているライダーにとっては当たり前の事実でしょうが、バイクに乗り始めた頃にはすでに2スト車が絶滅危惧種だった若いライダーにとっては、エンジンオイルが消えて無くなるという方が驚きかもしれません。
2ストローク車の中でも1960年代前半以前に製造された車両は、混合ガソリンというさらに一世代昔の方法でエンジンオイルを供給していました。ガソリンタンクにガソリンを入れる段階で、適した混合比になるようエンジンオイルも同時に入れていたのです。
ただ、2スト用オイルを自動的に供給できるオイルポンプが普及した1960年代中盤以降はガソリンタンクとは別のオイルタンクにエンジンオイルを入れておけば、エンジンの回転数や負荷状況に応じた最適量のオイルが混合気に供給、あるいはエンジン内に供給されるようになりました。
一般的に4スト車よりも2スト車の方が焼き付きやすいとされるのは、エンジンオイルの供給方法に一因があります。まず第一に、オイルタンクが空になればエンジン内を潤滑する油分がなくなるため100%焼き付きます。また本来はスロットルバルブの開度に連動するオイルポンプの吐出量に問題が生じた場合にも焼き付くリスクがあります。
潤滑油がなくなれば焼き付くのは4ストでも同じですが、オイルがクランクケース内にあるか無いかでは危険度は異なります(4ストでもヤマハSR400のようにエンジンとは別の場所にオイルタンクがある機種も存在します)。

POINT

  • ポイント1・2ストにも4ストにもエンジンオイルはあるが、両者の役割は全く異なる
  • ポイント2・2ストオイルは混合気と一緒に燃焼するため補充が必要

エンジンの異音やパンチ力低下の原因は大半が腰上にあり

ピストンリングの合口隙間は、シリンダースカートの切り欠き部分からリングを水平に押し込み、ポートの開口部がない場所で測定する。標準隙間は0.15~0.30mm、使用限度が0.7mmに対して、1mm以上の隙間があってもパワー感のなさに目をつぶれば走行できることもある。1980年代の原付スクーターは、それぐらいになると「そろそろ乗り換え時ですね」と言われて修理より新車購入という例も多かった。

4ストのピストンリングはリング溝の中で回転できるが、2ストのピストンリング溝にはノックピンがありピストンリングは回転できない。2ストのリングが自由に回ると、ポートの開口部に引っかかってしまうためだ。ピストンをシリンダーに挿入する際は、リングの合口がノックピンに乗り上げていないことを確認して指で押し縮める。

シリンダーヘッドのナットを締める前に、仮締め状態でキックペダルを何度か踏み降ろすことで、ピストンとシリンダーの収まりが良くなる。その後4つのナットを数回に分けて対角線上に締め付ける。

2ストロークエンジンの焼き付きは、ほとんどの場合はシリンダーとピストンの摺動面でで発生します。オイルの供給量が絶対的に少ない、またはオイルタンクが空っぽになってしまった時にはクランクシャフトやコンロッドのベアリングが焼き付くこともあり、この場合はダメージはより大きくなります。
異音を発することなくシリンダーとピストンが軽く擦れるのは、昔ながらの2ストにはままあることで、爪が引っかかるほど深い傷がついていなければ、サンドペーパーで軽く擦って修正した上で再使用することも可能です。この際、ピストンを大きく変形させないよう、目の粗さは600番ぐらいで撫でるようにペーパーを掛けるようにします。
焼き付きとは別に、経年変化でどうしても避けられないのがピストンリングの摩耗です。2ストエンジンは混合気の吸入と排気ガスの排出をともにシリンダーの壁面に開けられたポートと呼ばれる穴を通じて行っており、ピストンが上下動する際にピストンリングがポートの開口部を通過します。
ピストンリング自体は混合気が燃焼した際のエネルギーを漏らさないようシリンダーに対して張力を掛けていますが、その張力によってポートの開口部にも押しつけられているため、単なる筒である4スト用シリンダーにくらべてリングの摩耗は増加する傾向にあります。
ピストンリングの摩耗はシリンダーとの接触面で進行しますが、外向きの張力が掛かったリングが摩耗することで、円の一部をカットした合口部分の隙間が広がります。すると混合気が燃焼して発生する圧力がピストンを押し下げるのではなく広がった合口から抜けてしまい、エンジン出力が低下します。
ある原付スクーターを例にあげれば、新品ピストンリングの標準合口隙間は0.15~0.30mmで、使用限度は0.7mmと定められています。合口隙間はピストンからピストンリングを取り外してシリンダーに挿入した時の隙間をシックネスゲージで測定します。走行距離よってリングの摩耗量がどれほどになるかはまちまちですが、使用限度に達するほど摩耗するとエンジン回転は軽快なのにパンチ感が希薄で、ただ回っているだけに感じるようになります。この場合、ピストンリングを新品に交換することで大幅に改善して気持ちの良いエンジンフィーリングになるはずです。
4スト車では簡単に経験できないエンジン分解組み立て作業を気軽にできて、摩耗部分を交換するだけで性能を取り戻すことができる2ストエンジンは、今でもバイクいじりの絶好の教材であることは間違いありません。機会があれば2スト車を手に入れて、エンジンいじりの楽しさを体験してみてはいかがでしょうか。

POINT

  • ポイント1・軽微なピストン傷はサンドペーパーで補修できる
  • ポイント2・ピストンリング摩耗による合口隙間拡大はエンジンのパワー感低下の大きな原因になる

この記事にいいねする


コメントを残す